第五話 川遊びは危険の感触
「隊長、私達何やってるんですかね」
「何って、川を眺めてるんだよニア隊員」
遠く河川の真ん中からアキタが叫ぶ。
「隊長ー! なんかでっかい虫がいまーす! 石捲ったらいましたー!」
「そーかー! それは良かったー! 引き続き頼むぞー!」
ジョエストは手を振る。
「総務課からの依頼だからね。何処かの貴族がペットと川で遊んでたら逃げちゃったって。飼い主が可哀想じゃないか」
「いや、飼い主が悪いでしょそんなの。そしてそんなペットごときにリンクス持ち出す必要あります?」
「まあまあ、念の為、だよ」
ニアはリンクスの搭乗ハッチから半身を乗り出して川を眺めている。そんなニアの斜め下、川岸に座りボーっと遠くを眺めているのはジョエスト。リンクスが近くに無ければ仕事をクビになり途法に暮れる中年男性だ。
ここはムラク城壁外西側にある大きな川。川の周りは開けた平野で、見渡す限り何も無い。
今回リンクスには後方に牽引した通常は聖水タンクを搭載するトレーラー部の射出台に何か器具が搭載されている。それも二つ。ジョエストが載せた物らしく「合図したら撃て」とのこと。
「アキタは楽しそうだなあ⋯⋯ん?」
リンクスの表示系に反応がある。
「これはエーテル反応? かなりデカいわ……」
その時アキタは足に違和感を覚えた。
「ん? ここらへん、なんかブニブニするな」
アキタは靴の底でブニブニする辺りを思い切り踏みつける。
「隊長ー! なんかここ変ですー! 隊長ー!」
「ああ、出たな⋯⋯」
ジョエストは何やら呟いている。
「あれ、聞こえて無いのか……」
「アキタ! 逃げて!」
ニアはそう言うと、直ぐ様リンクスの操縦席へ滑り込み標準を合わせ威嚇用機銃を掃射する。装填されている弾は標的に当たったらすぐに砕ける圧縮粉体弾だ。
「うわ! やめろ!」
アキタは突然のことに困惑し理解が追い付かない。
ニアの掃射が終わったとき、アキタはニアに向かって口を尖らす。
「おい! 危ねえじゃねぇか!」
その最中もリンクスから上半身を飛び出させたニアは何か身振り手振りで訴えている。するとアキタの頭上に水が滴り落ちてきた。
「ん?」
その方を見てみると透明な物体が空一面に広がりアキタに覆い被さろうとしている。
「んんんん!?」
咄嗟に横っ飛びし取り込まれることを回避したのを見てジョエストは叫ぶ。
「惜しい!」
アキタは、急いで二人の元へ駆け戻る。
「な、なんだよアレは! つか隊長惜しいってなんだよおい!」
「アレがペットだよ」
「は?!」
「さる貴族様の愛玩獣のギガンティックスライムだ。さ、捕獲捕獲。セカンドプラン行くぞ。はい、アキタはこれ持って」
「なんでそんなものがペットに⋯⋯」
ニアが当然な疑問を口にするもお構いなしにジョエストは輪っかの付いた棒をアキタに渡す。握った瞬間ワイヤーが飛び出て腕に巻き付きロックされる。
「え、は? これは?」
「それでヤツのコアを捕らえるんだ」
「はい?」
「その輪っかから特殊な超音波が出て、硬さの違うコアの位置を特定、自動捕捉して掴みに行くから。君は引っ張られるだけで良い」
「いや、そうじゃなくて」
「説明はすることはもう無い。ニア隊員、一射目撃て!」
「え? 今? は、はい!」
ニアはジョエストに言われていた発射合図を受け、トレーラーの謎の器具を撃ち出した。それはギガンティックスライム目掛けて跳んで行く。
「タンク? へひっ!?」
そのすぐ後、アキタもひったくられる様にくの字に折れ曲がりながら飛び去った。
「アキタには防魔着のベルトの代わりに飛ばしたタンクと魔導的に連結された魔導結索装置を付けて貰った。本人は気付いて無いと思うけど」
「あああああ!」
ボチャン、とギガンティックスライムに着弾する。
「アキタ隊員が丈夫で良かった。普通なら腰椎辺りが砕けてるよ」
ジョエストが関心している間にも、アキタが気を失いながらも捕獲装置は目標のコアを目指し潜航して行く。そして、カチャンと音がして捕獲装置に青色の光が灯る。
「捕らえた! ニア隊員、二射目撃て!」
「はい!」
次は目標とは逆の方向にタンクは跳んで行く。
「ぎゃっ!」
またも引っ張られリンクスの方へ跳んで行くアキタ。突然コアを抜き取られたギガンティックスライムはその殆どを水へと変化させ滝の様に流れ落ちる。そして跳んでくるアキタを待ち構える様に紋章片で魔法を発動し、周囲に分厚い空気の緩衝空間を展開するジョエスト。
「きたきたー」
みるみる間に近付いているアキタ。
見事アキタはジョエストの作った空気のクッションに収まった。偉いもので手にはしっかりと捕獲装置を握っている。その先端、輪っかだった部分はボールの様になりコアを格納していた。ジョエストは徐にそれを手に取る。
「よし、目標の捕獲を確認。撤収!」
「はーい」
アキタは気を失い返事が出来ない。
結局アキタは目を覚ますこと無くリンクスに引っ掛けられて帰路についた。
帰路の途中、ニアは思った。
「アキタが飛ばなくても良かったのでは?」




