第八話 スラムにて 後編
横たわる少年、それを囲むアキタとニアとジョエスト。
「犯人、て。なんでそう言い切れるの?」
ニアはアキタに問う。
「それがさ、これ見てくれよ」
アキタは上着のポケットから青色をしたガラス状の四面体を取り出す。中には何かが充填されている。
「何、これ」
「コイツの近くに何個か転がっててさ、知らずに踏んづけたらミストが吹き出てさ。広がる前に浄化出来てよかったぜ」
「アキタ隊員、そう言うのは先に報告して欲しいなあ」
「これ、アクリス鉱だよ。雑な精錬だけど、ミスト耐性は十分ありそうね」
「ん、んん……」
そこで少年が意識を取り戻す。
「おお、若者は回復が速いね」
ジョエストは関心する。
「おい、お前が犯人だな。正直に話せよ」
アキタは早速問い詰める。
「お、俺は……」
まだ辛そうな少年は息も絶え絶えに口を動かす。
「ちょっとアキタ、まだ無理出来ないって」
「お、俺は、グリゴリ教の教えに従って、幽界へ、みんなで……」
少年は起き上がる。
「みんなで幽界に行って神の下で暮らすんだ……。苦しいばっかりの今の生活はもうまっぴらだ! ごふっ! かは!」
「それはグリゴリ教全般の宗旨だな。死後は幽界で神と暮らす……。しかしその為には現世でやることがあるのでは?」
「もう十分だよ。いや、十分で無くてもいいよ。スラムに産まれた時点でクソみたいな生活とクソみたいな死が待ってる。みんな辛いんだ……。なら俺がその苦しみを断ち切って……あ、」
少年は途中で意識が途絶えその場に倒れた。
「偽善よ、そんなの……」
憐れみの眼差しで少年を見るニアの横で頭を抱えるジョエスト。
「はぁ、これは一大事だぞ。前代未聞のミスト放霧犯とは。困ったなあ」
ジョエストはインカムで中央へと連絡を入れる。
「でも誰がこんな、防魔装備とアクリス鉱を……。こんな子が持てるような物じゃ無いわ」
「誰か裏で動いてる奴がいる、か」
ジョエストは渋い顔で顎を擦るりながら何処かえ去っていった。
暫すると警縛隊がやって来た。
「はいはい後はこっちの仕事だ。部外者は出てってくれ」
「グラントか……」
「ああ! ニアさん! こんな小汚い場所は貴方には相応しくない。ささ、あちらの指揮所でお茶でもどうぞ」
「お構いなく」
「まあ、そう言わずに。おら、アキタ! テメーはさっさと帰った帰った! 邪魔だ。現場荒されると困んだよ」
「言われ無くても帰るっつの! 行くぞニア!」
「偉そうに言わないでくれる?」
「ニアさんは居てくれて結構なんですよ?」
「お構いなく」
「おおい、パーツ拾ったら帰還するぞー」
何処からとも無くジョエストかわ戻ってくる。そんな賑やかしいやり取りをする面々を遠くから見つめる一人の男。
「ふん。まあ、数は少ないが《《耐性持ち》》は見つかったし、良しとするか」
そう言うと静かに消えていった。
スラムの方はジョエストが呼んでいた応援の救命隊が、残された人々の手当てを行っている。
ミストを浄化し任務を完了したアキタ達は散らばったタンクのパーツを回収すると帰還した。
帰還し片付けや整備を終え、机に着く二人。ニアはまだリンクスの整備をしている。
「ふぁー、疲れたー」
「お、サブタンク! なんかお前んとこ厄介事引き当てたらしいじゃねえか」
「あ? 何だお前。お前らが目立つとこしか行かねえから俺らがケツ拭いてんだろよ」
「で、罪人を助けた気分はどうよ? 居たのはスラムのゴミ共だろ? 生かしてるだけ税金の無駄だぜ? 全員共犯で死刑でもいいんじやねえか! はっはっは!」
「お前……!」
「おい、ゲレミー。止めとけ。行くぞ」
「ダンケス」
「すまんな、じゃ」
ダンケスはゲレミーを連れて戻っていく。
「本隊も色々大変そうだね」
ジョエストはお茶を啜りながら目を細めている。
「何処かの貴族のご子息らしいがね。素行が悪すぎて防魔隊へ入隊させられたらしい」
「防魔隊は託児所かよ、まったく」
「親御さんは軍に入れたくないんだろうな。まあ臭いものには蓋ってことだ」
「蓋できてないんじゃねえすか。クソな臭いがぷんぷんするぜ」
「なまじ肉体系のスキルスだから訓練も熟すらしいし、暫は音を上げることは無さそうだな」
「死ななけりゃいいすけど」
「まあまあ、それよりもアキタ隊員。今日の報告書、早く上げてくれよ」
「へいへい」
今回の魔災は何時も通り、防魔隊が浄化し沈静化されたと新聞に掲載された。その中にスラムの人達のことや前代未聞のミスト放霧事件のことは何一つ記されていなかった。あの場には誰も居なかったように。




