幕間4の3
連続3話投稿の第2弾です( ̄∀ ̄)
書き始めた時はそうでもなかったキャラクターがやはり主張を始めました笑
楽しんでいただければ、幸いです。
その日からギルとキュールの交流は始まった。
ギルの方は相変わらずであったが、キュールが暇を見つけてはギルのところを訪れて手に入れた情報を落としていくようになったのである。
実はこれにはベラムの思惑も絡んでいて、ギルを元気付けさせよう年の近いキュールを使ったのであった。もっとも、本人には使われたという気持ちはなく、進んでギルのところに顔を出していたのであるが。
二人が出会ってから一月ほど経った時、ギルの部屋の扉が激しく叩かれる音がした。
ギルはいつものように机に座り、書物を読んでいたが、来客がかなり興奮していることが明らかにわかるそのノックの音に頁をめくる手を止めた。
「開いている」
扉の外の人物にそう声をかけると、一秒と待たずして勢いよく扉が開かれた。
同時に部屋の中に転がり込むようにしてキュールが入ってくる。
息を切らせ額に汗を浮かべた彼はよほど急いで来たのだろう、ギルを視界に捉えるやいなや一目散にギルの側までやってきた。
「ぎ、ギル様!」
「どうした?そんなに慌てて。茶でも飲むか?」
キュールの様子に気圧されながらも、ギルは侍女を呼ぶために手を鳴らそうとしたが、机に激しく叩きつけられたキュールの手によってそれは阻まれた。
「それどころではないんですよ!ギル様!」
大きな二重の目を一杯に見開き、ギルへと詰め寄るキュールにギルは苦笑しながら続きを促した。
「わかったわかった。それで、何があったんだ?」
「実は、あるかもしれないんですよ!超古代の技術!!」
その言葉に、今度はギルが目を見開かずにはおれなかった。
「なにっ!?」
先ほどまでの落ち着きが嘘のようにギルは椅子からたちあがった。
キュールの両肩を掴み、揺さぶるようにして問いただす。
「どういうことだっ!」
キュールは掴まれた肩の痛みに僅かに顔を顰め、ようやく我に返ったのか上目遣いでギルの方を見た。
「あ、あの、ギル様……その、痛い、です」
痛みでほんのりと頬を赤くしたキュールの様子にギルも冷静になったのだろう、掴んでいた手を離すと椅子に腰を下ろした。
「むっ、すまん。つい興奮してしまってな」
「ギル様でもそのように取り乱されることがあるのですね」
キュールは悪戯っぽく微笑むと自分を落ち着かさせようと少し深めに息を吸った。
吐き終えると己の興奮の理由について語り出した。
「金鉱脈がある山はギル様、ご存知ですよね」
「ああ、今回の大元の原因となった場所だからな、嫌でもわかる」
キュールの言葉にギルは嫌そうに眉を寄せた。
「では、その鉱脈が最近調査、発掘されているのは?」
「うむ。もはや和平も叶わぬ、それならば、と過激派が発掘を進めていたのは知っている」
「そう!それなんですよ。それで先日地質調査のために何人かの研究者が派遣されましてね、その中の一人に僕と同期のものがいるのですが、どうやら調査中に何やら変わったものを見つけまして」
「ほう」
興味を惹かれたギルは知らず知らずのうちに身を乗り出して話を聞き始めていた。キュールは満足そうに頷き、懐から何やら包みを取り出すと、それを机の上に置いた。
僅かに重みを感じさせるくぐもった音が部屋の中に響いた。
「これは?」
「開けて見てください」
促されるまま、ギルは包みを解いていった。
「これは……楔か」
「さすがギル様。僕たちも、そう考えました」
包みの中から出てきたのは、いくつかの楔のようなものであった。素材はおそらく、鉄で、頭のところが十字に掘られている。
ギルが興味を惹かれたのは、楔の身の部分であった。
螺旋を描くようにして根元から先に向けて削られたその身の部分を指先で摘みながら唸った。
「むう、見たこともないな」
「ええ、僕もこんな楔は初めて見ました。そもそも楔ではないのかもしれませんが」
「それで、これがその鉱脈で?」
知らず二人の会話の声は小さくなっていた。
「はい。これだけではなく、これが取り付けられていたであろう、箱のようなものも」
キュールはギルの手から楔を受け取ると、丁寧に包み直し懐へとしまった。
「それは今、どうしているんだ」
「それが大変な重さで、どうせならその場に研究する施設を作ってしまおうということになりまして」
なるほど、とギルは頷いた。人が運ぶのに苦労するようなものであるならば、それも道理である。
「それでですね」
「なんだ」
考え込むギルを横目に、キュールは途端に言いづらそうに身体を揺らした。細い両手を組み、口を何度も開こうとしては、閉じている。
「どうした?」
訝しんだギルが促すと、意を決したようにキュールはきっ、とギルの顔を正面から見つめた。
「見にいってみませんか?」
「その場所を、か」
「ええ、どうやら内々で研究されるようでして、おそらく中の情報も僕たちに届く頃には……」
ギルは真剣そのものといったキュールの表情を眺めて得心がいった。
誰よりも知識欲の強いキュールのことだ、自分の知らないところで研究を進められて、しかもお披露目の頃にはその全てが明らかなものになっている、そんなことは許せないのだろう。
ギルは視線を外すとしばらく考え込んだ。
(見たこともない素材を使っている発掘品か……まさか、な)
ふと脳裏に先日の絵が浮かんだが、そんな馬鹿なこと、とギルはその考えを振り払った。
それでもちりちりと頭の片隅に残るその可能性をどうしても捨てきれず、また捨てる気にもならなかった。
(考えるより動くべきか)
肚が決まったギルはキュールの幼顔を正面から見つめた。
「わかった。明朝出発するぞ」
「ええ!?明日ですか」
「なに、こういうのは早い方がいい」
「いえ……」
「なんだ?」
「今から行くものだと思ってまして」
と、キュールは恥ずかしそうにもじもじと身体をくねらせたのであった。
明朝、日が白む前に二人は城を出た。共の者を連れず、旅の格好に身を包んだ二人は馬にのって野道を駆けていた。
自分の後に遅れることなくついてくるキュールにギルは称賛の声を漏らした。
「キュール!顔に似合わず存外馬の扱いが上手いではないか」
「はい!一秒でも早く向かいたいので!でも顔は余計です!!!」
手綱を張りながら、キュールは叫んだ。まだ余裕の見て取れる顔には、少しばかり自慢げな表情が浮かんでいた。
自信があるのだろう。ギルは不敵に笑うとさらに勢いよく手綱を打った。
「よし、ならば速度を上げよう!ついてこい!!はっ!」
「なっ!待ってください!」
ギルの馬は威勢良く嘶き速度を上げた。距離を離していくギルに置いていかれまいと、キュールは必死の形相で馬を駆った。
その甲斐があってか、太陽が登りきる頃には、件の山の麓にまで辿り着いていた。
広い川辺に出た二人は休息をとることにし、周囲に生えている木の丈夫そうな幹に、手綱を繋いだ。
ギルはまだまだ余力が残っていたが、キュールは降りるなり川辺に座り込んでしまう。
「ぎ、ギル様……はや、過ぎます」
皮袋から水を飲み喉を潤すも、息はかなり上がっている。顎を上にあげながら、なんとか話しているキュールとは対照にギルは息一つ乱れていない。
「研究以外にも身体を鍛えて置いた方がいいな、キュールよ」
唇の端を吊り上げながら馬を撫でているギルを恨めしそうに睨みながら、少し拗ねた口調でキュールは口を尖らせた。
「ちぇっ、大人気ないなあ」
「何かいったか」
「いえっ!」
二人は座りながら出るときにベラムから持たされた食事をとりながら、今後の方針を固めることにした。
「ここからは歩いていくことになるが、キュール。中に入ってからはおよそどのくらいで着くのだ」
一口大に切られた干し肉をパンに挟み込み頬張ると、ギルは尋ねた。
キュールは手に持った地図を広げている。どうやら内部の経路図のようだ。
もう片方に持った林檎をかじりながら、真剣な眼差しを向けている。
「そうですね。入り口からここですから、夕刻までには着けると思います」
「そうか、休むとしたらどこだ?」
ここです、とギルの方に地図を差し出したキュールは、果汁が付かないように小指で地図の一点を指し示した。
地図には入り組んだ線が何本も描かれていて、そのうちの何本かが、空洞らしき円形の場所へと繋がっていた。
どうやらその場所が主な採掘場所のようだった。
「なるほど、そこには人はいるのか」
「ええ、けれど着く頃には作業の片しをしている人間ばかりですから、特に気にする必要はないでしょう」
「なるほど。ではこの後はそこを目指し、翌朝に目的の場所へ向かうとしよう」
ギルはそういうと手に持っていたパンの残りを口へと放り込んだ。
懐から葡萄酒の入った皮袋を取り出すと、一気にあおった。
キュールは差し出されたそれを丁重に断り、やや難しそうな顔で地図を再び睨みつけた。
「どうした、何か問題があるのか」
「いえ、大したことではないのですが、過激派の貴族達がいたらまずいと思いまして」
「どうして過激派が?」
「簡単な理屈ですよ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの過激派ですから、当然貴族達の間でも派閥が出来ています。そんな連中が金の採掘場所に顔を出す……」
「なるほど……賄賂か、しかし王国では賄賂は認めていないはずだが」
キュールの答えにギルは首を捻った。まさか意見の対立はあれど、自分の住まう国にそのようなものがいるとは思っていなかったのである。
ギルの世間知らずな一面を見せられた驚きながらも心の中でふと思った。
(この人は厳しそうに見えて優しい。それが人を惹きつけるんだろうけれど、自分の信じる事柄を信じ過ぎている節がある。僕がしっかりしなくちゃ)
キュールは内心で決意の炎を燃やしながら、それとなくギルに思いを伝えた。
「殿下、認める認めていないの問題ではないのです。人は、感情で動きます。そして何より、認められることを望みます。その点賄賂は手段としては実に簡単です。ここまでいえば、わかりますよね」
それは研究者といえど文官として国に仕えているキュールだからそこできる助言だった。
「そうか……」
キュールの諫言にギルは悲しそうに目を伏せた。
何か思うところがあるのだろう、キュールはそれについては何も言わずに、さて、とやや大きめの声で手に持っていた地図を閉じた。
「ではそろそろ向かいますか」
「ああ、行こう」
気を取り直してギルは大きく頷いた。
こうして、二人は金脈の採掘施設へと足を踏み入れたのである。




