第三十三話 揺り籠守はそこにいる
「ふう。間にあった、かな」
シルードは白煙の上がる魔法陣の上で片膝をつき右手を地面に当てている。
「籠守殿、これは一体……」
「魔法陣の調整に時間が掛かりましたが、上手く行ったようですね。地下はこれで大丈夫でしょう。あとは地上です」
「な、何をしたのですか!?」
ガインは説明を求めた。見ていた限りでは揺り籠守が地面に手を当て、暫く難しい顔をした後に突然魔法陣が輝き光の柱が立ったと思えば少しして光は消え、白煙の立ち登る魔法陣としゃがんだままの揺り籠守が再度現れた。
「エーテルをエーテル路へ送り込んだんですよ。幸い地下に点在する制限器や増幅器がまだ生きていたので満遍なく全エーテル路へエーテルが流れた筈です。《《疽》》……じゃなくてミストにだけ効くようにするのはなかなか骨がおれましたが、人的被害は無いと思います」
「そ、そんなことが……」
理解に苦しみ寸時頭が思考が停止したガインは直ぐ様我を取り戻す。
「……はっ! 直ぐに地下へ、持ち場の目処が立った隊から最寄りの経路から地下へ救助者がいないか、残ミストが無いか確認に降りろ!」
部下へ指示を出すガインは、ふとシルードの方へ向く。
「私はここでエーテルを流し続けます。できるだけ残ミストを減らせるように。あと脆くなった構造物を私のエーテルで補強します」
優しく微笑んでいるのが口元から判る。
「……貴方には感謝してもしきれない……。父に代わり感謝申し上げます。では失礼します」
ガインは部下を引き連れ去って行く。
「……まぁ、《《ムラクを守る》》盟約ですから、ね」
シルードはそう呟き微笑むと、東の方へ向く。ブランクのある方角だ。
「で、ネイジ。ブランクに向かってるんでしょう。暫く手が離せなくなりました。何かあったらお願いしますね」
「あ、気付かれてたか。やっぱり。了解ー」
ネイジは悪びれるでも無く軽く返事を返す。インカムでは到底届かないような距離での会話、揺り籠守は遠く離れていても通信出来るす術を持っているようだ。
「こっち側のブランクは久し振りだからな。少し見て回るか。な、古子」
ネイジと共に箒に跨る少女は、首を横に振る。
「ん? 怖いのか? 大丈夫俺がいる」
少女は尚も首を横に振る。
「よし! ブランク観光だー!」
少女は項垂れる。ネイジは気付かない、少女は古子と言うネーミングが気に入らないと言うことに。
「バエル! 待て!」
グランベルはブランクの空を駆ける。前方に見えるは大地を駆け抜けるアキタの身体を乗っ取ったバエル。
「くそ! なんだこの身体は! バルバトスの骨とこの身体自身のエーテルが有り余っているのに外に出せないとは!」
「観念しろ!」
グランベルが上空から滑降してバエルの頭を狙い斬りつける。
「ふんぬ!」
バエルの周りの土が盛り上がる盾を作りグランベルの剣撃を弾く。バエルは豊穣を司る神性を持っている。その為大地を自在に操ることができる。
グランベルの剣を受けながらバエルは地面から槍のように鋭く尖らせた塊を隆起させグランベルを突き刺そうとする。
「神の権能は使えるのか」
グランベルはそれらを軽々と砕くと一旦距離を取り後を追う。
「グランベルー!」
ニアはリンクスの中で吠えている。長年の疑問に答えが出そうだった所で取り逃した悔しさがそうさせる。
ニアには年の離れた姉がいる十歳上にファー、その上にも姉がいたがすぐに亡くなった、と聞かされてはいるが、それにしては命日に偲ぶでも無く、墓を参る訳でも無く、死んだ姉の存在が感じられなかった。そこに来てグランベルは歳はニアより十二上、クララスト家と近いのマクリー家の養子だと言う。そしてニア自身は確信しているグランベルが姉と言う証拠はその髪色である。クララスト家に産まれる女性は皆同じように美しい髪色をしている。親族であればその色に親しみと安らぎを感じる。それをグランベルにも感じるのだ。遠くでしか見たことは無かったが、それでも感じたソレを相対したときに強く感じ、確信を持った。
グランベルは姉だ。
早くグランベルに追い付きたい所だが、引っ張っている客車のジフィと八哥が気に掛かり速度を上げられないでいる。そんなニアを察したのか八哥がインカム越しに提案してきた。
「ニアさん。客車を切り離しても大丈夫ですよ。私達はここで一旦待つことにします」
突然の提案にニアは驚いた。
「え?! でもそんなことしたらブランクの獣とか、まして魔獣なんか出くわしたら大変だよ」
「大丈夫です、身を隠す術には長けてますから。リンクスの機能を使えば私達のいる場所が分かるでしょうし」
「隊長、どうします?」
「そうだな。戦闘に巻き込まれても危ないからな……」
ニアは停止すると客車を切り離す。
「気を付けてね、八哥ちゃん」
「はい、無理はしませんよ」
ニアはリンクスをアキタの方へと向け走りだす。
ふと、何か違和感を感じ八哥の言葉を反芻してみる。
「無理はしませんよ……か」
考え過ぎか。
ニアはリンクスの速度を上げ、土煙を伴ってブランクを疾走する。




