第8話 ブラックアウト(第2部・全14話)
HLVシャトル4号機コクピットに入り込んだハヤセたち。
マヤもマーシャも機動歩兵装備を身につけている。
狭い。
狭すぎる。
なのに機動歩兵の装備は重厚だ。
これも仕方ないこと。
万一のことを考えて、各自装備している。
何より、これから行き先は成層圏外の『宇宙』。
宇宙といえば夢と希望の無限の世界、と思いがちだが、そこはまだ地球の衛星軌道で成層圏のちょっと上。
大宇宙のスケールから考えたら、全く話にならない距離である。
そこはまさに宇宙と言えるほどの場所とは言い難い。
だが有事の際は生命維持の危険に満ちている。
大気圏外でも生存できるよう、みな機動歩兵装備を着用している。
元から狭いコクピットに機動歩兵の重厚な装備が狭さを強調してしまっている。
席についたマヤ。
持参した総合司令コアと本来のコクピットとをリンクしてHLVシャトル4号機の発射準備を進めている。
「発射シーケンスを総合司令コアからコクピットメインコンソールへ移行完了。
リンク確認。総合司令コアをオフラインにしておきます。」
サクサクと進む発射シークエンス作業。
それを見て時間的余裕を感じたハヤセがマヤに告げる。
「総合司令コアをオフラインにしなくても、大丈夫じゃない?」
ハヤセの大船に乗った気分の表情を見て諭すマヤ。
「常に万一に備えて、って先輩いつも口うるさく言ってたじゃないですか。」
気を抜いて浮かれていたハヤセ、後輩のマヤに一本取られる。
「そうね。それは、そうね。よく出来た後輩だわ。」
その言葉を聞いて、あえて表情を作らず、気を引き締めて発射シークエンス作業に移るマヤ。
「発射シーケンス入ります。フェイズ1進行中です。」
冷静さを取り戻したハヤセ、状況確認を行う。
「種子島Ⅱの防御システム、全てオートマトンで稼働中。
地上配備の無人超電磁砲群と無人火薬式対空砲群のシステム稼働問題なし。
種子島Ⅱからの退避避難組の船舶、まもなく出航予定。
完璧ね。」
ハヤセは発射シーケンス全体の状況を確認する。
「マスドライバー隕石爆弾三連弾の第1弾、あと10分で地球大気圏に突入。
問題ないわ。」
マーシャが横で打ち上げシミュレーション予測を注視している。
「予定通りこのシャトルが打ち上げられた場合、三連弾の隕石爆弾の位置は?」
ハヤセが情報を見て答える。
「本シャトルが上昇中に、最初の一弾目が種子島Ⅱに直撃。
うまくいけば、本シャトルが成層圏到達直前に、大気圏内に突入する三連弾を入れ違いに目視できるわ。
この種子島Ⅱを失ってしまうけど、それは仕方ないわ。」
『私を月に連れてって』。
マーシャはその言葉を思い出していた。
『私を』。
違う。
『私と』。
かな?
発射シーケンスが計画予定通り進行していたので、マーシャものろけて、少し気を抜きすぎていた。
「発射シーケンス、最終段階へ。」
発射まで、あともう少し。
全ては予定位通り行くはずだった。
だが世の中の現実は厳しい。
まさにその時、『異常緊急事態』が発生した。
HLVシャトル4号機の発射シーケンスも終え、無事間も無く発射するところであった。
すでに発射カウントダウンは、あと10秒のところであった。
あと10秒後に、HLVシャトル4号機は発射する予定であった。
マヤの声が響く。
「敵マスドライバー隕石爆弾三連弾の一発目、まもなく大気圏に突入します!」
問題ないはずだった。
余裕のある状態であった。
しかし。
突然のブラックアウト。
目の前の物が一瞬にして真っ暗になる。
何が起きたか理解できず、人々の無言が続き、しばらくして暗闇の中で声が響き渡る。
「え?」
「なに?」
「どういうこと?」
赤い非常灯がほんわりとやさしく明るく照らす。
だが、事態はほんわりとやさしい状態ではなかった。
非常灯に照らされたハヤセが口を開く。
「なに? どうしたの?」
マヤが答える。
「ブラックアウトしました。発射シーケンス、途中で停止しています。」
しばらくして彼女たちが乗るHLVシャトル4号機が地震のような振動で小さく揺れる。
その振動を感じ、少し恐怖するハヤセ。
「なに? なにがあったの?」
しきりにメインコンソールの再起動を試すマヤ。
「ダメです! 起動しません。」
HLVシャトル4号機コクピットの中ではるか上空を見上げるマーシャ。
「まさか?」
しきりに再起動操作を繰り返すマヤの横で、ハヤセはマーシャに問う。
「まさかって、何?」
ハヤセの問いかけに視線を移すことなく、マーシャは答える。
「まさか、三連弾の一発目って、EMP攻撃を仕掛けったこと?」
EMP攻撃。
それは高高度にて核爆発を行い、電磁パルスを発することで電子機器を不能する攻撃である。
マーシャの顔から血の気が引く。
「敵はEMP攻撃のことも熟知してたってこと?」
その回答を聞いてハヤセも血の気が引いていく。
「ま、まずいわね。マヤ、どう?」
マヤが何度もメインコンソールの再起動をかけるが反応はない。
「ありません。再起動できません。」
「また。」
ハヤセはそう思った。
ここ種子島Ⅱに上陸する時も同じようなことが起こった。
ハヤセは甘かった。
ハヤセは気を抜いていた自分に反省していた。
だが反省したからと言って、すぐに事態は良くならない。
マヤが機転を効かす。
「モバイルユニットの総合司令コアを確認します。」
そうだ。
そうだった。
HLVシャトル4号機にシステムを移行する前は、そこそこ重たい総合司令コアで作業していた。
オフラインにしていた総合司令コアが生きていれば。
薄暗いコクピットの中でマヤの声が響く。
「え? 落ちてる。なんで?」
ラップトップを開くも画面は暗い。
「スリープになってるのかな?」
そう言って確認するマヤ。
「だめだ。落ちてるわ。」
キーボード作業を一旦止め、精神を集中させ、慎重にゆっくりと息を吸い込むマヤ。
「総合司令コアの、再起動を行います。」
ゆっくりと起動ボタンを押すマヤ。
「お願いします。」
起動ボタンから指を離すマヤ。
総合司令コアに反応の兆候は全くない。
「どう? 大丈夫? いける?」
緊張するマヤのすぐ近くで、事態に焦っているハヤセがプレッシャーをかける形となる。
マヤの額にジリジリと汗が滲み、操作する指が小刻みに震えている。
総合司令コアの真っ黒な画面を見つめるマヤ。
今一度、慎重にゆっくりと息を吸い込み、総合司令コア本体に三つ指をついて小さく呟くマヤ。
心の底から自身の気持ちを込めて、総合司令コアに想いを告げる。
「お願い。」
まだ無反応状態が続く。
実際は数秒の出来事なのであろうが、マヤにとっては息も止まるような時の流れ。
それは一瞬でしかないのだが、まるで永遠に続くかのように長く感じる時の流れ。
だが彼女のお願いが効いたのか、しばらくの間があって、総合司令コアがゆっくりと再起動を始める。
静寂なコクピット内に響く総合司令コアの起動告知音。
カーソルがクルクルと回り、ラップトップが明るく光る。
まさに暗闇の中に明るい希望がひとつ灯った状態だ。
マヤの表情が明るくなる。
「総合司令コア、問題ありません。システム、生きてます。」
その報告に一安心するハヤセ。
だがその安寧も長くは続かなかった。
「マスドライバー隕石爆弾三連弾の第2弾、来ます! あと2時間以内に!」




