第二十六話 盟約
ムラクは今、未曾有の災害に襲われている。
ムラクを覆う暗い霧、ミストは有機物無機物関係無く全ての活力を奪い脆くする。そしてムラク全域に現れたミストを纏った異形の存在。誰もが初めて見るそれは遠目では人の形に似ているが近付けばその異質さに畏怖し立ち竦んでいる間に周囲に纏うミストに纏わりつかれて死が訪れる。そして東方防魔局付近に突如現れた超巨大スライム。遠くから見てもはっきり判る程巨大なそれは進路も定まらずフラフラと気の赴くまま周囲を破壊して回っている。
「どこだ」
シルードは箒で空を飛びながら防魔隊の上空指揮所を探す。これだけ大規模な災害となれば本部と前線指揮所がある筈だ。
「お、あれか」
数十人規模の大きな上空指揮所を見つけた。浮遊床を幾つも敷き詰めた大所帯、これは運良く本部指揮所に当たったようだ。シルードはフードを被る。するとマスクが現れ顔を隠す。
「失礼する。此処は司令の中枢であると思ったのだが宜しいか?」
「なんだお前は! 邪魔だ!! 部外者は入ってくるな!」
近くの隊員は突然の訪問者を邪険にする。
「いや、盟約によって……」
「知らん! 仮面などして、そんな怪しい奴信じられるか! 消えろ!」
話にならない。シルードはマスクの裏で溜息を吐く。と、遠くにいた少し装備の違う隊員がいざこざに気付いた。
「ん? あの装束は……。まさか、揺り籠の……」
すると驚き急いで寄ってくる。
「待て待て! その方は揺り籠守だ!」
「ああ、ご存知の方が居られましたか。《《盟約》》によりムラク防衛に参じました」
シルードの声が明るくなる。
「それは! 部下が失礼しました! 私はガイン・ド・レール。中央防魔局局長を任されております」
「ほう、レール卿のご子息ですか……。ここに貴方が居られると言うことは、レール卿は会議に?」
「父はおりません。久し振りに姿を見せたかと思えば、会議に行かず何処かへ消えてしまったようです。……宜しくお願いします」
「局長! こんなどこの馬の骨とも知れない奴を信じるのですか!?」
「馬鹿者! この方が身に着けている瑠璃色と白を見ても分からんとは、ましてこの紋があってもか! これは太古より続く揺り籠の守護者のみが許される色、そしてこの紋。この方は揺り籠守だぞ!」
「揺り籠守……? 御伽噺の……?」
隊員の目はまだ訝しんでいる。
「まあ、誰も覚えていない、古いしきたりの様なものですから。ガイン殿がご存知で良かった。しかし、古くとも盟約は消える事はありません。では、状況を教えて貰えますか?」
シルードは話しを進める。にこやかに、穏やかに、不審さを消すように。
「ええ、今の状況として……」
ガインとシルードは地図を眺め話し始めた。
その頃、人の消えた村にいた三人組、アキタ、グラント、ミシャルはその後も暫く調査していたがいつの間にか遠くムラクに暗い靄が掛かっているのを見て異常を感じ帰路を急いでいた。
「ヤバいだろアレは!」
アキタは猛スピードで駆ける
「防魔局が何とかしてると思うが、ヤバそうだな」
隼のように箒で飛ぶグラント。
「ヤバいですねー!」
同じくミシャル。二人の下で疾走するアキタは、走っているにも関わらず全く疲れた様子は無い。
「今までのミスト量じゃねえ! ムラクそのものが崩壊しちまう!」
と、帰路を急ぐ三人の前から何か暗い渦を巻く塊が迫ってくる。
「何か来るぞ!」
グラントが注意を促した瞬間、三人の横を嵐の如く過ぎ去っていく。その衝撃に吹き飛ばされる三人。
「な、なんだよアレは」
フラフラとグラントは態勢を整えつつ過ぎ去った暗い渦を見る。
「居たぞ」
アキタが呟く。
「何がだ?」
「アイツだ」
「誰だよ」
「お前が探してるあの爺さんだよ!」
「爺さんって誰……なんだと! 行くぞ!」
フラフラだったグラントは突然息を吹き返した様に弾丸の如く飛び去った。
「待てって!」
アキタも遅れまいと後に続く。
「はひゃああ」
ミシャルは吹き飛ばされたまま目を回していた。
アキタとグラントはミシャルを置いて我先にと暗い渦を追いかけて行く。
アキタ達の後方から暗い渦を追いかけているニア達。
「ん? 何か向かって来てる……」
ニアの前には箒で飛ぶ人影。
「んん、ん? グラント?」
手を振る人影は徐々に速度を落とす。ニアもそれに合わせて停止する。
「どしたの? グラント」
「に、ニアさん……! み、ミシャルを、見なかったですか?」
息も絶え絶え肩が上下する。
「ミシャル……? 誰ともすれ違わなかったけど?」
「そ、そう、ですか。はぁはぁ、お邪魔しました。あ、そうだ、アキタが聖魔門へ向かってます。では」
グラントは言うだけ言うと去って行った。
「ちょ、ああ。行っちゃった」
「アキタ隊員一人だと死にかねないな。急ごう」
アキタの身を案じるジョエスト。




