第11話 激戦のガンサイト(第2部・全14話)
「マーシャ、マーシャ!」
声がする。
私を呼ぶ声がする。
パパ?
ママ?
それとも、アレクセイ?
違う。
違うわ。
この声はカミヤ。
カミヤが私の名前を呼んでいる。
嬉しい。
なんか嬉しい。
カミヤがやっと私の名前を呼んでくれている。
カミヤが何度も私の名前を呼んでくれている。
だけど。
あれ?
なに?
何か変。
なんで?
何がいったいどうしたの?
ああ、そうだ!
マーシャは気がついた。
自分は今、ガンサイトにいる。
種子島ⅡでHLVシャトル4号機に乗って月へ攻撃に行く予定だった。
だが、敵のマスドライバー隕石爆弾の第2弾が迫っていた。
発射サイロへの直撃を避けるため、自分たちがいるガンサイトで、復活した超電磁対空砲と火薬式対空砲でそれを迎え撃ち、迎撃一斉射撃したはずだった。
だがマーシャは倒れている。
ガンサイト内で倒れている。
カミヤがしきりにマーシャに声をかけている。
だが、動けない。
マーシャの身体が動かない。
倒れたままで少しも動かない。
立ちあがろうとするも、足の感触がない。
というよりも、自身の下半身の感覚がない。
どういうこと?
ゆっくり顔を上げて倒れている自分の足元を見る。
すると破壊され倒壊したガンサイトの天井やら柱やら壁やらが、自身の下半身の上に倒れ込んでいる。
これが原因か。
機動歩兵の装備なので問題ないはずなのに、足が動かない。
痛みはない。
だが感覚もない。
まるで麻酔注射を受けているかのようだ。
「マーシャ! 大丈夫か?」
カミヤがマーシャに背を向けて、顔のみを振り返り心配そうに見ている。
カミヤが立つその姿がまるで逆光のシルエットのようだ。
マーシャに背を向けたカミヤがしきりに前方の方を注視している。
なんで?
何をしてるの?
起こしてよ。
助けてよ。
私は今、足が動かないの。
私の下半身は崩れてきた崩落物で埋もれているの。
カミヤがマーシャの身体を起こしてくれない。
その理由はすぐにわかった。
シラスだ。
そう、あのシラス。
まさに白いシラスがいっぱいいる。
そのサイズは数ミリ数センチとかいう物ではない。
5〜6メートルもあろうかという、巨大なシラスだ。
白い。
こいつも白い。
敵の兵器生物はみな白い。
まるでグラスというかシリコンというか。
まさに『ダリの巨大シラス』と言ったところか。
敵の巨大シラスが、迎撃で崩壊したであろうガンサイトに大量に押し寄せている。
超電磁対空砲や火薬式対空砲が自立して水平発射して、ここを防御している。
防御システムは復活したのでオートマトン自動防御システムは駆動しているらしい。
だが、その迎撃をすり抜けてくる『ダリの巨大シラス』には、ひとつひとつカミヤが手に持つ銃で迎え撃っている。
「やられたんだ!」
カミヤが銃撃で応戦しながらマーシャに伝える。
「あの隕石爆弾第2弾は、本当に輸送カプセルだった。」
激しい発砲の閃光で、後ろ姿のカミヤがシルエットになってかっこいい。
真剣な姿で自分を守ってくれている。
ちょっと素敵でシビレる。
だけどそんな呑気なことを言っている場合でないことを、マーシャは当然気がついていた。
「空中で迎撃して破裂した『カプセル』の中から、あの大量の巨大白いシラスが雨のように降ってきた! そして!」
頭を上げて付近を、外の様子を見るマーシャ。
穴だ。
地上に穴が開いている。
それも2個や3個どころではない。
系のような針のような
まるで針の大雨が降ったかのように、あちらこちらの地面に穴が開いている。
「やつら、地面を貫通できる奴はそのまま地下に潜って行った。シャトルがある発射サイロ目指して。」
カミヤの発砲がまるで連続フラッシュのように激しく閃光している。
「発射サイロの地上装甲板部分は硬くて突破できなかったらしい。
部分に残った奴ら、地下に潜れなかった奴らが、今ここにはいっぱいだ!」
マーシャはできる限り身体を動かした。
下半身が倒壊物に埋もれて動けない状況であるが、可能な限りマーシャは辺りを見回した。
遥か遠くの複数のガンサイト。
そこでも迎撃の発砲の閃光が激しく点滅している。
一部破壊された他のガンサイトから外に出た機動歩兵たちが、迫り来る『ダリの巨大シラス』群と戦っている。
せっかくカミヤがマーシャの名前を呼んでくれたのに。
やっと自分の名前を、ちゃんと呼んでくれて嬉しいはずなのに。
だが今は、そんな状況ではなかった。
そこはすでに、激しい戦場となっていた。
「すごいな、まるで雨かよ!」
まさにそれは『高速滑空弾・神の杖』状態であった。
迎撃されて飛び散った隕石爆弾第2弾の中身をキリは自身の持つ銃で迎撃していた。
「キリ君、そっち、来てるよ!」
地面に着地して迫り来る『白い巨大シラス』を手に持つ銃で迎撃するアヤカ先輩。
キリとアヤカ先輩の二人は背中合わせになって、迫り来る敵を迎撃する。
感じる。
背中に感じる。
機動歩兵の装備をつけているが、キリはアヤカ先輩の接触する背中を強く感じていた。
アヤカ先輩は完全にキリの背中に寄りかかっている。
アヤカ先輩の身体をキリが完全に支える形になっている。
キリが避けたら、きっと物の見事にアヤカ先輩はぶっ倒れてしまうだろう。
普通ならこんな状態で寄りかかってきて不満に思うかもしれない。
重い。
結構重い。
圧を感じる。
だけど嬉しい。
今は嬉しい。
アヤカ先輩が完全に自身の背中をキリに預けている。
お互いを信じて背中を任せる事。
いい。
とても良いことだ。
キリは背中にアヤカ先輩を感じて悔いはなかった。
今までアヤカ先輩に情けない自分をリードされ少し悔しかった。
だが、今は違う。
同じか?
同等か?
流石にそれはない。
だけどキリは、少しずつ自信を持ち、アヤカ先輩へと近づけているような気がしていた。
二人がいたガンサイトは、空から降り注ぐ『白い巨大シラス』の雨で撃ち抜かれ、ボロボロになっていた。
自然に二人は地下サイロの出入り口付近へと迎撃しながら移動していた。
それはそうだ。
二人を守るガンサイトは穴だらけ。
地上には敵がいっぱいウヨウヨしている。
しかも、結構な数の敵が土の地面に穴を開け、地下基地へと潜って侵入している。
シラスなのか?
モグラなのか?
まるで針のような『白い巨大シラス』は確実数が地下に侵入している。
地下サイロ出入り口付近まで来たキリとアヤカ先輩。
シャトル打ち上げサイロの地上部分は分厚い装甲に覆われている。
幸いそこに穴を開けて、敵は突破できなかったようだ。
という事は、その部分に行き遅れた敵がウヨウヨと残る結果となった。
とにかく撃つ!
とにかく撃破!
今は出入り口に到達して地下サイロに入るしかない。
それしか生き残る方法はない。
そんな時に、HLVシャトル4号機のハヤセたちから連絡が入った。
「地上部隊! 地上部隊の人たち! できるなら、可能なら戻ってきて!
ここに、ここに敵の大群が!」
そうである。
そりゃそうである。
迎撃で空中爆発した隕石爆弾第二弾の中から飛び出して降り注いだ『ダリの巨大白シラス』群は大地に穴を開けて地中深く潜っていく。
そう、攻撃目的はHLVシャトル4号機。
彼らの破壊目的は打ち上げ地下サイロ。
ハヤセの焦る緊急告知に割り込んで、マヤも大きな声で伝える。
「マスドライバー隕石爆弾第3弾、来ます! あと30分以内に!」
事態は急を要している。
普段なら呆然と立ちすくむはずであったキリが素早く判断する。
「降りましょう! 降りて敵を撃破しましょう!」
キリの素早い判断に、アヤカ先輩はすぐには反応しなかった。
キリの素早い判断に驚いているのではない。
たぶんアヤカ先輩は疲れているのだろう。
いつまでもアヤカ先輩のお荷物になっていても仕方ない。
ここは、ここは自分ががんばらなければ。
キリの強い意志を感じたのか、アヤカ先輩は頬をつたる汗を拭う事なく、さわやかに笑顔を育んだ。
「そうね。そうしましょう。」
キリにはアヤカ先輩の笑顔が尊く見えた。
できる事なら、ずっと見つめていたかった。




