第二十一話 ソロモン
いつかのムラク。在りし日のソロモン派施設。
窓のない広い閉鎖空間に蠢く巨大な粘性生物と暗い霧。粘性生物の中に人が取り込まれている。そしてそれを見守る二人の男。その内のやや老齢の男が語る。
「ミスト耐性が高い人間とは、ミストに曝されながらも崩壊ギリギリまで生きられる人間。ああやってミストを当てていてもギガンティックスライムで保護していれば生存率は上がる」
「生存率とは、エーテルを供給しているのですか?」
と聞くのは若い男。
「いや、崩れないように外側から押さえているのだ。せっかく不安定にさせて《《隙間》》を作ったのにエーテルを与えて安定させては意味が無い。隙間から崩れない様にスライムで補強しているのだよ」
そう説明している最中、スライムの中で変化が起こる。漂うミストの中央が裂け、更に濃いミストが流れ込んで来る。それはスライムの中に潜り込み更には人に纏わり付く。
「さあ、見ていなさい。贄を得て神が降臨する瞬間を」
中の人間は意識が無いのか、既に死んでいるのか、苦しむ様子は無い。しかし、ミストが染み込むように人間に侵食するとその身体は小刻みに震え、皮膚の下で虫が這うように何かが蠢く。そして、徐々に異形の形へと変化てゆく。
「おお……」
変化の最終段階で《《神とされる者》》を包むスライムは粘性を失いバシャリと崩れ落ち、中の者は地に足を付け立っている。
「ふむ、アレは……」
老齢の男は本をめくり何かを探す。 そこには絵と説明が記されている。
「おお、これは異界の狩人、バルバトス! 求めていたものだ」
「これが、神……」
若い男が異形の神に目を奪われていたその時、神の肉体はドロドロと溶け落ち、残った骨も圧縮される様に縮こまり小さな骨片となってしまう。
「ああ!」
恍惚の表情は一瞬にして悲嘆に変わる。
「ふふふ、気を落とす必要は無い。これで良いんだよ」
そう言って笑う老齢の男からは達成すら感じる。そして小さな骨片を摘み上げ歪に微笑む。
「これで……、良いんだよ……。ロマニ君……」
時は戻って現在、聖魔門。
「はぁー、これはエーテルが通った痕跡がありますね。それも長年に渡って……」
一つの箒に跨った八哥とジフィは門をまじまじと見ながらメモを取っていく。
「しかし、エーテルが貧弱な為に開くまでは至っていない、と」
八哥はブツブツ呟きながら作業を続ける。
「一体どれだけの人が犠牲になったのでしょうか……」
「……」
八哥の言葉に頷くジフィ。
「ソロモン派は未だに開門するには至っていない、しかし……」
「……」
「そうですね。資格者がいなくとも、《《親鍵》》が手に入れば……。時間の問題ですかね」
「……」
「ソロモン王も好奇心で厄介事を残さないで欲しいものです。でもまあ、その厄介事のお陰で私はここにいるんですけどね」
「……?」
「いえいえ、恨んではいませんよ。あそこは《《地獄》》ですから」
その頃、アキタ達は火事の村へ。
「ん……?」
グラントは違和感を感じながらも村へと入っていく。
「おかしい、ですね」
ミシャルも気付く。村に人気がまったく無い。
「こんにちはー……。ダメです。誰もいません」
適当な民家へ入ってみるも全てが蛻の殻だった。
「怪しすぎんだろこんなの」
「なんなんだよ、この村がどうかしたのか?」
アキタは暇そうに小石を蹴る。
「ここの火事で発見された骨な。ただの骨じゃなかったんだ。ヤバい集団が生み出したヤバい代物だったんだよ」
「ヤバいヤバいって何がだよ」
「見つかった骨は火事の被害者じゃ無く、狂った奴らが別の場所で生贄にした人間の骨だったんだよ」
「ち、ちょっと待ってくれ。いきなり何言われてんのか分かんねえ」
困惑するアキタは手で話しを遮り制止する。
「あー、面倒くせえな。要するにこの村は殺人集団と関わりがあったってことだよ! 調べではこの村は魔力が衰え世間から爪弾きにされた者達が集まった村だった。そして狂った奴らのヤバい骨は魔力増幅効果があるらしい。その二つが揃ってんだ。ムラクにいたあのジジイは黒だ。俺の感がそう言ってんだよ!」
グラントの勢いにアキタはたじろぐ。
「そ、そうか……。ってお前の感かよ!」
「俺の感は当たるんだよ」
すかさずミシャルが説明する。
「説明しましょう。グラント部隊長の特能超直感は、何というか、その、すごく当たるんです!」
「説明になって無えな」
「二つ以上の事柄がある時、それらに関連する事象を正確に予知する特能だよ」
「ふうん。便利なもんだな」
アキタは再度周囲を見渡す。やはり誰も居ない。
「で、グラント部隊長殿。奴らは何処に?」
グラントも周囲を見渡す。そして一言。
「分かんねえな」




