36 死霊迷宮第5階層
暗く、淀んだ空気漂う死霊迷宮の通路を俺とマシロは並んで進む。
道中襲ってくる魔物は、魔力を込めた拳や蹴りによる打撃や魔造剣を使ってなぎ倒しながら、階層を下へ下へと進めて行く。
因みに今の俺は、人化状態だ。
人化状態での戦闘経験を積んでおきたかったし、せっかく新しい剣も手に入ったからは。
ついでに、死にスキルだった劍術のレベル上げや体術スキルの修得なんかも狙っているのだが。
そちらは今のところ成果は出ていない……。
入り口からここまで人化を維持しつつ戦えている。流石に今の俺なら下級アンデット位なら余裕で倒せるようだ。
まぁ、武器の性能に助けられてるのも大きいのだが。
まずこの魔造剣。
魔力を通さずとも素の性能が素晴らしく、軽くて切れ味もいい。
これで更に魔力を通しての性能上昇が可能というのだから、いやはや。流石はドワーフ制の魔造武器だと感心させられる。
ちなみに、ここまで来る間に遭遇した魔物は3種類。主にこんな感じだ。
[種族] ゾンビ
[状態] 通常
[ランク] E
[Lv] 3/10
[HP] 65/65
[MP] 15/15
[攻撃] 33
[防御] 14
[魔法攻撃] 0
[魔法防御] 0
[素早さ] 6
[所持スキル]
噛みつきLv1 毒爪Lv1 怪力
毒無効 夜目
[種族] スケルトン
[状態] 通常
[ランク] E
[Lv] 5/10
[HP] 45/45
[MP] 25/25
[攻撃] 20
[防御] 35
[魔法攻撃] 4
[魔法防御] 6
[素早さ] 11
[所持スキル]
剣術LV1 毒無効 夜目
[種族] レイス
[状態] 通常
[ランク] E
[Lv] 4/10
[HP] 15/15
[MP] 55/55
[攻撃] 12
[防御] 12
[魔法攻撃] 25
[魔法防御] 12
[素早さ] 22
[所持スキル]
闇魔法Lv1 霊体 マナドレイン 夜目
出現数が多いのは、主にスケルトンとゾンビの2種類だ。
こいつらは動きが遅く、耐久力もないため基本一撃で倒せる。
しかしここに出現するスケルトンは、生意気にも最初から手にロングソードを持ってたりする。
俺なんか、はじめは武器も持ってなかったんだぞ……。
あと、当然の様に俺の事を敵として認識してるようで、同族意識なんてものは無かったとだけ言っておく。
まぁ、俺もロングソード持ってるのに腹が立って出会いがしら思いっ切りぶん殴ってやったんだが。
それと、出現頻度は低いがレイスという霊体の魔物も存在する。
こいつは、霊体のため物理攻撃が効かない厄介な性質をしていて、最初に出会った時はなかなかの脅威であった。
しかし、物理に圧倒的に強い性能をしていたレイスだが、魔力を使った攻撃は防げないようで、マシロのブレスや鎌鼬は問題なくダメージが通る事が分かった後は、もはや障害になる事は無かった。
そんな感じで進んでいる俺達が、現在いるのは死霊迷宮の5階層。
目標の6階層まではあと少しだな。
この死霊迷宮だか。内部は以前俺が彷徨っていた遺跡に酷似しており、蟻の巣状に広がる細い通路を進んでいく形式だ。
マップが無ければ確実に迷うな。
しかし、あの時と違い、今はこの死霊迷宮内部を記したマップが手元にあるため、その心配はない。
時々マップと照らし合わせて、生命探知を使うこと現在位置を特定。更に周囲に魔物や他の人間がいないかまでもが、瞬時に把握できるのだ。
こうなったら最早迷う方が難しいだろう。
しかしこれ、自分でもかなり狡い能力と思うわ。
流石にフロア全体の範囲を瞬時に把握とかは、出来ないけど、定期的にマップの確認さえしていれば迷うことはない。
ちなみに普通は、マップだけでなく通路に目印を付けたりしながら進むのが基本らしい。
迷う可能性が無い俺は必要が無い行為なので、そのまま進んでいるのだが。
そして再び、定期的にチェックしているマップと生命探知の確認を行う。
お。どうやらこの先の通路を曲がった先に数匹の魔物がいるみたいだな。
まぁ、多分またゾンビだろうな。
「ぐぁぁ……ァぁ゛……」
通路を曲がった先にいたのは、予想通りゾンビが数体。
低く呻き声をあげながら、俺達を見つけたゾンビ達はゆっくりと迫って来る。
死霊迷宮の薄暗さと相まって、その光景はさながらB級パニック映画だな。
まぁ、当然襲ってくるのなら撃退させてもらうが。
『とーさま。またゾンビ。やっちゃっていい?』
「ああ。それじゃ、頼む」
そう頼んだ瞬間、マシロが鎌鼬を素早く放ちゾンビ達の首を切断する。
頭部を失ったゾンビ達はそのまま地面に崩れるように倒れる。
コイツら、痛み等は感じないのだろうが、俺達からしたら耐久力が低い。
なので俺とマシロの攻撃力なら、このように余裕だ。
『終わったー』
「うん。ご苦労様」
本来なら、ここでゾンビ達の体内の魔石を回収するのだろうが、今の俺の目的はレべリングなので今回は無視して進む。
まぁ、どっちにしろ、こいつらの魔石は値段が安いのでいちいち回収しても時間が勿体ないからな。
それに今日は、あくまでもお試しって奴だ。
夜には、ライムダールへと帰るつもりでいるからな。時間はなるべくレべリングに使ってしまいたい。
うん。今の所、順調に進めてはいるな。
上層部に出現する魔物は、全てが下級アンデッド種なだけあって、今の俺とマシロの敵じゃない。
しかし、こいつらの相手をしても一匹の取得経験値が10から20位までしか入らないのは難点だな。
俺の目標であるLv20まで到達するには、もう少し強い魔物でないと効率が悪い。
ただ、それでも数だけは異様に多いので、会敵して即始末できるのを考えると、道中襲ってくる者をなぎ倒していくだけでも多少の足しにはなっているのだが。
『んー。正直この辺りの魔物ってかなり弱くて、あんまり戦ってる感じがしないね?』
「そうだな。ただ数だけは多いから、襲ってくる奴はしっかり仕留めておけよ。囲まれたりすると面倒だし。それと無理に近寄らなくてもいいが、この下に出るのは上位種も混ざるみたいだから、魔力の残量はちゃんと気を付ける事」
『はーい』
更にそれから足を進め続け、ようやく5階層も終わりが見えてきたって所だろうか。
ダンジョンアタック開始から既に2時間位経過したと思う。
マップがあるとはいえ、こうも広いとどうしても時間はかかってしまうな。
そういえば、この階層に来るまでは、そこそこ見かけた新人冒険者達の姿も、今は見あたらなくなったな。
確か3階層位までは、ちらほらと生命探知に引っかかっていたのだがて……。
多分、彼らはもう少し上の階層でレべリングをしているのだろう。
新人冒険者には、まだLvが一桁の者も多いようだし、あまり深く潜っても帰れなくなる可能性があるからな。
ちなみに、俺がライムダールで購入したこのマップだが、この死霊迷宮の6階層までの構造が記されている。
それ以降のマップは別料金だったので今回は購入していない。
というのも、このマップを売っていた場所が、ダンジョン専門店の初心者コーナーで銅貨50枚で売られていた物なのだ。
多分、新人冒険者達も、このマップに記されている6階層を最終目標にして日々頑張っているのだろうな。
6階層までなら、彼らもしっかりレベリングしてパーティーとしての連携を鍛えれば、十分狙えるだろう。
しかし、7階層からはそうはいかない。
出現する魔物の中に、下級のリッチ種が稀が混ざることがある為だ。そこまで来ると新人ではまず勝ち目がない。
リッチ系は下級クラスでも、中級の冒険者達も油断出来ない魔物であり、強力な魔力を持ったアンデッドであると言われている。
まぁ、出現頻度はかなり低いらしいのだが。
もしも遭遇した時を考えて、ランクDの新人冒険者達は、6階層までのマップしか基本的は売って貰えない。
7層以降のマップは別料金になっており、ランクもC以上は者限定となっているのだ。
当然、マップを買っていない俺も、そこまで行くつもりは無い。
今回の目標は、あくまでも6階層までだ。
6階層では、鬼門の下級リッチは確認されておらず、出現するのはゾンビやスケルトンの上位種のみだと言う。
今回の俺の目的は、こいつらだ。
そう言えば、ルミナは俺が最下層までは行けそうとか言ってたな……。
流石に俺もリッチとは遭遇したくない。
今にして思えば、オキシア湿原から一人で帰還した印象が強すぎて、感覚が麻痺してそうだな……。
帰ったらその辺の認識を訂正しとかないと……。
さて、そんな事を考えながらも、進み続けていたので、そろそろ次の階層への階段が近いと思うのだが。
現在地を確認するために、周囲の警戒をマシロに頼んだ俺は、マップを開きそのまま生命探知を発動する。
マップと生命探知の情報を現在位置と照らし合わせていく事で、周囲の情報を整理していく。
おや……?
ふと、この先の大部屋に人間を示す青い丸か2つ表示されているのに気づく。
どうやらこの階層に到達していた新人冒険者がいたようだな。
マップによると、6階層はこの大部屋を抜けた先から降りれそうた。
しかし、たった二人のパーティか。
よくここまで来れたな。
まぁ、生命探知でみる限りその状況はどうもよろしくなさそうだが。
というのも、この青丸の周囲には、魔物を示す赤の反応がざっと見て30以上存在しているのだ。
広い大部屋に大量の魔物か……。
とすると、多分アレ……だろうな。
恐らくだが、どうやらこの大部屋。
モンスターハウスと化していたようだな。
モンスターハウス。
それは、ダンジョンで最も恐れられているトラップだ。
通常、ダンジョン内の構造は月日が経っても変化する事はいない。
しかし、どういう原理か、魔物のスポーンと同じように一定間隔で罠も再設置されるらしく、時折こうして部屋の中に新たな罠が設置されていることがある。
その中でも特に危険が高い物が、部屋内に大量の魔物が一斉に出現するこのモンスターハウスと呼ばれる物だ。
これの厄介なところは、その部屋の中に踏み込むまでは特に変化がなく、部屋の中心部を過ぎたあたりで、一斉に部屋内に魔物が出現するという所だ。
一説によると、空間魔法の原理が使われているとか。
それにより瞬時に出現する魔物に囲まれてしまい、状況が理解できず、後はそのまま数で押し切られてしまうなんて事も珍しくない。
この比較的危険度が低いと言われる死霊迷宮にも、5階層からは、このモンスターハウスが低確率ながらも発生する可能性があるらしく、このマップにも、遭遇する可能性は低いが、もし踏み込んでしまっら全速力で撤退するようにと、注意書きがされているのだが……。
どうやら、この二人は相当に運が無かったようだな。
こうした理不尽な事が度々起こるため、例えマップを持っていても、ダンジョンでは油断してはならないのだ。
しかし、このままではこの二人は確実に死ぬだろうな。
多分、初めてのモンスターハウスに思考が思わず止まってしまい、そのまま囲まれてしまったって所か。
さて……どうしたものかね。
『とーさま。どうしたの?』
「ああ。どうやらこの先の大部屋。そこに人間の二人組が大量のアンデッド達に囲まれてるようだ」
『ふーん……。助けに行くの?』
マシロのその問いに、俺は一瞬迷った。
ここで俺が手を差し伸べる事は確かに可能だろう。
だが、冒険者は自分の命をチップに、危険を冒して報酬を得る仕事だ。
当然この二人も自分達が危険な目にあう可能性を考慮してこの迷宮に挑んでいるはず。
それに、一度発生した罠は、しばらくの時間起動しないので、残酷なようだが、このまま先の二人組が力尽きれば罠で召喚された魔物達はダンジョンにマナを吸収されて勝手に消えてくれる。
あくまでもトラップとして急増された魔物の為、その体は長く持たないのだ。
なので、冒険者の中には、こうして先に挑んだ者の全滅を待って、安全になった時に進むという事も珍しくはない。
特にダンジョンでは、こうした事は日常茶飯事だ。
なので俺も、ここで待っていれば程なくして安全に先へと進む事が出来るのだが……。
「まぁ、当然俺に見捨てるなんて選択が出来る訳ないよな……」
俺の出した結論は、当然、救出だ。
実はこの先にいる冒険者なのだが、少し心当たりがあった。
それは、死霊迷宮の入り口で見かけたあの二人組。
ここに来るまで、新人冒険者達をそこそこの数見てきたのだが、あの二人組は見かけなかった。
それに、聞こえてきた会話の内容を思い出すに、彼らは最高到達階層の更新を目指していたしな。
この先は、新人達が到達できる中で最高到達点の6階層だ。
可能性は高いのではないだろうか。
まぁ、違った時は違った時さ。
どちらにしろ、ここで助ける選択は変わらないしな。
にしても、我ながらつくづく甘い考えだなと思ってしまう。
だが、こればっかりはそう簡単に変わらないだろう。
俺の体は魔物でも、心は人間であり続けたいと願っている。
我儘な考えだ。
だが、その我儘のお蔭で、マシロや立川とも出会えた。
そしてその延長線上に今の俺が有るわけだ。
それに、この先の二人を見捨てるというのは、今まで俺がしてきたことを否定する事になる行為だと思ったからな。
別に、救える人間すべてを救おうなんていう考えは持っちゃいない。
でもせめて、目の前で。俺の手が届く範囲で、助けられる命ならば……。多分俺は助けてしまうのだろうな。
だから俺は、この先の人間達を助ける選択に、後悔はないさ。
「少し急いだ方がよさそうだ。人化だと間に合わないなこれは……。仕方ない。悪いマシロ。見つからないようにお前はなるべく天井付近を飛んでいてくれるか? 救出が成功するまでの間の戦闘は俺一人でやる」
『とーさま……大丈夫?』
「大丈夫だ。心配いらないよ」
『うん。分かった。とーさまの言うとおりにするね』
「いい子だ。じゃあ、行くぞマシロ!」
正体がバレる可能性があるので、目立つマシロの姿は晒せない。魔造剣も同じ理由でダメだ。
なので、襲われている二人が逃げ延びるまでは、俺一人での戦闘だ。
魔造剣を魔法の袋へと仕舞い、代わりに愛用のククリとダガーを取り出す。
そして人化の術を解除。
スカルウォーカーの姿へと戻った俺は、モンスターハウスへ向かって、全速力で走り出すのだった。
なんだかんだと、考え過ぎる所はありますが、ジェイド君は悪人にはなりきれないのです。




