第三十話 Ertheric Life Figure Extra
「よし、行くぞ!」
ダンケスは意を決した。即席で防魔装備を重装化し、聖水栓と直結したホースを握り締めている。防魔装備の重装化と言っても数人分の装備を掻き集めて重ねただけの簡易な即席装備だ。あの根元の先にいる存在と対峙できるだけの効果が有るのかは疑わしいが、これくらいしか出来ることは無い。幸い小型異形は聖水ホースの到着により脅威では無くなった。放水で粗方は消え去ることが分かったのだ。後は根元のみ。装備を準備出来た数人で奥へと向かう。しかし、ダンケス達の前に新たな障害が待ち受けていた。
「おいおい、なんだよこれ」
小型異形達の柱だ。小型異形達が積み重なり1本の柱を形作る。それは根元のようにミストを発し、柱には縦にヒビが入っている。このままでは奥にある裂け目の根元と同じになるに違いない。
「ぶっ掛けろ!」
ダンケス達は聖水を浴びせ掛ける。暫く掛けるがしかし、
「くそ、全然弱んねぇ。なんなら、デカくなってねぇか」
ダンケス達は総動員して放水しているが弱まる気配はまったく無い。むしろ徐々に大きくなっている。そして、
「……ヤバいぞ。ヒビが裂け始めた」
奥の根元と同じく中心にあったヒビが裂け始め、《《穴》》が開き始めた。
「くそ、ナージ、カッツ、ドルフ、ヤッパ! 隙を見て退却しろ!」
「お前は!?」
「後で行く! 早くいけ! 行って次の手を考えろ!」
「しかし……」
「小型異形が根元の元だったんだ! 他にも出来てるはずだ! それを伝えてくれ! 頼む! ムラクが滅んでも良いのか!!」
「わ、分かった! お前も早く来いよ!」
四人は放水しながら後退して行った。
「カッコ良すぎか、俺」
誰にも届かない独り言。その目の前では根元が完全に開こうとしている。ダンケスはホースを強く抱え込み開く根元を睨みつける。
「来るなら来い!」
とその時、背後から何かが高速ですり抜けていく。
「なんだ!?」
それが眼前の根元と接触した時、根元は斜めに切られたように分かれ霧散した。開いていた穴も虫食いのように削れ消えていく。
「何がどうなったん、だ……?」
そこには色白の、いや蒼白の騎士が立っていた。
「防魔局の範疇を超えてきている。ここからは我々が対応する」
色白を通り越して蒼白の顔。か細く華奢に見える四肢。少し尖った耳。そしてミストの塊を一瞬で浄化する圧倒的エーテル量。それら特徴は尽く噂に聞く存在に当てはまる。
「拡張人間……」
十三席会議でも謎の多い神秘院に属するエンハンスは、学術院の扱う魔導科学とは異なる魔法そのものの粋を集めて《《造られた》》存在だと言う。彼らは滅多に人前に出てくることはない。彼らが出てくる時、それはムラクが滅亡危機に瀕したときである。
「死にたくなくば帰れ」
エンハンスは力ない、男女の差さえも分からない声で言う。
「俺は引かねえぞ」
ダンケスの声は太く強い。声の調子ではどちらが救援か分からない。
「……我々の目的は人命救助では無い。好きにしろ」
エンハンスは背中越しに言うと奥へと進む。
「好きにするさ!」
ダンケスも後を追う。
その頃シルードはある地点へと来ていた。
「薄れていますが、イケそうですね」
そこはソロモン派アジトがあった場所。ブラックオウルこと、予備隊隊長ジョエストが建物を破壊し更地にした場所だ。そこにあった薄れた魔法陣の中心にシルードはしゃがみ込む。そして地面に手を触れる。
「……っ」
するとシルードの周囲に光の円が現れ紋章片のような、それよりもっと複雑な図形が更地目一杯に真新しく描き直された。
「これは聖なる彫刻です。ここの陣に描かれた複数の紋章を自由に組み合わせて使用者の好きな効果を発動することが出来ます」
「こんなものが……。全く知らなかった」
ガインはまたも自分の無学を恥じる。
「太古の遺跡には割と多く残っているんですが、ここまで大きい物はなかなか見ません。今エーテルを通して活性化させたので、これで使えるようになりました」
「おお! ではこれでミストが浄化出来ると!」
ガインの顔が明るくなる。しかし、シルードは慎重な表情。
「大事なのはここからです。目的の効果となる紋章の組み合わせを今から探します。少し時間をください」
「は、早くお願いします! ドナ・テイン・ナー枢機卿がエンハンスの封印を解きました。一刻を争います!」
「奥は流石に多いな」
ダンケスはエンハンスの後を追いながら、濃いミストの中を進んでいる。途中には小型異形の柱が点在しているが事も無げに切伏せていく。
快調に進んでいるかと思うと、
「くっ」
初めてエンハンスが仕損じた。そんなエンハンスをミストが包み込もうとしたとき、ダンケスは聖水を周囲へと吹き掛けミストからエンハンスを守る。
「大丈夫か!」
「何故助けた。何故逃げない」
片膝を付くエンハンスはか細い声で言う。強がっている風でもない。本当に疑問のよう。
「当たり前だろ! お前死ぬとこだったんだぞ!」
「……行くぞ」
少し間を置きエンハンスは素知らぬ顔で立ち上がり進み出す。
「ありがとうぐらい言えよ。無愛想だな! エンハンスは!」
「帰るなら早く帰れ」
「邪魔なのかよ!」
口は悪いが寂しげな瞳とどこか哀愁を漂わす佇まいにダンケスは放っておけないでいる。言葉を投げても応えることなく先に行ってしまうエンハンス。
「……防魔隊なんだぞ! 俺は!」
ズリズリとホースを引き摺りダンケスは更に奥へと進む。




