21 立川との修行
長かったので分割に変更しました。
あの後、立川からこの世界についての話を色々教えてもらっていたら、すっかり夜も遅くなってしまった。
立川に今日は遅いし家に泊まっていけと言われ、俺はその好意に甘えさせてもらうことにしする。
変幻の指輪の効果か、この世界に来て久しく感じてなかった眠気もあり、久しぶりの睡眠を堪能する。
明けて次の日。
目覚めると、俺の体はスカルウォーカーのそれに戻っていた。
どうやら寝てる間に、変幻の指輪の効果が切れてしまったようだ。
人化時に使ったMPってたしか20だよな。そっから時間経過でじわじわMP減ってたのかな。
生命探知を広範囲に使うよりは、魔力消費が少ないのだが、単純に俺の今のMPの量じゃ一晩中人化する事は無理そうだな。
早くLvを上げてもっと増やさないとな。
再び変幻の指輪に魔力を通して、人化の術を発動させる。ちゃんと服まで再現されてるのを確認して、立川から貰った黒のローブ(前に使ってたやつはボロボロだったので処分してもらった)を羽織。
扉を開けて、俺はそのままリビングへと向かう。
既に皆起きているようで、ナーシャさんが朝食を作っているのが見えた。
「あら。おはようジェイド君。今朝ごはん作ってるから座って待っててね」
「おう。よく眠れたか?」
「おはよージェイドさん」
「シャー」
「おはようございます」
ちなみに昨日マシロはエミリアと一緒に寝たらしい。
毒牙があるから少し心配をしていたが、特に問題もなかったようだ。
そのままナーシャさんの作ってくれた、朝食をみんなで食べる。
ああ……。
普通にこうして飯が食える。
こんな当たり前の事がこんなに嬉しいなんて。
朝食を食べているときに、立川から、これからどうするのかと聞かれたので、ひとまず冒険者を目指す事を伝える。
そんな俺の答えを、立川は笑いながら応援してくれて、冒険者になるならばと、この村の北東にあるライムダールという街を紹介された。
その街は、かつて立川が冒険者時代に拠点とした街らしく、俺も冒険者を目指すなら、先ずはそこに行ってみろとの事だ。
だがライムダールへ行くのなら、3日程待てとも言われる。
その3日間で立川が、俺に魔闘法のスキルを伝授してくれるとの事だ。
冒険者になるのは、このスキルを習得してからでも遅くないとも。
確かに、あのスキルは習得できれば、今後戦闘で大いに役立ってくれるだろう。
特に断る理由もなかったので、マシロを一旦エミリアに預けて、二人で村近くの森まで向かった。
そして現在、俺は森の中で立川に腕を掴まれ、魔力操作をしてもらっている。
「どうだ? 体の中にある魔力の流ってのが分かるか?」
立川に掴まれている腕から、俺の心臓辺りに何か力の流れの様な物を感じる。
昨日感じたものよりも、はっきり認識する事が出来た。
これが、俺の中の魔力だろうか?
「掴まれてる腕から胸にかけて、何かの流れを感じる。これが俺の魔力か?」
「そうだ。今俺がお前の中の魔力の流れを操作して、一本の道を作った感じだな。んじゃ次は、お前がこれを動かしてみろ。この流れを体の一部として認識し、意図的に操作するんだ」
「やってみる」
立川が手を離すと、さっきまではっきり感じた魔力の流れが無くなる。
だが、ぼんやりと、俺の体を巡る魔力の流れを見つける事が出来た。
そこに意識を集中し、体の中を巡らすようにイメージする。
予想よりもずっと難しい。
かなりの集中力を使う作業だ。
だが、少しずつ、魔力を俺の意志で動かせているのがわかる。
これが魔力操作か……。
魔力を操る感覚は、俺がエンチャントを発動させる時に近い感覚だ。
だがあれは、魔力を籠めるように念じると、魔石が俺の意志を組んで吸い取ってくれていただけだ。
それを、今は俺1人の力だけで、魔力を操作している。
その日は陽が暮れるまで、俺は立川と座禅を組み魔力の操作の練習を続けた。
そして、その日の修行をそろそろ切り上げようとした時だ。
俺も魔力を操作するのに、コツを掴み始めた頃に、突然頭の中で無機質な声が響く。
【条件を達成しました】
【魔力探知Lv1、魔力操作Lv1 を獲得しました】
急ぎステータス閲覧で自分の能力を確認すると、しっかり今の二つがスキルに追加されていた。
「どうやら魔力探知と魔力操作のスキルを無事に獲得出来たみたいだ」
「よしよし。思ったよりも早かったな。まずは基本も基本だが、ひとまずクリアだ」
その日の修行はそれで切り上げて、また次の日。
場所は昨日と変わらず森の中。
俺は立川から次のステップを教わっている。
「魔闘法ってのは、単純に言えば自分の体に高密度の魔力を巡らせる事により、身体能力を上げるスキルだ。ただ、いきなり高密度の魔力を巡らせるのは反動がデカくて危険だ。まずは薄くした魔力を巡らせるようにイメージしてみろ」
「こうか……?」
魔力探知と魔力操作のスキルを獲得したことにより、昨日よりも、スムーズに体の魔力を操る事が出来た。
それでも、自分のイメージ通りに魔力を自在に動かすってのは、かなり集中力を使う作業だ。
人化の維持もしながらとなると、難易度が跳ね上がるぞ……。
これを無意識で出来るようになるのが最終的に理想らしいが、俺にはまだまだ難しそうだな……。
それでも、魔力探知のお蔭て、自分の体内の魔力の流れは見れる。
お蔭て、かなりぎこちなくではあるが、魔力をイメージして操作する事は出来る。
なるべく、意識して薄く伸ばしつた魔力を体に巡らせる。
「おう。いいぞ。その調子だ。だが、まだ無駄な部分が目立つな。スピードをもう少しゆっくりと……そう。そんな感じだ。そのまま続けろ」
立川のアドバイスを頼りに、俺は自分の体を巡る魔力の流れを操作する。
すると、俺の体にうっすらと、蒼いオーラの様な物が纏わりついた。
「それだ。その流れを覚えろよ? 魔力の扱いが上達してきたら、巡らせる魔力の密度も少しずつ上げていい。だが、今はそれ位薄いほうがいいな。後はひたすら、時間が空いた時に、魔力操作の練習を忘れるな? さて。では次はスケルトン形態で今のをやってみろ。どうせジェイドが戦う時は、当分こっちなんだ。人化に使う魔力も魔闘法へと回せるし、さっきより簡単だと思うぞ。今日中にオーラを出せる位にはしとかないとな」
「分かった」
俺は変幻の指輪を立川に預け、スカルウォーカーの体に戻る。
そのまま集中しやすいように座禅を組み魔力操作の鍛錬を続ける。
確かに、最初に人化した状態で魔力操作を続けたおかげで、全身の魔力を操作するのがかなり楽に感じた。
確かにこれなら……今の俺でも、いけるかな?
その日は陽が暮れるまで、スケルトン形態でオーラを出現させれるまで、ひたすらに魔力操作を続けて、無事立川から合格点を貰える位にはなった。
それと、鍛錬でずっと魔力操作を続けたおかげか、人化の維持に使う魔力を意識して絞る事で効果時間を延ばす事にも成功した。
まぁ、それでも時間が長くなっただけで消費魔力が無くなるわけではないんだがな。
消費魔力量が食事での魔力回復で十分賄えるようになったのは嬉しい事だ。
そして、修行最終日である3日目がやってきた。
「っし。いつでもいいぞ?」
立川は既に体に蒼いオーラを纏い、愛用の杖を右手に構えて、余裕の笑みを向けている。
今日の俺は、スカルウォーカー状態で、立川と対峙していた。
昨日までの魔力操作により、魔力のオーラを纏わせる段階まではクリアできた。
今日は、最後の詰めとして、この状態を維持しての戦闘訓練らしい。
立川曰く、俺の魔闘法はほぼ習得手前まできているらしい。
なので今日は、スキル習得を目指して、最初からオーラを使い、全力でかかってこいとの事だ。
ここに来るまでに、魔闘法の基本的なやり方はレクチャーされている。
まず、自分の持つ魔力を全身に薄く張り巡らせるようにイメージする。
昨日の魔力操作の感覚を必死に思い出し、俺の体を巡る血液のように、魔力をイメージして全身へ循環させる。
やがて、蒼いオーラが、薄く俺の体を覆っていく。
「よしよし。しっかり発動はしてるな。だがまだ制御が少し甘いな。感覚は何度もやって覚えるしかないから、今からみっちり叩き込むぞ? ちゃんとガードしろよ?」
そう言うと、立川は物凄い速さで突っ込んでくると、手にした杖で薙ぎ払ってくる。
俺は慌てて、両腕へ魔力を多めに流して強化すると、立川の杖をなんとかガードする。
だが……。
ぐっ!? 重いっ!?
「おらっ! 気を抜いてんじゃねージェイド! もう一発いくぞ!」
立川は、杖を叩きつける勢いを殺さず、更にそのまま体をひねると、鋭い回し蹴りを叩き込んできた。
すさまじい衝撃にそのまま吹き飛ばされて、地面を転がる。しかし立川は、容赦せずに更に追撃をしかけるため、間合いを詰めてきた。
地面に倒れてる俺目掛け、右の拳を振り下ろしてくるのが見え、慌てて魔力を全身に回すメージで身体能力を強化。そのまま後方へと無理矢理飛び起きる事によりこれを回避。
立川の拳はそのまま地面にめり込み、クレーターを形作った。
あの吸血鬼ローガスの一撃よりも、明らかに重い。
というか、今の拳を避けられなかったら、俺は死んでいたのでは……。
「たっく。なにぼーっしてるんだ? 集中力がたりねぞぇ!」
立川はそんな俺の様子を叱咤して、ボクシングのファイティングポーズをしながらその場でジャブを2回放つ。
というか、この人絶対魔術師じゃない! 最早ただの武闘家だよ!
「だが今の回避は悪くねー。人間で今の動きをやると、とんでもなく痛みそうだがな。その辺は今のお前からすると多少無茶が出来るポイントか……。だがそれだけじゃこの先生き残れないぞ? 使う魔力をもっと薄くだ。そうすることで体への浸透率も上がるし、燃費も良くなる。戦闘中魔力が切れましたじゃ話にならねぇ。完璧にこなせとまでは言わん。だがせめてもう少し制御を覚えないとな」
立川のアドバイスを聞き、俺は再び魔闘法をイメージして魔力を回す。
薄く……もっと薄く魔力を研ぎ澄ませるイメージ。
全身に魔力の衣を纏うように……。
俺は、全員にさっきよりも薄い、だがより蒼色の濃くなったオーラを纏う。
「そうだ。いいぞ! こんな短期間でそこまで魔力を扱えるとは、やっぱ才能あるぞお前」
立川がそんな俺の成果を嬉しそうに笑ってみている。
だが、その表情はまだまだ余裕そうだ。
こっちは必死に魔力を手繰っているのだが、これが年季の違いだろうか。
「おらぁ! どんどんいくぜ!」
再び立川が魔闘法を使い、身体能力を上げた体で右手を振りかざして飛び込んでくる。
恐ろしい速度で迫る拳を、ぎりぎり躱して、その右腕を逆に掴む。
「おおっ!?」
そのまま、立川の掴んだ腕を振り回し、遠心力を付けて渾身の力で投げ飛ばした。
立川が凄い速さで、木に飛んでいくのが見える。
よし。これであの木にぶつかれば……。
そう思い立川を目で追った、だが。
「悪くないカウンターだが、俺相手に距離を開けるのは失敗だな」
投げられた立川は、そう呟くと、進路上にあった木に器用に両足を着けると、逆にその木を蹴ってさっき以上の速度で俺に飛び込んできた。
足場にされた木は、衝撃で幹がへし折れている。
ありえねぇ……。
あまりにも常識はずれなその動きに、俺は対応できず回避が遅れる。
最早直撃は免れないため、必死に今俺に操れる最大量の魔力を体に巡らせる事で、防御力を上げる。
これでなんとかダメージを減らそうと試みる。
そしてそのまま俺は、飛んできた立川の放つ蹴りを、正面から真面に受けてしまう。
――ずどーーん!
森を揺るがすような轟音を響かせながら、俺の体が後方の地面へと勢いよく吹き飛ばされる。
土煙を上げがら何度も地面をバウンドし、途切れそうになる意識を振り絞って、必死に魔闘法を操作。
これによって多少ダメージは減らせていたようだが、それでもかなりのダメージだ。
更に、俺の持っていたほぼ全ての魔力を、先ほどの防御で持っていかれてしまったため、魔力枯渇による疲労も加わり、俺はそのまま意識を失った。
【条件を達成しました】
【魔闘法を獲得しました】
気絶する前に、そんな声を聞いたような気がした。




