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幕間 4の2

新キャラ登場です( ̄∀ ̄)


楽しんでいただければ、幸いです。

 かくして再び奮起したギルであったが、その足で向かったのは身分を持つものしか入ることを許されない、学術図書館であった。


 というのも、すでに互いの国の動向はほぼ固まったようなものであり今からではどう動いたところで弾かれてしまうのは明白だった。


 とりわけ穏健派であったギルへの監視は厳しい。何か下手な動きをすればギルだけでなく、父であるヴァリスの立場までもが悪くなってしまう。


 この期に及んで国内を荒らすような行動は取るわけにはいかなかった。


 それならば、とギルはせめて戦争の犠牲を少しでも減らそうと、こうして過去の歴史書を紐解いているというわけである。

 しかしながら歴史とは無情なものであるということをギルは痛感せざるを得なかった。


 盛者必衰、どの国の歴史を見ても、最後に国は滅びていた。戦争に大勝し、領土を広げた国も、クーデターにより国の幹部が失脚、敗戦国に至っては言わずもがな、である。


 それら以外にも疫病、干ばつ、国が滅ぶ要因などいくらでもあった。


 多くの学者や歴史家によって書かれた書物のどれもが、その結末を同じものとして捉えていた。


 ギルは椅子に腰掛け選りすぐった何冊かに目を通し、そのうちの一冊の頁をめくりながら思わず頭を抱えたい気持ちになった。


 やはり戦争というもの自体が激化してしまってはもはや手立てはないのか。どちらかの国が蹂躙されないことには結末を迎えることは出来ないのか。


 ギルは知らず漏らしていた嘆息とともに本を閉じた。


 元の棚に戻そうと、腰を上げたとき、ふと視界に一冊の本が入り込んできた。

 目を凝らして題名を読み上げる。


「『世界の滅びと失われた国々の技術』、だと」


 これまでのギルならば目に止めることもなかっただろう。だが、様々な要因が絡み合い、ギルはその書物を手に取った。


 古ぼけたその書物は所々傷んで、黄ばみを帯びていた。ほのかに古い紙特有の甘い匂いが漂う。


「作者はーーー不明。むっ、絵本か?」


 まじまじと本を眺めるギルは適当な頁を開いた。その見開きには左半分に挿絵が書かれており、右半分にはところどころ霞んで消えているが、その説明書きともいうべき文章が記されていた。


 興味を惹かれたギルは何とは無しにその本を読み進めていった。どうやら空想の世界や国々の技術といったものを、さも本当にあったものであるかのように説明した一種の娯楽本であった。


 凝った表紙と題名のせいで誰かが勘違いをして並べてしまったのだろうか。ギルはくだらない、といった様子で僅かに笑うと本を閉じようとした。しかし、ふと目に入ったとある絵に心を惹かれて見入ってしまった。


「超古代の、まだ我々の国が出来上がるさらに昔の文明、か。かの文明では人は己の分身を創り出し、さらには気候や炎や水などの元素を思うままに操った……」


 そこには他の頁よりさらに凝った絵が描かれていた。それはまるで実在していて、描き手はそれを写したかと思えるほど、その絵だけが鮮明に描かれていた。

 ギルはさらに続きを読み込んでいった。


「現在はその技術は失われてしまっている。しかしどこかにはまだその技術が残っている可能性も捨てきれない。なお、この項目に関しては紛れも無い真実であることをここに記しておく、か。ふん、くだらん。このような与太話が真実であるなどと」


 ギルは一笑に付して本を閉じると、やや乱暴に元の棚に戻した。

 そして再び机に積まれた書物に目を通し始めるが、今度はどうにも集中することができなかった。


 先ほどの絵が頭に焼き付いて離れないのである。何人もの分身を創り出し、炎や水、そして天候さえも操る。荒唐無稽極まりないが、いき詰まったギルの興味を引くには充分すぎるくらいだった。


「もし、もしそんな技術があるのだとしたら……」


 顔の前で組まれた手の隙間から虚空を見つめる。その漆黒の瞳はさらに濃く色付き、まるで夜を溶かし込んだかのように深く、果てしない闇を映し出していた。





 王宮に戻ったギルはベラムを探しただ広い廊下を歩いていた。

 何かと情報通のベラムに聞けば、何かわかる、とはいかないまでもそういったことに詳しい人間を知っているかもしれないからだった。


 すれ違う侍女や貴族と挨拶を交わしたりしているうちに、誰かと話し込むベラムの姿が視界に入り込んできた。


 近付いていくとベラムの方もこちらに気付いたみたいで、ギルに向かって頭を下げる。


「お帰りなさいませ、ギル様」


 ベラムと言葉を交わしていた男はいぶかしむ様子でギルを眺めていたが、ベラムのギル様という言葉を聞くやいなやすごい速さで自身も頭を下げた。


「この子は私の甥でございます」


 ギルに顔を向けられたベラムはまだ頭を下げたままの男の肩に手を置いた。

 それが合図になったかのように、男は勢いよく頭を戻した。


「おは、おは、お初にお目にかかります!!キュールと申します。でで、でんかにおかれましては、ごきゅげ……」


 キュールと名乗った青年は緊張で真っ赤になったおり、その口は言葉がうまく出てこずに餌を待つ魚のようにパクパクと動かされていた。


 ベラムはそれをみて頭を抱え、ギルは思わず苦笑してしまう。


 そのことがさらに、キュールの顔を赤くさせるのだった。


 男性、というよりは女性のように大きな瞳をせわしなく動かし、戸惑う様はまるでリスか何かをギルに思い出させた。

 長めの髪と小柄で華奢な身体つきが見るものをさらに錯覚させる。


 まじまじと興味深そうにキュールを眺めていたギルだったが、そこへ見兼ねたベラムが助け舟を出した。


 キュールの頭に手を置き、温厚な顔に似合わない力で押さえつける。


「わわっ」

「ギル様、申し訳ありません、こやつは少しばかり人見知りでして。頭は良いのですが、いやはや、お見苦しいものをお見せしました」

「ひどい、ベラム叔父さん!僕だってちゃんと話せ……いだ、いだだだだ!!!」


 ベラムが抗議の声を上げるキュールの頭を押さえつけている手に力を込めた途端、彼は激痛で激しく身悶えした。


 しかしベラムは容赦なく、さらにその手に力を加えていく。


 それでいて顔だけは普段の笑顔を絶やさないでいた。

 少しばかり不気味であったが、侍従長の日常が垣間見かいまみえた気がしたギルはたまらず声を出して笑っていた。


 その笑い声でようやくベラムはキュールの頭から手を離したのだった。


「いたた、何も殿下の前でこんなことしなくてもいいのに」


 いまだ痛む頭をさすり涙を浮かべるキュールをベラムは冷たい口調で切り捨てた。


「何をいうか。お前のお陰でギル様の前で恥をかいたわ」

「構わん、それより、キュールといったか。其方は王宮に仕えているのか」

「はい!ぎ、ギル様!文官として技術研究をしております!」


 渡りに舟とはこのことだ、とギルは内心で思わずにはおれなかった。そこで、先ほど見てきた書物の話を聞いて見ることにした。


「はあ、超古代の文明の技術、ですか……」

「私は聞いたことがありませぬ、な」

「俺もだ。何でも気候を操れるほどの力を得ることが出来るらしい」


 ギルの話を聞いた反応はまちまちであった。ベラムは驚きに目を見張らせ、キュールは興味深そうに目を輝かせていた。そして、聞き終えると何かを考え込むようにじっと黙り込んでしまった。


 真剣な表情でぶつぶつと何かをつぶやく姿はそれまでとはうって変わって研究者としての一面を際立たせていた。


 しばらく何かを考え込んでいたキュールだったが顔を上げるとすぐに表情を崩した。


「うーん、だめですね。考えて見ましたが心当たりはありません」


 悔しそうに唇を噛むキュールにギルはそうか、と頷いた。どうやら自分に知らないことがあるのが悔しいのだろう。


 文官として働いているということは自分とそう変わらないか歳上であるはずなのだが、存外に幼いな、などとギルが考えていると、キュールは顔をしかめたまま、ですが、と声を絞り出した。


「周りの文官に詳しいものがいないか、それとなく聞いて見ます。何かわかったときには、すぐにお知らせしますので」

「ああ、頼む」

「えっ、あっ……はい」


 キュールのその様子に誰かの影を重ね、自然と笑みが浮かんだギルは、目の前にあるその頭に優しく手を置いた。


 そして、ギルのいきなりの行動にキュールはまた顔を赤くして俯くのであった。



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