第二十話 調査開始
聖魔門調査当日。
「まだかなぁ……」
いつになくソワソワしているニア。
「東門の外で良いのよね? 来るよね?」
「来るさ。定刻には少し早いからな。もう少しだ」
そんなニアを宥めるジョエスト。
「あー、眠いー」
呑気に欠伸をするアキタ。とそこに、
「やあやあ、遅くなりました」
幼児のような声。その方を見ると、大人と子供のような二人の人間が立っていた。人間、と言うのが正しいかも分からない。頭から爪先まですっぽりとローブに覆われ、フードが開いている顔面辺りも不思議に暗く、目の部分が光って見えるが表情は一切分からない。大きな方は黒いローブ、小さい方は鮮やかな山吹色のローブ。小さい方はちょこんと可愛らしく、大きい方は中で何かが蠢いている。見た目の情報だけではそれが人だとは断定出来ない不穏さがある。声を掛けて来たのは小さい方のようだ。
「私は八哥と申します。此方はジフィ。宜しく」
八哥と名乗る小さい人物はトテトテとニアの方へ歩いて、ローブの切れ間から腕全体を覆う手袋に包まれた小さな手を伸ばし握手を求めてくる。
「か、可愛い……」
ニアはその手を取り握手する。
「では参りましょうか」
八哥はとジフィはリンクスが牽引する客車に乗り込む。客車の外見は貨物車に偽装しているが、中は快適な空間が確保されている。予備隊は何時も通り、ジョエストは空から、アキタはリンクスの上に乗っている。
ガタゴトと揺れるリンクス。
「ああ、私も客車に乗りたいいいい……」
せっかくのアナリシスとの接触チャンス、無駄には出来ない。
「黙って運転しろよお嬢様」
「はぁ? あんたこそ黙ってなさい。落とすわよ」
「へん、やってみろよ」
「知らないから。それ」
ポチッ。
ガションッ!
「がはぁ!」
アキタはお尻から突き上げられ高く舞い上がる。
「うあーーー!」
「アキタ隊員、早く追いつけよー!」
ニア達はそのまま走り去っていく。
「あーーー! っぐほ!」
どれだけ飛んでいただろうか。幸い怪我は無さそうだ。
「俺じゃなきゃ死んでんぞバカヤロー!」
「おー、アキタじゃねえか」
「ん?」
アキタが振り向くとそこにはグラントとミシャル。
「なんでいんだ? お前ら」
「仕事だよ。お前こそ何してんだ?」
「俺等は聖魔門の点検? 調査? に行くんだよ」
「《《俺等》》って、一人じゃねーか。つーか空から降ってきたし」
「くそ、ニアの野郎……、人を玩具みたいに思いやがって」
「何?! ニアさん!? どこに? ニアさーん! おい、どこだ言え殺すぞ!」
アキタの胸ぐらをつかみ上げ睨みつける。宙ぶらりんになるアキタ。
「部隊長! 恫喝はマズイです!」
ミシャルは必死にアキタの足を引っ張り引き離そうとする。
「ぐ、ぐえ、くる、し」
二人の間で引き伸ばされるアキタ。グラントとミシャルの引っ張り合いに首がどんどん締まっていく。
「こ、こんなことやってる場合じゃ、ない!」
アキタは強引に二人の拘束を引き剥がすと襟元を正す。
「ニアはずっと先の聖魔門に向かってる。俺はニアにリンクスから弾き飛ばされたんだよ。これから合流しなくちゃならねえんだよ」
それを聞いたグラントは疑問を投げる。
「ほー、でもなんつーか、お前が行っても役に立たねえんじゃねえか? 点検だろ? なんか出来んのか?」
「そ、それは……」
グラントから意外な言葉が出る。
「だろ? だったら少し付き合えよ」
「へ?」
アキタの口から空気の抜けた様な変な声が出た。
「アキタ遅いなぁ」
アキタが空へ消えたまま、聖魔門前まで到着してしまったニア達。
ニア、ジョエストとアナリシス二人は門の前で待ちぼうけしていた。
「まあ、あれだ。我々で始めよう。お二人もいることだし」
ジョエストは作業に取り掛かる。
聖魔門は山と山の間、広大な渓谷を塞ぐ巨大な門だ。その先には人々が未だ支配出来ないでいる領域、空白がある。ブランクは凶悪な魔獣と呼ばれる獣が生息し、エーテルの瘴気も至る所に発生する、人が定住することが不可能な土地とされる。ただ、山を跨いだ隣国であるグレンミュール帝国では、《《狩猟団》》と呼ばれる者達が、ブランクで狩りを行っていると言う。その狩りからの生還率はかなり低いと言われているがそれでも長年狩りを続けている者達も多くいるのも事実。彼らは優れたスキルスであることに違いないが、ブランクの過酷な高濃度エーテル環境に曝されることが人体へ影響している可能性もある。
聖魔門はブランクの異常な生態系や危険な魔獣達を世界から隔絶する為に造られたと伝承にある。
「では私達も調査を開始します。あ、勝手にやりますのでお気遣いなく。心配しなくても報告はしますよ。では」
八哥とジフィは箒に跨り門の上部へと上昇して行った。
「こんなに近くに来たのは久し振りだなぁ。……デッカ」
ニアは門を見上げる。その頂点が霞んで見えない程に巨大な門。
「誰がこんなデカい門を開けられるんだろう……」
「おーいニア隊員! 君も飛んで何かないか調査してくれー!」
「は、はーい!」
一方、アキタ達。
「この先に前の火事が起こった村がある。お前、この前そこの住人をムラク市街で見かけたよな? そいつに用があるんだが、顔がよくわからん。丁度良い所に落ちて来たからよ、だからお前に来て欲しいんだよ」
「いやいや、たまたま俺が落ちて来たから良かったものの、そのまま行っても見つかなかっただろ? 無策かよ」
「無策でも何でも関係ねぇ。《《見つける》》んだよ」
グラントは目をギラつかせる。
「お願いします! 防魔隊の中に犯人グループの人がいるみたいで、今は予備隊しか頼れないって、部隊長が……」
「おい! 余計なことを言うな!」
すかさずミシャルを制止するグラントの顔は少し赤い。
「あ! すみません! 犯人のことはまだ言っちゃいけないんでした!」
「いや、それもそうだが! もういい! 気を付けろ!」
ミシャルは何を咎められたのかイマイチ分かっていない。そんな二人を眺めるアキタは咳払いをして姿勢を正し胸を張る。
「うぉほん。それなら、手伝ってあげても良いぞ、グラント君」
「く、頼むぞクソ野郎」
アキタはグラント、ミシャルと共に火事のあった村へと向かうこととなった。




