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第二話 火災発生!

 「出動だ!」

 「目標どこだ?!」

 ワーワーと今日も今日とて魔災に忙しい防魔局。

 ムラク教皇国、それは教皇が統治する宗教国家。大陸の中央北側付近に位置し、山と山の間、平野へと繋がる山峡にあるその国は世界中で信仰されるグリゴリ教の聖地の一つであり、太古から続く長い歴史を持つ。

 国の中心に魔導樹と呼ばれる大樹があり、それが発する聖なる力によって城壁内は護られていて、聖なる国として世界から特別視されている。

 また、ムラクが特別視される理由はもう一つある。

 「面倒くさーい!」

 ニアは事務机に向かい資料を作成していた。

 彼女はその超優秀な頭脳をもってして国の特別資格、上級魔導技能技工士の資格を有している。それはムラクが世界有数の技術大国であり、その技術を有効に活用出来る者に与えられる資格である。

 ムラクで産まれる最新技術と、それを理解し応用することの出来る上級魔導技能技工士、それらの存在が、ムラクが特別視されるもう一つの理由である。

 「頭良いってのも大変だねー」

 と横でアキタも何か書類に向き合っている。

 「馬鹿みたいなことして始末書書かされてるどこかの馬鹿よりはマシよ」

 「ああ、こんな筈じゃ無かったのになあ。なんで誰も評価してくれないんだあああ!」

 アキタは頭を掻きむしる。  

 「考えれば分かるけど考える頭が無いから無理だね」

 ニアは軽く流し自身の課題に取り組んでいく。

 上級魔導技能技工士、長いので一般にはマイスターと呼ばれるそれは三ヶ月に一回研究報告を作成し、国に提出する義務がある。

 「つうか、家でやれよ。非番だろ?」

 「いいでしょ。ここの方が集中出来るの」 

 アキタは周りを見渡す、

 「どけー!」

 「ちんたらすんな!」

 視線を始末書に戻すアキタ。 

 「……集中、ねえ」

 「ほうほう、励んでるねぇ」

 とジョエストがやって来る。

 「ニア隊員はマイスターの課題かな?」

 「そうです。ヤバいんです」

 「ふーん、なになに、"稀少種イルグの肉体及び魔導的特性について"……」

 「ちょっ! 隊長、見ないでくださいよ!」

 「なかなかにアカデミックな内容みたいだね。技術屋とは思えない程に」

 「マイスターの報告内容は極秘事項なんですから!」

 「だったら家でやればいいのに……」

 「そ、それは……。落ち着くんです! ここが!」

 「ふーん……。まあ、アキタ隊員に迷惑掛けないようにね」

 「え?」

 呆気に取られた表情のニアを余所目にジョエストは微笑みながら去って行った。

 「ほんとだよ。迷惑掛けんなよ、俺に」

 「逆でしょ逆!」

 暫くして館内送話器が鳴る。

 「中央より各局へ出動連絡。東区城壁外にて火災発生、東方防魔局防魔隊は直ちに出動してください。目標は……」

 「あー、出動か」

 「頑張れー」

 暫しの沈黙が辺りを包む。

 「……あれ?」

 さっきまでの慌ただしさがやって来ない。

 「誰もいない? 出払っちゃってんの?」

 そこへジョエストが現れる。 

 「皆出動だ。他の隊は全て出払っている。我々の出番だ!」

 「よ、よ……よっしゃー!」

 「アキタ、火災よ火災。分かってる?」

 「行くぜー! 待ってたぜ災害!」

 「不謹慎過ぎるわ」

 アキタは喜び勇んで準備に走る。

 「隊長、火災なら私達が行かなくても」

 「なんでも過疎の進んだ村らしくてね。年寄りばかりでエーテルが衰えてる人ばかりだそうだ」

 「はぁ……。あ、じゃ尚更、火災の場合はアキタが行っても……」

 「さ、早く行くぞニア隊員。火事も燃え広がれば魔災並みに厄介だからね」

 「了解です」

 準備を整え出動する二人。アキタはとうに出てしまったので追いかける。

 「速いねえ。アキタ隊員は」

 「でも……」

 ニアが言いかけると前にはアキタが手を振っている。

 「おーい!」

 目標が分からず待ちぼうけしているアキタと合流した。

 「場所わかんなくて」

 「でしょうね。場所は東の先、聖魔門の近くにある村よ」

 「そっか! じゃ」

 「あ、ちょ!」

 「私達も行こう」

 進むこと暫く。

 何やらアキタと村人達が揉めている。

 「あーあ、やっぱり」

 老人が声を荒げていた。

 「魔法を使えん人間は悪魔の使いじゃ! 神から見放された穢れた人間じゃ! 出ていけ!」

 「わ、ちょ、石を投げんなよ! 助けに来たんだって。水汲みに行くから!」

 「穢れた人間の助けなぞ要らん! この火もお前がやったんじゃろ!」

 「違うって」

 喜んでたのにな、とニアは思ったが流石に心にしまった。

 そうこうしている間にも火の勢いは増し家一軒分丸々飲み込んでいる。早くしないと延焼して周りの家にも飛び火しそうだ。

 ジョエスト達を見つけたアキタは助けを求める。

 「隊長! 何とかしてください! 魔法使わないって言ったらこんな感じになっちゃって……」

 そこへジョエストが割って入る。

 「はいはい、すみませんね。ウチの隊員なんですよ。若いんでね、許してやってください。ニア隊員、消火を頼む」

 「了解」

 ニアは金属のカードを取り出すと手のひらに乗せる。するとカードから水が溢れ出す。そのまま手のひらにを火元へ向ける。カードは手に吸い付くように静止し落ちない。

 「危ないので下がってください」

 そう言うとニアはフッと息を吐き手に力を込める。すると優しく湧き出ていた水の勢いが急激に強まりまるで荒れた河川の激流のような水流が火に飛びかかる。その激流は火の勢いを完全に消失させ、程なくして鎮火した。

 「さすが、ニア隊員。一級魔法使いなだけあるな。魔法士の私なんかの出番は無かったよ」

 「お褒めの言葉ありがとうございます」

 棒読みのニア。

 「おお! なんと魔法使いじゃと! 本物と会うなんて幾歳ぶりかのう!」

 とニアの周りにはいつの間にか大勢の老人が集まっていた。中には恍惚の表情で、まるで神を見るかのように両手を組んで見上げる者もいる。、

 「なんすか、あれ。魔法使いだからって偉い訳じゃないでしょ」

 「まぁ、魔法使いは珍しいからね。そして君みたいな無魔力者も珍しい。しかし魔法使いとは扱いは真逆、昔は迫害も酷かった。今でもまだその名残はある。だろ?」

 「まぁ、そすね」

 「田舎ほど根強く残ってるからね。ま、君は大丈夫そうだけど」

 「そうでも、ないっす、けど」

 火は完全に消え去り、黒く焼け焦げた家屋の骨組みだけ残っていた。あれだけ水を掛けたのにも関わらず周囲に水気が全く無いのは魔法の水だからだ。魔法は人間が生み出すのエーテルを変換して発現される。そうして生み出された物はエーテルの供給が途絶えると途端に霧散し消えていまうのだ。その為、ニアが作り出した水は消えて無くなっている。

 「撤収する」

 あとは本隊が引き継ぐようで予備隊は帰還することとなった。

 帰りはジョエストは箒、ニアはリンクス、アキタはリンクスの上に乗って帰路に付く。

 ニアが口を開く。

 「アキタってさ無魔力者なのによく防魔隊入れたよね」

 「悪いのか?」

 「あ、いや、そう言う意味じゃ無くて。普通なら門前払いされるのが落ちだと思うんだ」

 「それはアキタ隊員の身体能力が素晴らしいからだよ。魔法が使えない不利を補って余りある程に全てのレベルが桁違いに高いのだよ」

 ジョエストは微笑みながらアキタを見る。

 「それに無魔力者だからといって差別するのは良くないからね。同じ志しを持つもの、同志なら何人でも受け入れる用意は常にあるのだよ。それが防魔隊だ」

 「そ、そうですよね。何言ってんだろ私。ごめんねアキタ」

 態度がいつもと違うニアをアキタは不思議に思った。

 「どうしたんだ?」

 「何でもない」

 そこにジョエストが割って入る。 

 「ところでアキタ隊員、始末書は出来てるかな?」

 「げっ。忘れてた。帰ったら書きます……」

 「あー、私も報告書書かなきゃ……」

 重苦しい空気を背負い三人は防魔隊へと帰って行った。

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