第5話 明かされる秘密(第2部・全14話)
「あら、何か嬉しそうね。何かいいことでもあったの?」
ハヤセは本当は『お帰りなさい。こんな時にどこへ行ってたの?』と皮肉混じりで言おうと思っていた。
だが、オペレーションルームに入ってきたマーシャの表情を見て、自分の考えとは別に思わずそう呟いた。
よりによって。
このタイミングで。
そう言う時に、人は勘づくものだ。
え?
何?
何で?
マーシャは戸惑った。
普段は冷静でクールな自分であるはずなのに、なぜかマーシャの心の奥をハヤセに見抜かれているようであった。
「い、いえ。別にちょっと。」
「そう。」
マーシャの表情を見て、ハヤセはちょっと残念そうに答えた。
「進行状況、どうですか?」
マーシャは気を取り戻し、いつも通りの顔を作りハヤセたちに質問した。
マーシャの表情に気づかず作業を確認していたマヤは淡々と答えた。
「作業完了まであと30時間の予定です。」
マーシャはハヤセたちと並び、複数モニターを目視して進行状況を確認をする。
ハヤセが問う。
「ねえマーシャ。」
「はい?」
マーシャは少し焦った。
自分自身の感情のたかぶりを見抜かれて、先ほどの状況を説明することになるのだろうか?
マーシャは何食わぬ顔を作り上げていた。
だがハヤセの問いの真意は別のところにあった。
「あなたが持ち込んだ兵器の数々、あれはどうやって作ったの?」
先ほどの表情とは異なる、冷静に淡々と質問してくるハヤセ。
マーシャの心配は無駄であったが、ハヤセの質問の真意をすぐに見抜いていた。
マーシャが答える前に、マヤまでも同じ内容の質問を繰り出した。
「絶対零度砲、超電磁砲、それにGボンバーで試した重力兵器。これらの優れた技術も、まるである日突然出現した技術みたいです。
あれらをどこでどうやって。」
来た。
この時が来た。
いずれ説明する事が必要だとマーシャは感じていた。
『軍事機密』と言えば全て済む状況はすでに終わっていた。
地球的危機、人類的危機のこの状況でそれは有効ではない。
強大な謎の敵の存在の前にそのオプションは的確ではない。
まして、ともに戦い、ともに命をかけている状況ではなおさらだ。
マーシャは答えた。
マーシャは淡々と答えた。
その答えにハヤセたちがどんな表情をしようが関係なしに。
「あれは私たち人類のテクノロジーじゃないわ。」
* * * * * * * *
20世紀前半、突如空より飛来した宇宙からの巨大隕石。
それは革命前後ロシア・シベリア大平原のツングースカに飛来した。
それは巨大な爆発を起こし、木々を薙ぎ倒し、大地をえぐり、そこに巨大なクレーターを出現させた。
だが当時の情勢はそれを時間をかけて細かく調査する余裕などなかった。
またその場所も、そこに行き着くために様々な自然の要素が邪魔をした。
長らく放置されていたシベリア大平原のツングースカ隕石。
それを調査解析するまで、長らくの時間を要していた。
宇宙から飛来したツングースカ隕石。
それは『隕石』ではなかった。
『宇宙船』とも『カプセル』とも『未知の構成物質の集合体』とも言えた。
それに『宇宙人』は乗っていなかった。
それに『生命』と言えるものはなかった。
だが、そこに『何かの知識体』または『何かの複数知識の集合体』が確認できた。
それとの意思疎通のコンタクトに長らく時間を要したが、言わばそれは『生命体』と言えた。
簡単に言えば『デジタルデータ生命体』と言えるであろう。
人も含め、地球上の生物は『炭素系』生命体と言える。
だがこの複数知識集合体は『珪素系』知識体と言えた。
PCで言うところの『クロック』が異なる。
地球における24時間という時間概念枠は、彼らには通用しなかった。
人類にとって1年という時間概念は、彼らにとって1日に過ぎないのかもしれない。
炭素系生物の人間と珪素系生物のそれとの理解コンタクトするのにとても時間を要した。
時同じくして、『ツングースカ隕石遺跡』のコンタクト解析を始めた頃、
月の裏側で異変が起きた。
月の裏側のモスクワの海にある『謎のコロニー』が活動増殖を始めたのだ。
「人類がツングースカ隕石遺跡の珪素系知識体とコンタクトを始めたと同時に、月の裏側の『謎コロニー』の活動も活発化した理由はわからない。」
マーシャが説明を続ける。
「月の裏側のコロニーから放たれたツングースカ隕石の珪素系知識体は、地球の探査のために来訪して、ツングースカに落下した後に何らかの理由で冬眠状態になっていた、と言う仮説が濃厚なの。だけど、それが本当なのか、何なのか証明はできないわ。」
マーシャの説明に、論理的のマヤはするどいツッコミを入れる。
「じゃあ、ツングースカ隕石をいじらなかったら、月の裏側の『コロニー』は目覚めることはなかった。」
マーシャは全てのコメントを予測しているかのように答えた。
「そうかもね。」
マヤは続けた。
「人類が、と言うより、あなたの国がそれをいじらなければ、地球は攻撃されなかった。」
マーシャは淡々と答える。
「そうかもね。でもいずれ誰かが、どこかの機関が調査はしたと思うわ。」
止めよう。
ここで誰の責任なのか追求しても不毛だ。
誰が責任者なのか、判明したところで、今の事実は無くならない。
そう思ってハヤセは口を開いた。
「とにかく敵の本拠地は月の裏側、モスクワの海にあって、それを撃ちに行く。
そうでしょう。」
マーシャとマヤの二人はハヤセのその言葉に同時にうなずいた。
* * * * * * * *
キリは呆然としていた。
キリはちょっと疲れていた。
しばしの時間を考えることに集中していた。
幸いキリは、HLVシャトル4号機に装備を運搬搭載する任務にはついていなかった。
どうする?
どうしよう?
選択肢は二つ。
月に行く、行かない。
以降の作戦行動の参加は義務ではなかった。
ここで月に行くのをやめたとして、どうする?
ここに残る?
種子島Ⅱに残留して、そしてどうする?
キリは呆然としていた。
キリは自身の目の前に写る運搬搭載作業を呆然としながら見つめていた。
「よっ!」
その声と同時にキリの後ろ首筋に冷たいものを感じた。
「?」
アヤカ先輩であった。
アヤカ先輩がキリの背後から冷たい飲み物を首筋にあてている。
おいおいおい。
それって恋人同士の例のやつか?
赤の他人にはそれをしないよね?
まあ、アヤカ先輩とは先輩後輩の関係だけど。
「びっくりした?」
アヤカ先輩があどけない顔でキリの表情を伺う。
「いや、ちょっとびっくりした。」
キリがびっくりしたのは冷たかったからではない。
アヤカ先輩が突然中高生みたいな悪戯をしたことにびっくりした。
もっともキリは、その行為が嬉しかったのだが。
「はい、これ。」
アヤカ先輩の差し入れの冷たいものを受け取るキリ。
ってか部活の延長かよ?
キリはそんな部活の時代に戻りたいと思ってはいた。
もし、戻れるのならば。
「あ、ありがとうございます。」
キリとアヤカ先輩は腰を下ろし、二人で目の前で進行している詰め込み作業を視線で追いかける。
「キリ君、どうする?」
当然その質問になる。
キリからそれを問おうと思ったが、アヤカ先輩の方から切り出してきた。
「アヤカ先輩はどうするんですか。」
風が吹く。
ここは地下最下層の施設の中だ。
そこには『自然の風』は吹かない。
空調の流れなのか、積み込み作業の空気の流れなのか、それはわからない。
だがキリはその風に吹かれてとても気持ちが良かった。
きっとアヤカ先輩も同じ気持ちであろうと、キリは信じていた。
「私は、まあ、ここに残っても仕方ないので、月に行って敵を撃つ、かな。」
そうなる。
普通はそうなる。
キリは何か言おうとして口を開けた時、アヤカ先輩がつぶやいた。
「仇、取りたいし。私の大切な人を亡き者にした奴らに、仇をうちたいし。」
『私の大切な人』。
それは誰だ?
家族か?
親戚か?
友達か?
それとも。
アヤカ先輩は再び問いただしてきた。
「キリ君はどうするの?」
アヤカ先輩の無邪気で無垢な表情にキリの心が再びときめいた。
一瞬、憧れのアヤカ先輩の表情に全てを奪われて、キリは固まってしまった。
だがアヤカ先輩の透き通る瞳を見て、思わず自分の本音が口から溢れる。
「いや、僕は、自分は今悩んでます。
月に行くか、ここに残るか。でも、ここに残ったところで。」
そこから先は言葉が出なかった。
キリの状況を把握したアヤカ先輩は、年上として先輩として大人ぶった、
そして現実的な答えを導き出した。
「キリ君の自由でいいんじゃない。他人に左右されることなく、自分の考えで。」
ある種キリは、アヤカ先輩に『一緒に行こうよ』と言って欲しかった。
たぶんキリは、アヤカ先輩と『一緒に行きたかった』ことに気がついていた。
いけない。
自分の意思で決意しなくては。
たとえそのきっかけが『アヤカ先輩と一緒にいたい』だったとしても。




