第三十六話 破壊の気配
ブランクの中ではバエルが撒き散らした異変により魔獣達が一斉に外へと向かい動き出していた。
ブランクは周囲を標高の高いに囲まれているが数カ所渓谷がある。その全ては何かしらの方法で閉じられておりムラクの聖魔門もその一つ。それは永い間、人とブランクとを隔絶していた。今日までは。
魔獣達はそれぞれ近い門へと向かっていた。門は固い封印が施されており、普通には中から開かない様になっている。しかし、バエルが取り込んでいたバルバトスの力、解錠の権能が全ての魔獣へと備わっている今ではただの立板に過ぎない。
唸り声を上げ突撃する魔獣達。それはまさに津波の如く押し寄せ狭い山間を削り地形が変わっていく。そして門を破壊し人里へと流れ込んでいく。
ムラク教皇国と同じ大陸の南にあるグレンミュール帝国。ムラクを隣国とし大陸随一の領土を誇るその国の北西端の街、ムステラ。そこでは何時もと変わらぬ時間が流れブランクでの魔獣狩りを生業とする狩猟団達は今日も狩りへと出向いていく。
「ん……? なんだこの違和感は……」
「ガイラン、なんか今日のブランクは変だよ」
「シミヤも感じるか? ……ふん。おい!」
ガイランは箒隊に声を掛ける。
「お前ら、近くの狩猟団行って《《話しがある》》って伝えて来い。あと魔法使いが居るならそいつ等も連れて来いって。古参の奴らなら同じこと思ってる筈だ」
指示を受けた箒乗り達は散り散りに飛んで行く。
「シミヤ、グリモア持ってるか?」
「グリモアは無いわよ。あったら魔法爵押し付けられて軍に入れられるんだからこんなとこに居ないわ。狩猟団にいる魔法使い相当は皆そうよ」
「あーあー、わかったよ。面倒くせえな。えっと、あー、《《スクロール》》はあんのか?」
「あるわよ」
「必要になるかも知んねえ。使えるようにしとけ」
「わかったわ。一応言っておくけど封印解いたら危ないから近寄らないでね」
「わーってるよ。何度も聞いてんだからよ」
シミヤの話しは長い。やれやれと思いながらガイランは遠くを見る。
「ブランクで何が起こってんだ……?」
「隊長! なんで逃げてるんですか!?」
迫りくる魔獣達を背に猛然とブランクを駆け抜けるニア達。
「逃げてるんじゃない! 戦略的撤退だ!」
「同じじゃないですか!」
「同じじゃない! 戻って聖魔門を閉めるぞ!」
ジョエストの目は真剣だ。殿を務めるグランベルは荒ぶるフラガラッハを握り締める。
「足止めしようにも数が多すぎる。コイツはウズウズしているが、あの数では私が持たん」
「あ……」
ニアは表情を硬くし何かを思い出す。
「八哥ちゃん……」
リンクスが突然向きを変えブランクの中へと戻っていく。
「ニア隊員!? 戻って来い!」
ジョエストはインカムに向かって叫ぶ。ニアはそんなことお構い無しだ。
「アキタお願いします!」
ニアはリンクスのボタンを押す。するとリンクスの上に乗っていたアキタの下面が突如跳ね上がりアキタを宙へと放り出す。
「またかよーー!」
打ち上げられたアキタはジョエストにキャッチされる。
「隊長達は先に行ってて下さい! 私は八哥ちゃんを……、アナリシスの二人を助けに行きます!」
「ダメだ! 戻って来い!」
「嫌です!」
「諦めろ! この状況じゃもう……」
「……隊長のバカーー!!」
「ニアー!」
グランベルはニアを引き留めようニアの方へと向かうもそれを見たジョエストが叫ぶ。
「グランベル! 戻って来い!」
グランベルは戻らない。
「くそぉ……。ファラ!! ダメだ!!」
ファラと呼ばれたグランベルは急停止し踵を返す。
「くっ、その名を……呼ぶな……」
グランベルは再度ジョエストと合流する。
「よし。我々は門を閉めることを最優先で動くぞ。悪いがアキタは走ってくれ。元気そうだからな」
箒からアキタを落とすジョエスト。
「うわわわ、っと。そうすね。目覚めスッキリです!」
アキタはひとっ走り先行する。
走った跡が突然隆起し地面がズタズタになる。
「アキタ隊員!?」
「な、なんだこれ!?」
「と、止まるな! 走れ!」
走り続けるアキタの後ろは大惨事だ。
「もしや、バエルの権能が残っているのか」
グランベルはバエルの操る大地とアキタのソレに類似性を見た。
「コントロール出来ないーー!! うおー!!!」
「ブランクで良かった。そのまま突っ走れアキタ隊員!」
バキバキと大地を震わせアキタ達は聖魔門へ向かう。




