33 ライムダールの武器職人
本日2話目です。
8/6 シルビアの武器の値段を少し修正。
「ねージェイド。今日暇?」
翌朝、俺とマシロが食堂で朝食を食べていると、突然シルビアがそう訪ねてきた。
まさか昨日の今日で彼女の方から話しかけてくるとは思わなかったので、内心かなり驚いた。
シルビアの雰囲気は昨日の夜の暗いものではなく、いつもの元気なシルビアに戻っているようで、少し安心した。
アーティアは一緒ではないようだが、彼女はまだ部屋にいるのかな?
「夜に解体の代金を貰いに行くから、それまでなら暇かな?」
「じゃあさ、良ければ一緒に買い物に行かない? アーティアに魔法薬の触媒が足りないって、お使い頼まれちゃってさ。私も今日は、弓を買に行くつもりだったし。それにジェイドはこのライムダールに来て日が浅いんでしょ? 付き合ってくれれば、私が冒険者向けのお店とか案内してあげるよ」
確かにシルビアの言う通り俺はまだこのライムダールに来て日が浅い。
利用した事がある店も屋台通りの数件とテントや雑貨を買った道具屋だけだ。
武器屋や道具屋なんかもじっくり見てみたかったし、夜まで特にやる事も無い。
ポイズンクロウラー討伐で少し資金の余裕も出来た事だし、今日はライムダールを観光しながらの買い物等をするのも悪くないだろう。
それにシルビアみたいな美少女と街を一緒に歩くのなんて前世ではお金を払ってでも難しかったしな。
「そうだな。どうせ暇だし付き合いよ」
「じゃあ決まりだね! 色々案内してあげる!
まずは武器屋からでいいかな? 早めに弓を買っておきたいんだよね」
「構わないよ。俺も興味あるし」
『とーさま。私も行っていい?』
『ああ、大丈夫だ。でも今日は大人しくしてるんだぞ?』
『はーい』
こうしてシルビアとマシロを連れて俺はライムダールの街へと繰り出すことにした。
宿を出る時にカリナが、シルビアをよろしくねーっと手を振っていたので頷いておく。
彼女一人だと、どこか危なっかしいからその気持ちはよくわかる。
シルビアに案内された武具屋は、古びた木造の建物だ。
場所は中央通りから西に進んだ商業地区の外れ。
スラム近くの辺鄙な場所だ。
薄暗い店内の中には、様々な武器が店内のラックに立て掛けられている。
「ここが私のおすすめの武器屋なんだ。ちょっとボロいけど腕は確かな人がやってるんだよ。ちょっと変わってるけどねー」
「変わってるって言うなら、お前さんも人の事言えんだろ小娘」
シルビアの声に反応してか奥から一人の男が歩いてきた。
ダークブラウンの髪をした筋骨隆々の顎髭を蓄えた小柄の男だ。
「げっ、聞こえてた……」
「珍しいなシルビア。アーティア以外の連れがいるとは」
そう言うと、俺を試すように顎鬚を撫でながら店主の男が俺を見てくる。
しかしこの店主の男。
シルビアの事を知ってるようだようだが、同じ亜人なんだろうか?
小柄で顎鬚……更に武器に関わる亜人か。
あ。もしかして……
「失礼ですが……もしかしてドワーフですか?」
「おうよ。儂はこの店の店主をやってるドワーフ族のマックロウって言う者だ。よろしくな坊主。しかし驚いた。まさかじゃじゃ馬シルビアが男連れでこの店に訪れるなんて……。こりゃ明日は槍が降るな」
やはりそうか。
このドワーフという種族だが、彼等の持つ冶金技術と鍛冶技術はこの世界でトップの実力を持っているらしい。ドワーフ達が作り出した武具は王宮の近衛騎士等の標準装備にされる程の信頼を得ている。
なので、この亜人差別の激しいリングラッドでもドワーフ達に対する差別は少ない。
もし彼らの機嫌を損ねてしまえば、国を守る騎士達の装備の出来に関わるので彼らを無下には出来ないのだろう。
技術によって彼らは一定の地位を獲得しているというわけか。
「五月蠅いわね! 言っとくけどジェイドはただの知り合いだからね!」
「ほー知り合いね? まぁ、いい。それで何しに来た? お前さんには弓をこの前売ってやったばかりだろうが」
「うっ……そ、それなんだけどさ……。また弓が壊れちゃって……」
「お前は……またか……。いい加減に魔力の制御を覚えんかこの馬鹿者が!」
「し、仕方ないでしょ! 最近魔力量がますます増えちゃったから、前よりも調整が難しいのよ!」
「それでもエルフの血を引いた娘かお前は……」
マックロウさんはシルビアを見て、呆れながらも何処かやっぱりかという雰囲気をしている。
多分、毎回こうなんだろうな。
「シルビアはいつもこんな感じなのか?」
「ああ。この魔力馬鹿のエルフは普通の弓だと、スキルを使っただけですぐに武器をダメにしちまうからな。儂の作る武器は主に魔力を流して戦う魔法戦士用の武器を中心に扱ってるんだ。だからこの娘でもある程度扱える物を売ってやってるんだが、この娘は魔力制御がまだまだ酷いのでしょっちゅう売ってやった武器を壊す。儂としてはいい加減武器を壊さないで使えるようにしてもらいたいもんだな」
「い、一応毎日魔力鍛錬はしてるもん!」
「はぁ……新しい弓を買いに来たんだろ?とりあえず金はあるんだろうなシルビア?」
「それは大丈夫。昨日ホーングリズリー討伐の依頼を終わらせたから今日はこの前のより丈夫な弓だって買えるよ!」
「なに……? 角熊だと? お前とアーティアの二人であの無駄にタフな魔物を仕留めたのか? よく最後までお前の弓が持ったもんだ……」
「と、当然でしょ? 私にかかればそれくらい……」
「ふむ。実際はそこの小僧にも手伝ってもらってなんとかって所だろうな」
「うっ……な、なんで分かるのよ……」
「隠したかったらもう少し表情に出さないようにするんだな。新しい弓なら一つちょうどいいのがある。奥に案内するから着いてこい」
そう言ってマックロウさんは、店の奥へすたすたと歩いて行ってしまう。
俺とシルビアは顔を見合わせて、その後を追いかける。
そのままマックロウさんは店の奥の工房へと入ると、作業台の上に置かれた弓を取りシルビアに手渡した。
「わぁ……綺麗な弓……」
弓を渡されたシルビアはあちかこ触りながら感嘆の声を上げている。
俺にはよくわからないが、弓を使う者からすると、凄くいい出来なのだろう。
「その弓は、素材にトレントの木材とポイズンクロウラーの糸を使った物だ。トレントの素材自体はストックがあったんだが、問題はポイズンクロウラーでな。ここ数年はあの蜘蛛が討伐されたって話を聞かない物だから、糸の入手の当てが無くて困っておったんだ。だが、昨日ついにあの蜘蛛を仕留めた冒険者が現れたらしくてな。素材が売りに出されたって話を知り合いに聞いて、今朝ギルドまで買に行ったんだ。かなりの人気素材だから売り切れが心配だったが、なんとか間に合ってよかったわい」
ん? それって俺が終わらせた依頼の事か?
どうやら俺が受けたポイズンクロウラー依頼はマックロウさんが依頼主だったようだ。
シルビアもマックロウさんの話を聞いてそれに思い当たったのか、俺の方を見つめている。
「ポイズンクロウラーって……マックロウ。多分その依頼達成したのは、ここに居るジェイドだよ?」
「なに!? ほ、本当か?」
「え、ええ。オキシア湿原のポイズンクロウラーの討伐ですよね? 確かに昨日ギルドに依頼の報告をしました。シルビア達とはその帰りに出会ったんです」
「そうか……お前さんが……。若造かと思ったが、なかなかやるもんだ」
そう言って笑いながら、ばしばしと俺の背中を叩いてくる。
つか痛い痛いっ!
流石ドワーフ。手加減してるんだろうが力がすげーや……。
「実は、儂も昔冒険者だったんだがもう歳でな。もう少し若ければ、儂自ら討伐に行っていた所だ。しかしオキシア湿原には、猛毒を持つ魔物が多いから、討伐依頼を受ける者が居るとは思わなかった。儂も正直諦めていた所だったが、お前さんのお蔭で、無事にこいつを完成させる事が出来た。礼を言おう。」
「うわっ。あの頑固者なマックロウが人に頭を下げるのなんて初めて見た……」
「喧しいわ! このじゃじゃ馬エルフが! それと若いの。ジェイドと言ったか? お前さんには儂から一つ渡したいものがある」
そう言うと、マックロウさんは壁に立掛けられていた一本の剣を取り、手渡してきた。
渡された剣は、柄の部分に銀の装飾が施されたロングソード。
受け取ってみると、驚くほど軽い。
鉄剣の半分くらいの重さだろうか?
だが、手にしてみて、はっきりと分かる。
かなり軽いが、とても丈夫な剣だ。
それに、なんだか不思議な力を感じる。
「そのまま剣に魔力を流してみてくれないか?」
言われるままに、魔力操作を使って腕から剣へと魔力を送ってみる。
すると、ロングソードの刃が淡く輝き出した。
エンチャントとは少し違うようだがこれは一体?
マックロウさんは、剣が輝くのを確認すると、一つ満足そうに頷きにやりと笑っている。
「合格だ。お前さんならこいつを使いこなせそうだな」
「これは、もしかして魔法剣ですか?」
「少し違う。本物の魔法剣には劣るが、魔物の素材と特殊な合金を使うことで作った魔造剣という奴だ。こいつは魔力を流すと切れ味と耐久性が上がる代物でな。ドワーフの秘伝技術の一つをつぎ込んだ物だ。と言っても、こいつはまだ試作段階の物なんだが。実戦でも十分使えるはずだ。よければお前さんがこいつを使ってやってくれないか?」
ドワーフの秘伝技術か。
前に立川が言ってたな。ドワーフも一種の魔道具生成の技術を持っていると。
これもその内の一つということか。
魔力を通すと切れ味も上がるなら俺の戦い方にも合ってるし悪くない。
使う魔力もエンチャントに比べて少ない。
これなら人化した状態でも十分使えそうだな。
「では、使わせていただきます。値段は幾らですか?」
「金はいらんさ。変わりに今後もよければ儂の店を利用してくれ。それだけで十分だ」
「いいんですか?」
まさかの無償とは思わなかった。
試作とはいえドワーフの秘伝技術を使った武器を貰ってもいいのだろうか?
「構わん。ポイズンクロウラーの糸が手に入ったので、儂もやっと作りかけの武器を仕上げられた。ドワーフとしては作りかけの武器をずっと手元に置いておくのが非常に辛い思いだったからな。これで安心して旨い酒が飲めるわい」
「貰っときなよジェイド。ケチなマックロウがタダで武器を渡すのなんて、私初めてみたよ? ちょっと怪しいかもしれないけど、この人詐欺とかそういうのは嫌いな性質だからそこは安心していいと思うよ」
「お前は一言多いわっ!シルビアもどうせその弓にするんだろう? 通常なら銀貨50枚は欲しいんだが、今回は銀貨25枚に負けといてやる。半額だぞ? それでいいなら持ってけ。元々お前のように魔力量が多くそのの扱いが下手な奴向けに調整した弓だ。頑丈さだけは保障してやる。これなら、流石のお前でもし当分は大丈夫だろう」
そっけないマックロウさんの態度だが、この人を見ていて分かった。
多分この弓は、マックロウさんがシルビアの為に作った物だと思う。
そもそも普通弓をスキルで自壊させるほどの者が、そう多いとは思えないからな。
「確かにこの弓は気に入ったから欲しいけど……。もう少し負けてくれない?」
「嫌なら別の奴に売るからいいぞ?」
シルビアが更に値切ろうとすると、マックロウさんはシルビアの持っている弓をひょいっと取り上げて奥の棚に治そうとする。
実に手慣れた動作だったな。
ひょっとして、いつも値切ろうとしてるんじゃないかシルビア……。
「ちょ、待って待ってっ! その値段でいいから! 買うから!」
シルビアは慌てて銀貨を取り出してマックロウさんに手渡す。
マックロウさんはため息をつきながら銀貨の枚数を確認すると、無言でシルビアに取り上げた弓を再び手渡した。
きっと、この流れもいつもの事なんだろうな。
その後、俺も貰ってばかりでは申し訳ないと思い、何か商品を買おうと思ったのだが、残念ながらこの店には俺が扱えそうな武器は無かった。
今の俺には、魔法剣と魔造剣の2種類があれば十分過ぎるからな……。
だが、マックロウさんはオーダーメイドの武器の制作も請け負っているらしく、それならばと俺は前々から考えていたある物を作って貰うように交渉してみた。
話を聞いたマックロウさんは微妙な顔をして、そんな物なんに使うのかと聞かれたが、一応制作自体は請け負ってくれたので問題ないだろう。
完成は3日後だという。
これは上手くいけば、新たな切り札が出来るかもしれない。
完成が実に楽しみだ。




