第3話 差し迫る新たなる危機(第1部・全15話)
ワームホールの基本は富士山嶺地下洞穴であった。
そのはずであった。
富士山嶺の地下洞窟を利用して、改造してワームホールは作られている。
今、キリとアヤカ先輩は活動停止したスキャンチューブをたどって、
奥へ奥へと進んでいく。
この先に敵のドーム基地あるはずだ。
この先が敵のドーム基地に繋がっているはずだ。
本当だったら行きたくない。
自分の身を危険に晒してまで行きたくはない。
本来だったら、帰還するか、状況確認のためその場所で留まるつもりだった。
しかし今は、アヤカ先輩がいる。
昔から憧れのアヤカ先輩が一緒だ。
一人逃げたい気はどこかに失せていた。
こんな状況なのにワクワクしていた。
アヤカ先輩と一緒なら、危険な場所でもどこへでも。
こんな気持ちになったのはいつぶりだろう?
学生時代、部活を辞めてアヤカ先輩と関わることがなくなり、落ち込んだ日々。
わざと帰る時間まで教室や校舎で隠れ、偶然を装って前を通り過ぎたりもした。
そんな日々もあった。
だが今はそんなことは必要ない。
無駄な努力をする必要はない。
なぜなら、昔からの憧れのアヤカ先輩と一緒に、二人っきりで歩いているからだ。
この『敵のワームホール』の中を。
奥に進むにつれ、スキャンチューブの白いクリスタルでできたジャバラ状の
パイプがだんだんと太く大きくなっていく。
『敵の本体』に近づいている証拠だ。
キリは自分とは違うアヤカ先輩の装備が気になった。
自分とは違うプロテクター、そして先ほどの武器。
「しかしあの、スキャンチューブをどうやって機能停止に追い込んだんですか?」
キリの真面目な表情の問いに、アヤカ先輩はしれっと答えた。
「ああ、これ。理屈はよくわからないの。今回から新しく配給された、
まあ冷凍銃、みたいな? なんか絶対零度とかそんな感じで敵を凍らせるのよ。」
アヤカ先輩が手に持つ武器をキリに見せる。
冷凍銃?
絶対零度!
絶対零度?
「前からそんな武器あったんですか? それ新兵器ですよね。」
「たぶん。なんか新しく配給されたの。私が所属する突撃兵団に新しく
配給されたの。敵を凍らせて機能不全にしろ。で、凍ったところを粉砕しろって。」
アヤカ先輩はそう言って背中に背負うハンマーを指差した。
確かにさっきから気になっていた。
アヤカ先輩が背中に背負う物。
やっぱりハンマーであった。
なんとも力技の物理攻撃方法。
凍らせて粉砕する。
なんとも力技の攻撃方法だ。
『突撃兵団』。
アヤカ先輩が所属する部署は突撃兵団っていうのか。
キリは驚いた。
キリが所属する部署。
特に名称はない。
臨時招集組なので、単に『部隊』と、そう呼ばれていた。
やっぱりエリートは違う。
自分とは違う。
そう思って少し暗くなっているキリに対し、エリート兵団所属のアヤカ先輩は
屈託のない笑顔を浮かべてぼやき始める。
「まあ、さっきは凍らせて機能停止にできたしいいんじゃない。
粉砕するとさあ、すごいのよ。チリ。クリスタルのチリ。シリコンのチリ。
あんまやりたくないの。」
そう言って背中に背負うハンマーを身体を傾げてキリに見せるアヤカ先輩。
相変わらずいたずらっぽい表情を浮かべる。
「なんか外国から支給されたみたい。まあいいんじゃない。
戦況を好転させることができれば。」
理屈はわからないけど、確かにその効果があった。
アヤカ先輩は相変わらずマイペースだ。
確かに理由はどうあれ、敵を倒して生き残る。
それが一番だ。
ワームホールの奥へと進むキリとアヤカ先輩。
「そういえばさ、さっき思い出したんだけど。」
アヤカ先輩が不意にキリの問いかける。
「あ、はい。」
視線はワームホールの先を見ながらアヤカ先輩が懐かしそうに口を開く。
「あなた、私のこと見てたでしょ?」
アヤカ先輩の問いに足を止めて驚くキリ。
「え? いつ? だって俺、アヤカ先輩を見たのは、全てが終わってから。」
アヤカ先輩は懐かしそうに続ける。
「違うわよ。昔。学生時代の頃。」
学生時代?
なぜいまそんな話を?
戸惑うキリにアヤカ先輩は小悪魔的に笑みを浮かべて口を開く。
「キリ君が部活辞めて、放課後帰る時に、部活中でトラック走る私のこと、
見てたでしょ?」
え?
なんで?
なんで今そんな昔話。
確かに見てたよ。
確かに颯爽と鹿のように走るアヤカ先輩を見ていたよ。
だけど、なんで今?
てか、キリが見てたのバレてた?
「い、いや。俺、途中で部活辞めちゃったし、それに走るアヤカ先輩、
かっこいいなと思って。」
アヤカ先輩がいたずらっぽく笑みを浮かべる。
「ふふ。ありがと。」
その笑みは、その笑みはどう言う意味だ?
キリは思わずその時の光景を思い出す。
放課後帰宅する途中に、トラックを走るアヤカ先輩のこと、見ていたよ。
一回じゃない。
数えきれないほど。
キリの頭の中が甘酸っぱい淡い気持ちがいっぱいでなった。
その時!
なんか地響きがする。
まるで地震のようだ。
「なんだ?」
キリはその現象がなんだか知らない。
作戦行動においてなんら情報を伝えられていなかったからだ。
エリート上官のアヤカ先輩なら何か知っているのかな?
キリは助けを求めるかのようにアヤカ先輩の顔を見た。
だが、アヤカ先輩はキリのことなど見ているわけもなく、じっと地響きの先、
今いる自分たちのワームホール洞穴の先をじっと見つめていた。
そのことに、ちょっとキリは恥ずかしかった。
気を取り直してキリは迫り来る前方の地響きの原因を確認しようといた。
なんか見える。
自分たちのいるワームホールの奥へと続いている機能停止した
スキャンチューブの先に何やら蠢く異形の物体の塊。
それは。
「やばいわね。要塞級のメドゥサかもね。キリ君、撤退するよ!」
要塞級のメドウサって何?
自分は知らされていない。
作戦前に一切説明を受けてない。
まあ、自分が配属された部署は捨て駒部署だからそんなものかと思ってはいた。
だが今はアヤカ先輩の指示に従おう。
アヤカ先輩の言うことなら信じられる。
だが、撤退と言ってもキリたちが今いるワームホール洞穴は『一本道』だ。
さっきみたいに小さな穴の小道に逃げ込む方法もある。
だがそれは根本的解決方法にならない。
それは一時凌ぎに過ぎない。
後退して逃げるしかない。
撤退して戻るしかない。
もし敵の異形の物体=要塞級のメドゥサの動きが早かったら追いつかれてしまう。
しかも。
アヤカ先輩がちょっと驚いた表情を浮かべる。
「キリ君、ブースター支給されてないの?」
昔から冷静であったアヤカ先輩がちょっとだけ焦ってるのが確認できた。
アヤカ先輩の背中には、大きなハンマーがぴったり装着している何やら
空が飛べそうな武骨な最新装備を背負ってる。
だがキリの背中には、か弱そうなプロテクター装備一枚であった。
「どうしよう。キリ君思いっきり走れる? そしたら私が加速ブースターで
引っ張っててあげる。」
そんな!
無理だ。
キリは自分でもわかっていた。
背後から迫り来る異形の物体=要塞級のメドゥサがどんどん迫ってくる。
その大きさはこのワームホール洞穴を埋め尽くそうな大きさだ。
そのおかげで、動きが遅いみたいだが、時間を稼げるとは思えなかった。
「行ってください! ここは俺が!」
そう言うしかなかった。
せっかく昔からの憧れのアヤカ先輩に会えたのに。
どうせなら、このままアヤカ先輩とワームホール洞穴ダンジョンの攻略を
したかったのに。
でも今は最低限のカッコつけでそう言うしかなかった。
「でも!」
「いいから早く!」
そう言ってキリは支給されたショボい銃火器を構えるしかなかった。
残念だ。
悲しい。
でも今はそうするしかない。
要塞級のメドゥサと呼ばれる、邪悪な敵の異形体が目前へと迫っていた。




