32 亜人
諸事情により白翼亭女将のカルメアさんの名前をカリナに変更しました。今までの分も修正していますのでご了承ください。
今回少し長くなったので2話に分けて投稿しております。
「はー。まさか二人とジェイド君が知り合いとはねー」
どうやらカリナは、シルビアの種族がエルフだという事を知っていたらしい。
俺の前でフードを外していたシルビアを見た時に、かなり慌てていたのだが、俺達が知り合いだと知ると安心したようで、今は5人分の料理を同じテーブルに運んでくれている。
何故かそのまま当たり前のように一緒の席に座り食べ初めているのは、突っ込んじゃダメなんだろうな……。
「知り合いというか今日会ったばかりだよ。依頼が終わって帰ってくる途中でちょっとね」
「ふーん? それでもシルビアがエルフだって教えるのは珍しいと思うけどなー?」
そう言いニヤニヤしながらシルビアと俺をカリナが見ているが、俺とシルビアは別にやましい関係ではない。
「はいそこー。変な想像しない。私が教えたというよりは、偶然耳を見られちゃっただけよ。アーティアと二人でマルサム山脈の方まで行って来たんだけど、あの辺人が滅多に来ない地域でしょ? だからフード被って無かったんだよね。やっぱり迂闊だったかな。今後は気を付けないと……」
「そうよシルビア。見られたのがジェイド君だったからよかったけど、普通の人が見たらエルフがこの国にいる事自体稀だから、絶対噂になっちゃうと思うわ。知られたくないのなら、もう少し周りには注意をしないとね?」
そんなアーティアからのお説教に、シルビアが目を反らしながら頬を掻いている。
カリナもうんうんと頷いているが、彼女もやはりシルビアの事が心配だったのだろうか。
「うん……そうだね。気を付ける。カリナも心配かけてごめんね?」
「いいのよ気にしなくて。シルビアがドジなのなんて分かってる事だから。それに私が心配したのは、エルフって事がバレて、シルビア達がこのまま宿を出て行くかもしれないって思ったからだから。
シルビア達は、貴重なこの白翼亭の長期利用者様なんだからもう少し居てくれた方が私としては助かるの。お金さえちゃんと払ってくれれたら、私は相手が人間でも亜人でも皆等しくお客様。払う物を払ってくれるだけで文句は無いんだからさ」
違った。
カリナの商魂が逞しいだけだこれ。
思わず苦笑してしまう。
「だよねー。知ってたよもう。謝って損した……」
「いいじゃないの。お金を払えば普通に泊めて貰えるだけありがたいと思った方がいいわよシルビア」
「アーティアはよく分かってるね。そうだよー? 家みたいに亜人も大丈夫な宿自体貴重なんだから感謝してくれないと」
「分かってるけど、カリナ見てると、なんか納得いかないんだよね」
女性三人寄れば姦しいとはよくっ言った物だ。
ちなみにある意味4人目の女性とも言えるマシロは、もくもくと食事を続けている。
食べる事に集中して会話を聞いている様子もない。
進化して、念話のスキルで他人と話せるようになったマシロなのだが、当然念話をするのにも魔力を使う。
なので長時間の会話は、彼女には不可能のようだ。
そもそも、今は俺意外と話すつもりが本人には無いとの事。
信頼してくれるのは嬉しいんだが、俺としては、マシロにもシルビア達と少しは打ち解けてくれて欲しいんだがな……。
「しっかし、やっぱりシルビアが自分の事エルフって知られて慌ててないのは、怪しいと思うんだよね私。実はジェイド君に一目惚れでもした?」
「ちーがーいーまーすー。ジェイドはなんていうか、私の事エルフだって伝えても、害意みたいな物を感じなかったから、私も普通に接してるだけだよ」
「ふーん? ジェイド君はシルビアがエルフって聞いても驚かなかったの?」
「いや。かなり驚いたよ。会うのも初めてだったし。ただ、俺からしたら亜人も人も見た目が多少違う位で、他は特別変わらないと思ってるだけ」
「はー……。私が言うのもなんだけど、そういう価値観持ってる人って珍しいよね。そういう考え持ってる人は、エルフ以上に貴重かもよ?」
そんなに珍しい事だろうか? 俺からしたら、エルフを嫌う理由なんて無いと思うんだけどな。
というか、こんな美少女を種族が違うって理由だけで嫌うのなんて無理だろう普通。
これは、俺が元日本人だからそう思うだけなんだけどさ。
しかし、エルフ以上に……か。
エルフってひょっとして数が少ない種族なのか?
「エルフってそんなに珍しい種族なのか?」
「珍しいね。私もこの街ではシルビアしか見たことないし」
「あくまでもこの街では、ね。私が知る限り、エルフの冒険者っも結構いるわよ? でもそれは、亜人への差別が少ない西のトルマ共和国が中心かな。あそこは亜人達の部族が集まってできた国だから。冒険者以外のエルフは、マリエット大森林の中にあるエルフの里に住んでて、滅多に外には出ないわ。その一番の理由は、人間による奴隷狩りの被害よ。エルフ達は、容姿が優れた者が多いから、奴隷狩りの被害が最も多い種族なの。だから、シルビアみたいにトルマ共和国以外で活動するエルフってかなり珍しいのよ」
成程。言われて納得だ。
確かにシルビアは、俺から見てもかなりの美少女だと思う。
その容姿のせいで、そういった輩に狙われやすい種族ならば、わざわざ危険を冒してまで他国に行くエルフは稀という事か……。
それと、奴隷狩り、か。
少し、心当たりがある。
立川の娘を攫ったあの男達だ。
あの男達も、エミリアを攫う様子はかなり手慣れた感じだった。
ああいう事が、この世界では日常的に起きているのだろう。
この世界は、優しくないって事か。
それにしても、トルマ共和国か。
その名前は立川から貰った地図の中にも記されてたな。
確か、西にある国だったはず。
亜人達が集まって作った国か……。
亜人。
この世界でそう呼ばれる種族は大きく分けて、エルフ、獣人、ドワーフ、マーメイド、ハーピー、ドラゴニュートだ。
ハーピーやドラゴニュートは魔族の気もするんだが、この世界では亜人扱いらしい。
逆にマーマンやヴァンパイア、サキュバス等は魔族と呼ばれてる。
ゴブリンやコボルト。後はリザードマンは、普通に魔物扱いだ。彼らには知恵はあれど、対話や交流が不可能だから仕方ないか。
亜人と魔族の基準は、基本的に人間にとって友好的かそうじゃないかの違いでしかないらしい。
なんとも曖昧な話だ。
後、当然だがアンデットは全て魔物扱い。
亜人にも人類にも、等しく神の敵認定されてるから、俺の正体がバレたらどんな目になるかお察しだな。
やっぱ優しくないわこの世界。
一応このライムダールにも亜人達は住んではいるが、数自体はそこまで多くない。
比率で言うなら、人間が8に対して亜人が2。それも殆どが奴隷だな。
だが、そんな中にも実力者がいて、普通に冒険者として活動している者や、昨日ギルドで出会ったギルド職員であるガロンさんみたいに、普通に人と共に生活している者も、一定数存在しているようだが、世間の風当たりはあまり良くないみたいだ。
そんな他国では生き辛い亜人達だが、トルマ共和国だけは、亜人の国というだけあり様々な種族が住んでいるという。
まさにファンタジー此処に極まれりだ。
非常に興味深い。
せっかく世界を回るのならば、俺も一度は訪れてみたいものだ。
しかし、ここで一つ疑問が起こる。
このライムダールは、キグナス王国という国の東端。それもかなりの辺境の都だ。
トルマ共和国からも遠く離れている。
なのに、何故シルビアはわざわざこんな場所に来たのだろうか……?
「なぁ。シルビアはどうしてキグナス王国へ来たんだ? 話を聞いた限りでは、冒険者をやるなら別にトルマ共和国でもよかったんじゃないか?」
そう疑問が沸いて、なんとなく軽い気持ちでシルビアに尋ねてみたのだが、俺に尋ねられたシルビアが、さっきまで明るかった表情が僅かに曇った変わったのを見て失敗だった事を悟る。
「あー……。ちょっと里には居られない事情が出来ちゃってね? 出来たら理由は、聞かないでくれたら嬉しいかな。一応、最初は、トルマ共和国で冒険者やってたんだけど、アーティアと出会ってからは彼女の故郷であるキグナス王国に一緒に移ってきたの。ライムダールに来たのは、ちょうど1年位前になるのかな」
シルビアはどこか悲しそうな顔で笑って答えてくれたが、きっと思い出したくない事もあるのだろう。
興味本位で聞くべきでは無かったな……。
アーティアの方も曖昧に微笑んでそのまま食事を続けているが、俺の質問に特に答える様子もないし、きっと2人には何か事情があるのだろう。
俺にも二人には話せない秘密がある。お互いの為にも深く関わる事はしないほうがいいだろうな。
そう結論し、一言謝ると俺は早々に会話を打ち切り、料理を食べる事に集中する。
その後は各々それぞれの部屋に戻って行った。
明日シルビアにちゃんと謝らないとな……。




