第二十五話 虚ろな存在
「幽界の神って、グリゴリの一柱ですか?」
ニアはリンクスを全速力で走らせる。幽界の神を追って。
「グリゴリとは違うのですが……。昔話はご存知ですよね? 遥か昔、神の世界である幽界からこの地に降り立ったグリゴリ達はこの地に智慧と魔法を齎しましました。その後、彼らの通った門は閉じてしまいます」
「それは小さい頃に沢山聞きましたよ。彼らはそのままこの世界に留まりグリゴリ教の起源となる。グリゴリ神話ですね」
「そうです。ここからはあまり知られてないのですが、その中の一柱であったソロモン王は、門が閉じて尚、新たに神を呼び出す方法を考えたのです。依り代となる肉を使った召喚と言う方法を」
八哥は淡々と語る。
「召喚……ですか」
「しかし、上手くはいきませんでした。理由としてはその召喚とは幽界の神を物界に降臨させるのでは無く、依り代を使って幽界の神の複製を作っていたからだと言われています。神の情報を一方的に無断複製するようなもので、今私達が追っているのもソレです。此処では豊穣神バールとか、魔神バエルとか言われるものです」
「成功したってことですかな?」
空からジョエストが言う。
「召喚で神の力を物界に留まらせる、という点に関してはそうです」
「何か含みがありますね」
「召喚の依り代のエーテル強度が高かったのか、それまでの召喚が神格のエーテルと精神侵食に耐えられず朽ちて消え去るところ、依り代の精神が神のそれ凌駕し、身体は朽ちたものの神の力を持ったまま精神だけその場の人間に密かに憑依し生き延びていたのです。その頃数多の召喚を試していたソロモン王はそのことを知りませんでしたし、知ったとしても彼にとっては些細なことでした」
八哥の話に聞き入るジョエストとニア。聖魔門まで近くなって来た。
「奴は人間の心と神の力を持った半神半人の不安定な存在。今まで細々と人に乗り移り生き延びていたのです」
「何故聖魔門を開こうと?」
「おそらく奴の目的は、聖魔門の先、ブランクにあるとされる幽界への門を開き、本体と融合して完全なる神となることです」
「大変なことになって来たな」
ムラク市街、濃いミストが漂う中、遠くに超巨大スライムが暴れているのを眺める二人。
「呑気なことを。ネイジはアカデミーへその子を早く届けてください」
「シルードはどうするんだ?」
「私は《《盟約》》に従います」
シルードはそう言うと箒に跨る。
「先ずはここの治安部隊と連携を図り市街の安全確保に向かいます。ネイジも早く合流してください。強大な何かがブランクの方へ向かっている気配もありますから。では」
シルードは高く飛び上がり濃いミストの中に消えて行った。
「アカデミーかぁ。うーん、どうしようかな……」
ネイジは顎を指で擦り、隣の子供を横目で見ながら暫し思案する。
「ブランクか……、よし! 古子、ちょっと行ってくるか!」
ネイジは箒に跨り、連れている子供と一緒に飛んで行った。ムラクの外へ向かって。




