第三十七話 破壊は破壊で破壊する
「なんか、大変なことになってきたな……」
ブランクの空を悠々と飛ぶネイジは眼下に広がる魔獣の大群を眺めていた。その顔には不謹慎にも笑みが滲み出ていた。
「ムラクは……まあ、シルードがいるから大丈夫だろ。問題は……」
ネイジはムラクとは違う方向を向く。
「ムステラ、かな。あそこの門は薄いからなぁ。ノーザードの奴は言っても聞かねえし。なあ?」
ネイジは古子と仮称している少女に投げかけるも少女は素知らぬ顔。
「……ムステラ行くか。なんか神様モドキには面倒くさそうな奴らが関わってるぽいしな」
ネイジは聖魔門から遠く離れたムステラへと向かった。
「八哥ちゃん……。何処?」
ニアはリンクスで魔獣の波を掻い潜り八哥達を探す。
「八哥ちゃんはリンクスで探せるって言ってたけど八哥ちゃんのサンプルなんて取ってないじゃーん!」
ニアは少しやけになってエーテル波動識別反応器のデータを手当たり次第に表示する。するとあるデータに反応があった。
「え……? これって……」
ニアが困惑している事など知る由もない魔獣はリンクスを思い切り蹴りつける。
「きゃあっ!」
リンクスはゴロゴロと転がるもその中はは特殊な力場が発生し常に座面方向に重力が固定される。されてはいるが魔獣達に足蹴にされっ放しは面白くない。
「やられっぱなしじゃ無いんだから!」
ニアは操縦桿のボタンを押す。
押す。
押す。
「あ、あれ?」
砲塔から発射される筈が何も起こらない。その内にもう一撃食らう。
「うわぁああ!」
そしてニアは気付く。
「ああ! アキタに火の紋章片壊されたんだった!」
操縦席から少し見にくい場所にグリフを挿入するスロットがある。そこに有るべき火のグリフが無いのだ。
「な、何かグリフはぁああ!」
リンクスには砲塔が付いている。普段は使うことは無く、短い飾りの様なそれは魔法力を撃ち出すことが出来る砲であり、ニアは防魔隊の活動中に破壊が必要な際にはグリモアを使わず専らこの砲を使う。挿したグリフに対応した魔法の弾を撃つため、火に限らず様々な属性で使用できる。
「あ、あった! 何でも良いわ! それ!」
グリフがスロットに飲み込まれていく。完全に挿入されたとき、リンクスから音声が鳴り車体も細かく強い振動が始まった。
「高次高密度重層紋章書式を検知。特例事項マルフタマル発動。第一次封印開放。幽次元廻廊展開接続……。異常無し」
音声の終わりと共に振動も無くなった。
「な、なんなのよ! そんなことより、行くわよ!」
ニアはリンクスの体勢を立て直し間合いを広く取ると再度操縦桿のボタンに指を掛ける。
「あ、あれ? 表示が変わった?」
さっきと同じ画面の筈だが表示が増えて詳細になっている。
「気にしてる場合じゃ無い! どこでも良いから当たれーー!!!!」
ニアは操縦桿のボタンを押す。すると画面に表示が出る。
「本当に撃ちますか?」
「ちょ、水指すわね! 撃つに決まってんでしょ!」
と力を込めて再度ボタンを押す。
「承認確認。超超高密度爆炎圧縮弾、発射」
ガシャンガシャンとリンクスの四方へアンカーが撃ち込まれ車体が固定されると、過給音が徐々に大きく高く鳴なって不意に収まると、ガツン! と自身を突き揺らし魔法弾が発射される。何故かいつもに無く今日のリンクスは良く喋る。
「なんなの。名前付きの発射なんて、洒落てん、じゃな……」
ニアは言いながら画面越しに見る光景に絶句した。
赤い尾を引きながら魔獣達の中へと飛び込む魔法弾は敵集団の真ん中で爆発し周囲の魔獣を吹き飛ばす。筈だった。しかし超超高密度爆炎圧縮弾と呼称されたソレは通常と変わらず敵の真ん中で破裂すると、超高密度に圧されていた炎や熱が一気に開放膨張し周囲の可燃物を取り込み際限なく燃焼を広げていく。そしてそれは魔獣の群れのみならず距離をとったリンクスまで飲み込んでいく。超巨大な球の形をとった熱源体に取り込まれた魔獣やその他の生体は吹き飛び残骸を残すこと無く全て消滅していた。
「ど、……どうして! なんなのこれ!」
と時間差で状況が頭に流れ込むニアはハッとした。
「グランベルのグリフだ……」
前にアキタがグランベルから貰ったと言う特遺物級の火のグリフ。それを挿入していたのだった。
その頃アキタ達は聖魔門に到着していた。
「んー! 困ったぞ!」
ジョエストが頭を抱えている。
「閉め方がわからん!」
「なんすか隊長! 聖魔門を閉めるぞ! って息巻いてたのにここに来てなんなんすか!」
アキタは肩透かしをくらった苛つきが口に出る。開けたのはバエルだし、開閉方法を知っているアナリシスの二人もまだブランクだ。ジョエストは門に関しては何も知らなかった。そして魔獣達は今も此方に向かって爆進中だ。
「お前達は閉め方を見つけろ。私が時間を稼ぐ」
「扉が完全に閉まるまでは時間があるはずだ。遅れるないでくれ」
「閉まっても構わん。ニアと一緒に……」
「縁起でもないことを言うな。ニアもきっと無事だ」
「……。後でな」
「ああ」
一通り会話を終えるとグランベルは来た道を戻り魔獣の只中へと突撃する。
「おらあああああああ!!!」
グランベルは魔獣達の目前、猛り暴れるフラガラッハを膂力で抑え込み声高らかに叫ぶ。
「グラン・クレール!!!」
叫びと共に横一閃、思い切り振り抜くと剣の切っ先から光の筋が放たれ残光を輝かせながら扇状に広がる。目にも留まらぬ速さで半径五百メージュ程にまで広がり、魔獣達は避ける暇も無くそれと交差すると一気に上下に分断される。それは鋭い光の刃。その光刃と交わるものは尽く両断される。グランベル必殺の一撃。前の魔獣が消え群れを大きく抉る。
一撃放ったグランベルは俯き自身を抱き身震いしている。
「くふふふ、久し振りに叫んだ……。グラン・クレール……」
間近に迫る魔獣達。グランベルはカッと顔を上げ魔獣の大群を見据えると突然飛び上がる。
「ふはははははっ! 我こそは魔装騎士グランルミナリオ! 悪しき獣達よ! 我が剣技で塵と化せ!」
そして独特なポージングで見得を切る。
グランベルは昔読んでもらった御伽噺に出てくる英雄、光の聖女ラ・ルミナスに憧れていた。そんな英雄を目指し、英雄となるべく、今も日々、英雄訓練を欠かさないのだ。誰にも言っていないし言えないが、近しい者達は大体察している。
「くぅうう……。くくくく……、くははははは!! 死ぬ前に堪能してやる! 来い魔物共よ! 私が英雄である為に!」
今までの特訓の成果をここで試すべく、勢いづいたグランベルは魔獣達の奥深くまで切り込んで行った。
その頃、聖魔門では……。
「グランベル……。死ぬなよ……」
ジョエストは呟く。
「隊長! もっと踏ん張ってくださいよー! ツルツルムチムチボディは飾りすか?」
「なんで俺が防魔隊とこんなことを……!」
何故かグラントもいる。
「お前が門のとこでボーッとしてたからだろ。立ってる者は教皇でも使えってな。予備隊の教えだ」
「不敬罪でしょっぴくぞ。ここで目を覚まして中に入ったのに、目を覚ましたらまたここかよ」
「つかお前ミシャル探しに行ったんだろ? いたのか?」
「一緒にいたんだよ。でもまた一人になっちまった」
「ふふふ、寂しそうだな? 傷心ってやつか?」
「ちげえよ。逮捕すんぞ?」
「ほらぁ、無駄口叩かないでしっかり押せ!」
それでも聖魔門はびくともしない。グランベルのお陰で魔獣の到来は遅れているが時間の問題だ。




