第四話 東方防魔局防魔隊異常ナシ
防魔隊員の朝。
「くぁああ」
東方防魔局防魔隊員、ダンケス。彼の一日を見てみよう。
ダンケスは防魔隊宿舎で暮らしている。家賃は給料天引き。高くは無いが安くも無い。
三分の一を備え付けベッドが占める部屋を与えられる隊員宿舎は独身者用だ。女性宿舎も建屋は違うが同じ間取り。
「ニアさん、行ってきます」
独身者男性の部屋の壁には大抵ニアの念写絵が貼られている。念写絵とは思念を紙に写し込む紋章片を使用し魔法で描くもので、作者の想像力が試される。この念写絵は東方防魔局の何処かに存在すると言う神念写絵師の作品で、肌の露出はほぼ無いがニアのその健康的でハツラツとした姿、美しい黄金色の長い髪、彼女の美を形作る全てを余すこと無く描き出している傑作。そんな彼女は富豪クララスト家の令嬢 防魔隊員の朝。
「くぁああ」
東方防魔局防魔隊員、ダンケス。彼の一日を見てみよう。
ダンケスは防魔隊宿舎で暮らしている。家賃は給料天引き。高くは無いが安くも無い。
三分の一を備え付けベッドが占める部屋を与えられる隊員宿舎は独身者用だ。女性宿舎も建屋は違うが同じ間取り。
「ニアさん、行ってきます」
独身者男性の部屋の壁には大抵ニアの念写絵が貼られている。念写絵とは思念を紙に写し込む紋章片を使用し魔法で描くもので、作者の想像力が試される。この念写絵は東方防魔局の何処かに存在すると言う神念写絵師の作品で、肌の露出はほぼ無いがニアのその健康的でハツラツとした姿、美しい黄金色の長い髪、彼女の美を形作る全てを余すこと無く描き出している傑作。そんな彼女は富豪クララスト家の令嬢でもある。美しく賢く金もある全てを兼ね備えたニアは男共が恋焦がれる所謂高嶺の花なのであり皆の心のアイドルなのだ。しかしニア本人はそんなことを知ってか知らいでか、古来より魔導技術の大家として知られるクララスト家の血がそうさせるのか、いつもリンクスの下へ潜り油まみれになっている。それがまた男達の心を鷲掴みにする要因ともなっている。
職場は宿舎の隣接している。通勤組は職場で着替えているが、通勤が無いため、歯磨き、洗顔の後ゴワつく防魔着を着用して朝の身支度は終了。そして食堂で朝食。
「んー、鶏の揚物と肉のスパイス煮込み、あとコーヒーゼリー」
朝ご飯は食堂で好きな物を食べられる。代金は給料天引き。ムラクは山間の比較的肥沃な大地の上にあり、様々な食材が生産されている。それらは太古の昔、星の全てを統一した超帝国時代からの名残で、土地の状態や環境によるが基本的にどの国でも同じ様な物はある。
「朝からディナーかよ」
ダンケスの隣には同期のディテス。
「バンガーたるもの、常に肉を蓄えないとな」
「肉蓄え過ぎて脳みそ減ってんじゃねえか」
ディテスは果物数種と発酵乳のゼリーを選んでいる。
「俺はお前らみたいな特能型じゃないから朝からそんなの食えねえよ」
「魔法使い型様は身体の作りが上流階級風だな」
「ふざけろよ」
などとふざけ合いながらの朝食を取り防魔隊詰所へ。制服組は防魔局、現場組は詰所と別れている。
ダンケス達の仕事と言えば、一から十まで訓練である。定められた規定時間分の訓練を毎月熟さなくてはならず、数回脱落した者は退職させられる。訓練は過酷で入隊者の三分の一は一ヶ月以内に退職している。出動も訓練時間に含まれるので、隊員達は表には出さないが出動がある方が少し嬉しい。
「ぐ、ぐへぁー」
「甘ったれんな! ひ弱どもが! 動け! 動き続けろ!」
「くそ、今日は局長いんのか⋯⋯」
「無駄口叩くな!」
東方防魔局局長、ルージィ・グスマン。鍛え抜かれた鋼鉄の如き肉体と鋼鉄の如き精神力で幾多もの死線を乗り越えて来た歴戦の勇士である。別名ヒュージルージィ。制服組と現場組双方のトップである彼は時折訓練に顔を出す。彼のお陰で東方防魔局はニアの熱に浮かされること無く規律を保っていると言われている。
訓練が終わると装備の整備が始まる。バンガーは聖水射出銃、リーダーは通信魔具、タンカーは自身の搭乗するホーリーグレイルの点検整備を行う。整備も訓練の内だ。しかしホーリーグレイルの修理や改装はここでは出来ず、提携しているクララスト家の整備工場へ送られる。
「さて、訓練も終わりか。ここで指導、と言いたいところだが、私用があるので失礼する」
ルージィは帰り支度をする。
「よ、良かったぁ〜」
「ん、指導されたい奴がいるようだな⋯⋯?」
「お、お疲れ様でした!!」
「⋯⋯ふん」
とルージィの向かった先は予備隊だった。
「ジョエストはいるか?」
ルージィが聞くとニアが反応する。
「あれ、ルージィおじさ、あ、いや、局長。隊長は今さっきトイレに⋯⋯」
と視線を向けると大急ぎでジョエストがやって来る。
「お、お待たせしました!」
「⋯⋯いつものアレだ。上手くやってくれ」
「は、はい。仰せのままに」
ルージィは膨らんだ封筒をジョエストに渡すと颯爽と帰って行った。
「なになにぃ? お菓子?」
「極秘資料だよ。あっち行って!」
「ちぇー」
帰りの車の後部座席に深く座り、静かに目を閉じるルージィ。
「許してくれ、ニアよ。お前のためだ。⋯⋯しかし安心しろ、今回も我ながら良い仕上がりだ」
その夜遅く。
館内送話器から一瞬ノイズが入った。合図だ。
ダンケスの部屋明かりを付け待つ。暫くするとドアを誰かがノックする。独特なリズムのそれは《《特別な贈り物》》の知らせだ。ダンケスはドアに近付くも開くことはせずじっと待つ。このときドアの向こうは見ないのが作法だ。そしてドアの下の隙間から封筒が忍び込まされると徐に手に取り中を確認する。
「これはまた⋯⋯。サンキュー、R」
Rとは封筒に書かれた走り書きのことだ。中身はニアの念写絵。新作だ。何時もの通り、期待以上の仕上がり。卑猥とか、エロティシズムとは無縁のこの作品はしかし男達に嵐の如く幸福をその身に浴びせ掛ける。この夜、東方防魔隊男性隊員の誰もが神念写絵師Rへの感謝を胸に、そして明日への希望を持って眠りに就いたのだった。
Rとは誰なのか、誰も知らない。しかし詮索など野暮なことはしない。彼、いや彼女かも知れないその者が存在してくれるだけで尊いのだから。
こうして東方防魔局の一日は終わった。
東方防魔局防魔隊隊長の日誌の締めくくりに今日もこう書かれる。
「東方防魔局防魔隊 本日も異常ナシ」
。美しく賢く金もある全てを兼ね備えたニアは男共が恋焦がれる所謂高嶺の花なのであり皆の心のアイドルなのだ。しかしニア本人はそんなことを知ってか知らいでか、古来より魔導技術の大家として知られるクララスト家の血がそうさせるのか、いつもリンクスの下へ潜り油まみれになっている。それがまた男達の心を鷲掴みにする要因ともなっている。
職場は宿舎の隣接している。通勤組は職場で着替えているが、通勤が無いため、歯磨き、洗顔の後ゴワつく防魔着を着用して朝の身支度は終了。そして食堂で朝食。
「んー、鶏の揚物と肉のスパイス煮込み、あとコーヒーゼリー」
朝ご飯は食堂で好きな物を食べられる。代金は給料天引き。ムラクは山間の比較的肥沃な大地の上にあり、様々な食材が生産されている。それらは太古の昔、星の全てを統一した超帝国時代からの名残で、土地の状態や環境によるが基本的にどの国でも同じ様な物はある。
「朝からディナーかよ」
ダンケスの隣には同期のディテス。
「バンガーたるもの、常に肉を蓄えないとな」
「肉蓄え過ぎて脳みそ減ってんじゃねえか」
ディテスは果物数種と発酵乳のゼリーを選んでいる。
「俺はお前らみたいな特能型じゃないから朝からそんなの食えねえよ」
「魔法使い型様は身体の作りが上流階級風だな」
「ふざけろよ」
などとふざけ合いながらの朝食を取り防魔隊詰所へ。制服組は防魔局、現場組は詰所と別れている。
ダンケス達の仕事と言えば、一から十まで訓練である。定められた規定時間分の訓練を毎月熟さなくてはならず、数回脱落した者は退職させられる。訓練は過酷で入隊者の三分の一は一ヶ月以内に退職している。出動も訓練時間に含まれるので、隊員達は表には出さないが出動がある方が少し嬉しい。
「ぐ、ぐへぁー」
「甘ったれんな! ひ弱どもが! 動け! 動き続けろ!」
「くそ、今日は局長いんのか⋯⋯」
「無駄口叩くな!」
東方防魔局局長、ルージィ・グスマン。鍛え抜かれた鋼鉄の如き肉体と鋼鉄の如き精神力で幾多もの死線を乗り越えて来た歴戦の勇士である。別名ヒュージルージィ。制服組と現場組双方のトップである彼は時折訓練に顔を出す。彼のお陰で東方防魔局はニアの熱に浮かされること無く規律を保っていると言われている。
訓練が終わると装備の整備が始まる。バンガーは聖水射出銃、リーダーは通信魔具、タンカーは自身の搭乗するホーリーグレイルの点検整備を行う。整備も訓練の内だ。しかしホーリーグレイルの修理や改装はここでは出来ず、提携しているクララスト家の整備工場へ送られる。
「さて、訓練も終わりか。ここで指導、と言いたいところだが、私用があるので失礼する」
ルージィは帰り支度をする。
「よ、良かったぁ〜」
「ん、指導されたい奴がいるようだな⋯⋯?」
「お、お疲れ様でした!!」
「⋯⋯ふん」
とルージィの向かった先は予備隊だった。
「ジョエストはいるか?」
ルージィが聞くとニアが反応する。
「あれ、ルージィおじさ、あ、いや、局長。隊長は今さっきトイレに⋯⋯」
と視線を向けると大急ぎでジョエストがやって来る。
「お、お待たせしました!」
「⋯⋯いつものアレだ。上手くやってくれ」
「は、はい。仰せのままに」
ルージィは膨らんだ封筒をジョエストに渡すと颯爽と帰って行った。
「なになにぃ? お菓子?」
「極秘資料だよ。あっち行って!」
「ちぇー」
帰りの車の後部座席に深く座り、静かに目を閉じるルージィ。
「許してくれ、ニアよ。防魔隊のためだ。⋯⋯しかし今回も我ながら良い仕上がりだった」
その夜遅く。
館内送話器から一瞬ノイズが入った。合図だ。
ダンケスの部屋明かりを付け待つ。暫くするとドアを誰かがノックする。独特なリズムのそれは《《特別な贈り物》》の知らせだ。ダンケスはドアに近付くも開くことはせずじっと待つ。このときドアの向こうは見ないのが作法だ。そしてドアの下の隙間から封筒が忍び込まされると徐に手に取り中を確認する。
「これはまた⋯⋯。サンキュー、R」
Rとは封筒に書かれた走り書きのことだ。中身はニアの念写絵。新作だ。何時もの通り、期待以上の仕上がり。卑猥とか、エロティシズムとは無縁のこの作品はしかし男達に嵐の如く幸福をその身に浴びせ掛ける。この夜、東方防魔隊男性隊員の誰もが神念写絵師Rへの感謝を胸に、そして明日への希望を持って眠りに就いたのだった。
Rとは誰なのか、誰も知らない。しかし詮索など野暮なことはしない。彼、いや彼女かも知れないその者が存在してくれるだけで尊いのだから。
こうして東方防魔局の一日は終わった。
東方防魔局防魔隊隊長の日誌の締めくくりに今日もこう書かれる。
「東方防魔局防魔隊 本日も異常ナシ」




