19 新たな名前と勇者の過去
今回少し長いです。
7/11 一部分の説明を修正しました。
俺は今、勇者であるタチカワさんと、向かい合って座っている。
ナーシャさんは食器を洗いながら静かにこちらの様子を見ているようだ。
マシロはエミリアの部屋に行っている。
俺は少し心配したが、彼女は一応回復や解毒の魔法が使えるし、マシロもかなり賢いので大丈夫だろうとタチカワさんが言っていた。
「さて。改めて自己紹介だ。ステータス閲覧で知ってるだろうが、俺の名前は立川 悠一。日本語で書くとこうだな。日本に住んでた時は、ある会社の工場プラントで働いてたんだ。こっちに来たのが10年前で、その時はまだ22だったな。速いもんだな…」
「え? その姿で、立川さん30超えてるの?」
俺は立川さんのその言葉に驚く。
なにせ立川さんの姿は、どう見ても20歳前半位にしか見えないからだ。
「さんはいらねぇ。普通にに立川でいい。この見た目については理由がある。これは俺達勇者全員に共通してる事だ。寿命自体は普通の人間と変わらないが、老いるのが非常に遅いらしい。原因は今もわかってないが、別に実害があるわけでもないし、ここはそういう物って事で割り切っとけ。俺も現に10年こっちにいるが、見た目はほぼ変わってない」
「勇者補正ってすげー……。不老までついてるのか……」
「それ以外にも、この世界の文字や言葉も脳内で自動翻訳されたりとかもして便利だぞ」
因みに、俺も試に立川に見せてもらった本を普通に読むことが出来た。
案外、最初に却下した民家から書物を漁るってプランはありだったのかもしれない……。
まぁ、それは今更だな。
「さて、次はお前の番なんだが、名前が思い出せないって言ってたな。俺の方も、いい加減お前ってのもなんだしな。名前が思い出せないなら、自分で新しい名前を付けるってのでいいんじゃないか? どうせ転生なんだし前の名前をそのまま名乗る必要もないだろう? それに今のお前の姿も前世の物でも無さそうだしな」
「……え?」
「やっぱり気づいてなかったか。まぁ当然か。
その変幻の指輪を使ってから、今まで自分の姿を見てなかったもんな。
ナーシャ。鏡を」
「はい。あなた。……どうぞ」
立川が妻のナーシャさんへ伝えると、ナーシャさんがすぐに小さな丸鏡を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。……えっ?」
ナーシャさんから鏡を受け取り、自分の姿を改めて見てみる。
そこに映っていた俺の顔は、少なくとも日本人ではなかった。
短かめの金髪に、青い瞳。
顔立ちはそこそこ整っている方か?
歳は17、8位。
これが今の俺の姿なのか?
確かに俺は前世の自分の顔が思い出せないんだが、少なくともこんな顔ではなかったはずだ。
「随分若いな……」
「まずそこかよ……。その姿に見覚えはあるか?」
「いや……無い。少なくとも日本人じゃないのは分かった」
「だよなー……。逆にその見かけで日本の名前名乗っても違和感かんじるし。その容姿に合うのを考えてみろ」
「まさか自分に自分の名前を付ける日が来るんで……」
「そんな難しく考えんなよ。お前だって前世でゲーム位やっただろ? キャラに名前つけるみたな感覚でいいんだよ」
「そんなんでいいのかなぁ……?」
「いいんだよどうせ。反対する奴なんていねーんだし」
名前……か。
今の俺に付けるとしたら、日本人の名前じゃないよな。
ゲームキャラからでも取るか?
いや。いっそ俺がネトゲのキャラに使ってた名前をそのままもらってくるか……。
なんで、こんなどうでもいい記憶はあるのに、俺本来の名前の記憶が無いんだ……。
言っても仕方ない事だが、そう思わずにはいられい。
「では……ジェイドで」
「ちなみになんでその名前なんだ?」
「前世でやってたネトゲのキャラ名だ……」
「あー……。まぁ、無難だろうな。こっちの世界でも不自然じゃない名前だと思うぞ」
「私もいい名前だと思いますよ?」
「よし。お前の名前も決まった事だし次の話だな。ジェイドも気になるだろ? その指輪について」
なかった。
変幻の指輪についてか。
確か、この指輪は魔王が作った物だと言っていたな。
なぜ勇者である立川が、これを持ってるのか確かに気になる。
「じゃあ話してやる。少し長いが、俺の昔話に付き合え」
そして立川は話し出す。
それは、今から8年前の出来事らしい。
この世界リングラッドには、人間の領域と魔族の領域。最後に広大な未開地に分かれているらしい。
特に、この中央大陸と呼ばれる大きな大陸は、西に魔族、東に人間と領土が分かれており、お互いの生存圏を広げるために、強大な魔獣や魔物が存在している未開地を避けて、遥か昔から争い続けているとの事だ。
しかし、強力な魔術や身体能力をもつ魔族相手に、人間側は年々押されはじめていた。
だが、ある国が太古の時代に使われていたという、異世界から勇者を呼び出す術式を発見した事からそのバランスは大きく人間側へと変わったという。
コストとして膨大な量の魔力を使うかわりに、呼び出された勇者達は、強力なステータス様々なユニークスキルにより、魔族達から領土を奪い返したのだという。
勇者の召喚は数年に一度の頻度で行われていたらしく、立川が呼び出されたのは今から8年前だ。
「つまり、この世界には、他にも呼び出された勇者がいるって事だよな?」
「いるらしいな。今まで召喚されてるのが何人かいて、今は全員修行の旅に出てるって話を聞かされたが、今考えると、絶対あれは逃げてるな。だから俺は、顔を直接見た事ない。その国にいた勇者は、当時は俺だけだった。
呼ばれたのも突然でよ。いつも通りに、仕事してたら、突然眩しい光がしてな。思わず目をつぶっちまった。そして目を開けたら、そこは見覚えのない部屋で、しかも周りにはローブ着込んだ神官みたいなのが数人と、貴金属ジャラジャラつけてるおっさんがいてな。そいつがその国の国王だったんだ」
更にそこからの経緯を要約すると、立川を呼んだ国の国王は、現在、この国が魔族との戦争状態であるらしいという事。
それを率いる魔王を立川に討伐してほしいという事。勇者としてこちらの都合で勝手に召喚してすまないが緊急事態だ。帰る事は出来ずこの魔法は一方通行の魔法だという事。
魔王を倒してくれたら、可能な限りの礼をするという事。
勇者としての力を十分発揮できるようになるまでは、国のお抱え騎士や魔術師が付きっ切りで訓練をし、力の未熟な勇者を不慮の事故で失わないように、護衛を常につける事。
城から外に出るのを禁止する事等を、一方的に告げたらしい。
「国王が言うには護衛らしいが、実質的には四六時中俺の監視だな。先ずは、この国と世界について学んでくれと、城からも一切出さずに、常に軟禁状態だった。そこで受けたこの世界の常識ってのも魔族と人間の争いだの、魔族は絶対悪だとか、人間の救世主が勇者だ、とかだったな? 洗脳教育のつもりかね? しかも、その国の王族達は黄金だの白銀等のアクセサリーを、体にじゃらじゃら身に着けててな。流石の俺でもこれは絶対おかしいって思ったわ。そもそもこっちの都合も構わず、一方的に呼んで軟禁って時点で相当胡散臭い。戦争してるって言う割に、危機感みたいなのもまるで感じなかったしな」
それから立川は、自身のスキルを使いこなせるようになるためと、魔道具を作る部屋を借りたらしい。
国王は、便利な魔道具が量産されると思い二つ返事で許可を出したらしい。
俺が言うのもなんだが、正直バカすぎる。
反乱されるなんて考えなかったのかね?
それとも目の前の利益しか見てなかったからなのか。
まぁ、どっちにしろそんな事を、目の前のこの勇者にさせたのが運の尽きだ。
立川のユニークスキル、魔道具創造は、魔石と貴金属等を組み合わせて様々な魔道具を作り出す事ができとの事で、具体的に言うと、作りたい魔道具をイメージすると、原理を理解していれば、脳内にその魔道具の設計図が浮かぶらしい。
生産系限定で、この世界でGo⚪gleが使えるような物か。
他にも、魔石に魔法の術式を刻むことで、魔法剣等を作り出すことも可能との事。
確かに、とんでもないスキルだな。
俺が使ってる風のククリナイフ。これも一種の古代の魔道具のようだな。
後で立川に見せてみよう。
魔道具は作れる技術者が極端に少ない。
現在では、もはや失われたに等しい技術の1つで、ダンジョンや古代の遺跡等から、たまにその当時作られた魔道具が発掘されるって話だ。
一応ドワーフ族には、多少魔道具生成の心得が残っているらしいのだが、その技術は当然秘匿されており詳細もほぼ不明らしい。
なので、人間で新たに魔道具を作り出せる者となると、現在は立川だけだという。
そして、そんな貴重な物を作れる存在がいるのだ。当然その国王も食い付いた。
そして立川は、国王に与えられた研究室に普段は籠り、研究室には、邪魔になるからと護衛も絶対入れなかったらしい。
国王は当然渋い顔をしたが、立川がその気にならなければ、魔道具を生み出せないために、結局はそれを認めた。
そして、資料として与えられた様々な魔道書を読み解き、ある魔道具の存在を知る。
それは、自身の血を媒介に、その者そっくりのコピーを少しの間生み出す魔道具だった。
立川は、数ヶ月かけ、見事にそれを完成させる。
完成した魔道具を使い、影武者を生み出した立川は、隙を見て城を抜けだす。
そのまま城下町に行き、自分の眼でその国の現状を確かめたらしい。
この時に、既に召喚されて1年以上の歳月がたっていたという。
「ほぼ俺の予想通りだったよ。まず魔族に攻められてるどころか、思いっ切りこっちから戦争しかけようとしてやがった。しかも魔族と不干渉条約を1世代前に結んでるのを、一方的に破棄して俺にその先陣を切らせる気でいやがったんだ。軍隊の奴らが酒場で飲んだくれながら話してるのを聞いた時は、唖然としたぜ」
「うわぁ……。最悪だその国」
国の現状と、自分を召喚した本当の目的を知った立川は、すぐに行動を起こしたらしい。
更に新しい魔道具の研究をすると国王に伝え、材料として、上質な魔石や魔物の素材を大量に手に入れる。
それを日本で得た知識を元に、立川は近代兵器に近い性能を持った魔道具を独自に生み出し続け、着々と準備を進めたらしい。
そしてついにその時が来る。
ある冬の夜、立川は城の勇者召喚が行われる部屋に、魔道具を使って忍び込み、そこにある魔法陣を魔道式の時限爆弾で爆破したのだという。
「思いっ切り、テロじゃねーか……」
「くっくっく。あの時は傑作だった。派手に爆発するようにかなりの魔力を込めたからな。魔術で部屋に結果を張ってたみたいだが、あんなもの妨害術式が籠められた魔道具で一発よ。一際派手な音と爆発で城は大パニック。結果は当然、あの魔法陣を刻まれてた床ごと吹き飛ばしてやったぞ。ぶっちゃけ、こうでもしないと次の犠牲者が出るのは分かりきってたからな。しかもあいつら、俺達召喚者を平気で使い捨てにする気満々だったし。俺がもしあのまま戦争で死んだとしても、次の勇者をすぐに召喚する気だったんだろう」
城がパニックとなっている所に、更に大量の煙幕を出す複数のスモークグレネードを使ったという。
更に混乱が広がる城で、次にタチカワが向かったのが宝物庫だ。
その宝物庫には、ある物が保存してあった。
それは、発掘された異世界召喚の資料である。立川はそれら全てを、魔法により燃やし尽くしたらしい。
これにより、現在に残る異世界召喚系の知識は再現不可能となったと語っていた。
「いや。手慣れ過ぎでしょ……。あんた日本では何してたんだよ……」
「いやいや。別に犯罪なんかやってなかったからな? ただ昔からそういう系のゲームが好きだったからな。休日なんかは、そのゲーム内で友人達とチーム組んで、裏から侵入した後敵陣に爆弾仕掛けたりやってたからな。俺はその経験を応用しただけ。ぶっちゃけあの国、信じられないくらい警備はザルだったからな。俺でも簡単な破壊工作位できた。まぁ身体能力が日本に居た時より格段に上がってたってのもあるかな」
その国は、どうやらとんでもないテロリストを呼び込んでしまったようだな。
まぁ、話を聞く限り最悪な場所だったようだし同情はしないが。
そして宝物庫で魔法陣の資料を焼き払った立川の前に、突然1人の男が現れたという。
「そいつが俺の出会った魔王。魔王フリードだ」
「魔王フリード……」
◇◇◇
「派手な事してるね君。もしかして君が今回召喚された勇者かな?」
そう言って目の前に突然現れたその男は、やや幼さの残る顔立ちをした、青黒い肌の男だ。
髪の色は紫で、見た限り年齢は、20歳前半位。
明らかに人間じゃない。
文献や魔導書に記されていた、魔族と言われる種族だ。
それに、こいつの纏う雰囲気……。
只者でない。
「なんだお前? 今どこから現れた?」
「ちょっとした空間魔術だよ。ああ。僕はフリード。一応魔王をやってる者だよ」
「魔王っ!?」
「ああ。そう構えないでいいよ。お互い目的は同じだったみたいだし、僕自身別に君と戦いたいわけでも無いし」
「目的が同じ……?」
「そ。君があの魔法陣を爆破してくれたんでしょ? 随分派手にやったねー。そしてここにあった資料の破棄もしてくれたみたいだし。いやー見事な手際だね。家の家臣にも見習わせたいよ……」
「何が目的だ……」
「んー? しいて言えば無益な戦争を止めにかな? この国が家の国との条約を破棄して、こ攻めてこようとしてるのはとっくに把握してたんだ。これでも一応優秀な諜報機関があるんでね。別に攻めてこられても、この国の軍隊くらいなら返り討ちにするのは簡単なんだけど、こっちも暇じゃないんだよね? 僕は魔王になってまだ1年もたってないから、まだまだやらなきゃいけない事がたくさんあるし。人間の戦争ごっこに付き合ってる時間は無いの。そんな時間があれば、僕は未開地の開発に時間を使った方が何倍もマシと思うのよ。戦争なんてのは一部の者だけが得して後は損ばっかりする物だしね」
「未開地は強力な魔物の地域だって聞いたが……。そんな事可能なのか?」
「可能だね。というか僕は、実際にもう2つ程解放したよ? 今はそこに新しい街を作ったりしてる最中さ。第一、魔王だからって別に人間の領域を攻めなきゃいけない決まりはないんだし。なんか人間達は勝手に僕達を人類全ての敵だとか好き勝手言ってるらしいけど……。そんなの知るかって話さ。魔族にもそういう考えの奴がいない事も無いけど、今の時代でそんなの考えるのは、頭の固い老害達と一部過激な意見もってる奴達だけさ。僕は、そんなつまらない事する暇ない。なんで今回戦争仕掛けようとしてたこの国の王族の皆殺しと、古の技術である勇者召喚の魔法陣を破壊をしに来たんだけど……。君のお蔭でもう半分終わっちゃったね。後は無能なこの国の王族だけスパッと削除して、僕と手を組んだ人間に国を任せて帰るだけだ」
「……俺を見逃すのか?」
「見逃す? なんで? そもそも言った通り、僕には君と戦う理由なんか無いよ? 勇者と魔王が絶対戦うなんてのはかなり昔の話だし。戦ったからって何か得る者があるわけでもない。それに人間も魔族も種族の違いこそあれ、やってる事はそう変わらないのさ。一部の腐った貴族が、己の利益欲しさにお互いに手を出すから戦争が無くならない。迷惑極まりない話だよね? 大体そっちもある意味被害者でしょ。ある日いきなり一方的にこっちに連れてこられたんだから。そういう迷惑な行動を早く無くす為に、今回わざわざ僕が出向いてきたのさ。実際僕は人間側だけじゃなく、魔族の方だってちゃんと修正していってるよ? 最近は戦争肯定派の貴族連中もあらかた潰したし、後は人間で一番過激な事しようとしてるこの国を始末してしまえば見せしめにもなるし、当分は平和だろうね。それに、こんな国に、あの魔法陣があると、またいつ勇者を呼び出すかわかんないし。呼ばれた勇者をいちいち処理するのも面倒なんだよ。別に僕は、僕の不都合になる事をしなければ、勇者とも戦う必要ないからね。どうせ君だって、このまま魔族領を攻める気無いんでしょう? なら君は君の好きにすればいいよ。君たちの世界に比べるとこの世界の文明はレベルが低いかもしれないけど、この世界も回ってみると結構楽しいと思うよ?」
(こいつ本気で言ってるのか……? それにこの余裕な態度とは裏腹に考えられない位の魔力を感じる。一体どれだけの強さをしてる? ステータスは……何だこいつ……。ステータスが見れない!?)
「ん? あぁ。僕のステータスは見れないよ。妨害術式使ってるから」
「ステータス閲覧に対しての、妨害術式だと……?」
「まぁこれでも一応は魔王だからね? これ位やろうと思えばできる。あ。そうだ。どうせ君もこれから逃げるんでしょ? ならこれあげるよ」
そう言って魔王フリードは懐から何かを取り出すと、立川に投げ渡す。
「これは……?」
「僕が作った魔道具。変幻の指輪って言ってね。元々は魔物用に作ったんだけど人間でも一応使えるよ。高位の魔物が使う人化の術を僕なりにアレンジした物なんだけど、まぁぶっちゃけコレ結婚指輪なんだけどね。ははは。僕の妻の何人かは、強力な魔物もいてさ、信頼できる相手でもあるけど、人化の術を使えない子もいてさ。僕は平等主義者だからね。だから結婚指輪としてその術式をこめた魔道具を作ったんだよ。まぁ、デザインに拘りすぎて、失敗作がけっこう余っちゃってさー。性能自体は変わらないけど男としては、好きな相手には良い物を送りたいでしょ?クリスマスとか誕生日とかさー。常識じゃないか。まだ在庫もあったし1個くらいあげても問題ないしね。今回僕の仕事の半分を終わらせてくれたお礼とでも思ってよ」
「おい……まて。お前今クリスマスって言ったか……?」
「おっとっと。僕とした事が失言だったね。まぁそういう文化も僕は知ってるって事で」
「お前は一体なんなんだ……」
「だから魔王さ。ただの魔王。それ以上でもそれ以下でも無いよ?」
「まぁいい……。俺も時間が無いのは確かだ。この指輪が呪われてるとかのオチはないよな?」
「心配性だね。別にそんな面倒な手段使わなくても、僕がその気なら今ここで君を始末できるよ。しないのは、する必要がないから。それに呪いなんて面倒なだけで非効率的でしょ。殺すならその場で首でも飛ばせば、人間なんてすぐ死ぬんだからさ」
「わかった。……礼は言わないからな。魔王フリード」
「別にいいよ。こっちも在庫処分しただけだし、僕の一方的な感謝のしるしだと思えばいいさ。それじゃあね勇者様。君も精々楽しくこの世界を生きるといいさ」
◇◇◇
「そう言って、あの魔王は俺の前から一瞬で消えやがった。後に聞いた話じゃ、あの国の王族は皆殺しにされたらしい。表向きは、住民のクーデターによる政権交代って話で伝わってる。そしてその国は、今は別の人間が王となって治めてて、魔族との戦争なんて事にもなってない。たぶんあの魔王が言ってた協力者の人間だろうな」
「なんかもう、とんでもないスケールの化け物だな……。話を聞いてる限りだと」
「正直、俺じゃあいつには絶対勝てないと思った。あの魔王は明らかに異常だ。たが、俺が思い当たる転生者ってのがこの魔王だ」
「マジかよ……」
「ああ。可能性は高いと思うぞ。俺も今まで奴が実は召喚者じゃないかと思ってたが、姿が明らかに魔族だったからな。今まで伝承はあれど、本物の転生者なんて見たことなかったし、しかもそれに異世界からの転生も加わるとなれば天文学的なレベルの話だ。そんなお前が俺の前に現れなかったら、自分でもその考えを否定してたと思う」
「魔物への転生もあるんだから当然魔族への転生も可能性としては考えられると……?」
「そうだ。あくまでも俺の想像だがな。それから俺は、奴から受け取った変幻の指輪を使い国境を無事に超えたんだ。その後は、とりあえずこの世界を見て回ろうと思って冒険者になった。そのまま世界を気ままに旅しながら6年前に、仕事でナーシャに出会ってな。一目惚れしてそのまま結婚した。ナーシャが妊娠したら冒険者も引退してな。その時の拠点にしてたこの近くにある街ライムダールの領主に引退するならこの領内の開拓に協力してくれないかって頼まれてな。報酬もよかったし、俺には魔法も魔道具制作の技術もある。なのでこの森の開拓を引き受けたんだ。最初こそ不便だったが、今は開拓は順調だ。娘と嫁の3人で平和に暮らせてるんで特に不満も無いしな。まぁ長くなっちまったが、これが俺の過去から今までの話とその指輪についてだ」
立川の昔話を聞き終え、俺はしばし無言になった。
なにせ俺と同じ転生者の可能性がある人物が、まさかの魔王。
しかも目の前の勇者が、絶対に勝てないと断言するレベルの魔王なんて、とんでもないスケールの話だ。
幾ら、転生の手ががりが掴めるかもと言っても、俺は、可能ならそんな存在に出会いたくは無いと思わずにはいられなかった。
主人公の名前決めるのが一番時間かかった……。
次回は6/16の18時を予定しています。
そろそろ2章も終わりなので毎日更新もあと1、2回かと思います。




