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スケルトンの冒険者 異世界生活記 ~人化の術で冒険者やってます~  作者: 肉巻きおにぎり
2章 スケルトンと人間
18/60

17 勇者との対話

7/11 加筆修正

 吸血鬼ローガス。圧倒的力で俺達を追い詰めたその男を、少女の父親である勇者はその魔法により一撃で屠った。

 とんでもない強さだ。

 その勇者が、次に俺とマシロを仕留めようとするが、エミリアと呼ばれた女の子が、俺達の前で両手を広げると、必死に勇者に俺達の事を説明していた。



「助けた? このスケルトンがか?」


「う、うん。あの吸血鬼から私を守るために。あとこの蛇さんもだよ?」


「……。嘘をついてる目じゃないな」


「嘘じゃないもん!」


「魔物が人を助けるか。見た所、テイムモンスターってわけでも無さそうなんだがな……」


 そんなエミリアとのやり取りの後、勇者はゆっくり俺達の方に歩いてきた。


「シャア! シ、シャア!」


「そう怯えるな。心配しなくとも、お前のご主人様を殺したりなんなしねーよ」


「へ、蛇さんももう大丈夫だから。この人私のお父さんだから。ね?」


「シャー……」


 勇者の接近によりマシロが必死に威嚇をしているが、勇者はそんなマシロの様子を微笑ましそうに見ている。

 エミリアは必死にそんなマシロを宥めてくれていた。

 俺が本来はそうしないとけないんだが、すまん。

 もう手足が碌に動かないんだ。

 魔力を使い過ぎた。

 いつ意識を失ってもおかしくない状況だ。


 そんな俺の様子を見た勇者は、何かに気づいたようで。


「お前……。まさか動けないのか? ああ。MPがほぼ切れてるな。魔力を急激に使い過ぎた反動か。少し待ってろ。確かこの辺に……。あったあった。ほら」


 そう言うと、勇者は持っていた皮袋から青い薬が入った瓶を取り出し、その中身を俺に振り掛けた。

 いつだったか俺がマシロを助けた時に使ったポーションを思い出す。あの時使った物と色が違うが、これも回復薬の一種だろうか?


 そのポーションが俺の体に掛かると、途端に淡く発光し、体を襲っていた倦怠感が抜けていく。


 今のは……まさか魔力が補充されたのか?


 先程まで動かなかった手に意識を向けるとちゃんと動いてくれた。

 しばし、そのまま感覚を確かめるように手を握ったり開いたりしてみる。

 どうやら問題ないようだ。


「治ったみたいだな。そっちの蛇も治療してやる。傷的にポーション使うより回復魔法の方が速いそうだな。癒の光(ヒーリング)

 

 勇者の呪文に反応して、その掌からぼんやりと暖かな光が放たれる。

 それを浴びたマシロの傷が綺麗に塞がっていく。

 前に俺が使ったポーションより治る速度が速い。魔法ってのは本当に凄いな。

 

 俺はゆっくりと起き上がると、頭を下げて勇者に礼を伝えた。

 マシロもじっと勇者を見るが、おとなしくしている。


「はぁ……。俄かには信じがたいが、本当に意思があるんだな。そんなスケルトン聞いた事無いんだがな。そっちの小竜蛇もかなり賢いみたいだし」


 勇者はそんな俺達を興味深そうに眺めていた。

 だが、俺はこの勇者に確認したいことがあった。

 多分この男は、勇者として召喚された日本人だ。


 俺は言葉が話せる体ではない。だが同じ日本人なら筆談位可能だろう。

 そっとククリを握ると地面を削り、俺は文字を彫り出す。


 俺が、ククリを握った瞬間勇者の眼が一瞬冷たいものになったが、それが攻撃のためではないと分かると、興味深そうに眺めているだけだった。

 だが、地面描かれた文字を見た瞬間、勇者の表情が再び変わる。


(あなたは日本人か?)


「なに……。これは日本語か……? おいおい。まさかお前、日本人なのか?」


 勇者が半信半疑で俺を見てくるが、俺はまっすぐその瞳を受け止めて、頷き返した。


「お父さん。この文字読めるの?」


「あ、ああ。これは俺の故郷の文字だ。しかしマジかよ……。だが色々と納得はいった。なんでそんな姿をしてるのかは知らないが、まずは娘を助けようとしてくれた事感謝する」


 そう言い深々と俺に頭を下げてきた。


「ああ。その姿だと喋れないか。そのナイフで一々地面を掘ってても大変だろう。これを使え」


 そう言い男は更に皮袋から木炭と紙を数枚俺に差し出してきた。


「あー。そうだな。先ずお前は、そんな姿になる前の事を、何か覚えているのか?」


 勇者は俺の前に胡坐をかいて座ると、俺に質問してきた。


 自分の事か……。

 

 おぼろげな自分の記憶を辿ってみる。

 元が日本人なのはわかる。

 年齢は27歳。

 家族は両親と祖母がいた。あとは独身だったな。

 仕事は、しがない会社員。

 正直どこにでもいるような、普通の人間だと思う。

 名前は……。


 あれ……。

 俺の名前……なんだっけ?


 前世の記憶を必死に思い出していたが、そこで初めて、俺は自分の前世の名前や顔が思い出せない事に気が付いた。

 他の事はある程度覚えてるのに、俺自身の事が思い出せない。

 まるで、記憶の一部が削り取られているみたいだ……。


 俺は筆談で、自分の状況を勇者に伝えた。


(俺が日本人なのは覚えている。ただ自分の顔や名前がわからない)


「そうか……。一つ聞きたい。重要な事だ。お前は今まで人間を襲った事があるか? もしくは人間を見て怒りや恨み、羨望なんてものでもいい。そういったものを感じたことはあるか?」


 勇者は俺の答えを見ると、真剣な表情で俺を見つめてくる。


 思い当たる事は、エミリアがいた村を見つけた時だ。あの時に俺が感じたあの暗い感情。

 勇者が聞きたいのは恐らく、これの事だろう。

 一瞬、それをこの勇者に知れるのは不味いのではと思ったが、俺を見つめる勇者のその眼に、強い力を感じて、結局は正直に答えた。


(人を襲った事は無いが、そういった感情を感じた事は一度だけある。あんた達が住んで村を遠くから見た時だ。そこに暮らす村人達の姿を見ていたら、今まで感じた事が無い感情が俺を襲った。暗く、他者を羨むような、そんな感情だった。ただ今は、そんな感情はもう無い)


 その答えを見ると、勇者はふっと安心したような顔をして俺に語りかける。


「そうか……。よく耐えたな。と言うことは完全に飲まれてはいないな。むしろそれ以上にその意思の強さに驚いたよ。名前や姿が思い出せないのは、魂の一部が剥がれてしまってるからだと思う。前世の記憶なんてものは脳が記憶したものでは無い。その情報も、それより前の情報だって全て、魂に蓄積されているんだ。 だがお前さんはそれの一部が剥がれて無くなってる。だから思い出せない」


 魂の一部が剥がれる……?

 それに飲まれるとはなんだろうか?


(どういう事だ?)


 疑問に感じて質問してみると、勇者はその質問の意味を理解してくれたようで答えてくれた。


「ああ。もう少し分かりやすく言うとな。まず、一応こっちの世界でも、伝説として転生の魔術は一部に知られてるんだ。ただこれはもう滅んでしまった術式の1つらしい。随分前だが、ネクロマンサー系統の術式を書いた本で見た気がするな確か……。なので、お前の話を信じるなら、その状態は恐らく転生で間違いない。しかし魔物に転生か。そんな事が可能なのか……? だが実際にお前がいるしな……」


(転生魔術が存在したなら、俺の様に魔物でなくても人間としての転生者はいるんじゃないか?)

 

「いや。すでにこの技術は失われて2000年近く経つ。なので俺が知る限り、転生者なんてのは……。いや待て。1人だけ可能性のある奴を知ってる……。だが、あいつは魔物ではなかったな。まぁ、あいつの事は後でいい。話せば長くなるだろうし。それよりも今はお前さんについてだ。確かに魂は体から離れて、時間が経つとその一部がどんどん剥がれてしまう。だが、それは1年2年でって話じゃないらしい。つまり、何らかの原因で、今のその体に定着するまで、お前さんの魂は長い時間、この世界を彷徨ってたんだろうな。だから魂が薄れて、前世の記憶の一部が少しずつ剥がれてしまったんだと思う。自分の名前や姿が分からないのはその症状だろうな」


(あの俺を襲った、強い感情はなんだったんだ?)


「それは今のお前がスケルトン。つまりアンデッドだからだ。本来アンデッド達は、自分に無い物。命ある物を憎み、恨み、羨む存在だ。だから命ある物の魂を求めて彷徨い襲う。特に自分に近しい存在にもっともそういう物が出るらしい。お前の魂が、その体に飲まれてその意志に引き込まれそうになったのが原因だろう。たぶん村に辿りつくまで、お前は幸せそうに暮らす人間を見たことがなかったんじゃないか?」


 そう言われると、確かにそうだ。

 一応ゴブリンの里を討伐に来ていた冒険者集団はみた事があるが、あの時は戦闘に巻き込まれないように急いで逃げたからな。

 それにあれは、戦ってはいたが幸せそうな人間だったかと聞かれると、実際疑問に思う。


(もし、あのまま、あの感情に飲まれていたら、俺は俺でなくなったって事なのか?)


「多分な。そうなったら俺は、お前を殺さないといけなかったはずだ」


 勇者は俺の質問に、正直に答えてくれた。

 俺がマシロと出会っていなかったら、もしかしたらあのまま俺は本当の意味での魔物に成り下がってしまっていたかもしれないって事か。

 だが、いつまたあの感情が出るかもわからないのも事実だ。

 今後俺は自分が自分で無くなるかもしれない恐怖に耐えられるのだろうか?

 

 やはり、俺は人の世界に行くべきではない。

 俺は自分がどうあれ、やはり人間ではないのだ。

 このままいつ崩壊するかもしれない自分の精神を抱えて人里近くにいるくらいならば、マシロと二人で人の来る事のない秘境にでも籠ったほうがいいだろう。


(今は無くても、俺はいつまた人にあんな感情を抱くかわからない。俺達はこのまま、どこかの秘境にでも籠る事にする。だから頼む。この場は見逃してくれ)


 俺は自分の出した答えを勇者に伝え、この場を去ろうと立ち上がる。


「まてまて。そう悲観的になるな。別に対策が無いわけじゃないんだよ!」


 だが、勇者は慌てたように俺を掴むと、再び座る様に促してくる。


(対策? 本当にそんな方法が存在するのか?)


「ああ。そういう魔物特有な事ならぴったりな物を知ってる。ちょいとばかし特殊な方法とある魔道具がいるんだが、それは幸い俺の家にある。今から取ってきてやるから少し待ってろ」


 それだけ言うと、勇者は村の方向へ駈け出そうとしていた。

 だが、ある事が俺をふと気になり、勇者を引き留める。


(今からか? あの村まで結構遠いがあんたの娘は平気か?)


 そう。勇者は自分の娘を置いて村へ走ろうとしていた。

 いくらに俺が元日本人だとしても、流石にそれは危険ではないのかと。


「ああ。お前が何を考えてるのかはわかる。だが今はその感情が無いんだろ? 話を聞く限りお前の意志は自分が思うよりもずっと強いぞ? 普通アンデットが生者への羨望を抑え込むなんて出来ないからな。そんな事が出来たら、今頃一部のアンデットは亜人認定されてるよ。それに俺には、肉体強化と魔戦法のスキルがある。これを使って身体能力上げて、村まで全速力で走れば5分もせずに戻ってこれる。かなりの速度が出せるが、流石に娘を抱えたままじゃ危険だからな。なので、すまんがここで少しの間エミリアを守ってやっててくれ。すぐ戻るからよ」


 そう言うと、勇者は体にオーラのような物を纏い、凄い速さで木々の中へと消えていった。

 試に生命探知を最大範囲で発動してみたが、凄まじい速度で30秒もせずに範囲外に行ってしまった。

 とても人間が出せる速度とは思えない。

 とことん常識外れな人だ。


「あ、あの。骸骨さん!」


 俺が勇者の速度に内心で飽きれていると、エミリアが俺に話しかけてきた。


「さっきは本当にありがとうございました。蛇さんもありがとう。私を守ろうとしてくれて」


「シャー……」


 ぺこりと俺に頭を下げてお礼を言うと、マシロの頭を優しく撫でている。

 マシロも特に抵抗せず大人しく撫でられていた。

 マシロは一応毒蛇だが大丈夫なのかと心配したが、そこは賢いマシロだ。

 少女を噛まないように口をしっかり閉じて、おとなしく頭を差し出していた。


「えへへ。蛇さんすべすべしてるね」


 エミリアもそんなマシロの態度が嬉しいのか、マシロを撫でてご満悦な表情をしていた。

 しばし、そんな少女とマシロの様子を見守っていると、勇者が行きと同じ凄まじい速度で帰ってきた。


「おうすまん。待たせたな」


 そう言うとその手には何かが握られていた。


「そら。こいつがお前さんの抱えてる悩みを解決してくれる物だ」


 そうしてその手に持っていたものを俺に差し出してきた。

 これは……。指輪だろうか?

 銀細工のリングに黒い宝石が嵌っている。だがその宝石の中には小さな魔法陣の様な物が複雑に重なり合って彫られているのが分かった。

 俺が使っている魔法のククリとは比べ物にならないくらい高度な魔法が掛かっているみたいだ。


「これについての詳しい説明は、使ってから話す。まずはこの指輪を填めて、そこに魔力を通すのをイメージしてみてくれ」


 俺が使うエンチャントみたいなものだろうか?

 言われた通りに、俺は指輪を右手の人差し指に填めると魔力を通してみる。


 すると指輪に込められた黒い宝石が淡い光で輝きだす。

 彫られている幾多の魔法陣も徐々に輝き出して、俺の魔力を凄まじい勢いで吸い取っていくのがわかる。


 瞬間、進化の時に似た体が作り変えられるような感覚に襲われた。

 しかしそれも一瞬、宝石の輝きが収まるとその感覚も消えている。

 だが、俺はその指輪を填めた手を見て驚きを隠せない。


 そこには骨だけの指ではなく、ちゃんとした皮膚がついていたからだ。


「おお。一発で成功か。なんだ。結構いい面してんだなお前」


 そんな俺の様子を勇者は笑いながら見ていた。


「こ、これは?」


 更に俺は、無意識に自分の喉から出た声に更に驚いた。

 声が……出た。


「こいつは変幻の指輪って言ってな。まぁ、簡単に言うと、ある魔王が作った魔道具だよ」


 そして勇者は笑いながらこの指輪の正体を教えてくれた。

次回は6/14の18時を予定してます。

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