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第十六話 一騎当千

 晴れた空。

 穏やかな気温。

 非番の日。

 「暇だな」

 アキタは暇を持て余していた。

 暇すぎて、何故かラオマオ飯店でお茶をしている。柄にもないことは分かっているが、アキタが今までしていた暇潰しと言えば、例えば川の流れをずっと眺める、空き地で寝転んでいるとやって来る野良の動物と喧嘩する、野良猫が何処に行くか追跡する、などなど、アキタの知っている暇潰しとしては一番人間らしく過ごせる場所なのだ。

 道路沿いの席でお茶を飲み、道行く人々を何となく眺める。若者や老人、男や女、子供や大人、一般人や役人、そして隣には制服組。

 「やあ、アキタ」

 「うぶ! ぐ、グランベルさん?!」

 お茶を吹き出すアキタ。

 「奇遇だな。また会うなんて」

 「あ、ああ。そう、ですね。ははは」

 たじろぐアキタ。奇遇は奇遇だが、此処にいた理由の大半は、あわよくばグランベルと会えるのではないかと言うちょっとした下心だった。

 「……、グランベルさん、俺、期待に応えられそうに無いす」

 グランベルを見て急に意気消沈するアキタ。

 「どうした、何かあったのか?」

 「……せっかくグランベルさんが防魔隊を進めてくれたのに、手柄を立てられなくって、ずっと本隊に行けなくて……」

 「ふむ」

 グランベルはアキタを見て少し考える。

 「そうだな、アキタは勘違いしているかもな」

 「勘違い?」

 「そうだ。アキタは何故手柄を立てたがる?」

 「そりゃ、功績を認められて上に上がるためです」

 「それは、アキタ個人の功績、か?」

 「そりゃそうすよ」

 「では、本隊など無理だ。諦めろ」

 「はぁ!? どうしてです!」

 思わず大きな声がでる。

 「あ、いや……。そんな、無責任ですよ!」

 「防魔隊と言うのは、アキタのような優れた身体能力を持った者達ばかりでは無いんだ。あの訓練で篩に掛けていはいるが、それでも最低限の条件をクリアしているに過ぎない」

 「だから、俺みたいな奴が必要でしょ」

 「最後まで聞け。そんな者達で浄化活動の成功率と、隊の生存率を上げる方法は一つ、徹底して統率の取れた行動だ。指揮系統から末端の隊員まで、徹底した状況管理、迅速な指示、忠実な行動が、魔災の未知の危険の中から安全な道筋を作り出すんだ。一人のイレギュラーが全体の命を脅かすことになる」

 「……」

 黙り込むアキタ。前にダンケス達から言われたことが脳裏を横切る。

 「一人でヒーローごっこ、か……」

 「だからお前は本隊には入れない。これからも無理だろう」

 「……酷いじゃないすか、グランベルさんが誘っといて今更無理だなんて……」

 グランベルはお茶を一口飲み、少し間を置いてから優しく語りかける。

 「なあ、アキタは一騎当千と言う言葉を知っているか?」

 「イッキトーサン……。誰かの父親すか、イッキ父さんて」

 「……だろうな、悪かった。防魔隊の出動では大体十から二十人程度動員されている。そこにアキタの入る隙はない」

 「分かってますって」

 「なら、一人で二十人分のやれば良い」

 「え?」

 「二十と言わず千、千人分の力を持つことを皆に思い知らせることが出来れば、お前は次の舞台へと上がることが出来るだろう。そしてそれが私がアキタに望むことだ」

 「一人で千人……」

 「そう、それが一騎当千、だ」

 「一騎当千……」

 「まあ、そう言うことだ。頑張れよ」

 そう言うとグランベルは去って行った。

 「一騎当千、へへ……」

 

 翌日。

 「よおし! 頑張るぞ! 一騎当千!」

 「何何? 煩いわね」

 アキタが朝から鬱陶しい。

 「昨日、グランベルさんに言われたんだ。俺に一騎当千の実力があることを皆が知れば、俺はネクストステージへ行けるんだって!」

 「ネクストステージ……。つかさ、それっていつもと変わん無くない?」

 「んだと? せっかくのやる気にケチ付けんのかよ」

 「だって、その実力は何処で皆に知らしめるの?」

 「そりゃー、出動したときに滅茶苦茶活躍して……」

 「ほらね。現状を思い出してみ?」

 「……活躍の場が、無い……だと……」

 「そう言うこと。さあ、今日も頑張りましょうかねえ。あ、クッキー貰うよ」

 「……手柄、手柄が欲しい……」

 落ち込むアキタを余所に、今日も防魔隊予備隊の一日は平和に過ぎていく。

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