第4話 要塞級のメドゥサ(第1部・全15話)
それはまさにスキャンチューブの大元。
それは巨大なバルーン。
それは巨大な脳。
白くクリスタルに輝くシリコンの球状の巨大な塊。
そこから無数に伸びるスキャンチューブの数々。
それはまるで細胞表面から生える繊毛の如く。
後で分かったことだが、要塞級のメドゥサは
遥か先にある敵のドーム基地の中継ステーションだったとのこと。
いわば『ハブ』の役目を担っているとのこと。
様々なスキャン情報を中央部の敵のドーム基地に送っているらしい。
だが今はそんな事を言っている場合ではない。
次の瞬間、冷気が走った。
冷気っていうものじゃない。
キリの目前をまるで猛寒波が走った感じである。
寒い。
周りの温度が急激に下がった感じがした。
アヤカ先輩が冷凍銃を要塞級のメドゥサに放っている。
絶対零度の冷凍銃。
本当に絶対零度なのか?
本当か?
その冷凍銃の効果は絶大ではあったが、さすがに巨大な要塞級のメドゥサ全体
を凍らせて機能停止に持ち込むのは簡単ではないようだ。
「キリ君、これを使って!」
アヤカ先輩が冷凍銃を連続照射しながら、自身の背中のハンマーに顔で指示をする。
キリはとっさにアヤカ先輩の背後に周り、
彼女が背負っているバックパックからハンマーを取り出した。
重い。
結構思い。
え? これ振り回すの?
自分の力でこれ扱えるの?
するとアヤカ先輩が冷凍銃を要塞級のメドゥサに冷凍銃を放ちながら指示する。
「起動スイッチを押して! 重力制御できるわ!」
ボタン、ボタン。
あ、これか?
だけど重力制御ってなんだ?
そう思いながら起動スイッチを押すキリ。
すると。
今まで重かったハンマーが非常に軽くなり、電飾がキラキラと光る。
そして小刻みに振動が始まる。
「それで、要塞級の触手をぶち壊して!」
『さあ、お二人の初めての共同作業です。』
それは結婚式でよくあるナイフの入刀作業だ。
キリはそれが憧れのアヤカ先輩とだったら嬉しかった。
しかし今は、憧れのアヤカ先輩と一緒に戦っている。
命の危険がありながら。
しかしキリは嬉しかった。
しかしキリは真剣だった。
アヤカ先輩が放つ冷凍銃の冷気がキリの身体にもわずかながら降り注ぐ。
寒い。
冷たい。
だがキリはそんなことも気にならないぐらいに熱かった。
体内から燃え盛るエネルギーが湧き出てきた。
今、自分は憧れの人と一緒に戦っているんだ。
自分の横に憧れのアヤカ先輩とともに戦っているんだ。
アヤカ先輩が要塞級のメドゥサの触手を凍結させる。
キリがすかさずタイミングを見て、横からそれをハンマーで粉砕する。
繰り返される二人の共同作業。
キレイだ。
シリコンの、クリスタルの粉砕された『破片結晶』が宙を舞う。
キラキラと光る。
まるで二人の新しい門出を祝うように。
だがそんな幸せの状況は長くは続かなかった。
だが巨大な要塞級のメドゥサ全体を凍結させて機能停止に持ち込むのは無理であった。
要塞級のメドゥサ全体は凍る事はなく、単に二人に迫り来る触手を捌いているだけだ。
まずい。
このままではやられる。
敵もさる物だ。
やはり学習効果があるみたいだ。
同時に上下左右の位置から複数の触手が二人に襲いかかる。
敵としては埒が開かないので、一気に攻めに回ったのだろう。
苦戦するキリとアヤカ先輩。
迫り来る中途半端に氷結している触手群が、
氷の滴りをバキバキ言わせながら襲いかかってくる。
「二人ともそこに伏せろ!」
声がした。
男の声だ。
どこか聞き覚えのある声であった。
その言葉に、キリの横に立つアヤカ先輩が反応する。
「キリ君! 伏せて!」
冷却銃を打つのを辞めたアヤカ先輩が横にいるキリの身体にジャンプする。
二人の距離は結構あるので、ジャンプして覆い被さるのが適切な判断と言える。
匂い。
香り。
この香りは懐かしい。
キリはそう思った。
ジャンプして飛びかかってきたアヤカ先輩がキリに覆い被さり、二人はその場に伏せる。
何よりも驚いたのが、アヤカ先輩が身を挺してキリの事を守ってくれた事。
二人は地面に倒れ込み、アヤカ先輩がキリの上に乗り庇ってくれている状態だ。
キリは一連の流れに驚いた。
だが一番驚いたのは、アヤカ先輩の身体がキリの上に覆い被さっている事だ。
プロテクターの装備等を装着しており、アヤカ先輩が裸のわけはない。
しかし、覆い被さる長い髪。
部分的に触れる頬と頬。
首筋から流れてくるアヤカ先輩の心地よい懐かしい香り。
キリはそれを驚くも嬉しさも溢れた感情でいっぱいになる。
甘酸っぱい感情が溢れたキリの心であったが、それはすぐさま『重い波動』で打ち消された。
キリの視線に、声をかけた男が手に持つ武器で、要塞級のメドゥサに攻撃しているのが見える。
自分の見たことのない武器。
自分が着ていない最新装備。
だが何よりもキリが驚いたのは、最新兵器銃をぶっ放す『男』の姿であった。
あいつは?
なんか見たことあるやつだ?
誰だ?
それにさっきの『二人ともそこに伏せろ!』の声、聞き覚えある。
誰なんだ?
誰だろう?
なんとなく知り合いだと思うが、キリが見た事ない最新装備に身を固めたその姿。
顔がかっこいいバイザーで隠れている。
よく見えない。
そんな事を考えている暇はなかった。
助けに入った男が放つ最新武器。
あれは。
「あれは重力兵器よ。最新鋭の。」
キリの上に乗って身を挺しているアヤカ先輩が口をひらく。
アヤカ先輩の長い髪の毛が、キリの口にそっと絡んでいる。
ちょっと嬉しい。
かなり嬉しい。
だけど今はそんな事で感動している場合ではない。
重力兵器?
なんだそれ?
知らんぞ。
聞いてないぞ。
キリは不満であった。
だがそんな事も後回しであった。
キリとアヤカ先輩に襲い掛かろうとした要塞級のメドゥサは、
彼の放つ重力銃で『押さえつけられ』『動きを封じられて』いる。
ギシギシと空気を揺るがす。
あたりに『重力震』の波動がかかる。
それを見上げるキリとアヤカ先輩。
助けに入った男が叫ぶ。
「早く、コアを!」
コア。
コアとはなんだ?
キリは詳細のブリーフィングを受けてはいなかったが、直感で物事を理解した。
アヤカ先輩が叫ぶ。
「カミヤ君、どうする?」
助けに入った男が叫んで返す。
「重力波の集点をずらしてピンポイントに収束させる。
そうしたら、攻撃介入できるだろ?」
意味わからん。
言っている意味がわからん。
それにさっき言っていた男の名前。
『カミヤ君』。
『カミヤ』。
それって、まさか?
キリは不満であった。
だが不満を言っている時間はなかった。
アヤカ先輩が立ち上がってキリの手を取り立ち上がらせる。
「私がコアの部分を冷凍銃で瞬間冷却するわ。
キリ君は私の横に立って、そのナイフでコアを切り裂いて。」
アヤカ先輩が言ったナイフ。
それはキリが小道の中でスキャンチューブからセンチネルヘッドを切り取った
銃剣のヒートナイフの事だ。
「だけど、彼が使っている重力銃の影響はないんですか?」
キリの素朴の疑問にアヤカ先輩が速攻答える。
「カウントを合わせて、重力波の集点をずらしてもらうわ。
でもそれと同時に要塞級が動けるようになるけどね。」
そう言って冷凍銃を構えるアヤカ先輩が力強く叫ぶ。
「カミヤ君。やって。カウントはあなたにまかせるわ。」
振り返り踵を返すアヤカ先輩。
「キリ君、行くよ。」
わからん。
よくわからんけれど、やるしかない。
アヤカ先輩が冷凍銃で急速冷凍する部分にコアがあるのだろう。
キリはタイミングを合わせて銃剣のヒートナイフでコアを
切り裂けばいいのだろう。
初めてではない。
それと似たような事は、ついさっき小道の中で経験した。
助けに入った男=カミヤが口を開く。
「行くぞ! 5、4、3!」
カミヤ!
思い出した!
あいつだ!
学生時代、散々言いがかりをつけてきた嫌なやつ。
時が経ってだいぶ顔つきが変わったけど、あいつだ!
自分の大っ嫌いだったやつだ。
なぜ?
どうしてここに?
どうしてよりによって?
「2、1、マーク!」
その言葉に合わせてカミヤが重力中の攻撃ポイントを左上にずらす。
重力波の影響が軽減した要塞級のメドゥサが『身体全身』を震わせて、
二人めがけて前進する。
「キリ君、行くよ!」
重力波の圧力がうすれた要塞級の白きメドゥサが迫り来る。
アヤカ先輩はコアがあるであろう部分に向かって冷凍銃で急速冷凍させる。
冷たい気流が押し寄せてくる。
だがもう慣れた。
さっきまで、初めての時はビビったが、今は驚かない。
要塞級の白きメドゥサの腹部がビキビキと凍っていく。
「まもなく、ここよ!」
アヤカ先輩は知っていたのだろう。
敵の弱点を。
カミヤも知っているのだろう。
キリが教えてられていない事も。
完全に氷結して白く凍りつく、要塞級のメドゥサの腹部。
「やって!」
その言葉と同時にアヤカ先輩は冷凍銃の攻撃ポイントを逸らす。
わからん。
よくわからない。
だけどわかっている事はただひとつ。
アヤカ先輩の言葉を信じて、攻撃ポイントの『コア』部分に
銃剣のヒートナイフで突き刺し、切り刻む事であった。




