第一話 魔災発生!
「中央より各局、出動連絡、東区にて魔災発生。 東方防魔局防魔隊は直ちに出動してください。 目標は……」
館内送話器より鳴り響く警報と不自然な程に単調で冷静な指示連絡。それと同時に慌ただしく動き出す多数の人間達。ここは東方防魔局、防魔隊詰所。多数の隊員が慌ただしく出動する中、のんびりお茶を飲む三人が居た。
「頑張れ〜」
「隊長! 俺達も出動……っておいニア!俺のクッキー取るなよ!」
「あああ、走らないでくれよ。揺れて腰に来るんだよぉ」
そんな緊急事態とは場違いな三人に隊員達は苛立ちを隠さない。
「ええい! 邪魔だ予備隊共! 」
などと罵りながも隊員達はあっという間に装備を整え出て行った。残された三人。
「ジョエスト隊長ー。なんで行かないんすか」
「ふむ、アキタ隊員。新人だから何度も言うがね、我ら防魔隊予備隊は本隊の補佐とその他、本隊では行えないような特別任務を主なる活動内容とした特殊任務部隊なのだ。それに此処を空にするわけにもいかんだろう。言わば城を任された最終防衛ラインのだ」
「た、確かに……。最終防衛ライン……へ、へへ」
「馬鹿じゃないの? たった三人で守れる訳ないでしょ。それにムラクの城壁内で誰がここを襲うってのよ。何のメリットも無いわ」
「ニア隊員。それは……そうだね」
「はぁああ……。なんで予備隊になんて配属になったんだろおおお。本当は中央に行ける筈だったのにいいい」
ニアは椅子の背もたれに仰け反りながらため息とともに恨み節を吐く。
「ウチの隊なんて……」
とバッと体を起こし、そしてアキタを睨みつける。
「な、なんだよ」
「馬鹿力馬鹿」
「はぁ?!」
そしてジョエストを睨みつけ
「チビデブハゲ魔法中年」
「うっ」
「はあ……、なんでなの……」
「それは君が超優秀で、あの複雑怪奇な倉庫の肥し、もとい軽魔導聖水輸送装甲車、通称リンクスを操れるからだよニア隊員」
「それは散々聞かされました嫌になるくらいに。あれは……、実家に整備でよく来てたし、おじいちゃんに良く教えて貰ってたから、だから知ってるだけです」
「だったら防魔局なんか来ないでさ、実家が富豪なんだからそのコネでもっと良い所行けば良かったんだよ、っていつも言ってますがねご令嬢様」
「ノーコメント」
と、そこへ館内送話器から声が部屋に響く。
「予備隊出動要請。隊長は総務課までお越しください」
「ほーら仕事だ。何かなあ」
ジョエストは腰を押さえながら総務課へ向かう。
それから数分後、ジョエストが帰って来た。
「さあ、行こうか!」
そして市街。
「んで、やる事ったら猫探しかあ」
地面を這いつくばり隙間を覗くアキタ。
「リンクス持って来たんだから無駄なことしない」
ニアは配線や計器、何かしらの器具で埋め尽くされ一人しか入る余地の無いリンクスの操舵席。
「貰った猫の毛からエーテル波動識別反応器掛けてるんだから……」
と、盤上に映る図形を読み取っている。
「猫って小さいから……、あ、いた! 東区の住宅街! 住所は……」
ニアは手書きで住所をメモする。
「はい、隊長! 先行して!」
「よし、ニアは魔導通話機付けてるな? 空から誘導する。アキタは猫捕獲装備準備出来てるな?」
「バッチ来い!」
アキタは手に柄の長い捕獲網。それを確認するとジョエストは箒に跨り空へと飛んでゆく。
一行は箒に乗ったジョエストの誘導で猫の元へと向かって行くと、何やら騒がしくなって来る。
「ああ、不味いな……」
「隊長、どうしたんですか?」
「防魔隊がいる。魔災の現場だ」
目的の場所にはジョエスト達より先に魔災で出動した防魔隊達がいた。
魔災とは何処からともなく暗い霧、暗霧が発生し、周囲を被害を与える現象。ミストは周囲の物質からエーテルを奪いその規模を拡大していく。ミストに覆われエーテルを吸い取られた物質は脆く崩れやすくなり、人の場合は数分で死に至る。
「そっちにミスト回ったぞ! バンガー何人か向かえ、早く!」
ミストとの最前線で激が飛ぶ。
前線ではバンガーと言われる前衛隊員が聖水をミストへ放水し浄化する。
「リーダー! 転戦先座標くれ!」
後方には聖水を運搬する車両、魔導聖水輸送装甲車が待機し前線へ聖水入りタンクを射出する。
「ダンケス! タンク行くぞ、右後方17時の位置!」
上空には隊のリーダーが前線のバンガーと後方のタンカーとの中継役をしている。
「よしゃ!」
とバンガーのダンケスは両手に持っている聖水射出銃から空のタンクを脱落させ、着弾した新たなタンクを取り付けミストへ向かう。
「二番隊出過ぎだ下がれ。ミストに囲まれるぞ」
さらに上空では箒に跨った集団、上空指揮所が全隊の状況を把握し逐一指示を出す。
ミストはエーテル濃度が極端に低い。そこに特濃のエーテル充填水である聖水をぶち撒けることで急速にエーテルを充足させ浄化する。またミストは湧き出る《《根元》》があり、防魔隊はミストの浄化とともに根元消滅を目的に活動している。
「あちゃー。あの辺りだな。被っちゃてるよ」
ジョエストは困った風に言う。
「流石に、あの中では生きてない、わよね……」
「防魔隊、本隊がいる……。上空指揮所もある程のデカい魔災……」
アキタはブツブツと独り言を言っている。視点が定まっていない。
「ちょっと、アキタ?」
「見せ場だ……、手柄を……。ふふ、ふふふふははははは!」
「ちょっと!」
アキタは一人突撃する。
「ああ! 馬鹿!」
「猫捕獲装備なんかじゃ魔災は無理なんだけどなあ。《《普通》》は」
駆け抜けるアキタ。
「うおおお! 応援でーす!!」
「ん? あ、あれは予備隊の!」
アキタは前線へ突っ込む。
「よっ」
アキタは途中で軽く飛び上がると常人の数倍は高く上がり、
「聖水貰ます!」
と射出された着弾前のタンクを掴み着地する。
タンクの蓋を握り力ずくでこじ開けると中身を全身に浴びる。
「ああ、そんな高濃度のエーテルを浴びたら中毒症状が起こるぞ!」
「ああ? 大丈夫! よし」
アキタはミストの中へ突入していく。
「な、なんだ?! うわ!」
「はいはいどいてどいて! タンク貰いまーす」
周りを見渡すアキタ。
「根元はあ……。あそこか」
アキタの視線の先にあるのは一段とミストの濃い部分。そこへ左手でタンクを放り投げるとすかさず右手で地面から小石を拾いタンクへ向かって投げ付ける。
バスンっ! 圧力を掛け聖水をパンパンに詰め込んだタンクが破裂し衝撃波と共に根元に大量の聖水が浴びせ掛けられる。
「はははは! どうですかー! 指揮所の皆さんー!」
「アイツか……」
上空指揮所でもアキタの行動は把握されていた。
「しかしまあ、根元は弱まった。一から三番隊は集中放水、その他の隊は残霧の処理だ」
その頃地上では。
「お前なあ!」
アキタは隊員に胸ぐらを掴まれていた。
「んですか!? アンタ等がちんたらしてるから手伝ってやったんでしょうが!」
そこにリーダーが降りてくる。
「おい、止めとけ。指示の座標に向かうぞ」
隊員二人はアキタに背を向る。
「手柄を見せたかったんだろうがな、生憎防魔隊はお前の様なヤツは要らない。一人でヒーローごっこやってるんだな」
「……なんだよ」
アキタはそのまま猫を探す。
「あーあ、また遠のいちゃったね。本隊入り」
ニアはリンクス内でそう呟きながら何気なく識別反応器を見ると、
「あ、いる! 猫まだ生きてるよ!」
防魔隊がミストの残りを処理している中、三人は反応のあった場所へと向かう。
「……、これか」
「猫……だよね」
「んー、耳はそうだね」
三人は草むらに蹲る目標を発見したが、それを囲みながら首を傾げている。大きさは猫で、耳も猫で、猫のようにフサフサだが、その他は人のそれだった。何度と識別反応器を見てもここを示している。ミストにやられたようで息が荒くぐったりしている。
「なんか猫の容体が悪そうだから私はこのまま報告に行き医療班に診てもらう。君等はここで解散だ」
と敬礼し解散するとジョエストは猫を抱き中央へと向かう。
「撤収だー!」
防魔隊員達も帰還する。
「お前今日突っ込んだな。結構シミ付いてるぞ」
活動中にミストに触れた隊員達は顔に黒んだシミを作っている。
「マジかよ。まあ良いよ。すぐ消えるだろ」
などと言いながら空のタンクを回収しながらタンクまで戻る。また魔災現場には浄化後にミストが変化した白い粒がそこら中に撒き散らかされている。
「清掃局です。塩回収入りますので現場引き継ぎます」
「宜しくお願いします」
と敬礼し現場を交代する。
辺り中に散らかった白い粒は塩と呼称され、防魔隊とは違う制服を来た別の組織が回収していく。
ニアが操縦するリンクスの上でアキタはニヤニヤと不気味に笑っている。
「ふふふ、今日の俺の活躍……。上空指揮所も見てた、ふふふ。本隊も近い、ふふふ」
「……無理だと思うよ」
二人は詰所へと帰還する。




