第十八話 ディザーテッドペットショップ
「おお、古めかしい魔法陣ですね」
敷地一面に描かれた魔法陣を隅々まで観察するワイズボイス。
「で、どうなんだ先生。どう言う代物なんだ?」
「これは概ねグラントさんの推測通りですよ。ソロモン派の秘儀に使われる複合紋章の魔法陣です。内容としては、そうだな……、深く……開き……繋ぎ……現す、てところですね」
「ここで召喚してたのか……」
「いや、この魔法陣はかなり昔から使用されてません。エーテルが通った痕跡が無い。使い方を知っている者がいないのでしょう」
「ちぇ、期待させやがって……。次行くぞ」
グラントは二人を引き連れ地下へと下っていく。
「おお、此処はなんともミストの臭いが濃いですね」
「ミストの臭い? 何にも臭わねえぞ」
「そうですか? ビンビンきてますよ。鼻の奥から脳の深い所を弄るような不快でザラついた臭い……」
そう言いながらワイズボイスの表情は不快と言うより恍惚に近い。
「で、この壁には付着した粘液状の物質がある、と」
「あ、調査部の報告にありましたね」
ミシャルが手元の手帳を開き確認する。
「壁面に透明なゼラチン状物質の付着を確認。天井にも確認されたそうです。スライムを構成する成分と同じとのことです」
「……、スライムは高所に登る習性はありません。粘性が足りずに落ちちゃいますからね。考えられるのは天井に届く程の超巨大スライムがこの中に存在した、と言うことです」
「んなデケえスライムなんている訳ねえだろ」
「いるんですよ、かなり珍しいですが。《《ギガンティックスライム》》って言うんですけどね」
「……、まあ先生が言うんならいるんだろな」
本当は難癖付けたかったが、早くここから出たいグラントは素直に受け入れる。
「……はぁ。で、なんだ、ここはスライムの飼育小屋だったのか? 拝金教団の施設とか、魔法陣とか、ミストの臭いとか、思わせぶりな雰囲気出しやがって畜生」
グラントは肩を落とす。
「まあまあ、落ち込まずに。グラントさん、スライムの食性を知っていますか?」
「スライムの食性? 雑食で、何でも溶かすんだろ。原始的な生物だから消化じゃなくて、謎原理でエーテルに転化? するんだけっけ?」
「そうです。スライムはエーテルのみで活動出来る原始的な生物。取り込んだ物を鉱物以外なんでも溶解させてエーテルに転化し、それを蓄えたます。話しは逸れますが、蓄えた分スライムは大きくなる、つまり育成次第ではギガンティックスライムは作り出せるのですよ」
「ふーん、で、その巨大スライムで何しようってんだ? 拝金教団は。ペットショップか?」
「それこそ、召喚ですよ」
ワイズボイスの目が怪しく光る。
「ただ、ギガンティックスライムは触媒に過ぎません。その主たるは、魔災被害、しかも魔災に巻き込まれた中から生還した人間」
「魔災被害者? そんな、ムラクでの魔災被害者は全て住民票の下に管理されてます。攫われて分からない訳無いです」
ミシャルは反論する。
「そうでしょうか? 例えばスラムではどうですか? 又は僻地の寒村、あぶれ者達が集まり自然発生的に形成されたコミューンなどは? 管理出来ていますかね。そこで発生した魔災は全て把握されてるのでしょうか」
「そ、それは……」
「ましてや目的を盲目的にことを成そうとしている集団です。しかし、頭は悪くないし金もある。そんな彼らが計画的に魔災を起こし、隠蔽工作をすれば……。不可能ではありませんね?」
「……」
黙り込むミシャル。
「さて、此処にはもう見るものは無さそうですね。あっちに行きましょうか」
ワイズボイスはスタスタと奥の通路へと向い歩く。
「お、おい」
グラント達は慌てて追いかける。
「なんで道を知ってんだよ!」
初めて来たはずのワイズボイスがなぜ案内も無く、奥の通路を知っていたのか。彼は不適に笑い応える。
「物知りですから、私」




