第三十九話 閉じた入り口
「おお、見えてきたぞ。上手くやったようだな、アキタ隊員」
「何だあれは……」
ジョエストとグランベルは魔獣のど真ん中から聖魔門へとやって来た。そこで二人が見たものは聖魔門からムラクへと繋がる谷を横断する巨大な壁だった。
「こんな物、どうやったんだ?!」
グランベルは動揺していた。来た時には無かった巨大な絶壁がほんの短い時間で出現していたのだから無理もない。
「アキタ隊員に残ったバエルの力で作ってもらったんだ。想像以上の力だ……」
「隊長ー! どうすか? こんなものでしょ」
アキタは意気揚々と得意げだ。
「うむ。上出来だ。聖魔門からもそんなに離れていないし、ムラクへと通じる道も完全に塞がれている。良くやった」
「でもこれじゃ味方の応援も来られないんじゃないか?」
グラントはトントンと壁を叩く。
「あ……」
固まるジョエスト。
「なに、何も問題はない。ここで全て蹴散らせば良いだけだ」
「ん? グランベルさんその仮面はなんすか?」
「こ、これは防具だ、だだっ!」
ワタワタと仮面をしまうグランベル。
「防具なのに外すんすか?」
「なっ! し、しつこい男は嫌われるぞ! 行くぞアキタ!」
敵は門の向こうに見えている。グランベルは向かって行く。
「え? ここで……。まあいいか、了解です。よっ」
アキタは地面に向けて手のひらを翳す。すると地面が盛り上がり丁度長剣程の長さの棒が伸び上がる。
「行ってきます」
アキタはジョエストとグラントに言うとグランベルの後を追う。
「行っちまいましたけど、俺らはどうします?」
「待つしかないな」
残された二人。微妙な空気が二人の間を擦り抜ける。
「……死ぬん、すかね。俺ら」
「魔獣が一つや二つなら、生き残る可能性はあるんだが。あの数では、な」
「ここで人柱になるすか」
「嫌かね?」
「なんか、実感は無いすよ。あの二人見てると、行けそうですもん」
遠くで叫ぶ声がする。
「グラン・クレール!」
「アキタスペシャル!」
声が聞こえる度に魔獣達はその数を大きく減らしていく。
「あの二人は異常だよ。魔獣をあんなにいとも容易く屠るなんて普通じゃない」
「グランベルさんは良いとして、アキタはなんなんですか。異常個体です?」
「アキタ隊員は、《《イルグ》》なんだよ。グランベルと同じだ」
「イルグ? それって、全くエーテルが出ないヤツのことすよね。ただの無魔力者となんか違うんすか?」
「無魔力者は、エーテルが計測不能でも、微かに触れる程度はあるがイルグは全く反応しない。そして、漏れなく超人的な身体能力を持っている。ただ、数万人に一人、若しくはそれよりも低い確率で産まれてくる希少種だ」
「へぇ。確かにアイツは強いすね」
「だろ?」
会話は途切れぎこちない時間が過ぎる。その間もグランベルとアキタは魔獣と戦っている。
「……ジョエストさん。アンタ、ブラックオウルでしょ?」
突然、ジョエストの別の姿であるブラックオウルの話しを振るグラント。
「ああ、そうだ」
「あれ? 以外と冷静すね」
「君の勘がよく当たるのは知っている。隠しても無駄なこともな」
「へえ……。まあ、ただ聞いただけすから」
その頃、ブランクの奥では、
バエルと同化し異常な程巨大化した魔獣が遠くを見つめている。雲にも届きそうな巨体、その身体から発せられる暗いオーラはミストによるものだろう。よく見ればその身体からボトボトと何か落ちるのが見える。それは魔獣だ。バエルは無尽蔵に魔獣を産み出し続けているのだ。今はまだ立つだけで動きは無いが、動き出したら手を付けられ無いであろう。
そんな中、トコトコと歩く子供のような人影が一つ。山吹色のローブを纏っている彼は八哥だ。
「はぁ、はぁ……。ジフィが壊れちゃったのは計算外だった」
魔獣の隙間を縫うように上手くすり抜けていく。まるで魔獣が八哥を避けているかのよう。
「本体と連絡が取れなくなっちゃった……。いや、逆に好都合か」
歩く姿はトコトコと可愛らし子供のソレだが強い違和感がある。速度が異常に速いのだ。一歩の距離が見た目以上に伸び、歩く姿と進む距離、速度が全く見合っていないのだ。
「うーん。グリツキーの持つバエル因子のせいで魔獣の生体アクリスが暴走してるのかなぁ。バルバトスの力も影響して幽界の深層階と繋がってるよなアレは。深層階から疽力を吸い上げて巨大化して消費されなかった余剰が純粋な魔獣として産み落とされている……」
八哥は巨大な魔獣を見上げ呟く。
「グリツキーが幽界との門になっているんだ……。このままではこちら側に流れ込んでしまう」
とそこに巨大な鉄槌に乗ったミシャルが現れる。
「やあやあ、久し振りだね」
「? ああ、君か。その姿、趣味が変わったの?」
「まさか。この娘が私の出した浸透薬を飲み干してくれたお陰で憑依出来るようになったんだよ。私本体は研究室にいるよ。本当は片割れの男が良かったんだけどね、結果良かったかな」
「ふーん。ああそうだ、グリツキーを人間から追い出したのは良かったのに、しかし、君のその正す大槌はいい加減だね。因子がコピーされてイルグの子に残ってるんだもの」
「良いじゃないか。どうせ君が取り返しに行くんだ。それまで楽しませてあげればいい」
「……ダウザ・ケ・イラに認識させたかった、てことある?」
「まさか、私はただ、研究者として興味があるだけさ。人間に神の力を与えたらどうなるのか。グリツキー君は召喚実験としては失敗だったけど、彼は私から新しい興味を引き出させてくれた。感謝してるんだよ。私は」
「やれやれ、君は人を何だと思っているんだよ」
八哥は呆れて顔を振る。
「君に言われたくは無いがね。しかし私はグリツキー君を丁重に、友として接するようにしてたんだよ? 彼を歪ませたのは人間だ」
「……。で、君は何してるの? まさか、グリツキーをやっつけに来たわけじゃないよね?」
「面白そうだから見学に来たのさ。まったくこの世界は飽きないよ」
「そうかい。じゃ僕は行くよ。またね、ナイアー……」
「おっと、今は別の名前で呼んでほしいな。それはこの世界での名では無い」
「面倒くさいな。じゃあね、《《ワイズボイス》》」
「ああ、ごきげんよう、《《バエル》》」
二人はそれぞれ別れて自身の道をゆく。




