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第十五話 クララスト家

 「はぁ、やだな」

 ニアは気が重かった。

 何故なら今日は三月に一度、クララスト家で家族が集まり食事会をする日だからだ。

 ニアはクララスト家の三女。とは言え、長女は産まれて間もなく亡くなったらしくニアの記憶には無い。次女のファーは母の下で家長となるべく日々奮闘中。ニアと姉は十ほど歳が離れている。

 クララスト家は基本的に嫡女が家督を継ぐ決まりになっており、ファーはそうなるべく幼い頃から教育されている。三女の末っ子であるニアはそんなファーとは違い、良く言えば自由に、悪く言えば放任され育った。本人的には父や母からは必要とされない余り物のような存在と思われている、と感じている。その為家族との折り合いは悪く、幼い頃は祖父の元へよく行っていた。

 クララスト家の家長は女性であり、男性は家業のクララストインダストリのトップを任される。女性はクララスト家のシンボル、男性は実務の長として存在する。形式として女性上位となるが、実際は立場の上下は無く皆対等である。

 因みに男性は、嫡男に限らず婿でも能力が認められればクララストインダストリトップの座を任されることになる。故にファーやニアを狙う男は多いが、それは単に美女姉妹だからと言うのもある。

 ムラク城壁外の東の要所にあるクララスト家は、隣国サージナ諸王国連合からムラクを守るために強固な城壁を持つ要塞としての役割もある。

 今のクララスト家は祖父母は他界しており、父母と姉、自分の四人。長いテーブルにそれぞれが座り、料理が運ばれてくる。

 「どうだい? 防魔隊での仕事は」

 父、ホーデンが口を開く。ホーデンはクララストインダストリの経営者である。ムラク一の魔導機械製造企業で、その技術力は国内外からの評価が高い。ムラク国内のホーリーグレイル整備を一手に引き受けている企業でもある。

 「どうって、まあ楽しくやってるよ。邪魔者扱いされてるけどね」

 ニアは無愛想に応える。

 「ニア、お父様に優しくしなさい。食事会でしか会えないんだから」

 ファーがその態度を咎める。

 「あらあら、お忙しいのに私なんかの為に時間をいただきありがとうございますお父様」

 嫌味たらしく顔を作ってみせる。

 「ははは、まあ、お前のことは偶に兄さんから聞いている。お前のお陰でリンクスが錆び付かないで助かるとな」

 「ルージィおじさんは偉い人だから私みたいな木っ端隊員のところになんて滅多に来ないよ」

 「お前がどうしても防魔隊に入りたいって言ったときはどうしようかと思ったのよ。ルージィさんがいたから許したようなもの」

 母、ドリスは切った野菜を上品に口に運ぶ。ドリスはクララスト家の家長である。実務はホーデン程では無いがクララスト家の顔として日々忙しく立ち回っている。

 「いつでも帰って来ていいのよ?」 

 「帰らないわ」

 「意地を張らなくてもいいのよ」

 「やりたいことがあるの」

 「そんなこと、ここでも出来るでしょ? 必要なものがあればなんでも用意するわよ」

 目を伏せボソボソと呟くニア。

 「……じゃない」

 「なあに?」

 微笑み聞き返すドリス。

 「ペット、じゃない」

 「なに? ペットが欲しいの?」

 バンッ!

 突然ニアはテーブルを叩き立ち上がる。

 「私はペットじゃない! いつもそう! なんでも欲しい物を貰えて尻尾振るとでも思ってるの?! こんな家に囲われて、皆私を見ているようで見ていないの、私が何をやってもニコニコして頷くだけ。否定も肯定もしない。その癖、家の束縛に絡めようとする! ファーみたいに役割も無い私はただの人形みたい、この家は大きなドールハウスよ!」

 見かねてホーデンがニアを宥める。

 「まあまあ、ニア。こう言うと怒るだろうが、お前はやりたいことをすれば良い。敢えてクララスト家の名を使わず、自分の力でやると決めたお前の選択は尊重するよ」

 「ふん、いつまでも子供じゃないんだから。やって見せるわ」

 ニアはホーデンを睨みつける。

 「神智に触れる者達(アナリシス)にクララストは帰るのよ」

 その目には決意の炎が燃えている。

 ホーデンとドリスに一瞥くれた後、ニアは食事も半ばに帰って行った。

 「ニアにも困ったものね」

 ファーは気にせず食事を口に運ぶ。 

 「お姉様みたい」

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