第四十話 召喚、借り物、貸した者
「やっと着いたぁ」
八哥は巨大魔獣の足元まで来ていた。
「でっかいなぁ……。よっ」
下から見上げると、眼前に聳え立つその巨大さが際立って見える。そんな巨体にも関わらず八哥は一飛びして魔獣の頭部までやって来る。
「彼の方法はいつもいい加減なんだよな。中途半端な召喚なんて迷惑千万だよ」
八哥は魔獣に手を添える。
「借りたものは返さないとね、グリツキー」
魔獣に添えられた八哥の手はズブズブと頭部へ沈み込んでいく。魔獣の神経系のみならず更に深い精神の中へと干渉する。
「君は彼の望んだ結果では無かったけれど、彼は君を大切に思ってたみたいだね」
語りかけながら沈み込んだ腕を掻き回すように何かを探す八哥。やがて小さな感触を得る。
「あった」
その小さな欠片の様な感触をしっかりと捉えるとそのまま引き抜く。それは黄金色に輝く結晶体だった。
八哥に結晶体を取り除かれた巨大魔獣は魔獣を生み出さなくなった。
八哥はゆっくりと黄金色の結晶体を口に含む。そして喉を鳴らし飲み込むと、一瞬巨大な影が八哥を覆う。
「これで、ほぼ元通りだ。ふふふ……」
八哥は静かに笑う。
「魔王バエルの降臨、だ……! はは、は……アレ……?」
八哥は急に意識が朦朧としだしヒラヒラと魔獣から落ちた。
「八哥ちゃーん!!」
とそこへニアが現れる。爆走するリンクスは魔獣達を蹴散らし、時に魔獣達の頭上を走り巨大魔獣へと向かって来る。
「離陸ー!」
ニアは叫びながらボタンを押す。すると走るリンクス下面から勢いよく火が噴き出しリンクスは宙を舞う。そしてリンクスの搭乗口を開け身体を外へ出したニアは両腕を広げ落ちてくる八哥をしかと抱きし直ぐ様中へと戻る。
「八哥ちゃん!」
「に、ニアさん……」
「良かった! 生きてた!」
「ニアさんも、ご無事で、なによりです」
「……外傷は無さそうね。ジフィさんは?」
「ジフィなら、大丈夫です」
「そうなの? なら良いけど……」
ニアは腕に抱く八哥を確認するように目を向ける。
「それにしても、ローブの中身が……まさか貴方だったとはね」
「はは、バレましたね。まぁ時間の問題だったので」
ニアの腕に抱かれた八哥はフードが外れ中身が露わになる。そこにいたのは子供程の大きさをした人猫の姿だった。前に総務課から依頼のあった猫探しの猫だ。
「あの時は助けていただいて、ありがと、う、ございま……」
「八哥ちゃん!? 八哥」
「……くぅー、くぅー……」
「……寝ちゃったの?」
八哥を乗せたリンクスは聖魔門へと向かう。
そんなリンクスを遠目から巨大魔獣を眺める大槌に乗った少女。
「さて、そろそろ、動き出すころだね」
視線を聖魔門へ移す。
「ここでグリツキー君が開放されるか、全てを破壊する災厄となるか……。バエルも今は使えないし。イルグの子はどうするのかなぁ。楽しみだな。ふふふ」
ミシャルの身体を借りたワイズボイスは子供のように笑い天高く舞い上がり陽光の中にに消えて行った。
「ん? なんか勢いが無くなったような……」
アキタは見まみれの石棒を地面に突き刺すと手を鳴らし払う。グランベルはフラガラッハを鋭く振り血を払う。
「つい調子づいてしまった。思った以上だ。一人でも足止め出来たかも知れんな。やはりグランルミナリオ、その強さ、英雄たらしめる所以だな……」
「? グランルミナリオ? なんすかそれ」
「聞くな!」
「かはっ!」
理不尽に殴られたアキタと手が出たグランベル。じゃれ合う二人は魔獣の屍が積み上がり山になった頂上にいる。
「す、……」
グラントは人並み外れた二人の膂力と体力に言葉を忘れていた。
「しかし、勿体ないなぁ。この魔獣からどれだけの生アクリスが取れるんだ。一財産あるぞこりゃ」
ジョエストは呑気に山積みになった魔獣の数をを数えている。
「の、呑気すねぇ。それなら持って帰れば良いじゃないすか」
ジョエストの空気にグラントは拍子抜けする。
「私には解体の技術が無いし、適当に斬りつけられてるから直ぐに腐ってしまうさ。ムステラの狩猟団なら上手いこと仕留めるんだがな」
「へぇ。……ん?」
グラントはふと遠くを見ると何かがおかしい。
「どうした?」
「いや、なんか……。あの巨大魔獣、近付いてないすか?」
「んん? ……、ああ」
ジョエストの顔から血の気が引くと同時に覚悟を決める。
「動き出したか……。よし、君は此処にいなさい」
ジョエストは徐に箒に跨るとブランクの中へと飛び込んで行く。
「ジョエストさん!?」
「落とし穴を作ってくる。後は頼んだぞ!」
ジョエストは振り向かず飛び去って行った。
「あ、アキタ! ジョエストさんが!」
グラントは思わずアキタ向かって叫ぶ。
「ん?! 隊長! 待って下さい!」
「待て、アキタ! 待て!」
ジョエストを追うアキタにつられてグランベルも行ってしまった。
「……俺がやる、のか?」
一人残されたグラントも覚悟を、
「……出来るか!」
決めなかった。
「くっ!」
「はっ!」
聖魔門から遠く離れたブランクの中、ジョエストの声と共に大地に大穴が開いていく。その穴の深さが爆炸魔法の威力を物語る。
全速力で飛び続けたにも関わらず大魔法を連発出来るのはやはりブランクの特殊な環境のせいだろう。充満する濃いエーテルが術者の力を底上げしているのだ。
「はぁ、はぁ、これだけあれば巨大魔獣も足を止めるだろう」
などと言っている視線の先には着実に近付いている巨大魔獣。その大きさに今開けた穴で足りるのだろうかと不安になるジョエスト。
その巨大さに呆けてしまった。巨大な為にその動きは緩慢に見えても末端の速度は桁違いだ。感覚と現実が乖離していた瞬間は一時だったが、魔獣の足はジョエストの頭上に振り下ろされていた。
「頑張っただろ? ソーリン……」
ジョエストはそう呟くと穏やかに目を閉じる。振り下ろされた魔獣の足が地面に着く一瞬の間に擦り抜ける一筋の光。
「まだ早いぞ。ジョエスト」
「グランベル……」
金色に輝く甲冑を着たグランベルに抱き抱えられ魔獣の足を見送るジョエスト。
「隊長ー! 大丈夫ですかー?!」
アキタも後からやって来る。
「アキタ隊員まで……。ダメじゃないか! 最後の守りは君たちだぞ! ムラクから応援が来るまでの時間稼ぎが出来なくなるだろう!」
そう言いつつも目が潤んでいる。
「まぁまぁ隊長、此処でやっつけちゃいましょうよ。ほら」
アキタとのやり取り中に、魔獣はジョエストの開けた大穴に足を取られ体勢を崩していた、そしてそのまま倒れ込む。大きな衝撃と風が魔獣を吹き飛ばす。アキタ達は剣や石棒を突き刺し堪えた。今の転倒に巻き込まれた魔獣達はかなりの数になる。
「今ですよ! 隊長!」
アキタはジョエストの背中を思い切り叩く。
「ぐっ、……そうだな。もう何も策など無い……」
ジョエストは一息吐くと魔獣を見据える。
「思い切りぶん殴れ!!! 突撃ー!!!」
「おう!!!」
ジョエストの号令で三人は魔獣へ向かう。此処でケリをつける為に。




