第二十七話 立ち向かう者達
「くそ! 切りがねえな!」
ムラク市街で異形を駆除するダンケス達防魔隊。学術院の魔法を使える者達も市民の誘導に駆り出されていた。
当初は人型の異形を相手にしていたが、途中からそれ以外の異形も現れる様になった。それは小型の犬や猫、ネズミのような小さな者達だ。それらは全てがミストを纏い発している為、防魔隊は手を焼いていた。
「あのスライムは何処が相手するんだ? なんで軍や騎士団はこっちに来ない!」
「指示以外のことに気を散らすな! 俺等の仕事はミストだろ!」
インカムから聞こえるディテスの声。彼はリーダーとして前線を奔走している。
「学術院の奴らちんたらしやがって……、それにあの黒い小動物みたいなのはなんなんだ? ミスト撒き散らしやがって。それにどんどん増えてやがる! 聖水がどんだけあっても足りないぞ!」
ダンケスの嘆きにディテスは思った。
「人型が消えて、小型が増えている……。どっかから湧いてるのか……?」
その頃超巨大スライム、ギガンティックスライムの前には騎士団がいた。しかし為す術なく、立ち竦むしかなかった。
「くそ、でかすぎる! 剣もコアまで届かない、魔法も焼け石に水だ! どうするんだ……」
スライムの体内に取り込まれるとその強力な溶解能力で鎧から何から全て溶かされる。通常のスライムなら長剣でコアを切れば問題無い、しかしギガンティックスライムは巨大なために中に入らなければコアまで到達出来ない。到達する迄に骨まで溶かされ消滅してしまうのだ。そんなギガンティックスライム数体が悠々と街を蹂躙していく。東方防魔局は幸いにも聖水補給口のある倉庫が全壊したのみで他は軽度な破壊に留まっている。
「貴族のお坊ちゃん方には荷が重かったようですなあ」
そこにはルージィの姿が。防魔装備は無く、手にかなり長い棒を持っている。長大で、豪奢な装飾が施されているが形は俗に言う鳶口と言う物だ。
「く、ルージィ……、た、たかが一局長の分際で何を!」
「局長の、分際……だと?」
敵に立ち向かわず屯するだけにも関わらず、居丈高な態度の騎士団にルージィの表情が一変する。
「馬鹿者が! ムラク守護騎士団の名が泣いているぞ! 腑抜けども! お主らこそ、たかがスライム如きに後れを取るなど!」
ルージィはそう言うとスライムを前に仁王立ちする。
「見ておけ腑抜けども! ふん!」
ルージィは力を込めると筋肉が膨張し、いや、身体そのものが膨れ上がり、二倍程の体躯に変化した。
「ひ、ヒュージ・ルージィ……」
悪態をついていた騎士団の剣を奪うルージィ。
「貸せ……そら!」
「あ!」
ルージィは取り上げた剣を直ぐ様スライムへ向かって投げつける。ドムン! とスライムにのめり込む剣。ルージィはそれをじっと見つめる。その間に剣はみるみる溶けていく。
「……よし」
ルージィは巨大化し丁度良い長さになった鳶口を握りスライムへと突撃していく。そしてスライムへと飛びつき、鳶口を巧みに使い上へと登って行く。そして、
「はああ……!」
ルージィは力を込めると身体からオーラが昇り立つ。それはルージィの身体に纏わり付きオーラの膜で包み込まれる。
「ふっ!」
息を吐き、飛び上がると鳶口を突き立て一気にスライムへ潜り込む。そして水中を泳ぐ様にコアへ向けて突き進んで行く。ルージィを包むオーラが徐々に侵食され剥がされてもルージィは気にしない。そして全てが溶け切るその時、
「それい!!」
鳶口はスライムコアへと到達、そのど真ん中を貫く。その瞬間スライムは粘性を失い形を保てずに崩壊した。
その光景をただ眺めるしか無かった騎士団達はスライムだった大量の水に押し流され、濡れた後になってスライムが倒されたことを理解し歓喜した。
「ふう……。防護魔層が容易く溶かされるか……。骨だな」
しかしまだ他にもスライムは残っている。
「ふむ……、やるしか無いな」
ルージィは他のスライムへと向かう。その時、青い光の筋がスライムへと吸い込まれていく。そして遠くから破裂音が聞こえたかと思えばスライムが崩壊した。
「……ジルベルか?」
青い光を辿った先、そこは中央防魔局の屋上。
「目標一体消滅確認!」
双眼鏡を覗く防魔隊員が報告する。
「スライムに使うことになるとは……」
その報告を聞くうら若き乙女は身の丈の数倍はあろう物々しい長銃を構えていた。それは銃身の至る所からから湯気を昇らせている。そして彼女の後ろにはおびただしい数の魔導増幅器が積み上げられ、その傍らには冷却装置も稼働していた。またそれらの設置や管理をする作業員も多くいる。
「次弾装填!」
彼女の声で作業員のも慌ただしく動き出す。次に撃てるまでは時間が掛かるのだ。
彼女が撃ったその長銃の名は|対ミスト根元粉砕衝撃銃。本来は対ミスト鎮圧用遠距離装備であったが、今回特別に使用許可が下りたのだった。
「十三席会議も思い切ったものだ」
「遠いなぁ」
シルードの言いつけを聞かずにブランクへ向かっているネイジ達。そんな彼らの頭上を超高速で駆け抜ける光。
「お……行ったか……」
光の行く先を見つめる。
「……アレがもう少く早く出てりゃ、大人しくアカデミー行ってたんだけどなあ」
そうネイジは呑気に呟く。
そんな呑気なネイジの遥か先、ミストを纏い暗く渦巻く姿で爆進する魔神バエル。そしてそれを追うニア、ジョエストの予備隊とアナリシスの二人。
「聖魔門の方で黒煙?!」
ニアの乗るリンクスの表示装置に映し出される景色。それは聖魔門付近に吹き上がる大量の黒い靄。それはバエルが聖魔門へ突撃し、吹き上がった大量のミストだった。
「って、アキタ見てない! 隊長! アキタ途中いましたか?!」
「いや、見てないぞ!」
外を飛ぶジョエストの声は風が邪魔で聞き取りづらい。
「アキタ……」
二人は言葉も無く遠くミストの中を見る。そしてニアはこれ以上は危険な速度域へ躊躇なく加速していく。
とその時、空に駆ける一閃の光。
「なんだ?」
ジョエストは光を目で追うがそれが何かは分からなかった。最高速度で駆け抜けるニア達よりも更に速いそれは聖魔門へ向け一直線に飛んでゆく。
その頃聖魔門ではバエルが門を開けようとしていた。かろうじて人だった頃のゴン・ド・レールの面影を残すバエルは門正面に手のひらを向けて立ちっている。
「……開け」
その言葉の後、手のひらから波動が放たれ門を叩く。すると門が開き出した。
「流石はバルバトスの力だ。こうも容易く開かれるとは」
バエルは自身の力を確認するように手を強く握りしまる。
「そして俺は運が良い。これは天から、いや地獄からの贈り物と言うべきか。ふははは!」
そう言うバエルの傍らには、ミストの中に囚われ眠るアキタがいた。




