30 2人の冒険者
やっとヒロイン(?)が出てきました。 遅いですよねすいません。
ホーングリズリーを仕留め終わった俺達の方へ、近づいてくる女性の声。
俺はこんな人の少ない地域へわざわざ来るなんて一体どんな人物なのだろうと興味が湧いた為、その場で少しその声の主を待ってみる事にした。
やがて俺達の前に現れたのは、皮鎧の上から緑の外套を羽織っている少女。
歳は恐らく今の俺と同い年位か。
肩まで伸ばした蜂蜜色の綺麗な金髪は、ゆるくウェーブがかかっており、その顔はやや幼さの残る印象だ。
猫を思わせるその瞳は、綺麗なマリンブルー。
小柄でほっそりとした体形だが、何処となく活発な気配のする美少女だ。
どうやらこの子は弓を使うようで、その腰にやや大き目の矢筒を装備している。
では、あのホーングリズリーに刺さっていた矢はこの子が放った物だろうか?
そして更に。
先程から一カ所気になる部分がある。
それは彼女のその耳だ。
まるで、前世のゲームで見たエルフのように、長く先の尖った耳をしているのだ。
というかこれエルフ耳だよな。
え? てことは、この子ひょっとしてエルフなのか?
「確かこの辺だったような……。あっ! ねぇそこの君? 今こっちにホーングリズリーが……ってあれ……?」
「待ってシルビア! 1人で先に走っちゃ危ないわっ! ……あら?」
弓使いの美少女。シルビアと呼ばれたこの子を追って、遅れてもう1人の女性もやってきた。
こちらの女性は長身で俺よりも2つ位は年上だろうか。恐らく20代前半。
燃えるような赤の髪を腰まで伸ばしており、その瞳もまたルビーの様に紅い。
彼女もここまで走ってきたからか、その頬が少し赤く、それがどこか妖艶な雰囲気を感じる美女だ。
そしてシルビアと呼ばれた少女と並び、そのスタイルが必然的に際立つ。
この女性は、ゆったりとした丈の長い黒ローブを着ているのだが、その上からでもその胸の大きさがはっきり分かる位ある。
多分だけど、ナーシャさんと同じ位あるんじゃねこれ……。
更にこの女性は、頭にとんがり帽子を被っており、そしてその手には1本の木の杖が握られている。
魔術師だな。
そんな対照的などちらの女性も俺達と、足元で死んでいるホーングリズリーを見て固まっていた。
「あー……。えっと。こいつなら俺と相棒が仕留めたんで」
「え、倒しちゃたの!? わ、私達の獲物がーー!」
俺の答えを聞いてシルビアと呼ばれた少女が悲痛な声を上げる。
あー。やっぱりこの人達の獲物だったんだな。
「シルビアッ! そうじゃないでしょ! ごめんなさい。私たちの不手際で取り逃してしまった魔物なのに。手間をかけてしまって」
反対に魔法使いの方の女性は、俺の方へ申し訳なさそうに謝ってくる。
シルビアも俺に遅れて謝罪の言葉をかけてきた。
「そーだった。えっと……。ご、ごめんね? 私達マルサム山脈麓でホーングリズリー討伐の依頼をやってたんだけどね。最後に私がドジっちゃって逃げられちゃってさ。まさか逃げた先に人がいるなんて思わなくってね……。この辺人が来る事なんて滅多に無いから。これでも急いで追いかけてきたんだけど、こいつ逃げ足が速くって……。えっと、それで大丈夫? 怪我とかしてない?」
そう言って顔を心配そうに近づけてくる彼女だが、正直こんな美少女に近寄られると俺としても戸惑うわけで……。
「あー……。平気。怪我もしてないからさ」
とりあえず視線を反らして早口に大事が無かった事を伝える。
(とーさま。なんかだらしない顔してる……)
マシロが若干非難めいた声をかけてくるが、今は無視。
仕方ないんだよ慣れてないだから!
「あなたが1人でこの魔物を?」
俺がホーングリズリーを仕留めたという事実を受けて、興味深そうに魔術師の女性が尋ねてきた。
「正確には俺と相棒でですね。マシロ」
「シャア」
俺の足元でじっとしているマシロの姿を見て、魔法使いの女性は驚きに目を開いている。
「その蛇の魔物は貴方の従魔なの? 見たことない魔物ね。小竜蛇に少し似てるみたいだけど……」
「へー……。アーティアでも分からないなんてよっぽど珍しいんだね? ねーねー。君も冒険者なの?」
どうやら魔法使いの女性は名前がアーティアというらしい。
マシロをしばし興味深そうに見つめた後に、シルビアは視線を俺に移して、そんな疑問を投げかけてきた。
「一応な。貴女達も冒険者?」
「そうだよ。私はシルビア。シルビア・ミルトレットよ。それと……。あちゃー。耳見られちゃったよね。……うん。ご想像の通り種族はエルフよ。そしてこっちの魔法使いの彼女はアーティア。私のパーティメンバー。ランクは2人ともDランク。君の名前は?」
ああ。やっぱ俺の視線には気づかれてましたか……。
実際気になるんだから仕方ないね。
「あー。じろじろ見て悪かった。悪気はなかったんだ。ただエルフに会ったのが初めてだったからさ。俺の名前はジェイド。同じくDランクの冒険者。昨日登録したばっかりの新人だけどな」
「まぁ確かに珍しいよね。一応普段はフード被ったりしてエルフって事を秘密にしてるんだけど、普段この辺に人なんかめったに来ないから油断しちゃったかな……。まぁ、見られたからにはしょうがないね。でも、もしよければ黙っててくれると嬉しいかな。とにかく、よろしくねジェイド。それとそっちはマシロちゃんだっけ? よろしく」
そう言って今度は明るい笑顔で右手を差し出してくるので、俺もその手を取って握手する。
「私はアーティア・ルルシアナ。よろしくねジェイド君。でもこんな場所まで1人と1匹で来てるって事は、君も依頼を受けて来たの?」
「ああ。もう終わって今から帰る途中。そしたらこの熊が近づいてきてるのをマシロが教えてくれたから撃退したんだ」
「うっ……。ごめんなさい」
アーティアの質問に俺が応えると、シルビアは何やらバツが悪そうな顔をして再び謝ってくる。
「どうしてそこで謝るんだ?」
「その、あのホーングリズリー私が止めを刺そうしたんだけど、最後は私がドジっちゃってね。あそこでちゃんと倒せてればジェイドに迷惑かけなくて済んだんだけど……」
「それなら気にしなくていい。俺としても被害が出る前に倒せてよかったと思うし」
「シルビアの弓の腕は私も信頼してるんだけどね。今回は依頼終了まで弓の耐久力が持たなかったのよ」
アーティアがそっとシルビアのフォローと事の経緯を語ってくれた。
どうやらシルビアのスキルを使ってあのホーングリズリーを仕留めようとしたが、彼女の弓がその込められた力に耐えきれずに破損してしまい、放たれた矢が中途半端に刺さって止めが刺せなかったらしい。
そしてホーングリズリーは2人から逃走してここまで降りてきてしまったと。
説明の途中でシルビアが見せてくれた弓は、半ばからばっきりと折れており、弦も切れていた。
一体どうやったらこんな事になるんだ?
「あ、その……。先に言っとくけど、別に私が怪力ってわけじゃないからね? 私って魔力がかなり多い体質らしいんだけど、多すぎて逆にスキルを使うと威力が高過ぎて武器の方が耐えられないの。だから普段は予備の弓を何本か持って討伐依頼を受けるんだけど……。恥ずかしい話、最近路銀が少なくなっててね。今回はこれ1つだけ。けっこう頑丈な奴だし、アーティアと協力すればいけると思ったんだけどダメだったの……」
「私達も当然追撃しようとしたんだけど、私の方も魔力を使い過ぎちゃってね。シルビアも弓が使えないからどんどん引き離されてしまって……。ホーングリズリーを見失った時は、正直どうしようかと思っちゃった」
「今回ジェイドが倒してくれたから被害は出なかったのが救いだけどね。本当にありがとう。でもこれ私たちが倒したわけじゃないから依頼失敗だね。報酬無しどころか下手したら違約金問題だし。あー……新しい弓どうしよう……」
シルビアのその表情が一気に悲壮感漂う物に変わる。
「仕方ないでしょ。元々私たちのミスなんだもの。新しい弓が買えるようになるまでは、討伐系の依頼は諦めてしばらく薬草取りでもやるしかないわね」
「うー……。ごめんねアーティア……私のせいで……」
シルビアの顔が更に悲しそうに歪む。
しかし正直俺としては、今回のポイズンクロウラー討伐で最低でも銀貨50枚以上が確定してる。
更に追加報酬が期待できるオキシア湿原の魔物も確保してるのを考えると、このホーングリズリーは別に無理に持って帰る必要は無いんだがな。
それに、こんな可愛いエルフとお近づきになれるチャンスだしここは恩を売っといてもいいだろう。
「あのさシルビア。もしよければ、このホーングリズリーはそっちが持って帰ってもいいよ?」
「えっ!? 本当に!?」
それを聞いた途端にぱぁっと表情を明るくするシルビア。
ころころ表情が変わる子だな。
見てて面白いからいいけど。
「シルビア! その……。気を遣わなくてもいいのよ? これは君の倒した獲物なんだから。このホーングリズリーの素材の権利は君にあるわ」
シルビアとは反対にアーティアの方はどこか心配そうだ。
確かこのホーングリズリーも、なかなかの値段で売れる魔物だったはずだ。
それをみすみす他人に差し出すと考えると、普通は疑いたいくもなるか。
「俺もオキシア湿原で依頼を終えたばかりなんだ。依頼の報酬と魔法の袋の中身をギルドへ売る事も決まってるし、懐もそこそこ温まる予定だ。だから今回このホーングリズリーはそっちに譲るよ」
「ええっ? ジェイドの依頼ってあのオキシア湿原の魔物討伐なの? あの依頼を1人と従魔だけでこなしたの!?」
「よく無事に帰ってこれたわね……。本当に冒険者になったばっかりなの?」
「まぁ、少し秘訣があったものでね。それに1人の方が都合がいい事情もあるんだ」
「秘訣……? それでもあんな危険な場所を一体どうやって……。……いえ。ごめんなさい。私達も冒険者だもの。そういう個人の事情には踏み込むのはよくないわね」
アーティアの方は何かを察してくれたのかそれ以上深くは聞いてこなかった。
俺も余り多くは答えられないので助かる。
「そうだね。私も人が少ない場所を選んで依頼受るからジェイドの気持ちよく分かるよ」
「そうなのか?」
「まぁね。私もエルフってだけで面倒な輩に目を付けられ易いから。ライムダールでも私がエルフって知ってるのはギルドの一部の受付とアーティア。それと宿の女将達くらいだよ。普段も無用なトラブルを避ける為に、基本はアーティアと2人で人が来ない地域の討伐依頼を専門にやってるんだ」
「ライムダールではそこまで酷い事ないんだけど、これが王都近くや、更に北のオルシミア神聖国なんかだったら、亜人ってだけでどんな難癖つけられるか分かった物じゃないからね。それでも獣人とかに比べたらエルフはまだマシでしょうけど。やっぱり人間以外の種族に対しての迫害って多いから。これも魔族との戦いの歴史の影響かしらね。特にオルシミア神聖国は、亜人は魔族と同じで人間全ての敵だって本気で思ってる輩も多くて……。正直私もあの国には近寄りたくないわ」
宗教国家って奴かな。
どっちにしろ俺もそんな場所には近寄りたくはない。
しかし、予想通りこの世界にも他種族に対しての差別が激しい場所が存在するようだな。
「私もそういうの見たり聞いたりしてきたから……。だからジェイドが1人で依頼をしてる事情っていうのは詳しく聞かないよ」
「……すまない。正直助かる」
シルビアの提案は大変ありがたい。
今の俺は全力での戦闘時は、どうしても人化を解かなければいけないからな。
人に近い容姿をしてるエルフですら酷い偏見や差別を受ける世の中だ。
もし俺の正体が発覚した時の事態は、間違いなく最悪だろう。
だが、これは早めに人化状態で長く戦えるようにならなと拙そうだな。
街に帰ったら新しい戦闘法や武器なんかを考えてみるか……。
今後の為にもLvアップ意外の手段も必要だろうしな。
「ねぇ。ジェイド君。提案なんだけど、あなたが良ければライムダールへ一緒に戻ってもいいかしら?」
シルビアたちの話を聞き、今後の事を考えていたらアーティアが申し訳なさそうにそんな提案をしてきた。
「え?」
「私達君のおかげで依頼は達成できそうなんだけど、シルビアの弓がこんな状態でしょ? しかも私も魔力が結構減っちゃってるから。帰り道に少し不安があるの。ジェイド君さえ良ければだけど、ライムダールへ一緒に行ってくれると私としては心強いわ。ホーングリズリーを討伐できた君の腕を見込んで臨時パーティ依頼って所かしら」
確かにシルビアの弓は破損してまともに戦えないだろう。
アーティア1人でシルビアを庇いながらの戦闘も、魔術師である彼女からしたらやや辛い物がある。
俺も今日中にライムダールへは帰る予定だったし、魔力は道中干し肉でも食べれば持つだろう。
マシロだっているしな。
「俺は別にいいけど。今日中にはライムダールへ帰るつもりだし」
「いいの……? 迷惑じゃない?」
「シルビアだってその弓じゃ真面に戦えないだろう? 一緒に帰ったほうが安全だしシルビアが嫌じゃなければ一緒に行こう」
「……じゃあ悪いけど、お願いするね? 帰ったら必ずお礼するからさ」
「ああ。じゃ短い間だがよろしく」
こうしてライムダールまでの短い間だが、俺達は臨時でパーティを組むことにした。
(とーさま。この人達連れてくの?)
(そうだけど。どうしたマシロ?)
(なんでもない……)
しかし何故かマシロが若干不機嫌そうにしていた。
ホーングリズリーと戦った後だし、腹でも減ってるのかね?
ホーングリズリーの死体を魔法の袋に回収し、シルビア達と共に俺達はライムダールへ向けて歩き出した。
今回でストックが切れたので次回は書き終わり次第投稿をします。
何分休みがなかなか取れなくて少し遅れ気味です。
なるべく早めに投稿できるようにがんばりますので……。




