20 魔道具とダンジョン
7/11 加筆修正とダンジョンについての記載を一部変更。
立川の過去の話を聞き終え、ナーシャさんが淹れてくれた紅茶をお互いに飲んで一息。
その後、立川が自ら調べたこの指輪の術式の効果を教えてくれた。
「その指輪は、俺も気になっててな。俺なりに、どんな術式が使われてるのかを調べたんだが、分かった事は少なくとも闇魔法、雷魔法の2つが使われてる事だ。だが、残りの部分は全て解読不能だな。この部分が、奴の言ってた人化の術式なんだろうが、そももそ人間の魔術じゃないからな。これも古い魔道書でみた知識位しかわからん。俺が人化の術で分かってる事は、魔物がこの術を使うと、人の姿を模した体に変化する事と、魔物特有の強い感情を抑え込む事ができるらしい事だ。要するにアンデッドの負の感情や、吸血鬼の吸血衝動、ドラゴンの破壊衝動とかがこれに当たるな。たぶん、あの魔王が言ってた嫁さんってのに、そういうのがいるな……。つまり、こいつを定期的に使えばお前の感じたあの感情はそうそう強くならないだろうさ。だからコイツをお前に渡したんだ」
「そうだったのか……。ありがとう立川」
「気にすんな。俺が持ってるよりジェイドが持ってた方が役立つってだけだ。他に、この指輪についての質問はないか?」
「あ、じゃあ1つ。人化の術はわかるが、他に使われてる闇と雷の魔法っていうの何か分かるのか?」
「闇は第7階級魔法の食い尽くす暴食の牙。雷は第5階級魔法の電磁衝波って所だろうな。グラトニーヴァイトの方は、影で作ったばかでけぇ竜の顎で対象範囲を削り取るって大群殲滅魔法でな。昔その術に滅ぼされた人間の軍隊もあるらしい。魔王クラスの化け物が使う闇の大魔法だ。強力な魔法だが、その最大の特徴が、そいつで食われた空間にある物は、全て分解されて使用者の魔力に還元されるっていう魔術だ。強力な闇の大魔法だが、人間には使えない。そもそも闇魔法に適性がある人間が珍しい。魔族には闇が、人間には光の魔術の適性が多いのが特徴だからな。もちろん例外があって魔族に光魔法を使えるやつもいるし、人間だって少数だが闇魔法を使えるやつもいる。次に階級こそ闇より低いが、雷も適正を持つ者が殆どいない。これは人間も魔族も共通しててな。ほぼ情報がないんだ。ただ昔王宮で見た、魔道書の中で一番それっぽい魔法がこのジグナルパルスだ。なんでも、対象に特殊な電磁波を浴びせて、対象の体を動かしている電気信号を狂わせる魔法らしい。地味に思えるが、黙視できず、気がついた時には体の自由が効かないってだけでも、こいつの強力さが分かるだろ? この2つの術式を改良して使ってるから、今のジェイドの体は物を食えば魔力が回復するし、神経系も疑似的に再現されてるっから味覚も普通に感じるだろ? 人化した時に服も着ている状況についてはわかららん。たぶんフリードが弄った人化の術のせいだろう」
「それだけ凄い魔術を、その魔王は結婚指輪にする為に、つぎ込んだのか。ある意味すごい情熱だな……。ところで、気になったんだが、さっきから言ってる魔法の階級ってのはなんだ?」
「本人が言うように、それはもう拘ったんだろうな……。それと魔法の階級についてだが、スキルの魔法の横にはLvがあるだろ?あれは、そのLv以下の階級魔法を使えるのを現している。なのでLvが1でそれ以上の階級魔法を発動させるなんて事は出来ない。Lvが1なら第1階級Lvが7なら第7階級って感じだな。一般的に初級が2階級まで、中級が4と5階級。6階級より上が上級と呼ばれてる。俺もまだ上級には、光だけしか到達できていない」
「その時点で7階級の闇魔法を使える魔王フリードは相当強いことになるのか」
「そう言うことだ。しかもまだ上の魔法だって使える可能性がある。むしろ使えて当然だろうな。なにせあいつは魔王なんだし」
「つくづく滅茶苦茶な強さだな」
立川と魔王の強さの出鱈目さについて話していると、ナーシャさんが新しく紅茶とお茶菓子を持ってきてくれた。
「ジェイドさん、お代わり要りますか?」
「あ。いただきます」
出された紅茶を一口。うん。ほんのりのり甘くて落ち着くな。
人化の維持で、俺のMPは常に減少しているらしく、魔力が減ってきてるのが感覚でわかる。
なので、このお茶菓子も大変ありがたい。頂いて魔力回復の足しにさせて貰おう。
「その指輪によって、飲み食いしたものは全てジェイドの魔力として補給されるんだが、正直燃費はあまり良くないみたいだな」
「実は、そろそろMPが尽きそうだった……」
「だろうな。その姿ではまだ戦闘も難しいか?」
「正直。まだ無理だと思う。戦闘中に何か食うわけにもいかないしな」
「となると、戦闘時には今まで通りのスケルトンの姿で戦うしかないか。人に見られないように注意しろよ。何れ人化状態でも戦えるように、先ずはお前のMP最大値を強化するのが一番だな」
「つまり、レベルアップって事か?」
「それももちろん大切だ。だが、魔力を長持ちさせる方法ってのは、それだけじゃない。俺のスキル、魔力探知と魔力操作を使ってお前が扱いきれてない魔力のバランスを整えてやる」
「扱いきれてない? これでか?」
「スキルを発動とかは一応できてるが、まだ無駄が多いって事だ。ただでさえ少ない魔力なんだから節約することも覚えないと、すぐに枯渇するぞ? つーわけで、ほい。腕出せ。今から始める」
そう言われ、素直に右手を差し出す。
立川は俺の右手を握ると目をつぶり、何かに集中しだした。
「おー。お前さん思ったより伸びしろはあるみたいだな。ただ燃費の悪さが問題ってだけだな。これなら少し鍛えれば魔闘法も使えるぞ。後でこいつも教えるから気合入れて覚えろ」
「なんか、体の中で見えない力を弄繰り回されてる気がする……」
「実際いま俺がお前の魔力の流れを操作してんだよ。気持ち悪いだろうが、じっとしてろ。手元が狂う」
「……」
「よし。こんなもんだな。どうだ?」
「少し体が軽い気がするな。魔力量も少し上がってる気がするが?」
「正確には、上がってるというよりは、本来の正しい姿に戻したって所だ。お前は普通発動するのに1しか使わない魔力を、5とか10放出している状態だったぞ。確かに戦う時に素早く動けたり、攻撃力が上がったりはするだろうが、これじゃすぐに魔力が尽きる。ジェイド。お前は今までどんな戦い方してたんだよ……」
立川が飽きれながら俺にそう言ってきたが、俺も生き残るのに必死だったんだ。
この戦い方も手さぐりでやっと掴んだものなので、他に方法を知らなかったからと言いたい。
それに、俺が特に魔力を使う時も基本的には生命探知にエンチャントを使う時だしな。
エンチャントを使うのは相手が強敵の時ばかりだったから、威力の加減が分からず、いつも全力で魔力を籠めていたが、それが余計に癖にでもなってたんだろうか?
そういった話を立川に伝えると、立川は驚き俺に聞き返す。
「エンチャントだと? 使えるのか? ジェイドのステータスを見た時は魔法を使えるようには見えなかったが……」
「ああ。普段は使えない。こいつを持ってる時だけだな」
そう言って俺は、立川に愛用のククリを渡す。
「なるほど。このククリは魔道具だったか……。それもかなり古い術式が刻まれてるな。どこでこんな骨董品手に入れたんだ?」
「手に入れたのは、俺が初めてこの世界で目覚めた遺跡みたいな洞窟だな。そこで死んでた冒険者の装備をゴブリンが使ってたので、そいつを殺して奪った」
「なら多分その遺跡は、ずっと昔に攻略されて放置されたダンジョンの成れの果てだろうな。このククリはそこに隠されてた魔道具で、死体になった冒険者が発見した物の可能性がある。しかし、ゴブリンねぇ……。そいつらに殺されたのか、案外コレが入ってた宝箱にトラップでも仕掛けられてたのかもな。ふむ。使われてるのは風の術式か……。階級は3階級魔法の風刃付与ってところか」
「3階級の風刃付与か。……ん? 待て。俺はそもそも風魔法が使えないぞ? なのに、なんで3階級魔法である風刃付与を発動できた? スキルがなくても、魔力があれば使える物なのか?」
「そこが、魔道具の面白い所でな。せっかくだ。それについても話してやろう。勇者直々による魔道具講座だ。どうよ。光栄だろ?」
「あっはい。そういうの今はいいんで……」
「んだよノリ悪いな……。まぁいいか。魔道具についてだが、これには様々な種類がある。ジェイドが持ってるこのククリ。こいつの分類は、一応魔法剣に入るな。魔道具の多くは、魔石に術式として刻み込まれている魔法を、使用者が魔力を込めることで再現するんだ。本来魔法を使うのには、その魔法の術式に合った魔力を込める事で発動させるんだが、魔道具の場合は魔力を込めると、その込められた魔力を一度魔石内に取り込む。そして内部で魔力を、刻まれた術式に最適化し、その魔法を発動させるって代物なんだ。利点は、魔力さえあれば誰でも刻まれた魔法を発動できる事だ。ただ、製造技術が途絶えてるので、入手するのにはダンジョン等から発掘するしかないっていう問題があるがな。だから魔道具は、それ自体の値段がかなり高い。まぁ要するに、こいつはお宝だって事だ。大事にしろよ」
「やはり貴重な物なんだな。今までも、このククリには何度も救われた。ところで立川は、こういう魔道具を作れるのか?」
「一応制作は可能だ。でも術式を刻めるのは、その魔術を使えることが前提だからな。俺が作れても最大で6階級魔法までの魔道具が限界だろうな。材料も刻む術式が難しい物ほど、質の良い魔石が必要だ」
「魔石か……。やはり魔石っていうのは魔物の死骸から取るのか?」
「そうだ。魔物は一部を除いて心臓付近に魔石を持っている。上級の魔物ほどいい魔石を持ってるが、その分強い。当然狙うなら相応の危険も覚悟しないといけない。魔道具は、この魔石に様々な術式を記録したものをコアとして作られる。ちなみに武器以外の魔道具も、もちろんあるぞ。例えば見かけは普通の皮袋だが、容量は家1軒分とかの魔法の袋。魔力を通すといつでも綺麗な水が飲める水筒。発動したら、日中の様に明るくなるカンテラなんてのもあったな確か。中にはガラクタみたいなものもあるが、古代に作られた品はみんな貴重だ。俺にも作れる物もあるが、高階級の術式が込められたものは無理だし、さっき言ったように作るとしても、かなり上質の魔石がいる。だから、上等な魔道具を欲するならば基本的にはダンジョンで発掘する位しか入手する手段は無いな」
「ダンジョンか……」
「ジェイドはダンジョンに興味が有るか?」
「有るか無いかで言うと……有る」
「だよな。俺も冒険者になった最初の目的はダンジョンに潜ってみたかったのがでかい。あれは男の浪漫よ。一度は入ってみたくなるもんだ」
「まぁそれもあるけど、効率的にLvを上げるならちょうどいいかなって」
「ああ。そうだな。もちろんそれもある。お宝が手に入るかもしれないし、強くもなれる。これだけ言えば最高だと思うが、当然危険もでかいぞ」
立川は笑顔だったその顔を真剣な物に変えると、続けてダンジョンについてを説明してくれた。
「ダンジョンって呼ばれる物の殆どは、古代に作られた遺跡だな。たまに自然産のダンジョンもあるが、そこには魔道具などのお宝はほぼない。そっちは魔物の素材は豊富だがな。まずダンジョンが出来る仕組を話そうか。ある一定のマナ、これは魔力の源で、酸素みたいにこの世界に存在している元素とでも思え。それが高純度で溜まると、ダンジョンコアって呼ばれるクリスタルが出来る。これは常に、周囲に大量のマナを放ち続けるものだでな、その放つマナを餌として求め、様々な魔物がこのクリスタルの周りに集まってくる。そして、集まった魔物はお互いに殺し合い、最後まで生き残った者が、そのダンジョンコアを取り込むんだ。そうして生まれるのがダンジョンの主。ボスモンスターって奴だな。ダンジョンの主は一般的にダンジョンマスターって呼ばれるんだが、そいつらは取り込んだコアを使って、自分の根城にダンジョンを生み出すんだ」
「生み出す?」
「ダンジョンコアって呼ばれる物は、ダンジョンマスターが魔力を注ぐと、その周囲に魔物を生み出す事が出来る。実は、前話した俺の影武者作った魔道具もこれにヒントを得た。もっとも俺のは、ダンジョンコアに比べれば1時間もせずに自動消滅しちまう出来損ないだけどな。っとすまん。話が逸れたな。まぁ要するに、魔物を生み出すダンジョンマスターを倒さないと、そのダンジョンには魔物が途絶えることは無いってわけだ」
「それってかなり、ヤバくないか? 溢れたモンスターが人の領域に出て来たりとかしないのか?」
「もっともな疑問だが、それについては心配ない。普通の魔物とダンジョン産の魔物には違う個所がある。それは自分で、魔力の元であるマナを体内に取り込めないって事だ。魔物の体を維持しているマナは、俺達人間からしたら酸素みたいな物だ。ダンジョンで生まれた奴らは、ダンジョンマスターが、ダンジョンコア経由でマナを供給しているんだ。つまり、ダンジョンマスターの魔力が途絶える外には、絶対に出ない。ダンジョンマスターもコアのマナだけで生きて行けるので、わざわざ外に出る事もしないのさ。そしてダンジョンマスターが死ねば、取り込まれてたダンジョンコアは消滅する。その後ダンジョンは、ただの遺跡に戻るってわけだ。だから、国によってはこの仕組みを利用して、あえてダンジョンマスターを倒すことを禁止し、魔物を定期的に狩れる狩場を確保してる所が多い。魔道具自体は魅力的だが、安定して魔物から素材が確保できる場所があれば、それだけで国としては利益につながるし、冒険者や兵士達のレべリングにも使えるだろ?」
「成程な。しかし、ずいぶん都合の良い仕組みだなダンジョンって」
「そう。都合が良すぎるだろ? まるでダンジョンを守るだけに存在する魔物を生み出し続けるんだから。しかもダンジョンコアが生まれるのは、決まってそういう遺跡の一番奥だ。たぶん、このダンジョンってシステム自体が古代のセキュリティの一種なんじゃないかって俺は思うんだ。実際ダンジョン化した古代の遺跡には大量の魔道具が発掘されることも多い。太古の人々は、こういった魔道具を外的から守るために、人工的にダンジョンコアを作り出す術式を編み出したんだろうな。それを遺跡の奥に設置することで、貴重な魔道具を魔物を使って守っていたと」
「とんでもないスケールの話だな」
「まぁ、これも多分、一部召喚された勇者の知恵が使われていると俺は睨んでる。あの勇者召喚の魔法陣だって、元を辿れば古代の遺産だ。昔からこの世界は様々な勇者を呼び込んで、その知恵で発展してきたのもあるんだろうな。案外この世界の歴史を紐解けば、歴代の国王の中に勇者がいるとかも普通にありそうだと思わないか? まぁそういうのは学者にでも任せとけばいいだろう。俺は考古学者じゃないからな」
「話を纏めると、ダンジョンには強力な魔物がいるが、古代の魔道具が手に入る可能性も高いって事だな?」
「魔物だけじゃなく、古代人が作った罠なんかも配置されて事がある。これにも注意が必要だろうよ」
「大体分かった。軽い気持ちで行く場所では無いな」
「そうだな。だが準備さえすれば別に行くのは問題ないだろう。ダンジョンから出れば魔物も追ってこないし、引き際を見極めれば修行も出来て、魔物の素材だって手に入る。まぁ、最終的に生死にかかわる可能性がある問題だから、挑戦するかは自己責任だがな。この世界には、未だ数多くのダンジョンが攻略されてない状態で残っている。未発見の物だって、数えきれない程あるだろうさ。そういった物を探したり潜ったりするのが冒険者達の仕事なんだ」
「冒険者は、ダンジョン関係以外の仕事は無いのか?」
「あるぞ? 普通に魔物の討伐だとか、小隊の護衛、薬草や鉱石の採取なんてのもある。まぁぶっちゃけ何でも屋に近いな。だが、あっちこっちに行く仕事だからな。街に入る関税が免除されたり、馬車や船を使ったりするのも安くなる。この世界を旅するには向いてる仕事と言えるだろう」
「冒険者……か」
「俺としては、ジェイドにもこの世界をその眼で見て回って欲しいと思っている。かつての俺の様にな。そんな体だ。さぞ今まで苦労してきたんだろう。だがやっと人に近い姿になれたんだろ? 冒険者として仕事をしてたら、金も稼げて強くなれる。そうしたら人化に必要なMPだってもっと上がるだろう。そしたら、その指輪を付けてる限りは人間として普通に暮らせるんじゃないか?それに、せっかくの第2の人生だ。楽しまなくてどうするよ」
「立川……」
「まぁ俺も色々あったが、冒険者として旅をしたことで、こうしてナーシャに出会えた。誰が何と言おうと今の俺は今幸せだよ。もう日本に帰る気もねぇ。何せここが今の俺の帰る場所だからな。俺はお前にもそういう場所を見つけてほしいんだよ早くいい嫁さんでも探して、さっさとアンデッド特有の悩みなんか忘れちまえよ。自分の負の感情を抑えて、俺の娘を助けようと戦ってくれた前は、間違いなく人間なんだからよ」
そう言って豪快に笑う立川。
俺はそんな立川の言葉が嬉しくて、少し泣きそうになってしまったのは内緒だ。
知られると絶対この勇者にからかわれるからな。
俺の次の目的は、この時決まった。
俺は冒険者になる。
それからこの世界を見てまわってみよう。
かつて立川がそうした様に。
次回更新は6/17の18時の予定です。




