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幕間4の4

さて、本日連続3話投稿の3発目です!


件の施設へとついに入ったギルとキュール。


楽しんでいただければ、幸いです!

 中へと足を入れると、前方には深い闇が広がっていた。


 辺りは昼間だというのに、ひんやりと冷たく、時折吹き込んでくる外からの風が、風鳴りと共に松明の火をゆらゆらと揺らしていた。


 キュールは不安そうに辺りを見回しながら恐る恐る足を進めていく。


 その様子を目の端で捉えながら、ギルはニヤリと笑った。


「キュールはこういう場所は苦手か」

「ええ、昔叔父に叱りつけられて罰だと置き去りにされたことがありまして」

「なんと。あのベラムもそのようなことをするのだなあ」


 目だけは慎重に辺りを見回しながら、ギルは初めてしるベラムの話に目を輝かせた。


「むしろ城での姿の方が僕は見慣れないですよ」


 つまらなそうに落ちた石塊いしくれを蹴り弾く。

 そこへ、頭上の岩の隙間から染み出た水滴がキュールの首元へと落ちていった。


「ひゃあっ!」


 奇声と呼ぶには可愛らしい声をあげてキュールが飛び上がる。

 何事だと振り向いたギルは松明の火を向けた先に濡れている壁を見つけて、ほっと安堵の息を漏らした。


 続いて込み上げてきた笑いに耐えられず、声を出して爆笑する。

 キュールは驚きと恥ずかしさで俯きながら黙り込んでしまった。


「すまない。ついお前の様子が可笑しくてな」

「だからって笑いすぎだと思うんですが……」


 不満気な表情を見せるもさりとて相手は王子である為大っぴらに文句を言えないキュールの言葉は尻すぼみに口の中で消えてしまった。


 流石に悪いと思ったのだろう、ギルはもう一度謝ると、背負っている革の鞄から編み込まれた綱を取り出した。


 その端を自分の手に巻きつけ、もう片方をキュールへと手渡した。


「ほら、これを持っていれば俺を見失うことはないだろう。恐れる必要などあるまい」

「殿下……はいっ!!」


 ギルの気遣いに嬉しくなったキュールは元気な声と共に破顔した。


 笑うと一層幼く、さらに女性のように見える為、それがまたギルの悪戯心を誘うのだが、学んだギルは鷹揚に頷くだけでそのことに触れることはしなかった。


 そのまま二人は順調に洞穴の中を進んでいった。時折話すキュールのベラムへの愚痴が面白く、対してギルも国の外にいた時のことを話しては、キュールを楽しませた。


 ギルが山で出会った猪をウィルと狩った時のことを話し終えた時、キュールは興味深そうにギルに尋ねた。


「では、そのウィル様という方はギル様と同じくらいお強いということなんですね!」

「ああ、いや、単純な才能だけならば俺を遥かに超えるだろう。何よりあいつは飲み込みが早かった」


 ギルは松明の火を眺めながら懐かしそうに目を細めた。その様子をキュールは羨ましそうに見つめた。


「いいなあ。僕には同世代の友人と呼べる人がいなくて、素直に羨ましいです」

「学術院では友はいなかったのか」

「あそこでは皆誰が一番出世できるかを競っていましたから」

「そうか、なに。お前ならすぐにでも友人など出来るだろう」


(僕は、あなたが良かったんですけどね)


「ん、何かいったか」

「いえ、それより、その次の二股を右に進んでください」


 小さく呟いたその言葉は暗闇へと吸い込まれてギルの耳に届くことはなかった。代わりにキュールは自分とギルとを繋ぐ一本の綱を、決して解けることのないように、と強く握りしめたのだった。




 いつの間にか会話が消え、二人は黙々と闇の中を進んでいった。ともすれば自分がどこか違う場所を歩いているのではないか、という錯覚に捉われそうであった。


 煌々《こうこう》と灯る松明の火と響き渡る足音だけが、今この瞬間に一人ではないということを教えてくれた。


 どのくらい進んだのだろう、やがて二人の視線の先に、明かりのようなものが見えた。


「ギル様、あそこが恐らく採掘場所です」


 松明を地図にかざしながらキュールは早足になった。頷くギルの歩幅も心なしか大きくなっていた。徐々に光の量が増えていき、気がつけば二人は拓けた場所に出ていた。


 先ほどまでの暗闇との差で視界が白く染まり、一瞬遅れてその景色を二人の目に映し出した。


 目の前に広がっていたのは人為的に掘られた巨大な空洞であった。人影はなく、採掘した鉱石を押すための台車や、つるはしが所々に散らばっている。


 削り取られた土の壁に等間隔で松明が差し込まれ、周囲を昼間のように明るく照らし出していた。



「どうやら、働いている人間のもういないようですね」

「ああ」


 慎重に辺りを見回すギルとを興味深そうに削られた壁に触れながら歩くキュール、対照的な二人だけが、その場にはいた。


 ギルはようやく緊張を解いたのか、息を大きく吐き出すと、その空間の端の方に置かれた手頃な塊の岩の上に腰を下ろした。


 続けてキュールも近くの岩に腰を下ろした。


「これが鉱脈か、ただの洞窟と変わらんな」


 想像していた景色と違っていたのだろうか。辺りを見回すギルは少し残念そうだ。


「ぱっと見は、ですがね」


 ギルと同じく周りを眺めていたキュールはその言葉に勢いよく立ち上がった。


「どういうことだ?」


 キュールの言葉を不思議に思ったギルが問いかける。


「そうですね。例えば……」


 そういって彼は近くの松明を取り上げると地面に転がしてその火を踏み消した。


「何をするつもりだ」


 少し慌てたようなギルの声など聞こえない様子で、キュールは鼻歌交じりに一本、また一本と松明を消していく。


 十本ほど消した時には、その空間の半分ほどが来た道と同じく、暗闇に染まっていた。


「ギル様、こちらへ」


 満足そうに振り返ったキュールはギルへと近づき不審な目を向けるギルの手を取った。


「何だ?」

「まあまあ」


 二人は闇に覆われた方の真ん中に来たあたりで立ち止まった。握られていた手が離され、ギルは一人闇の中に取り残される。


「キュール?一体何があるんだ」

「これです」


 不安から思わず強めの口調で問いただすギルの声に一拍遅れて、火打石の音と共に松明に火が灯された。


「……おお!!」


 そこにはギルが今まで見たどんな景色よりも美しい光景が広がっていた。二人を中心にして足元か左右、天井に至るまで全てが夜空の星のように煌めいていた。その煌めきの一つ一つが、松明の火の揺れに合わせて瞬きを繰り返していた。


「どうですか」


 キュールは圧倒されて声も出せなくなっているギルを見て、嬉しそうに目を細めた。


「これは……すごいな」


 ようやく絞り出した感想はそれだった。そんな陳腐な感想しか出てこない自分の語彙ごいの無さを責める気持ちすら、輝きに目を奪われたギルには浮かんでこなかった。


「ここは人工的に掘り出された空間です。そしてこの鉱脈はかなりの割合で金を含んでいました。さらにここが採掘の要の場所である、昔本で読んだことがあって試して見たんですが、予想が当たったみたいで良かったです」

「それでは、この煌めきは全て……」

「ええ、金です」


 それから二人はしばらくその景色の中に身を委ねていたが、キュールが壁の松明に再び火を灯したことにより幻想的な時間は終わりを告げた。


 代わりに、再びごつごつとした岩肌が視界一面に現れた。


「キュール!!素晴らしかった!感謝するぞ!!」


 興奮冷めやらぬといった様子でギルはまくし立てた。


「そんなに喜んで頂けて、僕も嬉しいです」


 普段は冷静なギルの子供のような目の輝きを見て、キュールは自分のことにように嬉しくなった。照れ臭そうに頬を人差し指で掻いて視線を逸らす。


「いや、本当に素晴らしかった。ウィルや、アリシアにも、見せてやりたかったなあ」


 少し悲しみを帯びたその言葉に、キュールは先ほどまでの嬉しさが薄れ、逆に胸がちくりと痛むのを感じた。

 一瞬の逡巡しゅんじゅんの後、キュールは口を開いていた。


「ギル様!僕も」

「ん?」

「僕も貴方の友達に……」



 意を決したキュールの言葉は最後まで語られることはなかった。その言葉に被さるようにして、二人を誰何すいかする声が響いたのである。


「そこにいるのは誰だっ!!!」

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