第七話 スラムにて 前編
「行っくぞー!」
「アキタ隊員は足が速いなあ」
「アキタ! リンクス乗って! 先行しない!」
予備隊の三人が珍しく魔災に駆り出されている。
今回は最初から予備隊の指名。
「俺らが出るってことはよ、人っ気の無い地区なのかな」
ムラクの辺鄙な所で発生する魔災に予備隊は出動させられがちだ。
「んー、かもね。にしてもリンクスが重いなぁ。聖水タンク載せすぎたかも」
ニアが乗るリンクス本体は小さな装甲車に小さな砲塔が付いた物。しかし謎の技術により桁外れなパワーを持ち、その小ささと相まって単体では抜群の小回りと走破性を誇り、そして後付け装備も山程積めるペイロードを有している。現在のリンクスは度重なる近代改修の末、無数の配線が邪魔で砲塔が使えない上に操作系が複雑怪奇なものとなり、操縦者が限られてしまっている。
魔災はまず聖水を広範囲に散布し、小規模なミストを浄化することから始まる。今回リンクスは多数の聖水タンクを積載した射出トレーラーを牽引している。
「現着ー!」
「配置に着くぞ。ここらは住民が居ない区域だそうだ。アキタ隊員は聖水射出銃持ってもう根元目指しちゃって。ニアは散布開始ー」
と言うとジョエストは空へと上がって行く。
「しゃー!」
防魔装備を身に纏ったアキタはミストへと突入する。
「えーと、聖水散布範囲は……」
ニアはリンクス内で操作系をイジっている。
「射出します!」
その声と共にトレーラーから聖水タンクが噴射音と共に間髪開けず次々と、規則正しく射出される。タンクは一定の高度まで達するとその内圧を上空へと解放しブレーキをかけ降下へと向きを変える。そして横向きの噴射により錐揉み回転しながら設定高度まで降下するとタンクは分解し一気にタンクのパーツと聖水をミストの海に降り注ぐ。
「おうおう、視界良好だぜ」
アキタは漂うミストが晴れていく様をその只中で感じていた。
「そこか」
晴れた視界の中で未だモウモウとミストが濃い場所がある。そこが根元だ。アキタはそこへ一直線に向かう。防魔活動で多少の損壊は許容されるが、アキタの場合、
「だりゃ! 邪魔だうら!」
と手当たり次第、バコンボコンと街を破壊して行く。
「アキタ! 脆いからって壊さないで! 戻らなくなるから!」
ニアはついアキタにインカムで伝えようとするも、アキタはインカムを持っていないことを思い出す。無魔力者はインカムを使えない。
魔災の際、ミストに覆われるとエーテルを吸われ組成が脆くなる。しかし、浄化後に適正な処置を施せば殆どの場合元に戻る。
「また現場減っちゃうなぁ」
ジョエストがぼやく。実際アキタの破壊行為が予備隊が防魔隊で干されている理由の一つである。今回はスラムのようなアバラ家ばかりの地区のため、あまり問題視はされないだろう。とは防魔隊隊長の弁。
「ん? んん?!」
ある家の壁をぶち抜いたアキタの様子がおかしい。ジョエストが降りる。
「はあ、はあ、どうした?」
隊長用の防魔装備はアキタよりも重厚に作られている。ジョエストには少し重そうだ。
「ちょっと隊長、これ司令部ちゃんと確認してんすかね」
「あぁ……。ここは私に任せてアキタ隊員は根元に」
二人が中に見たものは、身を寄せ合い上から布をかぶり怯えるように震えている家族だった。
「大丈夫ですよ。防魔隊です」
とジョエストは少し彼らに触れる。
「あ、ダメだな。動かすのは危険だ」
するとジョエストは防魔装備の左腰辺りに複数ぶら下がる手のひら程の大きさのタグを数枚むしり取り、両手で、挟みエーテルを込める。
「……、よし」
仄かに光るそれを家族それぞれに優しく貼り当てる。すると皆安らかな表情でスヤスヤと眠ってしまった。
「と、言うことは」
ジョエストが外を見回す。人の姿は見えないが、気配がする。
この世界の人間は特能型と魔法使い型に分かれる。特能型は産まれながらに特殊能力を持ち、魔法使い型はその名の通り魔法使いの素養がある。基本的には何方も備えるが、何方かの傾向が強いかで得意な方が決まる。
ジョエストは特能として超聴覚を持っている。聴覚と言っても実際聴こえる訳では無く、耳で何かしらの気配や動きを《《感じる》》能力である。
「ああ、参ったなあ」
そこかしこに人が残っていた。
その頃アキタは、
「根元はこの部屋か……」
根元あると思われる屋敷にいた。根元付近は少しの衝撃でも崩れるほど脆い。また思いのほか大きな屋敷の為に捜索に時間を要していた。
アキタは聖水タンクをこじ開け、根元へ浴びせ掛ける。
「あ、ああ、あ……」
隣の部屋から声が聞こえる。
「ん?」
アキタが根元を探している中、ジョエストは救援を要請した後、ニアを呼び可能な限り住民に手当てを施す。
「なんなの! 中央は! 未登録者は見殺しにするって訳?」
ミストに飲まれ弱っている住民達に手を当てるニア。一般的な人間は体内で生成した生体エネルギーが身体から漏れ出ている。手のひらを当て溢れたエーテルを他者に分け与えることで、他者の怪我や不調を治す効果がある。まさに《《手当て》》である。魔法士や魔法使いともなれば効果は抜群だ。しかし自身のエーテルを切売りするようなものなので自身は疲れていく。その為、相手が大人数の場合はそれなりに人間が必要となる。
「まあ、中央は住民票を見て言っているんだから仕方ない。此処に住む住民の登録は無いんだから」
「だからって!」
「おーい」
そこへアキタがやって来る。人を担いでいる。
「ちょっとアキタ! そんな運び方したら死んじゃうじゃない!」
「死なねえんだな、それが。見てみ」
アキタは担いだ人間を床に下ろす。
「これ……。防魔装備……?」
ニアは驚きを隠せない。
「ふーむ。これは正規品では無いが、確かに防魔装備だな。紋章は無いが、幾重にもなった麻布に防護呪文が書き込まれている。特徴から見て昔の防魔装備を真似て作った物のようだ。ただ、作りが甘くてミストを防ぎ切れ無かったようだね」
「びっくりしたよ。根元の間近で寝てても息があったんだからさ」
「そ、そうだと思うけど、なんで連れてきたの?」
「なんでって」
アキタはその人間を指差して言う。
「犯人だよコイツ」
その言葉に辺りは一瞬静まり返る。




