15 紅い瞳の男 前編
7/11 加筆修正。
攫われた少女を助ける為、人さり胃の男達を追跡して、俺とマシロは夜の森を全力で走っていた。
しかし、あの男達は一体何者だ?
どうもただの盗賊って感じではなかった。
異世界だしなー。
人攫い……。もしくは奴隷商人とかだろうかね。
どっちにしろこのまま放っておくとあの女の子が大変な事になってしまうのは間違い無いだろう。
俺は更に速度を上げて、男達を追う。
すると、この先で4人の反応が止まった。
突然、何もなかった場所』から、1つの反応が追加された。
馬鹿な……。
この反応はどこから現れた物だ?
見落としは無かったはずだ……。
突然、この反応は湧いたとでも言うのか?
俺は注意深く生命探知を発動していたが、突然現れたこの反応に得体のしれないものを感じた。
……。
どっちにしろあの女の子を助けるには進まないと行けない。
無理に戦う必要はないんだ。なんとか女の子を確保したら、全速力で森を抜けよう。
俺は忍び足を使い、ゆっくりとその場所へ向かった。
「無事に指定した娘を連れてこれたようだな」
「あ、ああ。あんたか。この通り生きて連れてきた」
「しかし、このガキが魔法を使えるなんて聞いて無かったぞっ!」
「そのせいで俺は死にかけんだ。当然報酬は上げてくれんだろうな? おいっ?」
そこは、少し木々が開け、ちょっとした広場になった場所だった。
その中心で人攫いの男3人と話しているのは、黒いマントを装備した1人の男だ。
さっき突然現れた反応は、このマント男か?
一体何者だ?
「くくっ。そう怒るな。結果としてお前は生きているだろう? それに魔法が使えるといっても相手はまだ子供だ。魔力の量が多少多かろう、数発も撃てば魔力枯渇で動けなくなる。だから私は特に危険とは思わなかったのだが、その程度で依頼主に文句を言うとは……。これは頼む相手を間違えたか?」
「てめぇ! 言わせておけばっ!」
「ま、まて!」
「アニキ! このまま舐められていいんですか!?」
「……。こいつは俺達の敵う相手じゃねぇんだよ……。いいから大人しくしてろ!」
「「へ、へいっ!」」
話を聞く限り、どうやらあの男が依頼者のようで、あの女の子を攫う為にこの男達を雇ったようだ。
男が情報を意図的に与えてなかったため、魔法を受けた男が文句を言っていたようだが、それをリーダーの男が黙らせている。
その表情は、どこか脅えを含んでいてこの男を恐れているようにも見える。
あの子を攫ったのは一体なんの目的が?
それに、男達のリーダーが脅えているのも気になる。
俺もあのマント男を見た時、何か嫌な予感がした。
改めて、問題のその人物を凝視する。
見た目は、背の高い長身で黒いマントを装備している。
腰には1本の直剣を差し、短く刈り上げた銀髪で整った顔立ちをしている。
だがその肌はどこか生命を感じさせない青白さをしており、更に特徴的なのはその紅い瞳だ。
まるでマシロの様に、その眼は血の様に紅い。
なにより、その纏う雰囲気がただひたすらに不気味だ。
何だ? 明らかにこいつだけ雰囲気が違う。
いや。むしろ人間とどこか違うのか?
あのマント男……一体何者だ。
俺はその男の不気味さが気になり、ステータス閲覧を発動する。
[名前] ローガス・ヴァーミリアン
[種族] ヴァンパイア
[状態] 通常
[Lv] 25/80
[HP] 285/285
[MP] 350/350
[攻撃] 145
[防御] 115
[魔法攻撃] 178
[魔法防御] 166
[素早さ] 170
[所持スキル]
吸血Lv4 夜目 剣術Lv4 闇魔法Lv4
身体能力強化 筋肉増強Lv3 眷属生成
肉体再生Lv2 危機回避
そういう事か……。
通りで不気味な雰囲気をしているわけだ。
吸血鬼。ヴァンパイアか……。
ある意味、今の俺が目指していた存在か。
しかしランクの項目が無いな。
もしかして、この世界のは吸血鬼は、魔物ではないのか?
いや。今はそんな事どうでもいい。
問題なのは、この吸血鬼のステータスだ。
こいつ、かなり強い。
スキルも全て強力そうな物ばかりだし魔法も扱えるようだ。
「くくっ。何にしてもご苦労だったな。これで私達の目的は、ほぼ達成された」
「へへ。そいつは何よりでさぁ……。じゃあ早速、約束の報酬をお願いしやす……。金貨500枚って話でしたよね?」
ローガスが気絶している少女の頬を撫でて、不気味に笑うと、人攫いの男のリーダーは揉み手で報酬の話をしようと近づく。
「ああ。報酬か?そうだったな。ほら」
「……えっ?」
しかし、ローガスは、最速の動きで腰に刺した剣を引き抜くと、その男を一刀のもとに切り伏せた。
切り付けられた男の方は、驚きに目を見開いた表情で最後を迎える。
「ひっ!? ア、アニキッ!?」
「畜生っ! だ、騙しやがったな!?」
仲間を一瞬で殺された事により、残りの二人は瞬時に武器を構えて吸血鬼を取り囲む。
対して吸血鬼は特に慌てる事もなく、むしろ余裕そうな表情で男たちに嘲笑を返した。
「何を言うかと思えば。騙しただと? 騙される方が悪いのだよ。大体我ら魔族が、なぜ愚劣な人間なんぞに報酬を払ってやらなければいけないのだね? お前達は、ただ黙って私の為に働けばそれでいいのだよ。用が済んだらその薄汚い命を私自らが刈り取ってやるのだ。むしろ光栄に思いたまえ」
ローガスは男達に嘲笑しながら、再び持っている剣で切りかかる。
「ぐあぁぁぁ!」
「ひ、ひぃぃぃ!? た、助け……ぎゃぁぁぁ!?」
男達も何とか抵抗しようとするも、一人がその武器ごと男に断ち切られ、もう一人は命乞いをするもそのまま胸を差したら抜かれて息絶えた。
「んっ……あれ……。私……?」
「おや? お目覚めかね? お嬢さん。早速で悪いが、少し私に付き合ってもらってもいいかな」
「ひっ!」
男達を殺したその吸血鬼は、血に濡れた剣を突きつけ、目を覚ました少女に静かに語りかけている。
背筋がぞっとするような冷たい声だ。
少女が恐怖により震えているが、ローガスは特に気にした風でもなく、そのまま少女の腕を掴もうとして……。
――その動きを止めた。
「ふむ。他に人間の匂いはしないと思ったんたが、随分な珍客がいるみたいだな? あの馬鹿どもは追跡者の存在も分からなかったのか。小娘。お前の知り合いかね?」
「えっ……?」
「まったく。本当に使えない者達だな。与えられた仕事も満足に出来ないとは……。人間とはつくづく使えない生き物だと思わんかね?」
そう言うとローガスはこちらに、まっすぐその紅い瞳を向けている。
忍び足があるから音はしないはずだと思ったが、流石に吸血鬼相手では、隠せなかったようだな。
ならこのまま隠れてても仕方ないか……。
俺は奇襲を諦めて、大人しく木陰から姿を現した。
「えっ? が、骸骨の……魔物……?」
「ほぉ? 妙な気配だと思ったが……。スケルトンだったのか……。だがそれだけにしては、聊か纏っている雰囲気が通常のそれとは違うな。ネクロマンサーの気配も近くに感じないが、まさか野生のアンデットか?」
女の子は俺の姿を見ると目を丸くし、逆に吸血鬼は、俺に興味深そうな視線を向けている。
この吸血鬼。
一見、今も隙だらけに見えるがさっきの男達を一瞬で倒した程の腕だ。
ステータスを見ても能力は俺よりも高い。
今この男に、正面から切りかかっても、逆に返り討ちなるか……。
どうにか隙を突いて、あの子を助け出さなければ。
「くくっ。やはり貴様。人工的に作られたアンデットではないな? しかも信じがたい事だが、相当に強い自我を持っているようだ。そのようなアンデット作ろうと思っても作れる物では無い。ふむ……。貴様。よければ私と共に来る気はないかな?」
そう言うと、ローガスは手にした剣を鞘に収めると、更に俺に語り出した。
「これでも私は魔族の中でも、ある伯爵様からの信頼が厚い存在でね。私から伯爵様に紹介してやってもよいぞ? 意志を持つアンデットなど相当に貴重だ。私が知る限り、リッチクラスでもなかなかないのでな。きっと伯爵様も気に入っていただける。好待遇は保証するぞ? 私と共に人間達を蹂躙し、この世界を魔族の理想郷へと変えようではないか?」
不気味に笑うと、俺にその手を差し出してくる。
魔族……。やっぱりいるんだなこの世界。
そうすると、この吸血鬼は魔物ではなく魔族になるのか。
魔物と魔族の違いは正直よくわからないが、こんな子供を利用しようする奴と手を組むなんてのは、例え死んでも御免だ。
答えはとうに決まっている。
俺はローガスから差し出された手を、払い退けた。
「ふむ。それがお前の答えなのだな? 残念だ。ああ残念だ。なかなかに珍しい存在なのだがな……。しかし、私の邪魔をするというのなら仕方ない。私はお前を滅ぼすとしよう」
ローガスは俺の答えに、少し驚いたような表情をしたが、すぐにその瞳に冷酷な物が宿り、顔を歪ませ再び剣を引き抜いた。
俺もククリを構え、吸血鬼へと駆けだす。
出し惜しみ無しだ。
こいつが油断している今が、最大のチャンスだ。
ローガスは俺の出方を伺うように、剣を構えてじっと立ち止まっている。
だがな。相手は俺だけじゃないんだぜ。
「シャアッ!」
突然マシロが俺の体から、ブレスを吐きながら吸血鬼目掛け飛び出した。
続けて俺もそれを追うように、ククリの刃を振りかぶり、吸血鬼へと切りかかった。
マシロと俺の連携攻撃だ。
「ほう。まさか種族が違う魔物同士が、手を組んでいるとは」
しかし、ローガスは飛び掛かかるマシロを左手で無造作に掴み、幹での剣で俺の攻撃を受け止めてみせた。
「ほう? こいつはリトル・ドラベントか。しかもこいつは色が違うな? 希少種か? スケルトンと小竜蛇の希少種とは……随分とまぁ、珍妙な組み合わせじゃないか。ますます興味深いが、この蛇では私の相手をするには力不足だな」
しばし興味深そうにマシロ眺めていたが、そのまま少女の近くの地面へと叩きつけた。
「ジャアッ!」
土煙を上げて、地面に叩きつけられたマシロは、小さく悲鳴を上げて女の子の近くに倒れ込む。
マシロっ!
「シ、シャアァァ……!」
マシロはなんとか起き上がったが、ダメージが大きいのか苦しそうに呻いている。
進化したとはいえマシロのLvはまだ1だ。この吸血鬼相手だと能力が違いすぎる。
やはり、ここは俺1人でなんとかするしかないようだ。
俺だってこの吸血鬼に比べたらLvは低い。
だが、俺の方がマシロより頑丈だし素早く動ける。
別に倒せなくてもいい。
なんとか隙を突いて、あの女の子とマシロを助け出さないと……。
俺は起き上がったマシロに、目で合図を送ると、俺の意志を理解したのか、今度は女の子を守る様に鎌首を上げて吸血鬼を威嚇している。
そうだマシロ。そろでいい。やはりお前は賢い子だよ。
俺の意志通り、女の子を守ってくれるだろう。
もっともこの吸血鬼相手では、それも時間稼ぎすら出来ないだろうが……。
「へ、蛇さん……」
女の子は自分を守ろうと懸命に威嚇を続けるマシロを心配そうに見つめている。
すまないマシロ。
今回俺は、お前を守れる自信がない。
そこで、その女の子と共に大人しくしていてくれ。




