第10話 終末へのカウントダウン(第2部・全14話)
「バッテリーは?」
「充電中! でも25%前後です。」
アヤカ先輩がキリに問う。
キリは素早く返答する。
キリとアヤカ先輩が配置についたガンサイト。
こちらも当然電源が落ちていた。
二人して緊急発動機を起動し、超電磁対空砲と火薬式対空砲の充電と起動確認を行う。
キリはアヤカ先輩に指示され、あれこれ言われることは嫌ではなかった。
キリはアヤカ先輩の流れるような『命令』に従順に従っていた。
アヤカ先輩は決して悪気はない。
アヤカ先輩の毅然とした態度に、キリは憧れていた。
だが、しかし。
いつまでもアヤカ先輩のお荷物になっていてはいけない。
自分だって、できるんだ。
だが、その感情が空回りしていた。
アヤカ先輩がするどい質問をしてくる。
「火薬式対空砲の弾丸、どう?」
え?
あ?
弾丸?
どこ?
どこにあるの?
キリが埃舞う薄暗いガンサイトの中で砲弾の束となっているマガジンを探す。
キリがわからず躊躇していると、特に気にせずアヤカ先輩が指示を出す。
「そこ! 棚の上!」
アヤカ先輩が指刺す方向に、弾丸のマガジンが整然とぶら下がっていた。
悔しい。
ちょっと悔しい。
だけどキリは恥じることなくそれを手に取り、アヤカ先輩に手渡す。
「ありがと。」
その爽やかなアヤカ先輩の笑顔に吸い込まれるキリ。
バカだ。
バカだった。
ほんの小さなことで、些細のことで悩んで落ち込んでいる場合じゃない。
キリは自身のスイッチを切り替えた。
「ターゲット、どこから来るのかな?」
防護も兼ねているガンサイトの窓から空を見上げるアヤカ先輩。
今まで埃舞う薄暗いガンサイトの中を見ていたので、見辛くまぶしそうである。
キリは素早く空を見る。
目に刺さる。
太陽光線が眩しい。
目を細め上空を見る。
だがそんなキリの努力が実ったのか、神様が気を利かせてくれたのか、
キリの目に、大空の一点から来訪している輝く光点をひとつ、見出していた。
「アヤカ先輩、あれ! あれです!」
腕を伸ばして指を刺すキリ。
その近くに身体全身で歩み寄るアヤカ先輩。
近い。
すぐ隣だ。
憧れのアヤカ先輩が自身のすぐ隣にいる。
キリは目標の光点を見ることを忘れ、すぐそばで眩しそうに空を見上げているアヤカ先輩の表情に囚われていた。
「本当だ。すごいね、キリ君。よくやった!」
アヤカ先輩の破顔の笑顔。
アヤカ先輩の褒め言葉。
人間の感情とは面白い。
たとえ嫌なことがあっても、辛いことがあっても、憧れの人からの褒め言葉は元気になる。
「私は火薬式対空砲を担当するわ。キリ君は、」
アヤカ先輩の口調は以前と違ってはいなかった。
アヤカ先輩は以前と同じ『命令口調』であった。
だが今のキリにはそう感じなかった。
アヤカ先輩の言葉に、キリは素早く返答した。
「自分は超電磁対空砲を担当します。もちろん充電状況も!」
その言葉にいっそう爽やかな笑顔で答えるアヤカ先輩。
「うん! がんばろ!」
キリも負けじと答えた。
「ええ! もちろん!」
キリの気分は、この晴れた青空のように晴れ渡った。
その晴れ渡る青空に、ひときわ光る光点。
マスドライバー隕石爆弾三連弾の第2弾が、今近づいてきている。
* * * * * * * *
雲ひとつなく、果てしなく広がる青空。
だが、マスドライバー隕石爆弾三連弾の第2弾は大気のショックウエーブの大波を何度も引き起こしながら落下してくる。
地球の重力に引かれて、ターゲットであるこの種子島Ⅱへと落ちてくる。
「見えたわ! あれね!」
一方のガンサイト、マーシャが目を細めて迫り来る脅威に視線を送る。
小さい。
まだ小さい。
だが、ひときわ光る、その小さな光点はゆらゆらと地上の空気に揺らぎながら、だんだんと大きく見えてくる。
その横で火薬式対空砲の準備を終えるカミヤ。
「よし! こっちは終わった。伝統的アナログ式はやりやすいな。」
その声に横に立つマーシャが微笑んで見下ろしている。
起動告知音がガンサイト内に響き渡る。
音に反応してその方向を見る二人。
マーシャが身体の体制を変えて音がした機器を確認する。
超電磁対空砲のシステムである。
「起きた。起動したわ。」
マーシャは超電磁対空砲のコンソールパネルを覗き込む。
「起動はしたけど、反応が鈍いわ。クロックが遅い。
通常はシステム4.5のはずなのに、システム1.0の遅さだわ。」
続いてカミヤがマーシャの顔近くまで覗き込み、表示を見る。
「EMP攻撃の影響でメモリがロストしてるのか。充電、間に合うかな?」
近づいた二人の顔が同じコンソールパネルのレベルメータを見る。
「ギリギリ、間に合う感じかしら。」
その言葉に一息ついて、カミヤ。
「じゃあ俺は火薬式対空砲を担当する。俺はやっぱりアナログ式の方が自分に合ってる。
君は超電磁砲対空砲の方を対応してくれ。」
カミヤのその言葉に、不愉快そうな表情を浮かべるマーシャ。
だがその表情は悪意から来るものではない。
「マーシャよ。」
いきなり仲良しプライベート気味の口調で話しかけるマーシャの言葉に、カミヤは不意をつかれた。
「え?」
マーシャが諭すように言葉を続ける。
「君、じゃなくて、マーシャ。ちゃんと名前で呼んで。」
カミヤの横で、少し顔を膨れっ面にして見上げるマーシャ。
こんな時に何を?
ちょっとカミヤはそう思ったが、その表情がかわいい。
緊迫した事態であるのに、なぜかカミヤは笑みを浮かべてしまった。
目の前のかわいいマーシャに対して、ちゃんと名前で呼ぼうとした時、連絡が復活した。
「みんな聞こえる? こちらHLVシャトル4号機のハヤセです。」
ハヤセとマヤの共闘により、落ちていた全システムが復活した。
ハヤセの焦る声は、全関係者の通常通信システムに乗って響き渡った。
「今頭上で迫り来る隕石爆弾第2弾の詳細がわかったわ。カプセルよ、あれは兵器運搬カプセル!」
その言葉と同時に各員のヘッドセット・ディスプレイに分析推定の解析画像が表示されている。
それはカプセル。
それは『卵』。
ハヤセは続ける。
「中の物の使用目的はわからないけれど、第2弾の中に大量の兵器が収納されているわ。」
焦り気味のハヤセの報告に、その横から同じく焦るマヤの声も響き渡る。
「接近中。あと5分で直撃します!」
ハヤセは続けた。
まるで現場からの緊急生中継放送のように。
「どうする? マヤ。あの隕石爆弾第2弾、迎撃する?」
マヤの声が続く。
「でも、空中で迎撃したら、中に収納されている兵器群が分散して飛び散ってしまいます。」
ハヤセもすぐに続ける。
「でも迎撃しないと、ここに直撃でしょ? 発射サイロの地上装甲、直撃には持たないわ。」
『敵もさる者引っ掻く物』とは、よく言った物だ。
事前に空中で迎撃すると『カプセル』に入っていた兵器群が空中で四方八方に巻かれて分散する。
事前に空中で迎撃しなかった場合、モロに直撃を受ける。
直撃に対して、仮に発射サイロの地上装甲が持ったとしても、HLVシャトル4号機めがけて兵器群が内部侵入する可能性が高い。
どっちだ?
どれがベストか?
時間はない。
すでに直撃まであと3分を切っていた。
コンソールからの現場中継はまさに緊張の極致であった。
「先輩、どうします? ここは論理的に言って、全ての安全策である、迎撃を!」
それしかなかった。
それが一番正解であった。
だが、迎撃して中の兵器群が分散落下した場合、地上の防衛システムの各ガンサイトに配置されている機動歩兵部隊にも影響があるかもしれない。
だがもう、そんなことで悩んでいる場合ではなかった。
時間は2分を切り、まもなく残り1分に近づいていた。
落下してくる隕石爆弾第2弾のショックウエーブのさざ波も何度も押し寄せている。
ハヤセの結果は当然であった。
「迎撃を! 隕石爆弾を迎撃してください!」
その命令は直ちに実行された。




