16 紅い瞳の男 後編
7/11 加筆修正。タチカワさんのステータスとスキルを一部変更。
暗い森の中で俺は吸血鬼ローガス・ヴァーミリアンと対峙して、なんとか隙を突けないかと窺う。
対するローガスは、マシロを軽くあしらった後に俺へと剣を向ける。
その紅い瞳は、狂気に満ち、爛々と輝いている。
「いくら希少種とはいえ、リトル・ドラペント程度では私の相手にならん。私が興味があるのはスケルトン。貴様の方だ。さぁ、早くこの私に、貴様の力を見せてみろ。ああ。逃げようなどと、つまらない事は思わないでくれよ? どうせ貴様達は、あの娘を助けに来たのだろう? 見ていれば分かるさ。なぜ貴様がそんな事をするのかは知らんが、そんな事は今はどうでもいい。もし、貴様が逃げた場合は、あの白蛇を殺して、その後は小娘の手足を切り取って血を啜る事にしようか。だが安心しろ。別に殺しはしないさ。あの娘は使い道が他にあるのでな。それでも良いのなら、好きに逃げるがいいさ。私も忙しいので無理に追ったりはしないぞ?」
こうすることで、俺が逃げ無い事を、ローガスは確信してるのだろうか。
どっちにしろマシロを見捨てるつもりは無い。あの女の子もだ。
つまり、ここは戦うしかない
俺が改めてククリを構えると、ローガスはまるで俺を試すように、その剣で素早く刺突を放ってきた。
速い。だが反応できない速度ではない!
咄嗟にククリでその刃を横にして、受け止めることに成功する。
だが、予想よりも重い一撃に、ククリごと俺の体が奴に吹き飛ばされてしまった。
俺は、そのまま背後の大木へと背中から叩きつけられ、地面へ落ちる。
くそっ。なんて馬鹿力してやがる……!
「が、骸骨さんっ!」
「シャア!」
マシロと少女が俺の身を案じて叫ぶが、今はそれに構ってやれない。
今の一撃、恐らく剣術だけじゃない。
こいつの持ってるスキルの筋肉増強と身体能力強化のブーストも掛かってると見た方が良い。
あんな威力の一撃を毎回放てるとしたら、打ち合いじゃまるで歯が立たないか!
「くはははっ! そらそらっ! 休んでいる暇は無いぞ? お前の力はその程度か? んん?」
ローガスは倒れた俺を弄ぶように、ゆっくりと近付き、手にした剣を振り下ろしてきた。
急ぎ、飛び起きる事で振り下ろされた刃を回避するが、俺が今まで倒れていた地面が奴の剣の一撃により弾け飛び、小さなクレーターか出来上がる。
ローガスは、俺が回避するのを予想してたのか、そこから更に流れるように連続で斬撃を放ってきた。
まともに受け止めれば、また吹き飛ばされてしまう。
俺は回避と、受け流す事にのみ集中して、ローガスの攻撃を凌ぐ。
金属同士が擦れる甲高い音が、何度も夜の森に木霊する。
ローガスの放つ、重い斬撃を、短剣術を頼りにひたすら弾き、受け流す。
今はなんとか防げているが、こいつはまだまだ余力を残しているのが分かる。
このまま続けても、俺の方が先に限界が訪れるのは確実たろう。
ならば、一か八か。
ここは一気に勝負にでるしかない。
幸いローガスは、俺の切り札を知らない。
やるなら一瞬だ。
俺は攻撃のチャンスを窺い、ローガスの攻撃を防ぎ続ける。
そして、ついにその時が来る。
ローガスが、剣を垂直に降ろして来たのに合わせ、俺は体を左に僅かにずらす最低限の動きだけで、それを回避する。
奴の剣により、俺の着てるローブが切り裂かれるが、体が無事なら今は問題ない。
――今だっ!
俺は、ククリに魔力を注ぎエンチャントを発動する。
魔力を吸い上げ、ククリに填められた魔石が輝きだし、夜闇を淡く照らす。
俺は自分の出せる最大速度で、そのままローガスに肉薄すると、風の力を纏った刃を、奴の右腕へと叩きつけた。
鮮血が舞い、ローガスの腕が半ばから断ち切られ、握っていた剣ごと地面へと落ちる。
いける!
やはりエンチャントの力は凄い。
MPを馬鹿みたいに食うのが欠点だが、これだけのレベル差を埋める程の強さを持っている。
後は、効果が切れる前に一気に押し切る!
そのままローガスに止めを刺そうと俺は刃を振りかぶる。
だが、突然、ざわりとした言いようのない物を感じ、無意識的に左に転がる。
すると先程まで俺が立ってた場所に、地面から黒い棘のようなものが飛び出してきた。
もし、そのまま突っ込んでいたら俺はあの棘に串刺しになっていたという事か……。
「ほぉ? 素晴らしい。よくぞ躱したな。しかも貴様。まさかエンチャントまで使えるとはな! ますます壊すのが惜しい存在だな」
ローガスは俺の行動を見てますます興味深そうにその紅い瞳を歪め不気味に笑う。
なんだ今の攻撃は!? 一瞬その未知の攻撃に驚くが、すぐにある事を思い出す。
確かステータスを見た時に、ローガスのスキルには闇魔法があったはず。
あの黒い棘は、こいつの発動させた魔法か。
ようやく見つけた攻撃のチャンスが、今の魔法で無駄になってしまった。
しかも、ローガスの切られた腕から白い煙の様な物が立ち上がってのが目に入る。
よく見ると、既に傷口は塞がっており、切り飛ばされた腕の再生がゆっくりと始まっていた。
あれは……?
肉体再生のスキルか!
まだ完全に再生しきってはいないが、俺は今のエンチャントの一撃で魔力の大半を失ってしまっている。
再生が終わっていない今決めきらないと、正気は永遠に訪れない。
俺は焦り、残り少ない魔力で、先ほどの回避時に解除されてしまったエンチャントを再び発動させる。
そのま真っ直ぐにローガスに突撃をかける。
だがローガスは笑いながら俺に近づき、左腕を伸ばすとククリの刃が貫通するのも構わず受け止める。
折角のチャンスにもかかわらず、魔力枯渇の影響か、力が思った以上に入らず、奴の腕を切り落とすことは出来なかった。
ローガスはそのまま肉体再生を活かしても、強引にククリごと俺の右手を握りしめてくる。
凄まじい怪力に、腕を引き戻すことが出来ず、俺は奴に捕らえられてしまった。
くそっ! なんて出鱈目な強さしてんだよ!
「くくくっ。流石に驚かれたよ。まさかこんな戦い方をするスケルトンが生まれているとは。だが、もう魔力の残りが少ないようだな? 名残惜しいが、夜明けも近いのでな。遊びはやめて、そろそろ決めてしまうとしようか」
そう言うとローガスの周りに黒い影の様なものが集まり出し、空中に巨大な黒い大鎌を形作った。
恐らく、これも奴が使う闇魔法の1つだ。
それも、さっきの棘より明らかに籠められてる魔力が多いのが分かる。
「なかなか楽しかったぞ! 名も知らぬスケルトンよ。お前の存在はこの私、ローガスが覚えておいてやろう。我が魔術の手に掛かって逝ける事を光栄に思い消えろっ!」
ローガスは、俺に止めを刺そうと、その大鎌の刃を俺に振り下ろそうとしている。
これは……ダメだ……躱せない……。
ここまで……か。
「シャア! シャァァァ!」
「蛇さんっ! だめっ!」
ふと視界の端に、マシロがこっちに飛び出そうとして、女の子がそれを必死に止めている姿が見えた。
俺がこのまま負ければ、あの二人もこいつの餌食になってしまうのだろうか?
奴は女の子には、何か目的があるみたいな事を言っていたが、マシロは違う。珍しい魔物ではあるが、抵抗するならこの吸血鬼は、躊躇わずにマシロを殺すだろう。
マシロ……。
俺がこんな事につき合せてしまったがために……。すまないっ!
だが、俺にはもう、どうする事も出来ない。切り札であるエンチャントも使い切り、魔力枯渇により体も満足に動かせない。
完全に積みだ。
そして、ローガスの放った大鎌の刃が、まさに俺の首を切り落とそうと迫ったその時。
「なにっ!?」
突如森の奥から飛来した光の矢が、その大鎌の刃に突き刺ささると、激しい爆発を起こし大鎌ごと消滅した。
俺は、その爆風にマシロと女の子の近くへと吹き飛ばされてしまった。
「フシャー!」
「きゃっ!? が、骸骨さん!?」
朦朧とする意識の外で、マシロと女の子の心配する声が聞こえる。
よかった……。
ぶつかったりは、していないみたいだ。
だが、今の攻撃は一体……?
「何者だ……?」
そんなローガスの怒りを含んだ声に答えたのは、若い男の声だった。
なんとか意識を保ち、声のした方へ視線を向ける。
そこには1人の男が立っていた。
姿を見る限り、魔術師なのだろう。
丈の長い青のローブを身に纏い、その手にはクリスタルで出来た長杖を装備している。
特徴は少女と同じく、黒い髪に黒い瞳。
そしてどこか、見覚えのある顔付きをした男だった。
「やっと見つけたぞエミリア! 危ないから1人で出かけるんじゃないって言っただろ!」
「お、お父さんっ!」
その男を見た瞬間、女の子がそう叫ぶ。
なんと、この男はこの女の子の父親らしい。
「そして、お前……吸血鬼か。なんで魔族のお前がこの国にいる? それに俺の留守中にエミリアを誘拐させるなんて、随分タイミングがいいじゃねーか?」
「ば、馬鹿な!? 貴様がなぜここにっ!? 今貴様はあの村にはいないはず! どうやってここを突き止めた!」
少女の父親の姿を見たローガスは、露骨に狼狽えている。
俺と戦っていた時は、あんなに余裕を醸していたのに、今ではそれが見受けられない。
するとこの男は、それほどの強さということか?
「なに。愛する家族の為に、仕事をさっさと片付けて家に帰ってきんだけだよ。そしたら妻が娘がいなくなったって慌ててな。ついでに村の近くにも娘の使うバケットが落ちてた。魔法を使った形跡もあったから、状況から見て、多分俺が欲しがってたアルマの花を勝手に取りに行って、その帰りに誘拐されたんだろうって思ったんだよ。こんな事もあろうかと、娘には俺が作った追跡用の魔道具を常に身につけさせてるんだ。それを発動させて反応を辿ってきたんだが……。流石に俺も、魔族が黒幕だとは思ってなかったけどな」
「お、おのれっ! どこまでも使えない人間共だっ! だ、だが私をここで討ったとしても無駄だぞ? 私が帰らぬ場合は、あの方達が黙っていない!」
「知るかよ。俺は魔族と人間の争いなんて興味は無い。お前こそ人の娘相手に随分な事をしてくれたんだ。逃げられると思うな。大方、俺を利用するために、娘を人質にするつもりだったとかだろうが。だが、お前みたいな吸血鬼が人間を使ってまで実行するにしては、今回の誘拐は不可解だ。そもそも、俺が留守にしてる時期を魔族であるお前が知ってるのがおかしい。もっと上に糸を引いてるのがいるだろ。今ならお前を嗾けた奴の名前を言えば半殺しで許してやるが……。どうする?」
「ほ、ほざけ人間風情がぁぁ!!」
その男の回答に逆上したローガスは、剣を構えて凄まじい速度で男へ切りかかるも、
「それが答えか? なら惨たらしく死ね。薄汚い吸血鬼が。聖炎槍」
その男は、ローガスへ冷たくそう言い放つと、頭上に一瞬で光の槍を形作り、無造作にそれを放った。
放たれた光の槍は、凄まじい速度でローガスの体を貫くと、その光の槍が突如蒼い炎を纏い、ローガスの体をその内側から焼いていく。
「ぐっ!? う、うぉぉぉぉぉぉおおお!?」
瞬時に蒼い炎に全身を包まれたローガスは、その声を最後に灰となって消滅した。
【経験値を316獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが14に上りました】
脳内に響く声により、ローガスが死んだことを悟る。
それはまさに、一瞬の出来事だった。
あれ程俺が苦戦したローガスをこの男は、たった一発の魔法で倒してしまったというのか……。
最早、俺やマシロと強さの次元が違う。
ローガスを一瞬で屠ったその男は、ゆっくりと俺たちに視線を向ける。
「さて。次はお前達だが……」
「お、お父さん待って!」
「ん? なんだエミリア。今片付けるから少し待ってなさい。あと勝手に出かけたお仕置きは、家に帰ったらだ!」
「うっ……! ご、ごめんなさい……。あっ。ち、違うの違うのっ! そうじゃなくって、この蛇さんと骸骨さんは、私を助けるためにあの吸血鬼と戦ってくれたのっ!」
「はぁ……?」
女の子は、父親であるこの男へ必死に説明をして、俺とマシロを庇ってくれている。
圧倒的な強さをもつこの男。
だが俺は、その強さより、この男の顔を見てずっと疑問に思っていることがあった。
それを確認するため、朦朧とする意識を必死に保ち、男に対しステータス閲覧を発動。
そのステータスを見て、俺の中での疑問が確信に変わった。
[名前] タチカワ・ユウイチ
[種族] 人間 (勇者)
[状態] 通常
[Lv] 55/120
[HP] 680/680
[MP] 840/900
[攻撃] 350
[防御] 321
[魔法攻撃] 485
[魔法防御] 466
[素早さ] 343
[所持スキル]
炎魔法Lv4 水魔法Lv3 土魔法Lv4
風魔法Lv4 光魔法Lv6 杖術Lv5 体術Lv5
魔力探知Lv4 魔力操作Lv4 NP自動回復Lv3
魔闘法 身体能力強化 ステータス閲覧
[ユニークスキル]
魔道具創造 召喚者
思った通りか。
この名前……この男やはり日本人だ。
そして、勇者。
それがこの男の正体だった。
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