第二十三話 地下で蠢く暗い影
聖魔門調査最終日。
「まあ、こんなもんでしょう」
ニアはびっしりと点検項目の書かれた書類の束を持ち上げる。 そこに八哥がトコトコと近寄る。
「不具合は見つかりませんでしたね」
「門の発光は異常では無く誰かが門を開けようとしている。と言うことですか」
ジョエストが入ってくる。
「そうです。聖魔門はただのデカい門ではなく、エーテルを動力源として動く封印装置なのです。その事実を知るのはムラクの最高機関である十三席会議と我ら神智に触れる者達のみ。の筈でした」
ニアが口を開く。
「それを第三者が知っていた……?。十三席会議の中にてことですか?」
「若しくはアナリシスの誰かが秘密裏に動いているか、だな」
ジョエストは八哥を見る。
「それはありません。我々の行動は逐一共有される仕組みになっていますし、今までの記録にも無いです。そして実はもう目星は付いているんです」
「え? ならなんでこんな調査に?」
「気分転換ですよ」
「……」
微笑んでいるであろう八哥の声にニア達は呆気に取られてしまう。
「いやいや、冗談です。確証が欲しかったのです。お陰で確信を持てました」
「な、なら良かったです。……あの、関係ないんですけど、一つ聞いてもいいですか?」
ニアは神妙な面持ちで八哥へ向く。
「何か?」
「アナリシスへは……」
「ん? なんだムラクのあの靄は……」
その時ジョエストが遠くムラクの方の異変に気が付く。
少し前、ムラクの地下。
「さぁ、今こそ! 我らに魔法を取り戻す時! 老いさらばえたとて、挽回の機会はある! 人としての尊厳を取り戻すのじゃ!」
「おー!」
窓の無い暗い部屋の中、大勢の人達が一人の老人を取り囲んでいる。その老人の熱弁に皆が呼応し、熱気に溢れた一体感を作り出している。
そんな中、老人は何かを取り出す。
「さあ! 皆のもの! ソロモン様より頂戴したこの魔王の骨を取り込み魔力を取り戻すのだ! そして、彼の地への扉を開かん!」
老人は取り出した物を聴衆に向け掲げると、皆も同じ物を掲げる。そしてその手に持った小さな白い塊を皆はそれを口へと放り込む。
「う、う、うあああ!」
白い塊を口にした村人達は一斉に苦しみだし、そこにいた全員が様々な形の暗い異形へと変化していく。
「ふふふはははは!」
老人は扇動するも、自身は口にせずにいた。
「ジヨム……! き、貴様……」
苦しみ異形へと変化する人々の中で、一人だけ自我を保っている者がいた。その目は憎しみで満たされている。
「何故そんな目で見る? 私はお前達の願いを叶えてやったのだぞ?」
ジヨムと呼ばれた老人。
「魔力の無い人間など人では無いと、お前達は言っていたであろう? 人で無いならば! その肉を贄とし神へと生まれ変わるが良い! そして魔力の本流をその身に感じるが良い!」
「ぐああああああ!」
「神の意思に抗えればだがな! ふはははははは!」
ジヨムは高らかに笑い、全員が異形と化した集団に向い手をかざす。
「さあ! 名も無き神達よ! 今こそソロモンの悲願! 地上に我らの楽園を創るため! 地上を人の支配から解き放つのだ!」
その号令を切っ掛けにもはや自我など消え去った異形の神達は暗闇の地下通路へと消えて行く。
「進め、見捨てられた者達、魔力無く虐げられた者達よ。貴様らと同じように忘れ去られたこの地下水道こそ、貴様らが人を捨て新生するに相応しい」
「レール卿、いよいよですね」
暗がりから若者が現れた。
「ああ、派手に暴れてもらおう。我らが目的の為に。今こそ聖魔門が開く時だ」
「ついに空白へと足を踏み込むのですね」
「そうだロマニ君。そして黒夜神を、神の門を我が手中に収めるのだ。ふははははは!」
暗闇に響く笑い声。その後、ムラクは未曾有の魔災の渦に飲み込まれるのだった。




