第12話 発射サイロ攻防戦(第2部・全14話)
「上がったり降りたり大変ね。」
機動歩兵装備のアヤカ先輩が、ブーストを器用に操作しながら降下していく。
「降下っていうより、落下ですね、これ。」
アヤカ先輩を先導して、発射サイロを降下していく機動歩兵装備のキリ。
やがてHLVシャトル4号機の足元、最下層のエリアが見えてくる。
そこは酒池肉林の盛り上がっている宴会場と化していた。
敵が送り込んだ『ダリの白シラス』群は、さすがに地下基地上部である発射サイロ頭上の装甲板からは潜入できなかった。
厳重に武装された地下サイロを円で囲むように、大地を突き抜けて地下から侵入した敵の『ダリの白シラス』。
彼らは、排気口や壁の隙間から穴を開けて、東西南北三百六十度から最深部の一ヶ所に集合していた。
「やつら、知恵あるのか?」
「情報交換してるのかもね。自立戦闘兵器って言ったところかしら?」
最下部の1ヶ所に集合した敵群。
敵の狙いはわかりやすかった。
HLVシャトル4号機の噴射口部分を狙っている。
エンジンノズルさえ破壊してしまえば、打ち上げ上昇する事はできない。
「アヤカ先輩!」
「わかってる!」
勢いよく敵の集団に効果していくキリとアヤカ先輩。
彼ら以外にも、同じように地上から降下してくる機動歩兵の仲間たちの姿も多数見えた。
『ご歓談の中、宴もたけなわでございますが〜』
そんな感じで盛り上がっている敵群の宴会場に、一斉降下乱入する機動歩兵群。
降下、と言っても落下である。
「バーニアを最大!」
キリやアヤカ先輩を含め、複数の機動歩兵群がバーニアを蒸して『着地』する。
ものすごい衝撃とバーニアの高熱気の嵐が舞う。
だがここはシャトル発射サイロだ。
衝撃や高熱など何の問題もない。
人によっては敵の『ダリの白シラス』を押しつぶす者もいれば、まるでロデオ気分で背中に乗ってしまう者もいた。
まだそれならラッキーであった。
人によってはタイミング悪く、機動歩兵装甲を貫かれ、敵によって串刺しにされる者までいた。
良い事は続かず、不利な状況も発生する。
「発砲はやめろ! シャトルに当たる。」
応戦する仲間の機動歩兵の一人が声を上げる。
そうだ。
通常銃弾やレールガン等は跳弾が踊りまくり、自分たちが乗る守るべきHLVシャトル4号機に損害をもたらす。
そうなった場合、最悪発射できなくなる。
「どうしよう?」
さすがにアヤカ先輩も戸惑っている。
どうしよう?
どうすべきか?
その時キリは思い出した。
自分の出来事を思い出した。
そうだ、ヒートナイフだ。
自分は富士山嶺敵ドーム攻略作戦時に、銃剣のヒートナイフで対応した。
全員が着用している機動歩兵に標準装備されているはずだ。
「ナイフを! ヒートナイフで応戦を!」
キリの叫びの提案に、アヤカ先輩の表情が明るくなった。
「そ、そうね。」
そう言って各自の装備からヒートナイフを取り出して構える一同。
幸いなことに、現時点の機動歩兵には、長めのヒートナイフが二本標準装備されていた。
「キリ君、左!」
アヤカ先輩の声が響く。
キリが左を振り向くと『ダリの白シラス』が襲いかかってくる。
「!」
キリは力一杯二刀流のヒートナイフを左右に交互して首付近を真っ二つにする。
首付近?
それとも頭部? 胴体?
正確にはわからない。
身体は白く細長いバナナのようにも見える。
アヤカ先輩に感謝の言葉を述べようと振り返るも、アヤカ先輩の右側から新たな敵が襲い掛かろうとしている。
「先輩、右から!」
キリの言葉に反応して、素早く二本のヒートナイフを右上から、左上からと、二回に分けて切り刻むアヤカ先輩。
そういう戦法もあるのか、と感心するキリ。
「ありがと。キリ君。」
額から流れる汗。
頭部ヘルメットからはみ出すキレイで長い髪。
そんな美貌のアヤカ先輩から素敵な笑顔と共に感謝の言葉をもらうだけでキリは嬉しかった。
そんな二人の眼前に迫り来る新たな敵の群れ。
「私がまず切り込む。キリ君は。」
「了解です!」
キリはアヤカ先輩が言い終わる前に答えていた。
キリにはアヤカ先輩が何を言おうとしているのか、すぐに気がついていた。
先鋒のアヤカ先輩が二本のヒートナイフで切り刻み、駆け抜けていく。
「!」
それを見届けたキリはすでに走り出していた。
アヤカ先輩に続いて敵に向かって走り出していくキリ。
アヤカ先輩とキリの連続攻撃により、巨大なダリの白シラスが切り刻まれていく。
先輩!
やりましたよ!
見てました?
という感じでアヤカ先輩の方向を見るキリ。
しかしキリの目に飛び込んできた映像は、アヤカ先輩に気づかれずに背後に立つダリの白シラスであった。
「危ない!」
アヤカ先輩にその言葉をかける前にキリはすでに走り出していた。
アヤカ先輩が振り向くと同時に二本のヒートナイフで敵に飛び込み、見事に敵を切り刻むキリ。
一瞬のことだった。
一瞬の出来事であった。
自分の目の前であざやかに敵を切り刻むキリ。
自分の知らない間に、後輩のキリが成長したことに驚くアヤカ先輩。
アヤカ先輩は思わず微笑んで、まるで小さな乙女のような笑顔で語りかけた。
「キリ君、やるじゃん。成長したね。」
アヤカ先輩のその表情は、明らかにキリの成長を認めて改めて『男』として認めているように思えた。
キリはその表情を拝めて嬉しかった。
キリは、富士山嶺的ドーム攻略作戦時に、あのワームホール洞窟で、ヒートナイフを初めて使った頃を思い出していた。
あの時、恐れながら使ったヒートナイフ。
あの頃は、自信がなかったヒートナイフ。
だが今は違う。
あの時の自分と、今はもう違う。
キリは、自分自身で少しではあるが成長している達成感を感じていた。
味方の犠牲はあったものの、気がつけば機動歩兵一団は、の活躍により、すでに最下層に侵入していた敵の軍勢をほぼ制圧していた。
至る所で鬨の声を上げる勇士たち。
そこは閉鎖空間なので、鬨の声が4Dサラウンドの方にあらゆる方向から響き渡る。
その声を聞いて悩まず自身も鬨の声を上げるキリ。
以前であったら鬨の声を上げるのが恥ずかしくて躊躇したかもしれない。
だが今は違う。
乗り越えた。
何かを乗り越えた。
キリは感じていた。
それが何なのか、キリは気がついていた。
壁だ。
自分で作った、壁だ。
今キリは、自分が作った壁を乗り越えて、自身が少しでも一歩前に進んでいることを実感していた。
その様子を見たアヤカ先輩も、負けじと鬨の声を上げる。
笑みを浮かべ、お互いの顔を見て微笑む二人。
悪いことを乗り越えたら、きっといいことがある。
多分そういうことだろう。
吉報は全員にリンクして伝わる通信装備から押し寄せられた。
「発射準備、完了! いつでもHLVシャトル4号機、発射できるわ。みんな、シャトル内に戻って!」
ハヤセからの連絡はまさに吉報であった。
やればできる。
がんばればできる。
その場に明るい空気が流れた。
だが世の中はそんなに甘くはない。
続けてハヤセが口にした一言が、まさに不穏な空気を呼び込んでいた。
「あれ? マーシャは? マーシャはどこにいるの?」
ハヤセの素朴な問いかけが新たなるピンチを予感させた。
それを証明するかのように、マヤの逼迫した声が全員の通信装置へと伝えられる。
「マスドライバー隕石爆弾第3弾、来ます! あと15分!」




