第8話 超兵器ツングースカ・ファープ(第1部・全15話)
人類反抗軍前進基地内の作戦司令室に進行状況の声が響き渡る。
「アルファ号、カタパルトより分離完了。」
「ベータ号、カタパルト分離。」
「ガンマ号およびデルタ号ともに分離。4機とも自立状態です。」
決められたプログラムを淡々と、着々と進められていくクルーたち。
複数のスクリーンに表示される4機のデータ群。
その状況を淡々と目で確認するマヤ、ハヤセ、そしてマーシャ。
テンポ良く進行状況を各クルーの声が作戦司令室に響く。
「各エンジンブースト着火。燃焼状況良好。」
「全機燃料注入伝達状況良好。」
「目的着地地点、敵ドーム基地を中心に半径4キロメートル地点。」
「カウントダウン続行します。」
沈黙を守ったまま進行状況を見つめるマーシャの横で、ハヤセが話しかける。
「超兵器ツングースカ・ファープ、目標との距離が4キロメートルなら問題はないわよね。」
それまで無視状態であったマーシャが少し間をおいて口を開く。
「理論上はね。本来あの兵器は宇宙空間用の武器だったらしいし。
実際うまくいくかどうかわからないわ。」
無表情状態のマーシャが返答したことで、ちょっとハヤセは笑みを浮かべて続けた。
「いいじゃない、いきなり実戦使用だけど。いよいよだわ。」
マヤが最終カウントダウンを告げる。
「ファイナル・イグニッションに入ります。」
マヤは自身の近くにいるハヤセとマーシャに聞こえるように状況を伝えた。
作戦司令室の各クルーが進行状況が伝える。
「ツングースカ・ファープ全4機発射体勢完了。」
「エンジンバースト100%に達します。」
「カウントダウン続行、20、19、18。」
それまで無口気味だったマーシャが口を開いた。
ハヤセの横で静かに大人しく状況を見ていたマーシャが口を開いた。
ロシア語訛りではあったが、それがちょっとかわいいとハヤセは思っていた。
「ツングースカ・ファープ、ジャイロを再確認してください。念の為です。」
マーシャの突然の指示に驚くことなく、淡々と反応するクルー。
よく見ればロシア人の他に多くのの外国人クルーも目につく。
「全ジャイロ良好です。確認オールクリア。」
その報告に続けてマヤが状況を伝える。
「カウントダウン続行中です。12、11、10。」
素早い視線で複数の状況を把握して心配性の如くマーシャが口をひらく。
「敵ドーム基地の反応は?」
マヤが素早く状況を確認して即時反応てマーシャに答える。
「ありません。敵のドーム基地反応なし。」
素早いマヤのリターンを無表情で聞き入るするマーシャ。
その視線はモニター画面のはるか先を見つめているかのようだ。
その様子を横で見ていたハヤセはかすかに微笑んで口を開く。
「あとはまかせるわ。マーシャ。」
クルーのカウントダウンの声が響く。
「6、5、4。」
ハヤセの言葉に頷いたマーシャ、決意の表情を浮かべ口を開く。
「超兵器ツングースカ・ファープ、リフトオフ!」
人類反抗軍の前進基地内に配備された4台移動型発車装置から、
弾道ミサイルがそれぞれ発射されていく。
青白い炎をあげて、4発の弾道ミサイルが上昇していく。
朝日を浴びて側面を輝かせた弾道ミサイルは雲をかき分け、
それぞれ違った角度をつけ軌道修正していく。
マーシャが少し緊張して張り詰めているのが、ハヤセにはわかった。
『借りてきた猫』状態のマーシャがピリピリしている。
『借りてきた猫』?
ロシア語ではどう言うのかな?
それは、まあいい。
ハヤセはマーシャの緊張を解くため、そばから優しくさりげなく声をかける。
「もうすぐね。」
その言葉に、落ち着いて頷くマーシャ。
お互い視線は合わせないものの、2人の気持ちは同じだ。
「超兵器ツングースカ・ファープはあなたの国の科学アカデミーが開発した
決戦兵器ね。いきなり実戦投入だけど、いけるっしょ。」
ハヤセはマーシャを励ますつもりで言葉を選んだが、
緊張しているマーシャの答えは素っ気なかった。
「あの技術は異星からきた物ですけどね。使えると思います。」
異星から来た技術。
オーバーテクノロジー。
それは人類の叡智をもってしても一から作ることが不可能な物。
どこまで制御でできるのか?
どれだけの効果をもたらすのか?
それは試してみないとわからない。
いきなり実戦導入で運用する。
今ちょうど、2人の目の前にそれがある。
たとえそれが、ここで行われる『実験』だとしても。
「あと1分でツングースカ・ファープ4機、予定通り敵のドーム基地を中心に
4キロメートル・レンジで着地します!」
複数のモニター上に表示されるデータ数値の数々。
それらのデータは遠景望遠リアル画像と共にシミュレーションによる
ビジュアル映像で再現構築されていく。
まるでそれはAIによる生成模造画像だとしても。
マヤの状況説明が続く。
「ツングースカ・ファープ4機、ともに敵ドーム中心に4キロメートルレンジで
展開、まもなく地面に着地します。」
各機の高度が表示されていく。
100、50、10メートルと高度を下げていく。
「着地まであと10秒。ベータ号とデルタ号、ディレイ2.5秒。」
流れるような視線で情報を目視して、マーシャが告げる。
「敵のドーム基地の反応はどう?」
別モニタークルーが即座に反応する。
「敵ドーム基地、迎撃反応ありません。監視中の模様です。」
アラームが響き渡る。
「ツングースカ・ファープ4機全機着地完了。ただしガンマ号応答なし。」
「どうなっている?」
マーシャのその反応にハヤセも同時に同じ動きをしてしまう。
マヤが落ち着いて現状報告を続ける。
「超兵器ツングースカ・ファープ・ガンマ号、応答ありません。着地は完了しています。」
最大望遠のリアル画像とデータを元にしたシミュレーション映像が
複数のマルチ画面に表示される。
目視的にはなんら異変はない。
しかしクルーからの応答には反応せず、本体からは詳細なデータは送られてこなかった。
作戦司令室で憤るマーシャに、すぐ横に立つハヤセが声をかける。
「大丈夫。最悪2機のステレオ攻撃でも効果あるはず。」
ハヤセの慰めの声かけにマーシャは小さく頷いて状況を見守るしかなかった。
「絶対零度反射盤、オープンします。アルファ、ベータ、デルタ3機、射出盤オープン。」
敵ドーム基地を中心に4キロメートルレンジで展開している
3機の超兵器ツングースカ・ファープの尖塔部がパカッと割れて
花が咲くようにパラボラアンテナ状に変形していく。
パラボラアンテナ状の射出盤形態となった頭部は、やがて頭をもたげ狙う先の
敵ドーム基地をターゲットに収める。
「マイナス・ゲイン・ジェネレーター展開。」
マーシャの鋭い指示に多くのクルーは速やかに対応していく。
まるで幾度もシミュレーションを行ってきたかのように。
マルチモニターにマイナス・ゲイン・ジェネレーターの状況が表示されていく。
ジェネレーター内の温度がみるみる下がっていく。
外気温との温度差のせいで、3機のツングースカ・ファープがみるみる
霜降り状態へとなっていく。
「マイナス・ゲイン・ジェネレーター、良好。」
「プレッシャーパワー、収束展開、進んでいます。」
温度差の影響でモクモクと水蒸気をあげていく3機の超兵器ツングースカ・ファープ。
作業は順調に見えた。
だが。
強烈な閃光が走る。
1機のツングースカ・ファープが大爆発を起こした。
スケールの大きさと本部基地との距離感の関係で、その大爆発はまるで
スローモーションのように見えた。
ハヤセは思わず声を上げる。
「敵の攻撃?」
マヤが素早く反応する。
「違います。」
複数のクルーが同時に反応する。
「自爆です。マイナス・ゲイン・ジェネレーターの温度変化のせいで
本体耐えきれず、爆発しました。」
口に手を当てて考え込むように口をひらくマーシャ。
「空気がある地球上では、やはり不向きのようね。」
4機用意した超兵器ツングースカ・ファープ。
だが、実際に稼働し使用できるのはアルファとベータの2機だけとなった。
思わず息を呑むハヤセ。
「ツングースカ・ファープは2機あれば最低限運用可能よね?」
お互いモニターを見て視線を合わさない2人。
少し悔しそうにマーシャが呟く。
「理論上はそうだけど。」
敵ドーム基地を中心に3時と11時の方向に着地して、巨大パラボナアンテナを
向けるアルファ号とベータ号。
敵ドーム基地は人類側がどのような攻撃をしてくるのか、まさに様子見状態を醸し出している。
「マイナス・ゲイン・ジェネレーター展開、絶対零度に近づいていきます。」
目の前に表示されるレベルメーターを注視するマヤ。
その背後で状況を見つめるハヤセとマーシャ。
モニター画面のデータ数値がものすごいスピードで流れていく。
ふとマーシャが声をかける。
「待って。そこ。」
「え?」
不意を突かれたような表情を上げるマヤ。
マーシャはマヤのすぐ背後に近づいて指示を出す。
「75行前、数値がずれてるわ。」
マヤは自信に満ちていたが、自分は見落としていないと信じている表情を浮かべる。
「たぶんここ。」
そう言ってマーシャは自信の指で操作し、数値がずれているポイントを修正する。
自身のプライドを傷つけられたマヤ。
「すみません。私、見落としていたみたいで。」
背後のハヤセが助けに入る。
「珍しいわね、マヤ。普段そんな事ないのに。疲れてるの?」
ハヤセの助け舟に複雑な表情を浮かべるマヤ。
「いえ、疲れてるなんて、そんな。」
微妙な空気が流れる一瞬、マーシャがやさしくフォローに入る。
「0.2秒の誤差だもの。仕方ないわ。がんばって。」
「はい。すみません。」
マーシャのフォローに複雑な気持ちがあるものの、気を取り直して復帰するマヤ。
「マーシャ、さすがね。」
ハヤセのフォローに軽く会釈したマーシャの視線は、これから起こるであろう先を見つめていた。
「冷波光線射出準備完了。」
何事もなかったのように気を取り直して状況を報告するマヤ。
たくさんのクルーがいる巨大な司令室が一瞬静まる。
絶対零度。
冷波光線。
一体何の事だろう。
いくら傍若無人に侵略してくる敵に使うとはいえ、地上がどのような結果を
もたらすか、まだ誰も知らない。
「エネルギー蓄積120、ターゲット集束ニッチ。いつでも行けます!」
マヤがハヤセの顔を伺いながら状況を報告する。
いつでも撃てる。
ハヤセは自分の前に立つマーシャが小刻みに揺れているのに気がついた。
責任と結果に緊張しているのか、それともこれから起こるであろう結果を期待しているのか。
微かに肩を揺らすマーシャがどんな表情をしているのか気にはなった。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
今、自分たちの目の前にいる敵を粉砕阻止しなくてはいけない。
「撃つわよ、マーシャ。」
ハヤセの言葉に、それまで前を見ていたマーシャがハヤセの目を見て、頷く。
それを確認して正面を見直したハヤセが一拍間を置いて口を開く。
「絶対零度光波砲、発射!」




