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第十話 別格で欠格

 「ニアよお、また俺のクッキー食ったろ?」

 「いいじゃない、減るもんじゃないし」

 「いや減るだろ。やめろよな。お嬢様がみっともない」

 「お嬢様であるためにはお金が掛んの。解んない? この髪の毛の艶、肌のハリ。解んないよねぇ。鈍感馬鹿なんだから」

 「馬鹿って言うなよ! つかいつも油まみれに何だから意味ねえだろうがよ」

 「馬鹿!」

 何時も通りの予備隊。

 「おーん? 何イチャイチャしてんだ? 仕事場でよ。サブタンクさんよぉ」

 ゲレミーがやって来る。 

 「なんだ不良青年か。君はあっち行ってなさい。クサいから」

 アキタの変に大人ぶった口調がぎこちない。

 「誰が不良青年だよ! あ? 前から気に入らねんだよお前よお。可愛い女の子とイチャイチャイチャイチャしやがってよお。ろくに訓練も出ねえクセに、生意気なんだよガキが」

 「威勢が良いな、後輩よ。なんなら胸を貸してあげようか?」

 「その口調止めな、気持ち悪い」

 クッキーを摘みながらニアは雑誌を読んでいる。

 「クソが! ぶっ殺してやる!」

 「おいおい、やめろゲレミー!」

 ダンケスが割って入るもののゲレミーは勢いが付いてしまっている。

 「まあまあ、ダンケス。ここは先輩の俺が指導してあげようじゃあないか。タイマンでどうだ?」

 「上等じゃねえか!」

 涼しい顔をしたアキタの眉間に長身のゲレミーは腰を折り眉間を擦り寄せる。所謂ガンを飛ばすというやつだ。

 「……ふう、仕方ない。教練場に出ろ。俺が見届けてやる」

 ダンケスは已む無く二人を教練場へ連れ出す。そこは体術や剣術など武道の訓練に使う場所。そこでの荒事は全て訓練の内と言うこととなり、死者が出ない限りは問題にはならない。

 「他の教練で競っても納得しないだろうからな、組手だ。得物は何でも有り、お互い気が済むまでやれ。ヤバそうになったら止めるからな。じゃ好きなタイミングでやれ」

 そう言うとダンケスは端にある椅子に腰掛ける。周囲にはダンケス以外の野次馬も大勢いた。

 「止める暇なんてねーよ。瞬殺だ」

 「その威勢は認めてあげよう」

 ゲレミーは短剣を両手に持ち手数重視の構え。対するアキタは素手だ。

 暫し睨み合った後、アキタは何かに視線を移す。その瞬間を見逃さずゲレミーは間合いに飛び込む。

 「ビビってやがんの!」

 速い。ゲレミーは筋力強化系のスキルスだ。意識した部分の筋力を大幅に強化し、爆発的な瞬発力を生む。

 「死ね」

 ゲレミーはアキタの眼前に一気に詰め寄り喉元目掛けて刃を滑らす。しかし、アキタには皮一枚分届かない。ゲレミーは短剣の小回りを生かし能力で高めた回転力で舐めるように追い打ちを掛けるがそれもアキタはギリギリですり抜ける。その内の一手をアキタは優しく手のひらで止めると、ゲレミーの足が止まるもその周囲にあった勢いに乗った空気は止まらず二人の周りに風が舞う。

 「は、速ぇ……」

 防魔隊員である野次馬達でも追いきれていないようだ。

 「目が合ったままだと動けないのか? ふふふ、照れ屋さんだな」

 アキタはニヤリと笑う。

 「ああ? うるせぇ!」

 と言いつつ距離を取るゲレミー。

 「まあ、防魔隊は対人戦闘なんて無いんだけどな……」

 今度はアキタがゲレミーの目を捕捉する。ゲレミーも見返し、睨み合うかとした瞬間、

 「ほらよ!」

 アキタは予備動作も無しに一気に間合いを詰めゲレミーを間合いに入れる。

 「か、はや」

 「隙を伺ってちゃ、殺されるぜ?」

 ドンッ

 ゲレミーは吹き飛ばされる。

 「ぐへッ!」

 アキタのその一撃は一瞬の内に自身の肩から拳、背中を同時にゲレミーの身体に突き当て、大きく吹き飛んだその身体から意識を引き剥がした。

 「そこまで!」

 ダンケスは徐に椅子から腰を上げて吹き飛んだ先で意識を失っ横たわるゲレミーに近寄る。アキタも遅れてやって来る。

 「ありゃ、寝ちゃったか。そんな疲れるほどやっちゃねえんだけどな」

 「許してやってくれアキタ」

 「俺は良いんだけどさ。コイツ納得するかなあ」

 「少しは懲りるだろ」

 「だといいんだけど」

 一仕事終えたアキタは机に戻ると、

 「あー! 俺のクッキー無くなってんじゃん!」

 「良いじゃん、いつもあるんだし」

 「俺が買ってんの! 分かる? 買ってんの!」

 「で、どうだったの?」

 「ったく。……まあ、力は悪く無いんじゃないか? 性格はクソだけどな」

 とふとアキタの表情が曇る。

 「ん? どしたの?」

 「いや、あんな性格終わってても本隊に入れてるのに、入れない俺って……、俺って……」 

 ふるふると震えだすアキタ。そんなアキタを見たニアは憐れみの眼差しで言う。

 「泣いて、良いんだよ?」

 「泣くか馬鹿。クッキー返せこの野郎」

 「あー、心配して損した。心配料としてクッキー食べて良い権をいただきます。拒否は認めません」

 「んだよそれ!」

 「今日も平和だねえ」

 ジョエストはお茶を啜る。

 いつも通りの予備隊であった。

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