第4話 ときめきの再会(第2部・全14話)
「各地の発射台の状況はどう?」
種子島Ⅱオペレーションルームに総合司令コアをリンク後、その状況を見るハヤセ。
先ほどの何とも言えない空気から気持ちを整理するために、ハヤセはマヤとともに作戦状況を確認する。
マヤがリストを確認する。
「ケープカナベラル、バイコヌール、ギアナ、問題ありません。予定通り作戦は進行中です。」
計画に必要な発射基地の情報に何か足りないことにハヤセが気づく。
「酒泉は?」
ハヤセの素朴な問いに素早く操作して確認するマヤ。
そのマヤの目が曇る。
「酒泉基地、月からの大型マスドライバー隕石爆弾の直撃を受け、消失しました。」
メインモニターに複数衛星からの画像が転送され、無数の反撃虚しく大型マスドライバー隕石爆弾の直撃を受け吹き飛ぶ画像が映し出される。
跡には巨大なクレーターが生成され、まるで死の荒野の様相が無惨にも映し出されている。
「5号機がロストしたのね。まあ、あそこは計画上一番大きなサイズだったから、流石にバレてたのね。」
ハヤセの言葉に淡々とマヤ。
「この種子島Ⅱは、発射基地としては一番小さいですからね。敵も甘く見てたのでしょう。大きさが功を奏しましたね。」
マヤは黙々と操作を続ける。
「バイコヌールHLV3号機、予定通りです。ケープカナベラルHLV1号機、70時間の遅れの模様。
ギアナHLV2号機、準備完了との事です。」
種子島Ⅱと人類反抗軍のクルーが、運ぶべき装備を淡々と種子島ⅡHLVシャトル4号機に搭載している。
その様子をリアル映像とデータ表示を見つめるハヤセとマヤ。
「絶対零度砲戦車群、超電磁砲戦車群、積み込みまもなく完了します。
改良小型ツングースカ・ファープ2機があと2時間後に始まる予定です。」
荷物リストに視線を送るマヤ。
「重力機雷、一番最後の搭載予定です。」
じっとそのデータを見るハヤセ。
「Gボンバーの効果をこの目で見たわけだから、ちょっと慎重になるわね。
打ち上げ衝撃による状態安定は大丈夫なのかしら? HLVシャトル事吹き飛んだりして。」
マヤが一瞥する。
「その時はその時で。」
普段マジメなマヤが投げ捨てた言葉を使ったので、ハヤセは少し笑みを浮かべた。
しばし搭載リストを確認するマヤ、ふと口を開く。
「このツングースカ・ファープにしても、重力機雷にしても、ほぼほぼマーシャが持ち込んできたんですよね?」
マヤの素朴な問いに、淡々とハヤセ。
「そうね。バイコヌールと言うか、星の街というか、シベリアのツングースカと言うか。」
口をへの字に曲げて、マヤ。
「何なんでしょうね、あの技術。いつの間に、と言うかよくあんなもの開発できましたね。」
ハヤセ、一瞬戸惑ったのち、口を開く。
「前々世紀の、シベリア・ツングースカに落ちた隕石が由来らしいわ。」
その言葉に首を傾げるマヤ。
「ツングースカ隕石が、隕石が由来?」
マヤの問いに眉をひそめるハヤセ。
「いや、あれ、隕石じゃなかったらしいの。どうやら。」
思わず横に立つハヤセの顔を見るマヤ。
「え? は? じゃ、何なんですかね? それって。」
両手を広げて、わからないポーズをとるハヤセ。
「マーシャに聞くしかないんじゃない。持ち込んできたのはマーシャだし。」
その言葉に一瞬呆気に取られる二人。
「そう言えば、マーシャはどこへ行ってるのかしら?」
************************
マーシャは一人基地内を歩いていた。
地下深くサイロを中心に作られた種子島Ⅱ地下基地。
当然この場所に来たのは初めてのことだ。
だがマーシャはどこか懐かしいものを感じていた。
初めての場所なのに、なぜか気になる感覚があった。
なぜだろう?
ここは初めての場所。
なのになぜかゾワゾワする。
自分が元いた場所にも、このような秘密基地やICBM発射地下サイロはあった。
だが、違う。
初めての場所なのに、なぜか気になる、ドキドキする気持ちでいっぱいになった。
なんでだろう?
なんだろう、この気持ち。
胸が痛い。
心が落ち着かない。
自分の過去のこと。
自分の家族のこと。
自分が愛した人のこと。
やがて段々と心臓が高鳴る気持ちがいっぱいに溢れ、感情の高ぶりを抑えることができない。
複雑でなんとも言えない高揚感の気持ちを整理するため、自分の心を落ち着かせるため、マーシャは基地内を歩き続けた。
そしてしばらくして、その理由が判明した。
自身の鼓動の理由を、自身の感情の高ぶりの原因を見つけることに成功した。
「あ。」
思わずマーシャは小さく声を上げた。
マーシャは行き交う人の雑踏の中にカミヤを見つけて、小さく声を上げていた。
本来ならマーシャの声掛けは聞こえるはずはなかった。
なぜならあたりは騒音だらけ。
HLVシャトル4号機に搭載すべく、重量のあるさまざまな兵器を運搬していた。
重機音の音、エンジン音、作業する人々の声。
だが人の耳は特定周波数を聞き分けるのかもしれない。
だが人の耳は気になる事を聞く習性があるのかもしれない。
本来聞こえるはずのないマーシャの呟きをカミヤは聞き分けていた。
「あ。」
カミヤが声をする方向を見る。
そこには行き交う雑踏の中に一人立つマーシャの姿が見える。
気がつけば二人はお互い近づいていた。
いつも無愛想でそっけないカミヤであったがこの時は違った。
カミヤ自身それがなんなのか、その時はわからずにいた。
「お、お礼を言ってなかったわね。あの時はありがとう。」
マーシャはカミヤに声をかけていた。
何も考えていなかったが、話す言葉を考えているうちに、その言葉が出た。
「あの時?」
カミヤもなぜその言葉を発したのかわからなかった。
だが二人の会話はまるで再生装置のように続いていく。
「あの時? うん。敵ドーム攻略作戦の時と、さっきの種子島Ⅱ上陸作戦の時。」
「ああ。」
そう言ってカミヤは思い出した。
確か二人で共闘した。
二人並んで共闘した。
「いや、別に。それが作戦だし。」
相変わらずぶっきらぼうのカミヤの口調にマーシャは自然に別の話題を切り出していた。
「ええ、そうね。それはそうと、あなたどうするの?」
「何が?」
「ここに残るの? それともHLVシャトルに乗って反撃作戦を続けるの?」
マーシャには希望の答えがあった。
マーシャには希望通りの答えを言って欲しかった。
二人が首を挙げて見つめる巨大なHLVシャトルの全貌。
少し時間が流れた。
それはマーシャにとってとても長く続く時間に思えた。
マーシャにとって答えを聞きたくない。
このまま世界がフリーズしてしまえばいい、そこまで思っていた。
カミヤは視線をマーシャに向けてはっきりとした口調で答えた。
「俺は行くよ。敵を倒す。俺はやつらが許せない。」
さわやかな目であった。
きれいに輝く瞳がマーシャに心を刺した。
カミヤの回答に心躍る感覚に囚われたマーシャの耳に他の雑踏は入らなかった。
それはたぶん、カミヤも同じであろう。
「そ、そうね。お互い、頑張りましょう。」
マーシャは嬉しくなり、少し緊張してうわずった声で返していた。
その言葉に、軽く笑みを浮かべて返すカミヤ。
「そうだね。よろしく。」
とても素敵な笑顔であった。
少なくともマーシャにはそう見えた。
彼は、とても素敵な笑顔を見せていた。
何だ、あんな素敵な表情をするんだ。
マーシャの頭の中は嬉しさでいっぱいになった。
その後の出来事をマーシャは憶えていない。
ふと気がつけば、マーシャは種子島Ⅱのオペレーションルームへの道筋を歩いていた。




