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第三話 事件発生!

 「アキタ隊員、ちゃんと出動の中身を確認してから動くこと。いいな?」

 「はい……」

 「そうしていたら、この前も最初に拗れずに済んだんだ」

 「はい……」

 意気消沈なアキタ。

 「……なんだ、元気無いな。老人達の言葉に気を病んだのか?」

 いつもに無いアキタの姿に心配するジョエスト。その後ろからニアも覗いている。

 「いや、あの人達が助かったなら良いんす。でも」

 机に伏せ出すアキタ。

 「でも?」

 「俺、の……。活躍が、無いんです」

 「活躍?」

 「活躍出来て無いんす。本隊へ入る為には活躍が、手柄が必要なんす……」

 アキタは回想する。

 アキタはムラクの城壁外の小さな村に産まれた。

 ムラクは魔導樹のある首都ムラクの周りに無数の集落が広範囲に点在している。ムラク領の東側は二つの山の合間になり、その合流点には巨大な閉ざされた門、聖魔門がある。その門の先には数多の国が支配を諦めた広大な大地、ブランクが広がっている。逆の西側は最外縁にはムラクの砦や個人的に城壁を持つ富豪の城塞があり、それらが国内外の脅威からムラクを守っている。アキタの産まれた村はムラク西南の端にあり、首都の恩恵を授かり難い僻地のような貧しい村だった。

 アキタは村の仕事をその馬鹿力で次々と熟していく一番の働き者だった。その性格から誂われることも多かったが、根が素直なために皆から頼りにされる存在だった。

 そんな村に魔災が発生した。小さな村では魔災対応など出来ず、西方防魔隊の支隊が助けに来るのを待つしか無かった。しかし、防魔隊は中々来ず、ミストは益々勢いを増していく。村の仕事で遠くから帰って来た時にその場面に遭遇したアキタは成す術無く立ち尽くす他無かった。

 「ああ、あああああ……」

 そして遂には村全てを、アキタの両親、村の人達、アキタの今までの全てを飲み込んでいった。

 アキタは膝から崩れ落ち、全てに絶望した。後は自分一人と悟った時、アキタは自暴自棄になりミストへと突入して行った。ミストを止められる訳も無いのに。

 「ああああ!」

 アキタはミストの中、自身の身体に暗いシミを刻み続け、やがて自我が崩れていくのを感じた。しかしそれでも足を止めず駆け続けた先に有るミストの根元、そこに到達した時にアキタは見た。村一つを飲み込む程に大きなミストの根元、そこにあったのは大きな《《裂け目》》だった。そしてアキタは強烈な恐怖に駆り立てられる。裂け目と言う他に言い得ない空間を縦に切り裂いているそれのそのさらに奥、漆黒の闇が満ちた裂け目の先から此方を覗く二つの瞳が、確かにアキタを認識し目視していたのだ。そこから迫りくる押し潰されそうな威圧感、刺殺されそうな鋭利な敵意若しくは殺意を含んだ視線はアキタを固まらせるには十分だった。

 「中を見るな!」

 その時上空から声が聞こえた。

 アキタはその声の方を見上げるといつの間にかミストが充満し暗く薄紫色になっていた空の一部がシャボン玉が弾けたように破れ広がり青い空が戻る。

 シャボン玉を破ったそれはアキタの横に爆風を伴って着地し、その風圧に吹き飛ばされたアキタは転がり止まった先でなけなしの意識を振り絞りそれを見る。

 それは全身防護型防護装具(マクシミリアン)を装備した一人の防魔隊員だった。祝福された紋章と攻撃的防御呪文を複雑且つ精緻な密度で織り込んだその装具は常に周囲のミストを浄化していく。それは並の隊員でないことは明白だったし、仮にそれが何かも解らないにしても、その威厳と溢れ出る神聖性が見た者の心と身体に頭を垂れるべき存在と認識させる。

 その光がアキタを安心させたのか、アキタの精神が限界を超えたのか、意識を失い次に目覚めたのはベットの上のだった。

 目覚めた時、傍らには一人の女性がいた。

 「そろそろだと聞いてね。君にはもう何も無い訳だが、もし良ければ防魔隊へ来ると良い。局長もそれを望んでいる。君が良ければ、だがね。気が向いたらここを訪ねて欲しい。では」

 去る女性からアキタは目を離せないでいた。その女性に正しく目を奪われたからだ。落ち着いた雰囲気、整った顔立ち、きっちり纏め上げられた金髪や制服の着こなしからその実直な性格が伺い知れる。まあ、防魔隊なら実直でなくてはな、等と思いながらしかしその女性の魅力に取り憑かれてしまったのだった。そして彼女の残した紙を手に取る。

 「そんなもん、決まってんだろ」

 と国立医療院を退院したアキタは紙を手に防魔隊へと赴くと、

 「ん? なんだ、入隊希望か? なんだこの紙切れは、他当たんな」

 次の防魔隊では

 「遊びじゃねーんだよボウズ」

 他の隊では

 「現場で死ぬか、ここで死ぬか、どっちが良い?」

 「くそ、訳わかんねーよ。最後のなんなんだよ」

 散々だった。

 そして最後の隊。

 「ふんふん、これは……。ここまで色々あったみたいだね。その顔を見れば何となく分かる。よし、ここで採用しよう」

 「ほ、本当に?!」

 「ああ、丁度部隊が新設されるところで隊員を探していたんだよ。君は適任そうだ」

 「やった! ありがとうございます!」

 「うんうん、私はジョエストと言う。恐らく君の上司になる。宜しくな」 

 「はい! 宜しくお願いします!」

 ようやく辿り着いた防魔隊、思わず拳を握る。そして心に誓う。

 「ここから成り上がってあの人の所まで行ってやる。手柄を、手柄をしこたま上げてやるー!」

 回想から現実に戻っても拳を握るアキタ。

 「手柄を!」

 そんな背景はいざ知らずアキタの悩みに気が抜けた二人。

 「なんだ、そんなことかアキタ隊員」 

 「馬鹿な悩みねえ」

 ジョエストは優しくアキタの肩を叩く。

 「安心したまえ、今の君が本隊に行くことはまず無いから」

 「えっ?」

 「はあー、心配して損したー」

 とニアは席を立つ。

 「なんだよ皆して! あ、ニア逃げんのか!?」

 「逃げるって何からよ。報告書提出に行くんです。隊長からも許可貰ってますから」

 と、ニアは出て行った。

 「くそ、手柄! 来い手柄ー!」

 アキタは机に乗り上がり叫ぶ。

 「はっはっは、はぁ……。こりゃー、一生無理かもな……」


 「んー、良くやった、私!」

 ニアは期日ギリギリで完成した報告書を提出し、肩の荷が降りた開放感で今にも飛び立てそうだ。

 彼女はムラクの行政機関が集まるセントラル地区にいる。各防魔隊へ指示を発令する司令部を有する中央防魔局もここにある。

 「さて、と」

 一伸びしたニアは視線をムラクの中心にある魔導樹へとむけると、セントラル地区のさらに奥へと姿を消した。


 「だーかーら! 知らねって言ってんだろ!」

 「おめえが知らなくてもあったんだよ! どうしてくれんだよ!」

 ニアが戻ってくると何やら騒がしい。

 「なになに? 喧嘩? 乱闘?」

 火事と喧嘩はなんとやら、ニアはワクワクしながらその出所を覗く。

 「あの村のジジイ共はなんも言って無かったし、知ってたらそれなりに動いたっつーの!」

 「アキタじゃん」

 その向かいには、

 「キレイに流しやがってよ! 証拠が殆ど残ってねーだろうが!」

 防魔隊では無い制服の人間が数人。

 「あれは、警縛隊の制服……。アイツは……」

 「警縛隊のグラント君とその取り巻きだね。彼、最近昇格したそうだよ。元気だね」

 とジョエストが後ろから迫り出して来る。

 「うわ、隊長! っとと」

 ニアは《《火元》》へと躍り出た。

 「え、えーと」

 「ニアさん! いつも見目麗しい!」

 「いや、その、何してん、の?」

 手を握ろうとしてくるグラントを軽く躱し辺りを見回すニア。

 「聞いてくれニア! コイツ、俺らが証拠隠滅したって騒いでんだよ!」

 「証拠隠滅って、何の?」

 「ええい、ニアさんにいつまでも馴れ馴れしい奴だ! たとえ、防災組織に立つ煙、煙たい予備隊スモーキー・サブタンクにいたとしてもクララスト家ご令嬢だぞ!」

 聞いたことの無い二つ名だが、褒められていないのは分かる。

 「馬鹿にしてんの?」

 「やや、ニアさん。これはですね……」

 グラントがニアを宥めながら説明する。

 「えー! あの火事の中に人が居た?!」

 「ええ、あなた達の後を引き継いだ防魔隊が現場を確認していた所、赤子程度の骨が見つかったのです」

 「で、でもあの村の人達はそんなこと一言も言って無かったよ」

 「あった物はあったんです。今後あの村は我々警縛隊が調査管理しますので、不必要な接近はご遠慮願います」

 チラリとジョエストを見るニア、頷くジョエスト。

 「まあ、私達としても用は無いから別にいいけど」

 「では、失礼します」

 グラントは取り巻きを引き連れ帰って行った。 それと同時に野次馬達も散り散りに消えていった。残された三人。

 「……それ言うだけに来たの?」

 「ニアが目的だろ? 目障りだから帰れつったらキレ出してよ。そこから長かったんだよ」

 「アンタ達仲悪いもんね」

 「まあ、あの村はこれから上の方の管轄になる様だから私達は関わることは無いね」

 ジョエストがヨッコラショと席に着く。

 「そう、ですね」

 ニアは不穏な何かを感じていた。

 

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