第三十一話 答える者
ムラク地下でダンケス達が奮闘しているとき、ブランクではバエル対グランベルの戦いが続いていた。二人の戦いの衝撃はブランクへ響き渡る。グランベルの光の閃き、バエルの、暗い闇の波動。それぞれがブランクへ広がり大地を揺らしている。
そこへニア達も遅れて到着する。
ブランクへ入ってからはニアはリンクスから身を乗り出し望遠鏡で確認しながら慎重に進んでいる。
「うわぁ……。入って少しだけどこのエーテルの濃さ……。聖水散布した後の空気みたい。弱い人だと踏み入っただけで吐くんじゃない」
遠くで上がる砂煙を見つけた。
「あ! あそこで戦ってる! 全身防護型防魔装具、それも最上位の……。てことは、グランベルが来てる!?」
「飛んで行ったあの光はグランベルだったのか」
ジョエストが隣まで降りてくる。
「八哥ちゃん! ジフィさん! 大丈夫ですか?」
ニアはボロボロになった客車へ声を掛ける。
「だ、大丈夫ですー。少し落ち着いたら出るのでお構いなくー」
八哥の声は少し辛そうだ。ニアはそっとしておくことにした。そして先ほどよりも速度を落とし遠巻きに戦闘の様子を見守る。
「その剣は魔剣フラガラッハかグランベル! どこにそんな物を!」
バエルは落とされた腕をミストで再構築し、硬化、刃化させた両腕でグランベルと斬り合う。
グランベルは長剣短剣の二刀流を振るうがよく見れば右手の長剣と左手の短剣では振り方の様子が違う。短剣は自然に振られているが長剣はまるで自身の意思があるかのように不自然な体勢から斬り掛かっていく。剣を振ると言うより、剣に振られているようだ。
「防魔隊敷地内の片隅で厳重に管理していたのだ。お前などに渡らんようにな!」
遠くでニアはグランベルの剣が目に留まる。
「あ、あれアキタが引き抜いたゴミ山の剣じゃない?」
「ああ、確かに同じ光だな」
ニアとジョエストは前にアキタが引き抜いた光り輝く剣を思い出していた。
バエルとグランベルの戦闘は続く。
「その技量、防魔隊など辞めて騎士になれば良いものを! ん? ああ、そうだ。お前は《《私》》のエスコートだったな!」
バエルの突撃を受け止め鍔迫りになる。
「……《《だった》》、だ。今は違う。私は感じたのだ、数年前の《《あの村》》で感じた気配を。どうやってレール卿に取り付いたかは分からんが、あの時始末しておけば良かったと、その後悔が私を此処へ立たせているのだ……! レール卿でないとわかったその時に仕える意味も消え失せた」
グランベルはバエルを押し出すとフラガラッハをバエルの向こうへと投げ捨てる。
「どうした? 降伏か? 久し振りの運動だ、もう少し付き合ってくれ!」
バエルは再度間合いを詰めて掛かる。しかしグランベルは構えない。
「頃合いだ」
グランベルが投げ捨てた剣が自ら向きを変え、勢い良くバエルの後頭部を貫いた。
「な、?」
何が起こったのか、バエルがそれを確認するよりも先に眉間から飛び出る切っ先が目に入る。
「フラガラッハは所有者のエーテルを吸い自ら敵を感じ打倒す。そしてエーテルで満たされたそれは所有者の手を離れても自ら動き致命の一撃を常に狙う」
「そ、そんな……! ことがあって、良いのか……」
バエルはフラフラと二、三歩進む。倒れるかと思いきや突然立ち止まり震え出す。
「くくく……、くははははは!」
眉間に剣が刺さったまま高笑いするバエル。神と言えども、乗り移っている肉体は物界の法則に従う。即死しないにしても、脳を破壊されれば死ぬはずだ。笑う余裕など何処にあるのか。
「何がおかしい」
「この身体は十分働いた。そして老いている。しかし次はコレだ。若い力はどんなものかな?」
するとバエルは何も無い空間からズルズルとミストの塊を引き摺り出す。その中には見たことのある顔が。
「アキタ!」
「ふふふ、新しい贄だ。さあ、次、の、お楽し、み……」
そう言いながらバエルは風に吹かれ砂の様に消えて行く。
「くそ!」
「う、……」
ミストの中に浮くアキタがビクリと動く。
「……ふ、ふふふ。ふはははは!」
ミストを纏い高笑いするアキタ。いや、中身はバエルだ。
「すごい! スゴイぞ! この身体は! エーテルに満ち満ちている! 内から湧き出るエーテルは太古の人間そのものだ!」
遠くからそれを眺めていたニア達。
「あわわわわ、アキタ、アキタが……!」
「乗っ取られてしまったな。アキタ隊員」
慌てふためくもニアは直ぐ様席に着き、ガチョンと音をならし客車を切り離すとリンクスを前進させる。
「待っててアキタ!」
遠くから土煙を上げ突撃してくるリンクスに気が付く。
「この身体、どれほどのものかな?」
バエルは地面を蹴るとグランベルの前から消え、リンクスの方へと間合いを詰める。
「弾けろ」
バエルは右手のひらをリンクスに向け何かを発動させる。
「…ん?」
何も起こらない。
「アキター!!!」
バエルの想像より早くリンクスは目の前まて迫っている。
「待て! なんだ、この身体」
バエルは想定外のことに戸惑っているがリンクスは止まらない。
「正気にもどってー!!」
「ぐはぁ!!」
肉の塊にぶち当たる鈍い音と急制動による鉄同士が擦れ合うスキール音、そして少し間を置いて大きな物が落ちる音。バエルはリンクスの体当たりをもろに食らい盛大に弾き飛ばされた。
「ぐ、し、正気か……? 仲間だろう、に……」
リンクスから勢い良く飛び出し、仰向けで倒れるバエルの胸を踏みつけリンクス向け備え付けの魔導銃を向ける。魔導銃とはグリフを差し込みエーテルをエネルギーとして魔法を撃ち出す銃のことだ。
「早くアキタから出てって!」
「ふん、出来ん相談だ。私は自分の意思でこの身体から出ることは出来んのでな。殺せ」
「どけ! ニア!」
そこにグランベルが短剣を逆手に持ち突進してくる。
「え?」
「そら!」
バエルは注意がそれたニアを跳ね飛ばすと咄嗟にグランベルが振り下ろす短剣を避ける。そして一蹴りで高く跳躍し、近くの高台へと着地する。
「ははは! 今まで戦いの影響でブランクにミストの波動が広がった。お陰で探し物が見つかりそうだ! さらばだ!」
バエルは高笑いと共に何処かへ去ってしまった。
「くそ、逃がしたか……」
グランベルは悔しそうにバエルのいた所を見つめる。
「ニアって呼んだ……」
ニアはグランベルの背に向けて呟いた。
「ずっと会いたかった。会おうと中央へ何度も行ったけど会えなかった。でも今会えたから、聞いても良い? ですか」
「ダ、ダメだ……」
グランベルは困った顔をして後退りする。数歩下がると、
「ダメだダメだ。ダメだー!」
そう言うとバエルの行った方へと飛んで行った。全身防護型防魔装具は飛行能力を有するのだ。
「あ! もう! なんで私の周りはこんな人ばっかりなの!」
「私達も向かおう」
ジョエストはグランベルを追い飛んで行く。残されたニアはグランベルの行った方を向き呟く。
「お姉ちゃん……」
暫くの後、ニアはリンクスに八哥達の乗る客車を繋ぎ、グランベルを追った。




