11 白蛇
7/11 加筆修正
俺がこの森を進みはじめて、既に3日が経過した。
日中はなるべく、倒せそうな魔物を探しながら進み(スライムなら当然無視)、発見次第おいしく経験値にしている。
夜は夜行性の魔物が多数出て危険なので、木の上や洞穴等でじっと過ごし、魔力の回復に専念する。
そのおかげで、現在の俺のLvは10だ。
やっぱり上位種になる程必要経験値が高いようで、ノーマルスケルトンの時に比べて、ここまで至るまでの成長スピードが遅かった。
残り半分か……。
焦っても仕方ないのだが、なるべく早くLvMAXを目指したい。
俺に最終進化の表示が無かったのを考えると、まだ種族進化が可能なはずだ。
出来るなら早めに進化して更なるステータスの底上げと新スキル獲得を目指したい所だな……。
因みに、この3日間での収穫は、俺のLvだけでは無い。
何と、スキルの短剣術と投擲が共にLv2になったのだ。
どうもこの世界のスキルには、熟練度の様なものがあるようで、Lvのあるスキルを使い続けているとそのLvが上がるようだ。
本当に知れば知る程ゲームみたいな世界だな。
出来れば剣術も上げておきたいのだが、今は対応する武器が無いからな。
完全に死にスキルになってしまっている。
やはり早く新しい武器を調達したいな。
さて。
そんなこんなで寄り道をしながら進んではいるが、そろそろこの森を抜ける頃ではないだろうか?
これだけ歩き続けているのだ。
いくら広大な森だといっても、この大陸中に森の領域が広がってるとは考えにくい。
……お?
生命探知に反応が……。
ふむ。
この先に小型の魔物反応があるな。
数は2つか。
どうせ進行方向だし。これも倒して行くかな。
しかし、本当に便利だな生命探知。
このスキルが無かったら、多分俺はあの蟷螂等に襲われていただろうしな
難点は、使い続けた分だけMPの消費が増えるので、常に発動が出来ないところか。
逆に多めにMPをつぎ込めば、範囲拡大等も行えるのだが。
俺のLvがもっと上がれば、この消費MPの問題もいつか解決するかもな。
……おっと。
見つけたぞ。今回の獲物はあいつか。
視線の先には、全身やや青い体毛に覆われ、小柄で犬によく似た頭部を持つ人型の生物。
その手には、安っぽい錆びた鉄の槍を持っている。
この世界ではコボルトと呼ばれる魔物だ。
この3日間の間にも、何回か戦っているのだが、正直ゴブリンと大差がないレベルの魔物で比較的狩りやすい。
幸い俺にはまだ気づいていない。
今回もさくっと倒して経験値の足しにしてしまうか。
あれ? でも1体だけか?
生命探知には小さな反応がもう1つあるが……その姿が見えない。
視界の先のコボルトは、手にした槍で懸命に何かを突いているようだが……。
ひょっとしてもう一つの反応はその先か?
俺はその反応が気になって、コボルトの背後からこっそりと近づいてみた。
すると1匹の小さな魔物がコボルトの突き出す槍を躱しながら懸命に逃げているのが見えた。
大きさは、約40センチ程だろうか。
血の様に赤い瞳をした白い蛇の魔物だ。
白蛇……。アルビノ種という奴だろうか?
珍しい種類の蛇だと、前世で爬虫類好きの友人が言っていたのふと思い出した。
ただその額には少し小さな角が生えているし、なにより普通の蛇と違うのはその頭だろうか?
蛇というより若干、鰐や蜥蜴に近いようにも見えるが……。
しかもよく見ると、その口には小さな牙がいくつも生えている。
蛇って牙2本しかないんじゃなかったっけ?
初めて見る魔物だな。
だが、その体はコボルトによる攻撃で、切り傷だらけだ。今も血を流しながら、コボルトの槍から必死に逃げている。
対してコボルトは、すぐに止めを刺さず白蛇を嬲る様に攻撃しているみたいだが……。
あれはどうも普通の狩り方じゃないな。
自分よりも力の無いあの白蛇を、わざといたぶってる感じだ。
徐々に弱っていく獲物を見るのが面白いのだろうか?
正直小動物を虐待してるようで、見ていてあまり気持ちのいいものではない。
別にこのまま放っておいてもいいのだが……。
このままあの白蛇がいたぶられて死ぬのは、ちょっと可愛そうかなと思ってしまった。
今まで散々他の魔物の命を奪った俺が、そう思うのは滑稽だろうが、それは相手も俺を殺す気で来ているから特に罪悪感なんかは感じていない。
正当防衛も含まれているからな。
だが、このコボルトと白蛇を見る限りでは、一方的に逃げるあの白蛇をコボルトが苛めてるだけみたいだしな……。
どっちにしろあのコボルトには経験値になってもらう予定だったのだし、ここはサクッと倒してあの白蛇の事はそれから考えるとするか。
そう決めると俺は、足元の石を一つ掴むと、コボルト目掛け投げつける。
スキルLvが上がってる為か前よりもコントロールが良くなっているのが実感できた。
投げた石は狙い通り、コボルトの槍を持ってる右手。その手首に勢いよく命中した。
突然手首に痛みが走った為か、コボルトは悲鳴を上げてその槍を手放した。
俺は素早く走り、痛みに喚いているコボルトの横っ面を思いっ切り殴りつける。
「アブゥッ!?」
進化した当時よりも、Lvアップの成果で俺の身体能力はそこそこ上がっている。
正直もうコボルト程度なら拳でも十分ダメージを叩き出せるな。
ホブゴブリンが使ってた体術スキルとかが、そろそろ欲しいな。
熟練度があるなら、いつかスキルが発生したりしないだろうか……。
いや。今は戦闘に集中だ。
スキル考察は後で幾らでも出来るからな。
コボルトを殴り飛ばすした俺は、そのまま奴が落とした槍を拾い上げると、勢いをつけて投げ放つ。
槍は真っ直ぐに飛び、そのままコボルトの胸を穿つと、深々とその体を貫いた。
「ギャ……ガァウ……」
血を吐きながら小さく呻くが、どうにもならずコボルトはそのまま息絶えた。
【経験値を21獲得しました】
【獲得経験値が一定値に達しました。Lvが11に上りました】
コボルトの死を確認すると、俺は視線を白蛇へと移す。
突然の乱入者に白蛇は、やや驚いたような感じではあるが、俺を警戒するようにとぐろを巻き威嚇している。
だがその体は、既にボロボロでこのまま放置すると半日と持たないのではないだろうか?
一応助けてあげたんだが……。
見事に威嚇されてるな。
まぁ当然か。
普通に考えたら新たに敵が現れたとかの認識だろうし。
俺としては別に、このままこの白蛇を見捨てても特に問題はないのだが。
苦しまないように、むしろここで止めを刺してやった方がいいのか……?
どうせ俺にはこの白蛇の怪我を癒してやることなど……。
ん? いや。待てよ。
たしかアレがあったな……。
俺はある事を思い出して皮袋から薬瓶を取り出す。
随分前だが、あの遺跡擬きで回収していたポーションだ。
何かに使えるかと持ってきたが、俺は飲む事が出来ないので、今まで死蔵していた物だ。
どうせ今の俺に使う予定など無い物だしな……。
偽善だなと思いつつも、俺は取り出したポーションをそのまま白蛇に振り掛ける。
白蛇は一瞬びくりとしたが、傷が痛むせいか、あまり抵抗しない。
これを持っていた連中は冒険者のようだし、流石になんの薬も持たずにあの場所に潜るとは考え辛い。
恐らく回復薬だと思い試してみたのが……
どうやら正解だったようだ。
切り傷だらけだった傷が、徐々に塞がっているのが確認できた。
だが治りが遅いな。
あまり状態が良い物ではなかったのかもしれない。
どうせ俺が持ってても宝の持ち腐れだしな。
そう思い、更にもう1本追加で取り出し振り掛けてやる。
2本使った事で効果が増したのか、程なくして白蛇の体から綺麗に傷が消えていた。
治療された白蛇は、痛みが無くなったのか、自分の体を舐めながら不思議そうにしている。
その仕草が少し可愛かったので、そっと頭を撫でてみると特に抵抗せずにくすぐったそうにしている。
こうして見ると、なかなか愛らしいな。
友人はペットとして飼うと、蛇のその可愛さに夢中になるって言ってたが……。
今なら、なんとなくその言葉の意味が分かる気がする。
そういえばこの白蛇も魔物だよな?
明らかに普通の蛇と見かけが違うし。
ついでだし、この白蛇のステータスも見てみるか。
[種族] ベビー・ホーンスネーク
[状態] 通常
[ランク] E
[Lv] 2/10
[HP] 27/27
[MP] 10/10
[攻撃] 15
[防御] 10
[魔法攻撃] 6
[魔法防御] 7
[素早さ] 14
[所持スキル]
噛みつきLv1 毒牙Lv1 鱗強化 夜目
[ユニークスキル]
突然変異Lv1
ユ、ユニークスキルだと?
突然変異……。アルビノ種だからか?
他は特に目立ったスキルも無いしLvもステータスも全体的には低いように感じるが……。
少なくとも、今まで出会った魔物にユニークスキルは無かったはずだ。
最終進化の魔物であるはずの、あの蟷螂ですら無かった。
そう考えると、どうやらこの白蛇は随分珍しい魔物のようだな。
ふむ……。
そう考えると、倒した時の経験値がおいしい可能性もあるのだが。
ちらりと白蛇に再び視線を移すと……。
傷を治して貰ったのが分かってるのか、一切警戒を含んでないその瞳でまっすぐ俺を見つめている。
うん。無理だ。
流石にこれは殺せないわ……。
ここでこの白蛇を殺したら、俺はあのコボルト以下のクソ野郎だ。
しかし、このままこの白蛇を連れて行くわけには、いかないだろうな。
コイツの進む速度は俺に比べてかなり遅いだろうし、ずっとこの場所にいるわけにもいかない。
せっかく俺に心を許してくれて残念なのだが、この白蛇とはここでお別れするしか無いだろうな……。
じゃあな。
次はもうコボルトとかに目を付けられるんじゃないぞ?
最後まで面倒を見てやれなくてすまないと、心の中で謝りつつ、俺は白蛇からそっと手を離そうとして……。
え?
お、おいっ!?
だが白蛇はそれより早く俺の腕に巻き付くと、まっすぐ俺に向かって体を登ってくる。
そして俺の肋骨の隙間に入り込むと、落ちないように器用に巻き付いてきた。
お前……。
まさか、このまま一緒について来る気か?
というか、もう少し他に場所は無かったのだろうか……。
どうやら思ったよりも、この白蛇に懐かれてしまったようだ。
まぁ、これなら別に邪魔になるわけでも無いか……。
一瞬無理矢理置いて行こうかとも考えたがのだが。
こちらをじっと見つめてくる白蛇の瞳に耐えかねて、結局俺はこのまま連れて行くことにしたのだった。




