第十三話 人は見た目が……
「魔災発生!……」
防魔隊は今日も慌ただしく出動する。
「今日も今日とて出動の日々。魔災よ、なぜにこんなに多いのか。ああ魔災、ああ魔災……」
そんな中、防魔隊のあぶれ者、予備隊の面々は暇そうにしている。中でも窓際に佇み外を眺めるジョエストのその背中はクビを宣告された中年男性のよう。
「ねえ、アキタ。どうしたの隊長。窓の外眺めてばっかり」
「風邪でも引いたんじゃないか? 冷えんだろ、ほら、最近更に薄くなってき……」
「アキタ! ダメだって! 聞こえるって!」
ニアは小声で制するも遅かった。
「エーテル薄くなりて、我が頭髪も薄くなりけり……」
「ほらー!」
「んだよもー、この前までウキウキだったじゃねえか」
遡ること数週間前。
「ふんふうんふんふん」
「どうしたんですか隊長気持ち悪い。鼻歌なんか歌って」
「アキタ隊員、君はこれから私の成長の目撃者となる」
「はあ」
「これから私に起こる変化に気付けば、いや、気付くことになるだろうが、その時は私に教えてくれ。記念品をあげよう」
数日後。
「お、アキタ隊員。おはよう。ふんふーん」
「……」
数日後。
「おはようアキタ隊員」
「……分からん」
そして数日経ち今日に至る。
「はぁ……」
ため息が止まらないジョエスト。その落ち込んだ雰囲気は周囲に及び、ニアは近づき難いものを感じ始めていた。
「なんか隊長の周りだけセピア色に見えてきたよ。アキタが気付かないからじゃない?」
「お、俺のせいか?」
そう言うも、アキタはジョエストから言われた事を思い出す。あれは変化に気付いて欲しいからだったのか。そして目を凝らしてジョエストをまじまじと見る。
「……ダメだ。全っ然分からん」
「はーっくしょん!」
ジョエストはくしゃみをすると身震いする。
「やっぱり風邪じゃないか。そりゃ頭薄くなって……、……それか!」
「ちょ、アキタ?」
アキタに意気揚々とジョエストの元へ向かう。
「隊長! ふふふ、分かりましたよ! ハゲです! ハゲましたね!? 変化ってそれでしょ?」
「馬鹿ー!!」
ニアは猛烈なダッシュでアキタの後ろ襟を掴んで自席まで引き摺り戻す。
「馬鹿馬鹿馬鹿! そんな変化気付いて欲しい理由ないでしょ! 逆効果よ!」
「いや、それしか無いって! 変わってねーもん!」
「は、ハゲ……」
ジョエストは小刻みに震えだす。
「た、隊長! 大丈夫です! ハゲが進んでも戻っても全然分かりません! チビデブハゲでこそ隊長です! 大丈夫!」
「お前も酷いぞ」
「お、お前達ぃいいい……」
ジョエストはワナワナと震えだす。寒さと言うより、怒りに燃え、沸き立っているように。
「あわわわわ……」
今まで見たことの無いジョエストの雰囲気に気圧される二人。
「くううう!……はぁ」
一気に爆発するかと思いきや、逆に萎むように沈静化する。
「隊長……?」
恐る恐る声を掛けるニア。
「よし、潰す。潰そう……」
ジョエストはふらふらと立ち上がり、ボソボソと呟きながら彷徨うように歩き出す。
「追うか」
「そうね」
ふらふらと時に通路の壁にぶつかりながら向かった先は箒室。そこには個々人で違うエーテルの波長で承認されるロッカーがある。ジョエストはそこから自身の箒を取り出すと先ほどまでの千鳥足は何処へやら、突然脱兎の如く走り出す。
「な、速い!」
「先行って! 私も箒取ったらすぐ行くから! 見失わないで!」
「おう!」
とは言うものの、箒室から少し行けば外だ。ジョエストは直ぐ様箒に跨り跳んでしまう。
「クソ!」
アキタは必死に追うも不思議で不規則な軌道を描き飛ぶジョエストを見失わないのは至難の業だ。
「あ!」
目の前の障害物を避け飛んだ先、足元はムラクを流れる大きな川。
「うわあ!」
「よっ!」
引き上げられるアキタ。見上げれば箒に跨るニアがそこにいた。ニアはそのまま、よっこいしょと箒に乗せられる。
「スパナより重いもの持ったことねえんじゃなかったのか?」
「知らないの? 魔法使い位になればエーテルで肉体強化も出来るし、念動力で補強したり出来んの。疲れるから普段はしないけど。普通の私はスパナでも重いんだからね。お嬢様ですから」
「へいへいお嬢様」
二人が喋っている間もジョエストは飛び続ける。
「速いなあ、隊長。自前のの箒は凄い手の込んだ改造メカニカみたいね」
「何のことか分かんねえけど、爆速でヒッチャカメッチャカ動きまわって何してんだ隊長は」
「……」
「ニア?」
「え? ああ、目標を探してるんじゃない?」
「そうなのか」
アキタは納得したが、ニアの表情はまだ何かを含みを残している。
ある程度の魔法の素養があれば、訓練次第で視界に入る空間のエーテルの濃淡が認識出来るようになる。隊長のあの動き、的確に大気中のエーテル濃度が濃い部に当たりに行っているように見える。ふとアカデミーの文献にあった内容を思い出しハッとする。エーテルの少ない魔法士がより上位の魔法を行使しようとして編み出した技法、魔力収集だ。今では使う者も居ない埋もれた技だが、ジョエストが習得していたとは。何処で知ったのだろうか。
「あ、下がってく」
ジョエストは一頻り彷徨い飛んだあと、町中の数回建ての建物の前に降り立ち、箒を横に無造作に捨て置いた。
「あー、たいち、よ」
声を掛けようとしたとき、ジョエストは顔をすっぽり覆う覆面を被り建物の中に入って行く。
「え?」
ニア達はその行動に戸惑い追いかけるタイミングを失ってしまった。
「んだてめー!」
「何のつもりだぁ?」
などと中から荒々しい出迎えの声が漏れ聞こえる。
「だ、大丈夫かな……」
ニアが心配そうに建物を見ると、不意に窓ガラスを突き破り何かが飛び出てきた。通行人は驚き、皆がそこに集まって行く。
「う、うう……」
それは筋骨隆々な厳つい男だった。そしてその男を皮切りにバリンバリンと、次々と飛び出して来る。
「うわー! 助けてくれ!」
中から大量に逃げでてくる者達。
暫すると、人が飛び出て来ることは無くなった。すると中から声が聞こえる。
「えー、只今からこの建物を消し飛ばします。付近の皆様は大変危険ですので避難してください」
拡声グリフを使ったのか、その声は広く響いた。
「う、うわ、うわあああ!」
その声を聞いた人々は一瞬にして、建物の周囲から消え去った。それと同時に窓から強烈な光が飛び出た瞬間、建物が吹き飛ぶ。
「あででででで!」
ニアはアキタを盾にして爆風から身を守る。
「炸裂魔法を使うなんて……。でもちゃんと制御されて、周囲の被害が殆ど無い」
「俺の被害は甚大だぞ……」
飛んできた破片で血だらけのアキタ。
濛々と立ち込める土煙が捌けた時、そこには誰も居なかった。
「あーあ、どうすんだ。これ」
「わ、私知らないからね。隊長の乱心なんだから! 早くずらかるわよ!」
「へいへいお嬢様」
ニアは全速力でその場を去った。
翌日。
「おはよう。アキタ隊員」
何時も通りジョエストがやって来る。寧ろ上機嫌だ。
「お、おはようございます。お変わり無いようで、なによりです、はい」
「ん? なんだ気持ち悪い。いやースッキリした朝は気持ちが良いなー。なあアキタ隊員」
ジョエストは肘でアキタをツンツンと突く。
「へ、へへへ。……おいニアどうなってんだよ」
ジョエストが席に着くと、アキタは新聞を読むニアに聞く。
「……昨日被害にあった建物は最近問題となっている拝金教団が拠点として使用していたものだった。今回の事件は教団被害者の恨みによる犯行と思われ、警縛隊が捜査を開始した。しかし、弊社の独自取材で判明している破壊犯の特徴から、数年前まで世間を賑わせていた覆面義賊、ブラックオウルが復活した可能性が高いと見ている。だって」
「それって、犯人が隊長だと思われて無いってこと?」
「そうね。ていうか、隊長、ブラックオウルだったんだ……」
「なんだよブラックオウルって」
アキタはニアに聞くが何やら考え中のニアの耳には届いていない。
「ったく、いいですよ。隊長に聞くから。隊長ー! ブラックオウっうぐ!」
ニアはアキタの口を手で塞ぐ。
「馬鹿! 良い? 昨日のことは二人の秘密よ。絶対に他言無用だからね! わかった?」
アキタは理由がわからず取り敢えず頷く。
「ふう……なんでこんなのと防魔隊にいるんだろ、私……」
ニアは悩みが尽きない。
そんな頃、警縛隊では、
「くそー! 爆発犯の野郎! 教団施設消し飛ばしやがって! 捜査出来ねえじゃねえか! 許さねえ! ぶっ殺す!」
「グラント部隊長、落ち着いて!」
グラントが暴れていた。




