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第十九話 潜む者

 「防魔隊の中に、ソロモン派の奴がいる。そしてそいつは聖水を横流ししている。学者野郎が言ってたことはそう言うことだ。しかし……」

 中央防魔局前で腕を組み険しい表情のグラント。

 「どこも取り合ってくれませんね。まあ、グリゴリ教の宗派も沢山ありますし、いちいち職員の宗派まで管理しませんよ。それに聖水にしても、防魔局の水栓から幾らでも出てますし、補充の度にちょろまかしてたら分かりませんよねぇ……」

 ミシャルは天まで届きそうな中央防魔局の建物を見あげる。

 「ふぁー、いつ見てもデカ……」

 「ミシャル、バカみたいに口開けてっと虫食っちまうぞ」

 と、そこに巨大な人影が。

 「騒がしい奴が来たと聞いて見に来たが、やはりお前か。またイチャモンを付けにに来たのか?」

 「んあ? ああ、ルージィ東方局長。違いますよ」

 グラントは斜め下から睨むようにルージィに迫る。 

 「異常オカルト野郎が防魔隊にいるらしくて探しているんですよぉ。《《良くない友達》》と仲良くしてるみたいでしてねぇ。そいつはお友達と一緒に幼い子供に《《良くないこと》》をしたようなんで、ケジメつけさせねえといけねえんですよぉ」

 「……お前はなんでそんなやり方しか出来ないんだ?」

 憐れみにも似た目でグラントを見る。

 「そう言う性分なんですよ。……そういやあ、局長が昔に引っ捕らえたって噂の黒フクロウ野郎、復活したらしいすけど、なんか知りませんかねえ?」

 真っ直ぐルージィの目を見るグラントと、まったく逸らさないルージィ。暫し沈黙の後、

 「知らん」

 「……へ、じゃあ失礼します」

 思いのほかあっさりと引き下がるグラント。

 「え、あ、あ、し、失礼します!」

 置いていかれまいとミシャルはあたふたしながらルージィにお辞儀をして追いかける。

 「ジョエストめ、大人しくしてたのにまったく……」

 そう呟くとルージィは振り返り防魔局庁舎を眺める。

 「異常オカルト野郎か。……器用なのか不器用なのか、言うだけ言って帰って行きおってグラントのヤツは」

 静かに笑いルージィは戻って行った。

 

 ある日の夜。

 「くそ、警縛隊のせいで祭壇に入れないぞ」

 ソロモン派施設跡の周辺で蠢く数人の人影。施設跡は警縛隊が警備に当たっている。

 「川の方もまだダメだな」 

 「スライムを使うか?」

 「この前変な三人組にコアを持っていかれて次の《《デカブツ》》が無い。アイツの聖水待ちだ」

 「アイツか……。偉ぶってて俺は好かん」

 「まあそう言うな、ヤツの家は代々ソロモン派の貴族だ。あの息子は素行不良が目立つが、我らの本願の為にはちゃんと働く。今までだってそうだろう?」

 「……、荒が出なけりゃ良いがな」


 所変わって防魔隊車庫。

 「あー、なんなのよこの機械は! 場当たりな配線! 無理なモジュールの付け方! 毎回毎回新しく問題が見つかるのはなんで? 私が悪いの? イジメなの? 嫌われてんの? あー!」

 夜中遅くまで防魔隊車庫にてリンクスを整備中のニア。一度蓋を開けて整備しても、閉じてまた開けると新たな発見がある、それがリンクスの厄介な所であり、操作や整備をする人間を選ぶ所以である。

 「でも、アナリシスと会うんだからね。お前の中身、スマートにしてあげるね。……ん?」

 何か外からドアの開く音がする。

 今此処には自分しかいないはず。

 「ちょっと……。ヤダ……」

 音のした方へ向かうと、水の流れる音も聞こえて来る。そこは車庫に隣接する聖水補給場。専用の保護具を着用しなければエーテル中毒になるため、あまり人の近付かない場所だ。聖水はムラクでは捨てる程生成される物であるが、その性質から防魔隊敷地内にしか取水口が無い。わざわざ防魔隊の警備をくぐり抜け、中毒症状を被ってまで欲しがる者が居ない為に管理は緩い。

 叫びたい気持ちを抑え音の方へと向かう。

 「え……、誰……?」

 そこは暗くよく見えないが誰かいる。聖水がジャバジャバと流れ出る音。人影は明らかに聖水を身に浴びているようだ。

 「あ、あり得ない……。あんな聖水の間近にいると死ぬほど気持ち悪くなるんだよ? 普通は」

 ニアは自身にエーテル保護のグリフを使うとそばにあったバールの様な物を手に、意を決して飛び掛かる。

 「う、うわわー! 死ねー! 不審者ー!」

 「は?! ちょ! うがっ!」

 確かな手応え。振り下ろした得物はしっかりと賊の頭の芯を捉え打ち抜いた。

 ドサリと倒れる不審者。それの沈黙が確認できるとニアは急いで照明を点ける。そこには上半身を露わにしたアキタが伸びている。

 「……何やってんの?」

 その声に反応し直ぐ様起き上がるアキタ。

 「殺す気かっ!」

 「サーチアンドデストロイよ」

 「んだよそれ……」

 「そんなことは良いのよ、ていうかこんな夜中の真っ暗な中で何してたの?」

 「そんなことって……。まあいいか。シミ取ってたんだよ。ミストのシミ」

 「ミストの? いつのヤツよ。最近出動したっけ?」

 「ほら、スラムに出動したろ? あの時に見つけたミスト入のアクリス細工を割ったんだよな。んで、その中のミストに少し触れた所が結構しつこいシミになって取れないんだよ」

 「だからって頭から被って良いものじゃないでしょ。大丈夫なの? 目眩、吐き気、倦怠感などなど、二日酔いの地獄みたいな症状が出るはずなのよ?」

 「ぜーんぜん。ただの水だよ。つーか消えねえなぁ、クソー」

 アキタは聖水浴びを再開する。水飛沫がそこら中に飛散する。

 「うわ! ちょっとヤメてよね! 迷惑考えて! 私帰るからね!」

 「誰にも見られないように明かり点けなかったのに、勝手に来て迷惑ぶんなよな!」

 「聖水塗れにして高濃度管理区域(たちいりきんし)にしないでよ!」

 「わーってるよ! 早く帰れ! しっしっ!」

 などとワーキャー言いながら、ニアは帰り、アキタはシミ取りに励んでいた。

 そんな、二人を物陰から見つめる男が一人。

 「くそ、あんなに聖水浸しにしやがって。今日は近付けねえじゃねえか」

 男は苦虫を噛みつぶしたような顔でアキタを見る。

 「アキタぁ、いつま俺の邪魔をしてくれるなぁ。まだ肋が痛えよ。お前はそのうちスライムの贄にしてやるから待ってろよ。ジワジワと溶けてじっくり死んでいくんだ、楽しいだろうなぁ。クククク」

 物陰から見ていた男は静かに闇に消えて行った。

 翌日。

 「高濃度管理区域につき立ち入り禁止」

 張り紙を見たアキタは、冷や汗を隠すように口笛を吹き去ろうとするもニアに首根っこを捕まれ総務課に突き出されたのだった。

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