第3話 地球反抗計画(第2部・全14話)
上陸作戦が完了する。
人類側の損害をゼロにさせる事はできなかったが、無事種子島Ⅱに上陸できた。
皮肉な事に、その頃には敵の攻撃も終わりを告げた時に、総合司令コアのメインシステムが復旧した。
よりによって。
世の中、そんな物である。
「ありがとうございます、先輩。助かりました。」
「何言ってるの。あなたの対応処理すごく良かったわよ。」
マヤとマーシャが言った通り自分はここに残り、機動歩兵で出なくて良かった。
きっとマヤ一人の対応であったら、きっと違う結果になったであろう。
人の意見はちゃんと聞こう。
ハヤセは、そう思った。
人類反抗軍は無事に種子島Ⅱ上陸した。
この段階で相当数の人員・武器装備をロストすることになった。
だがここで止めるわけにはいかない。
自分たちが、人類が生き延びるために、反抗計画を進めなくてはならない。
種子島Ⅱの大地は焼け野原になっている。
表地を覆っていた灌木類はまるで墓標のように至る所にかろうじて立地を維持している。
至る所に人類側の装備類や遺体、そしてすぐそばに敵の異形の多角形兵器の残骸が転がっている。
輸送船や大型カーゴから放たれて、上陸していく戦車群や輸送ユニット群。
爆撃で赤黒く焼けた大地の一角で人類反抗軍の一団は停止する。
大型モバイル式総合司令コアを戦闘指令車内に移したハヤセたち。
機能回復したメインシステムの表示を見てマヤが口を開く。
「ここです。」
その言葉に反して、そこはただの焼け野原。
爆発で変形したのであろう、大地に岩や建物の破片がミックスされていてまるで前衛芸術のようだ。
ハヤセが口を開く。
「基地ゲート、オープンできる?」
マヤが続けて応答する。
「認識コード、送ります。」
マヤが素早く認識コードを送る。
だが何も変化はない。
彼女たちの眼前に広がる赤茶けた荒野に何も変化はない。
マーシャが口を開く。
「種子島Ⅱ、機能しているの?」
その言葉に反論しようとしたハヤセの口の動きより早く反応がある。
「認識コード、受け付けました。ゲート開きます。」
マヤの言葉とともに認識音が総合司令コア内に響く。
やがて重い金属音とともに振動が起こる。
人類反抗軍の眼前、赤茶けた荒野が物凄い轟音を響かせ、左右に大地が割れ、地下基地へのゲートが開く。
種子島Ⅱ。
それはこれまでの人工衛星発射基地を改造増築した物だ。
この工事は月からのマスドライバー隕石爆弾が地球に降り注ぎ、しばらく経ってから急遽始まった。
ICBMを発射できるような巨大なサイロが地下深く建造されている。
そのサイロには巨大なHLVシャトルが聳え立っている。
その最下層には、地球反抗計画の重要基地となる設備が設けられていた。
リフトに乗せられた人類反抗軍はエレベーターで下るように地下深層へと降りていく。
果てしない降下時間。
誰も口を開くことなく、サイロ内の巨大なHLVシャトルや壮大な地下基地への降下を、ただただ見つめるだけであった。
* * * * * * * *
最下層に構築された種子島Ⅱの地下基地本部。
ここには技術クルーが何名か潜んでいた。
彼らは敵からの攻撃に耐え、作戦遂行のためにここを保守していた。
種子島Ⅱ防衛守備隊も編成されてはいたが、残存兵はわずか数名であった。
作戦司令のハヤセは種子島Ⅱの責任者と合流、攻撃に耐えここを保守したことを讃え、指揮権の譲渡を受けた。
ここは広い。
一応数週間にわたって大勢の人数が生存していくことが可能だ。
だが、ハヤセたちは別にここに籠城して戦うことが目的ではない。
地球反抗計画が無事進行していることの表れであった。
『地球反抗計画』。
その全貌は人類反抗軍の一部しか知らない。
と言うよりも、敵の攻撃に備え耐えず人的補給が続けられ、もはや『寄せ集め』の人類反抗軍にとって、余裕を持って時間をかけ、兵士を育て説明する余裕がなかったからである。
キリもアヤカ先輩もカミヤも緊急招集および志願組であった。
この地下要塞に守られている時間、一旦全ての人員にこの計画の全貌を説明する必要があった。
富士山嶺から移動して無事この種子島Ⅱまで生きながらえて来た猛者たちに、ハヤセたちは説明することとなった。
ブリーフィーングは最下層の地下秘密基地の広大なエリアで行われた。
「私たちは月に行きます。」
ハヤセが口にした言葉にブリーフィングに集まった人々はざわついた。
「月の裏側のモスクワの海にある『敵の本拠地コロニー』を攻撃します。」
事実上の唐突な極端な言葉に兵員は混乱した。
召集兵のキリは混乱したが、志願兵のアヤカ先輩とカミヤはある程度知っていたようだ。
『地球反抗計画』と名付けられたその全貌。
・敵の本拠地コロニーは月の裏側にある。
・月からの飛来するマスドライバー隕石爆弾はそこから発射されている。
・月に行ってそこを総攻撃し、可能であれば全て殲滅する。
・そのために、地球各地に展開されている五つの発射基地からHLVシャトルを打ち上げる。
・それぞれのHLVシャトルは、地球衛星軌道上にあるISSⅢと合体し、宇宙要塞を構成する。
大まかに言って、そのような内容であった。
ハヤセは続けた。
「しかし、皆さんの中には自分の意思に反して今回の作戦に参加した方もいることでしょう。決してこれは強制による義務ではありません。
召集組の人もそうですが、志願組の方に至っても、この作戦を拒否する権利はあります。」
ハヤセは辺りを見回した。
『空気』とは面白い物で、そこにいる人々の気持ちや感情を肌で感じることができる。
人の視線を感じる、とは、人の目から光線でも出ているのだろうか。
それは科学や数値では検出できない物だ。
ハヤセは続けた。
「地球反抗計画の発動までまだ時間はあります。
作戦の参加の有無は、それぞれそれまでに考えていてください。」
地下基地の最下層の広大なエリアに異音は何一つなかった。
そこにはたくさんの人員がいるのにも関わらず、無駄な音ひとつ響くことはなかった。
少し不安で息を飲むハヤセ。
その横で無表情で前を見つめ続けるマヤ。
そしてオブザーバー参加のマーシャだけは、別のものを見ていた。




